2010年9月5日、ブエルタ・ア・エスパーニャ(UCIヒストリカル)第9ステージが行なわれ、逃げグループから抜群のタイミングで抜け出したダビ・ロペスガルシア(スペイン、ケースデパーニュ)がステージ初優勝を飾った。イゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)はライバルたちの攻撃を受けながらもマイヨロホを守った。

晴天のバレンシア州を駆ける晴天のバレンシア州を駆ける photo:Unipublic今大会最多の7つのカテゴリー山岳が設定された第9ステージ。187.7kmのコースに2級、2級、3級、2級、2級、3級、3級のカテゴリー山岳が散りばめられ、しかも最後はアルコイの短い上りゴールが設定されている。

スプリントに持ち込まれるほど低難易度ではなく、本格的な総合争いが繰り広げられるほど高難易度でもない。逃げ切りが決まりやすいコースレイアウトだけに、レース序盤は激しいアタック合戦が繰り広げられた。

序盤から逃げグループを形成して逃げ続けたジャンクリストフ・ペロー(フランス、オメガファーマ・ロット)ら15名序盤から逃げグループを形成して逃げ続けたジャンクリストフ・ペロー(フランス、オメガファーマ・ロット)ら15名 photo:Unipublic50km地点でようやく15名の先行が決まるとメイン集団はペースダウン。前日のステージ優勝者で山岳賞2位のダヴィ・モンクティエ(フランス、コフィディス)や総合22位・3分30秒遅れのカルロス・バレード(スペイン、クイックステップ)、総合37位・6分59秒遅れのジャンクリストフ・ペロー(フランス、オメガファーマ・ロット)、開幕時は総合優勝候補にも挙げられていたロマン・クロイツィゲル(チェコ、リクイガス)ら、強力な15名が逃げグループを形成した。

メイン集団をコントロールし続けたエウスカルテルメイン集団をコントロールし続けたエウスカルテル photo:Unipublic連続するカテゴリー山岳で積極的に動いたのはゴンサロ・ラブニャル(スペイン、シャコベオ・ガリシア)。チームメイトの山岳賞ジャージを守りたいラブニャルは次から次へと頂上を先頭で通過し、山岳賞2位モンクティエの獲得ポイントを抑え込んだ。

やがてラブニャルはこの日4つ目の2級山岳トゥドンス峠で独走開始。しかしその他の逃げメンバーの許しを得られず、20kmの独走の後に吸収されてしまう。

ちょうどこの頃、逃げグループ内で総合最高位だったバレードが体調不良により脱落。このバレードの脱落が集団のペースダウンに拍車をかけ、タイム差は最大9分30秒まで広がった。

メイン集団がコントロールするエウスカルテルに逃げ吸収の意志は無く、先頭グループの逃げ切りが確定的に。この日6つ目の3級山岳ベニファリン峠で先頭グループは10名に絞られ、ここからステージ優勝を懸けた闘いが本格化した。

ロペスガルシア、モンクティエ、クロイツィゲル、ジャンパオロ・カルーゾ(イタリア、カチューシャ)、エゴイ・マルティネス(スペイン、エウスカルテル)の5名に絞られた先頭グループは、最後の3級山岳レボルカ峠でアタックに次ぐアタック。ゴール6km手前の頂上通過後の下りでロペスガルシアがアタックを成功させた。

マイヨロホを着て走るイゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)マイヨロホを着て走るイゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル) photo:Unipublic2級山岳トレマンサナス峠を独走で駆け上がるゴンサロ・ラブニャル(スペイン、シャコベオ・ガリシア)2級山岳トレマンサナス峠を独走で駆け上がるゴンサロ・ラブニャル(スペイン、シャコベオ・ガリシア) photo:Unipublicゴール前の3級山岳レボルカ峠で先行するダヴィ・モンクティエ(フランス、コフィディス)とダビ・ロペスガルシア(スペイン、ケースデパーニュ)ゴール前の3級山岳レボルカ峠で先行するダヴィ・モンクティエ(フランス、コフィディス)とダビ・ロペスガルシア(スペイン、ケースデパーニュ) photo:Unipublic

ゴール手前の3級山岳レボルカ峠でペースを上げるロマン・クロイツィゲル(チェコ、リクイガス)ゴール手前の3級山岳レボルカ峠でペースを上げるロマン・クロイツィゲル(チェコ、リクイガス) photo:Unipublicクロイツィゲル、モンクティエ、カルーゾ、Eマルティネスの4名が牽制でもたつく中、ロペスガルシアが後続を15秒引き離して独走。アルコイのゴール地点に至る標高差60mの短い上りでもロペスガルシアは先頭を守り切り、クロイツィゲルを6秒振り切ってゴール。天を指差してゴールに飛び込んだ。

ステージ初優勝を飾ったロペスガルシアはレースをこう振り返る。

独走勝利を飾ったダビ・ロペスガルシア(スペイン、ケースデパーニュ)独走勝利を飾ったダビ・ロペスガルシア(スペイン、ケースデパーニュ) photo:Cor Vos「終盤はアタックの連続だった。クロイツィゲルやカルーゾのような強敵の動きを恐れていたんだ。タイミングを見つけて独走に持ち込んでからはゴールまでリードを保とうと努めた。その努力の甲斐があったよ。苦しんだ分だけ、言葉では言い表せないような感情がこみ上げてきた。こんなに感慨深いものだとは思わなかった」。

ロペスガルシアはバスク出身の29歳オールラウンダー。地元バスクの小チームでプロ入りし、2005年から2年間エウスカルテルに所属。ケースデパーニュに移籍した2007年にはパリ〜ニース総合6位、ブエルタ・ア・カスティーリャ・イ・レオン総合6位、ドイツツアー総合3位&ステージ優勝という成績を残し、ブエルタで総合14位に。近年はチームリーダーの活躍を影で支える名アシストとしての活躍が光っている。

ロペスガルシアに6秒届かず2位のロマン・クロイツィゲル(チェコ、リクイガス)ロペスガルシアに6秒届かず2位のロマン・クロイツィゲル(チェコ、リクイガス) photo:Cor Vos4度目のブエルタで念願のステージ優勝を飾ったロペスガルシア。「これまで自分の成績が自分の能力に釣り合っていないと言われ続けてきた。でも偉大なチームリーダーに仕えることは名誉なこと。2009年のブエルタでバルベルデの勝利に貢献出来たことは最高の喜びだった。同じバスク出身のアントンと一緒に成功を分かち合えて良かったよ。バスクの若い選手の刺激になれば良いと思う。そしてケースデパーニュの更なる活躍を願う」。

来年スポンサー変更に伴いチームモビスターとして活動するケースデパーニュ。チーム総合成績ではトップを邁進中。これが今年のグランツール初勝利だ。

総合成績が懸かったジャンクリストフ・ペロー(フランス、オメガファーマ・ロット)はステージ7位総合成績が懸かったジャンクリストフ・ペロー(フランス、オメガファーマ・ロット)はステージ7位 photo:Cor Vos総合で既に遅れ、ステージ優勝狙いにスイッチしていたクロイツィゲルはステージ2位。クロイツィゲルは昨年の第18ステージでも逃げに乗って2位だった。リクイガスは今大会4度目のステージ2位。

「もう少し良い結果を残せたと思う。ロペスガルシアを先行させたのが失敗だった。平均スピードは遅かった(35.2km/h)けど、それ以上に厳しいステージだった」。クロイツィゲルは敗戦の悔しさを噛み締める。

マイヨロホを守ったイゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)マイヨロホを守ったイゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル) photo:Unipublic総合上位陣を含むメイン集団はゴール前の上りでペースアップが図られ、総合2位のホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)がアタック。しかしロドリゲスはアントンを振り切ることが出来ず、マイヨロホを奪うことが出来なかった。

マイヨロホを0秒差で守ったアントンは「今日はスペクタクルなレース展開だった。チームメイトのおかげでペローにマイヨロホを奪われなくて済んだ。プリート(ロドリゲス)のアタックは予想通りだったよ。でも総合優勝候補の筆頭はニーバリだと思う。彼はフレッシュだ」とコメントしている。

この日最大のサプライズになり得たのが、逃げグループに入ったペローだ。長時間に渡って暫定総合トップに立ったペローだったが、終盤ペースの上がった逃げグループから脱落。ステージ7位でゴールした。

「タイム差が大きく開いていたのでマイヨロホを獲得出来ると信じていた。それだけに残念な結果だ」。そう語るペローは、北京五輪のMTBクロスカントリーで銀メダルを獲得した元MTBライダー。マイヨロホ獲得は逃したが、その努力が実って総合5位に浮上した。タイムトライアルを得意としており、山岳ステージでタイムロスを抑えることが出来れば総合上位入賞も可能だ。

ステージ4位に入ったモンクティエは7つのカテゴリー山岳で合計15ポイントを獲得して山岳賞トップに。3年連続山岳賞に向けて順調に駒を進めている。この日奮闘したラブニャルが山岳賞3位に浮上しており、モンクティエはシャコベオ・ガリシアの2人を相手に水玉ジャージを懸けて戦うことになる。

翌日は今大会1回目の休息日。第10ステージは終盤に最大勾配23%の1級山岳ラット・ペナット峠が設定されており、上りで飛び出す選手と追い上げるスプリンターチームの闘いに注目だ。

選手コメントはレース公式リリースより。


ブエルタ・ア・エスパーニャ2010第9ステージ結果
1位 ダビ・ロペスガルシア(スペイン、ケースデパーニュ)     5h20'51"
2位 ロマン・クロイツィゲル(チェコ、リクイガス)         +06"
3位 ジャンパオロ・カルーゾ(イタリア、カチューシャ)       +13"
4位 ダヴィ・モンクティエ(フランス、コフィディス)        +21"
5位 ビエル・カドリ(フランス、アージェードゥーゼル)       +27"
6位 エゴイ・マルティネス(スペイン、エウスカルテル)       +30"
7位 ジャンクリストフ・ペロー(フランス、オメガファーマ・ロット) +55"
8位 ゴンサロ・ラブニャル(スペイン、シャコベオ・ガリシア)    +2'36"
9位 オスカル・プヨル(スペイン、サーヴェロ・テストチーム)    +3'52"
10位 イェーレ・ファネンデルト(ベルギー、オメガファーマ・ロット) +4'17"
15位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)        +7'02"
16位 イゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)

個人総合成績(マイヨロホ)
1位 イゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)       37h56'42"
2位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)          +00"
3位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス)        +02"
4位 シャビエル・トンド(スペイン、サーヴェロ・テストチーム)     +42"
5位 ジャンクリストフ・ペロー(フランス、オメガファーマ・ロット)   +52"
6位 ルーベン・プラサ(スペイン、ケースデパーニュ)         +1'15"
7位 エセキエル・モスケラ(スペイン、シャコベオ・ガリシア)     +1'18"
8位 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、アージェードゥーゼル)    +1'19"
9位 マルツィオ・ブルセギン(イタリア、ケースデパーニュ)      +1'22"
10位 ピーター・ベリトス(スロバキア、チームHTC・コロンビア)   +1'26"

ポイント賞(プントス)
1位 マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームHTC・コロンビア)56pts
2位 タイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ)  53pts
3位 イゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)        50pts

山岳賞(モンターニャ)
1位 ダヴィ・モンクティエ(フランス、コフィディス)        41pts
2位 セラフィン・マルティネス(スペイン、シャコベオ・ガリシア)  36pts
3位 ゴンサロ・ラブニャル(スペイン、シャコベオ・ガリシア)    25pts

複合賞(コンビナーダ)
1位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス)      32pts
2位 フィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)  33pts
3位 ダヴィ・モンクティエ(フランス、コフィディス)        33pts

チーム総合成績
1位 ケースデパーニュ    113h17'49"
2位 カチューシャ       +1'47"
3位 エウスカルテル      +5'18"

text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos, Unipublic