ジャパンカップで来日したファウスト・マスナダ(スーダル・クイックステップ)にインタビューを実施。脂質の多い揚げ物やチーズを避け、身体を冷やぬよう飲み物から氷を取り除くなど、潔癖なほど徹底した食事管理を行うマスナダに話を聞いた。



ジャパンカップ出場のため来日したファウスト・マスナダ(スーダル・クイックステップ) photo:Makoto AYANO

スーダル・クイックステップの選手や監督を含むスタッフが一同に会したのは、ジャパンカップが行われた宇都宮市内のとあるイタリアンレストラン。夜でも十分暖かかった店内で、入り口付近に座っていたファウスト・マスナダ(イタリア)は半開きになっていたドアを指差し「閉めてくれないか?」と店員に声をかけた。それは選手たちの身体が冷えてしまうから。

翌日にジャパンカップクリテリウムを控える選手たちが口をつけるのは、もちろんビールではなくジンジャエール。そんな中マスナダはおもむろにグラスに入った氷を取り出し、前菜のフライやチーズには一切手をつかなかった。幸運にも同席する機会を得た筆者がその理由を尋ねると、「氷に栄養はないし、脂肪のあるチーズもシーズン中の僕には余計なものだ」と答えた。

その後も一人だけニンニクなど具材の一切入っていない塩と胡椒(と少量のオリーブオイル)だけのパスタを注文。他の選手と比べても潔癖なほど徹底した自己管理を行っていたマスナダに、栄養管理をテーマに話を聞いた。



スペシャライズドやカステリのスタッフと共に開かれた夕食会。手前の皿にマスナダが取り出した氷が見える

―普段からそのように徹底した食事管理を行っているのですか?

ファウスト・マスナダ:明後日(のジャパンカップ)でシーズンが終わるからそれほど徹底はしていないよ。だが、グランツールの前などは今以上にセンシティブに管理する。毎年シーズンが始まる2月から10月ぐらいまでは送られてくるメニューに従っているよ。

―その”メニュー”とはチームの栄養士から送られてくる食事リストということですか?

そう。僕らチームには4名の栄養士がいて、アプリを通してその選手のために作成された食事プログラムを伝えてくれる。例えばその日行う練習が4時間であれば、総出力値や消費カロリーなどを見積もり、タンパク質や糖質、炭水化物の量など、食べるべき食材と量を導きだしてくれる。

例えばイル・ロンバルディアの2日前の朝食はこんな感じだ。

朝食メニュー候補1
・クワルク(*ドイツのフレッシュチーズ)+ミューズリー(*穀物やナッツなどのシリアル)
・低脂肪のクワルク(又はヨーグルト)300g+ミューズリー80g(7スプーン)
・フルーツ1切れ+シロップ1スプーン+ナッツ(又はシード)小さじ1スプーン(15g)
朝食メニュー候補2
・オーツ100g+豆乳300ml+フルーツ1切れ(林檎、ベリー100g、洋梨など)+シロップ1スプーン(15g)

栄養士から送られてくるという、事細かな食事リスト

マスナダ:こういったメニューが朝食の他に、トレーニング前とライド中、昼食、リカバリー食、夕食、就寝前と細かく用意されている。これが選手一人一人のレースや練習の予定、体重などに分けて用意されているんだ。

―外食ではなく、普段は自分で食事を用意しているのですか?

そうだね。

―好きなものを好きな時に食べられないストレスは相当なものだと思いますが、辛くはないのでしょうか?

とても辛いよ!でも、僕らのそのストレスに対してお金が支払われているようなものだからね。もちろんこの指示を厳密に守るには強い精神力が必要だし、とても難しい。そりゃ僕だってアイスクリームをお腹いっぱい食べたいよ(笑)。

―この食事管理は続けていくに従い慣れていくものなのでしょうか?

いつまで経っても慣れないね。それでも僕はプロ選手なので、シーズンが終わる日曜(ジャパンカップ)までは守らなければならないんだ。

アンドローニジョカトリ時代の2019年ジロでステージ優勝を飾ったマスナダ photo:Kei Tsuji

―最先端の栄養学に基づいているのだと思いますが、ここ数年でメニューに変化などはありましたか?

あったね。数年前まで練習する日とレースの日の食事に大差はなかったが、いまは明確に異なる。例えばレースの日は「炭水化物(糖質)を1時間毎に120g摂取すべき」など本当に細かな指示がされるんだ。それはたとえレース中であっても例外ではなく、明確な栄養摂取のノルマが課されている。

―それが3週間毎日続くグランツールはさぞ大変でしょうね。

グランツールのクイーンステージ(最難関山岳ステージ)だと約6〜7000kcalが消費される。それをレース前後だけで補うことはできないので、レース中の栄養摂取も良いパフォーマンスのためには重要となる。特にレース後に失ったカロリーを炭水化物で補給してあげることが大切なんだ。

―クイーンステージに向けて数日前から徐々に炭水化物の量を増やしていく、いわゆるカーボローディングなどはしますか?

いや、それでは上手くいかないんだ。「明日はレースだから今日パスタを400g食べる」のようなことではせず、常に一定量の炭水化物を摂る食事スタイルの方が良い。たとえば地中海式ダイエット*のような食事と合わせてね。グランツール期間になったらそこから野菜など食物繊維が多く含まれている食べ物を抜く(炭水化物の割合を増やす)といった感じだ。

*野菜や豆、穀物、魚を中心に組み立て、肉や卵、乳製品を控えめにする食習慣

2021年のイル・ロンバルディアではポガチャルとのスプリントで惜しくも敗れた photo:CorVos

―かなりストイックな食事管理ですが、チームメイトは皆あなたと同じように実行しているのでしょうか?

大体チームの8割の選手は守っているだろう。なぜならこのメニューに従えばコンディションが上がると分かっているからね。

―つまりそれがスーダル・クイックステップの強さの秘訣であると?

ああ、その通り。食事の管理は基本的なことだが、リカバリー(適切な栄養摂取)が十分でなければすぐ身体に表れる。なぜなら僕らはエンデュランススポーツをしているので、練習すればするほど炭水化物が消化されていき、栄養の摂取が十分でなければ筋肉が減っていく。1日(栄養摂取を)サボったぐらいじゃ影響はすぐに現れないだろうが、1週間単位でみると明らかな差となる。

―なるほど。

いまはどのチームにも栄養士はいるだろうが、ここまで細かく管理するのはワールドチームに限られた話だろう。また、その通り実行するかどうかは選手次第。だから栄養士のことをどれだけ信じ、渡されたメニューをどこまで細かく従うのかは選手に託されている。

だって、もし僕が家でドーナツを食べたところで誰も見ていないんだ。だがそれはパフォーマンスとなって返ってくるし、それは自分の責任に他ならない。



ファウスト・マスナダ(イタリア、スーダル・クイックステップ)

2023年はサドル痛の手術によって満足とは言えないシーズンだったと語る photo:CorVos

イタリア・ベルガモ出身の30歳。2016年にバーレーン・メリダでトレーニー(研修生)として走り、翌年アンドローニ・シデルメック・ボッテキアでプロデビュー。初山翔も出場した2019年ジロ・デ・イタリアでは得意の逃げから区間優勝を掴み、2020年のシーズン途中にスーダル・クイックステップへ移籍。2023年はシーズン途中にサドル痛を改善する手術によって戦線離脱を余儀なくされた。2024年はレムコ・エヴェネプール(ベルギー)がツール・ド・フランスで総合優勝を目指すこともあり、チームで数少ない山岳アシストとして期待されている。

text:Sotaro.Arakawa

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