残り2日の山岳決戦初日。常識外れの急勾配を誇るモルティローロ峠を含むステージでリクイガス勢が猛チャージを見せた。バッソとニーバリのペースについていけたのはスカルポーニのみ。ステージ優勝はスカルポーニの手に。マリアローザは2006年以来「約束の地」アプリカでバッソの手に渡った。

ハイペースで1級山岳モルティローロ峠を駆け上がるイヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス)ハイペースで1級山岳モルティローロ峠を駆け上がるイヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス) photo:Riccardo Scanferla

逃げグループを率いるシャビエル・トンド(スペイン、サーヴェロ・テストチーム)逃げグループを率いるシャビエル・トンド(スペイン、サーヴェロ・テストチーム) photo:Riccardo Scanferlaこの日登場するカテゴリー山岳は、2級山岳アプリカ、1級山岳トリヴィーニョ、1級山岳モルティローロ峠、2級山岳アプリカの4つ。
とくに平均勾配10.3%・登坂距離12.8kmのモルティローロ峠は、これまで何度も名勝負が繰り広げられて来た名物峠だ。ゴールに向かうアプリカは勾配が緩い(平均勾配3.5%)ため、選手たちは間違いなくモルティローロ峠から動いてくることが予想された。

2006年ジロではモルティローロを越えてアプリカにゴールという同様のコースが設定され、イヴァン・バッソがジルベルト・シモーニと二人でモルティローロを越え、最後はアプリカへの上りでバッソがシモーニを突き放す独走を決めてマリア・ローザを確実なものとしている。バッソにとっては「約束の地」だ。

アプリカのゴール地点を一度通過するアプリカのゴール地点を一度通過する photo:Riccardo Scanferlaこの日の朝、もうゴールスプリント勝負のチャンスの無いスプリンターたちがこぞってジロを去る。
アンドレ・グライペル(ドイツ、チームHTC・コロンビア)、ダニーロ・ホンド(ドイツ、ランプレ・ファルネーゼヴィーニ)、ジュリアン・ディーン(ニュージーランド、ガーミン・トランジションズ)らがスタートせず、残ったのは148人のライダーたち。

レースは45km地点からアタックがかかり、9人の逃げグループができた。メンバーは以下の通り。
フランチェスコ・ファイッリ(イタリア、アックア・エ・サポーネ)
ユリー・クリフトソフ(ウクライナ、アージェードゥーゼル)
ジャクソン・ロドリゲス(ベネズエラ、アンドローニ・ジョカトーリ)
ウィリアム・ボネ(フランス、Bboxブイグテレコム)
2級山岳トリヴィーニョ峠で集団のペースを上げるヴァレリオ・アニョーリ(イタリア、リクイガス)2級山岳トリヴィーニョ峠で集団のペースを上げるヴァレリオ・アニョーリ(イタリア、リクイガス) photo:Riccardo Scanferlaシャビエル・トンド(スペイン、サーヴェロ・テストチーム)
レオナルド・ドゥケ(コロンビア、コフィディス)
ヤン・バケランツ(ベルギー、オメガファーマ・ロット)
ブラニスラウ・サモイラウ(ベラルーシ、クイックステップ)
ルーカ・マッツァンティ(イタリア、カチューシャ)

最初の2時間の平均速度は46km/hにのぼり、集団と逃げ集団の差は8分50秒へ。

1級山岳トリヴィーニョ峠に向けてペースが上がり、先頭グループの人数が絞られ、ファイッリ、ロドリゲス、ドゥケ、バケランツ、サモイラウの5人が粘る。


ファイッリと一緒に2級山岳トリヴィーニョ峠を通過するステファノ・ガルゼッリ(イタリア、アックア・エ・サポーネ)ファイッリと一緒に2級山岳トリヴィーニョ峠を通過するステファノ・ガルゼッリ(イタリア、アックア・エ・サポーネ) photo:Kei Tsujiそして後方メイン集団からプラン・デ・コロネスTT覇者ステファノ・ガルゼッリ(イタリア、アックア・エ・サポーネ)がアタックし、逃げグループを追う。ハイペースを刻むガルゼッリは逃げグループから遅れたトンドらを次々とパスしていく。
ガルゼッリはそのまま逃げるすべての選手を追い抜き、モルティローロ峠の登りへ独走トップで突入する。

後方メイン集団も続いてモルティローロに登り始める。テンポを作るのは今日もリクイガス。ライムグリーン軍団がハイペースで牽く集団から、マリアローザのダビ・アローヨ(スペイン、ケースデパーニュ)が遅れだす。アローヨにはチームメイトのリゴベルト・ウランがアシストにつくが、絶体絶命のピンチ。

リクイガスのペースアップによってメイン集団は縮小リクイガスのペースアップによってメイン集団は縮小 photo:Kei Tsuji
ヴァレリオ・アニョーリや強力な山岳アシストであるシルヴェスタ・シュミットらの牽引を受け、前に出てくるバッソとニーバリ。スカルポーニ、アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)、カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)、ジョン・ガドレ(フランス、アージェードゥーゼル)らが喰らいつくが、まずカルロス・サストレ(スペイン、サーヴェロ・テストチーム)が脱落してしまう。

そしてモルティローロも勾配が厳しくなり、ヴィノクロフが脱落。そしてエヴァンスも離れてしまう。追いつかれたガルゼッリも、みるみる後方に追いやられる。山頂を前にしてバッソとニーバリのハイペースに残ることができたのはスカルポーニだけになった。

ガルゼッリに追いつき、先頭グループはイヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス)ら4名にガルゼッリに追いつき、先頭グループはイヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス)ら4名に photo:Riccardo Scanferlaモルティローロ峠はバッソが先頭で通過し、ニーバリ、スカルポーニの順で続く。ヴィノクロフは55秒遅れ、エヴァンスは1分42秒遅れ、アローヨが1分56秒遅れで通過。
そしてここからはバッソのテクニック不足が心配な危険なダウンヒルへ。

下りだすとテクニックで劣るバッソはニーバリに対し明らかに遅れをとりだす。ニーバリはバッソを待ちながら、下りを先導する。後方から追い上げるヴィノクロフとアローヨが盛り返す。とくにこの日のアローヨの下りテクニックは素晴らしく、サストレグループに追いつき、勢いを持ってバッソたちとの差を徐々に詰める。麓に下り、ゴールまで23.5kmを残して1分差に抑えた。

バッソらを追走するアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)やカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)バッソらを追走するアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)やカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム) photo:Riccardo Scanferlaアローヨは前を行くヴィノクロフに追いつき、残り13kmでエヴァンス、サストレ、ガドレも後方から合流。バッソグループとは約40秒差に詰める。そして再びバッソの得意なアプリカへの緩い登りが始まる。

逃げるバッソ・ニーバリ・スカルポーニの3人に対して、アローヨ、ヴィノクロフ、エヴァンス、サストレ、ガドレの5人の差はふたたび広がることになる。

バッソグループが好調なのに対して、協調体制が十分取れないアローヨグループ。緩い勾配の登りを突き進むバッソとニーバリ。とくにバッソの走りは2006年にここで見せた強さそのもの。当時シモーニに「エイリアン」呼ばわりされたこのアプリカへの登りで、再びバッソが信じられない強さを発揮した。

メイン集団から9分遅れで2級山岳トリヴィーニョ峠をクリアする新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)メイン集団から9分遅れで2級山岳トリヴィーニョ峠をクリアする新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム) photo:Kei Tsujiそしてゴールへ。ステージ優勝よりも1着のボーナスタイムが欲しいバッソだが、ずっと背後についていたスカルポーニがギアを掛けると敵わなかった。スカルポーニが先着。バッソ、ニーバリと続く。

マリアローザグループはアローヨが先頭を引かされたまま3分5秒遅れでフィニッシュラインに到達。ヴィノクロフ、ガドレ、エヴァンス、アローヨ、サストレの順でフィニッシュ。この瞬間、バッソにマリアローザが移ることが決まった。

新人賞ジャージを着るリッチー・ポルト(サクソバンク)は5分31秒遅れでフィニッシュ。マリアビアンカを守った。山岳賞ゴール地点アプリカに向かって逃げ続けるイヴァン・バッソ、ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス)、ミケーレ・スカルポーニ(イタリア、アンドローニ・ジョカトーリ)ゴール地点アプリカに向かって逃げ続けるイヴァン・バッソ、ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス)、ミケーレ・スカルポーニ(イタリア、アンドローニ・ジョカトーリ) photo:Riccardo Scanferlaマリアヴェルデは、バッソがモルティローロでも先頭通過してポイントを稼いだことでマシュー・ロイドを逆転してしまった。ロイドはこの日早めの逃げに乗ることができなかったことも敗因だ。

この日の成功者はもちろんバッソ。今から4年前、2006年ジロでモルティローロ→アプリカの同様のコース設定のステージで独走勝利してマリアローザを確定的にしたバッソが、再びアプリカでマリアローザを獲得することに成功した。バッソはその年、ドーピング騒動「オペラシオン・プエルト」への関与が疑われ、続く7月のツール・ド・フランス出場前夜にツールのスタートを拒まれる。
その後結局はドーピング問題の中心人物、フエンテス医師への関与を認め、ドーピングするつもりだったことを告白し、2年間の出場停止処分を受け入れた。

勝利を確信し、両手を挙げるミケーレ・スカルポーニ(イタリア、アンドローニ・ジョカトーリ)勝利を確信し、両手を挙げるミケーレ・スカルポーニ(イタリア、アンドローニ・ジョカトーリ) photo:Kei Tsuji2008年ジャパンカップでレースに復帰し、2009年ジロ・デ・イタリアは総合5位で終えている。かつてのパフォーマンスを取り戻すのに時間がかかったが、このマリアローザ獲得はバッソにとって真のカムバックの証と言えそうだ。バッソはドーピングについての現在の自分の姿勢を明らかにするために、自分の血液データやトレーニング記録をすべて自身のウェブサイトにおいて公開している。

スカルポーニはこの走りで総合も4位にジャンプアップ。ヴェローナの総合表彰台の可能性も見えてきた。
2009年ジロ・デ・イタリアでは第7・16ステージの2勝を挙げたスカルポーニは、まだ総合成績のトップ3を経験していない。

追走グループの先頭でゴールするアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)追走グループの先頭でゴールするアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ) photo:Kei Tsujiそしてこの日の大きな敗者はヴィノクロフとエヴァンス、サストレだろう。ヴィノクロフは残り8kmの補給禁止ゾーンに入ったところでチームカーから補給を受け取ったとして20秒のペナルティと200スイスフランの罰金を受けている。

エヴァンスは総合で4分差をつけられてしまい、表彰台争いが遠のいてしまった。

なお登り区間でオートバイに掴まったという理由で クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)が失格(レース除外)と200スイスフランの罰金を受けている。

バッソから3分以上遅れ、失意のダビ・アローヨ(スペイン、ケースデパーニュ)バッソから3分以上遅れ、失意のダビ・アローヨ(スペイン、ケースデパーニュ) photo:Kei Tsuji日本の新城幸也(Bboxブイグテレコム)は35分17秒遅れのグルペット内で133位でゴールしている。


ジロ・デ・イタリア第19ステージ結果
1位 ミケーレ・スカルポーニ(イタリア、アンドローニ・ジョカトーリ)5h27'04"
2位 イヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス)
3位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・ドイモ)
4位 アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ) +3'05"
5位 ジョン・ガドレ(フランス、アージェードゥーゼル)
6位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)+3'06"
チームバスに向かう新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)「これで残り一日です!」チームバスに向かう新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)「これで残り一日です!」 photo:Kei Tsuji7位 ダビ・アローヨ(スペイン、ケスデパーニュ)
8位 カルロス・サストレ(スペイン、サーヴェロ・テストチーム)
9位 ブラニスラウ・サモイラウ(ベラルーシ、クイックステップ)
10位 マルコ・ピノッティ(イタリア、チームHTC・コロンビア)

総合成績
1位 イヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス)81h55'56"
2位 ダビ・アローヨ(スペイン、ケスデパーニュ)+51"
3位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・ドイモ)+2'30"
4位 ミケーレ・スカルポーニ(イタリア、アンドローニ・ジョカトーリ)+2'49"
5位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシング)+4'00"
6位 カルロス・サストレ(スペイン、サーヴェロ・テストチーム)+5'32"
7位 リッチー・ポルト(オーストラリア、サクソバンク)+6'00"
8位 アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)+6'22"
9位 ロベルト・キセロフスキー(クロアチア、リクイガス・ドイモ)+12'44"
10位 マルコ・ピノッティ(イタリア、チームHTC・コロンビア)+13'40"



山岳賞 マリアヴェルデ
イヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス)

ポイント賞 マリアロッソパッショーネ
カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシング)

新人賞 マリアビアンカ
リッチー・ポルト(オーストラリア、サクソバンク)

チーム総合成績
リクイガス・ドイモ

総合フーガ(逃げ)賞
ジェローム・ピノー(フランス、クイックステップ)

ステージ敢闘賞
イヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス)

第20ステージはガヴィア峠通行不能によりコース変更の可能性

地すべりによる道路状況の悪さが原因でチーマコッピ(最高標高地点)のガヴィア峠に天候次第で通行不能の可能性が出ており、主催者からは代替コース案が3つ発表されている。プレス向けに配布されたプロフィールマップは以下の通り。決定はまだなされておらず、現地時間10時半・スタート2時間前に発表される見込みだ。

ジロ・デ・イタリア2010第20ステージ代替コース案1ジロ・デ・イタリア2010第20ステージ代替コース案1 image:RCS Sportジロ・デ・イタリア2010第20ステージ代替コース案2ジロ・デ・イタリア2010第20ステージ代替コース案2 image:RCS Sport
ジロ・デ・イタリア2010第20ステージ代替コース案3ジロ・デ・イタリア2010第20ステージ代替コース案3 image:RCS Sport


text:Makoto.AYANO
photo:Kei Tsuji,Riccardo Scanferla

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