2月20日に行なわれたトロフェオ・ライグエリア(UCI1.1)で大会2連覇を達成し、フィリッポ・ポッツァート(イタリア)やエディ・メルクス(ベルギー)と肩を並べたフランチェスコ・ジナンニ(イタリア、アンドローニ・ジョカトーリ)。“次世代のベッティーニ”と期待を集める24歳に、グレゴー・ブラウンが訊いた。

スプリントで大会連覇を達成したフランチェスコ・ジナンニ(イタリア、アンドローニ・ジョカトーリ)スプリントで大会連覇を達成したフランチェスコ・ジナンニ(イタリア、アンドローニ・ジョカトーリ) photo:Cor Vosランス・アームストロング(アメリカ)やミケーレ・バルトリ(イタリア)を始め、数々のトップ選手の名前が並ぶトロフェオ・ライグエリアの歴代優勝者リスト。その中で、連覇を達成したのは僅かに3人。2月20日、ジナンニはそこに自分の名前を刻み込むことに成功した。

そんなジナンニに「君はエディ・メルクスになり得るか?」と問うと、「いや〜〜〜」とかなり否定的な反応が返って来た。「ではポッツァート?」との問いには「オーケー、オーケー、目標としてはそれぐらいが適当だ。ピッポ(ポッツァート)と同じ大会連覇を達成出来て満足している」と素直に答えた。

トロフェオ・ライグエリア 2位ガヴァッツィ(ランプレ)、優勝ジナンニ(アンドローニ・ジョカトーリ)、3位ピエトロポッリ(ランプレ)トロフェオ・ライグエリア 2位ガヴァッツィ(ランプレ)、優勝ジナンニ(アンドローニ・ジョカトーリ)、3位ピエトロポッリ(ランプレ) photo:Cor Vos2008年にプロデビューしたジナンニは、イタリア国内きっての有望な若手として、これまで好成績を収めて来た。同年ジナンニはジロ・デル・ヴェネト、トレ・ヴァッリ・ヴァレジーネ、GPカマゲーゼで連勝。

その成績が認められ、ロード世界選手権のイタリア代表チーム入りを果たす。リザーブ選手として出場は果たせなかったが、アレッサンドロ・バッランとダミアーノ・クネゴのワンツー勝利を支えた。

フランチェスコ・ジナンニ(イタリア、アンドローニ・ジョカトーリ)とサヴィオ監督フランチェスコ・ジナンニ(イタリア、アンドローニ・ジョカトーリ)とサヴィオ監督 photo:Cor Vosプロ2年目の昨年は少しスランプに陥ったが、それでもトロフェオ・ライグエリア、GPインスブリア、GPカマゲーゼで優勝。アタックを仕掛けて集団を破壊し、少人数グループでのスプリント勝負を制す。そんな戦法を得意とすることから、イタリアメディアは挙ってジナンニを「次世代のパオロ・ベッティーニ」と書き立てた。

しかしその一方で、「彼のことを“ニューベッティーニ”なんて呼んだことは無い」と語るのは、アンドローニ・ジョカトーリのチームマネージャーを務めるジャンニ・サヴィオ監督。「余計なプレッシャーはかけたくないんだ。彼は才能に溢れているが、プロ最初の2年間はイマイチ継続性に欠けた。“ニューベッティーニ”になるためには、シーズンを通して安定した走りが必要だ」と分析する。

26年間監督業に携わるサヴィオ監督。当然選手を見る目には狂いが無い。「ジナンニの姿を、2度のロード世界選手権制覇を始め、アテネ五輪ロードレース金メダル、数々のメジャーワンディクラシック制覇を成し遂げて来たベッティーニと重ねるにはまだ時期尚早。彼の成長をじっくりと見つめたい。こんな“チャンピオン・トーク”で彼を混乱させるわけにはいかない」。それがサヴィオ監督の見解だ。

ジナンニはトスカーナ州出身の24歳。彼が自転車競技を始めたのは6歳のときだ。

フィレンツェから約50km離れたカザルグイディに住む彼は、地元のサッカーチーム“フィオレンティーナ”のファン。チームのイメージカラーである紫色を、愛車グエルチョッティやシューズに配している。スタイリッシュにロードレースを乗りこなすことを追求し、着こなしにも気を使う。

「5年前に娘のラケーレが生まれたとき、一時レース活動を辞めた。アマチュアレーサーの収入は微々たるもので、家計を助けるために工場で数ヶ月働いたんだ。でもそこでレースへの情熱を再確認出来た。工場での作業とは比較にならないぐらい、ロードレースが好きだということに気付いたんだ。レースは興奮を与えてくれるけど、工場はお金をくれるだけ」。

そうしてプロデビューを飾ったジナンニは、前述の通り1年目から素晴らしい成績を残した。しかし容易くレースに勝ったわけではない。「プロ入りを決めたときは、何も分かっていない無理な若造だった。プロ選手になるということは、2倍のトレーニングをこなし、3倍の努力を尽くすということ。生活の全てをサイクリングに捧げて初めて結果が出たんだ」。

ロードレーサーとしての人生を歩むフランチェスコ・ジナンニ(イタリア、アンドローニ・ジョカトーリ)ロードレーサーとしての人生を歩むフランチェスコ・ジナンニ(イタリア、アンドローニ・ジョカトーリ) photo:Cor Vosプロ1年目の3勝が評価され、ジナンニはサヴィオ監督のチームと2年間契約を延長。つまり契約は2010年シーズンいっぱいで切れる。

「今はベッティーニのような選手になりたいと思っている。自分の持ち味はスピードで、短い上りもクリア出来る。でもまだまだ学ぶことは多いよ。野望は尽きないけど、現実を見ながら一歩一歩進んで行きたい。昨年はトロフェオ・ライグエリアでの勝利後、少しリラックスしすぎたのかも知れない。誰だって時には失敗するもの。でもそんなミスから学ぶことは多いんだ」。

ひたむきなロードレースへの姿勢により、彼はチームから信頼を得ている。トロフェオ・ライグエリアでも、アンドローニ・ジョカトーリはレース後半にかけて集団を牽引。ジナンニをスプリントに導いた。ランプレトレインの最後尾につけ、スプリント勝負で一気に抜き去ったジナンニ。ゴール前で軽快に飛び出す…パオロ・ベッティーニそのものだ。

ジナンニは現在、2003年にベッティーニが優勝を飾ったミラノ〜サンレモを見据えている。

「まだまだ自分に足りないものは多い。“偉大なベッティーニ”に近づくことが出来れば、ミラノ〜サンレモのようなメジャーレースで勝てるだろう。言うは易く、行うは難し。遅かれ早かれ、ミラノ〜サンレモのタイトルは穫りたい。それが夢なんだ。ベッティーニと比較することなくレースを走り続けたい。彼を上回るなんて途方も無いけど、僕は挑戦を続けて行く。特別なプレッシャーは感じていない」。ジナンニはそう締めくくった。

text:Gregor Brown
photo:Gregor Brown, Cor Vos
translation:Kei Tsuji



Gregor.Brown (グレゴー・ブラウン)

イタリア・レッコ在住のアメリカ人プロサイクリング・ジャーナリスト。2005、2006年ジロ・デ・イタリアとツール・ド・フランス、春のクラシック等で綾野 真(シクロワイアード編集長/フォトジャーナリスト)に帯同し、取材活動を行う。2007年よりサイクリングニュース(イギリス)の主筆ジャーナリストとして活躍後、フリーランスに。2009年12月よりシクロワイアード契約ジャーナリストとなる。今後、主にイタリア・英語圏プロサイクリングメディアに活動の舞台を移す。





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