ロット・ソウダル第3の逃げ屋トーマス・マルチンスキーがブエルタ第12ステージで2勝目をマーク。アルベルト・コンタドールがアタックを成功させた一方で、2度落車したクリストファー・フルームはライバルたちから20秒のタイムを失った。


アンダルシアならではの白壁の街を通過アンダルシアならではの白壁の街を通過 photo:Kei Tsuji / TDWsport
ブエルタ・ア・エスパーニャ2017第12ステージブエルタ・ア・エスパーニャ2017第12ステージ image:Unipublicブエルタ・ア・エスパーニャ2017第12ステージブエルタ・ア・エスパーニャ2017第12ステージ image:Unipublic
ディスクブレーキを使用するクーン・デコルト(オランダ、トレック・セガフレード)ディスクブレーキを使用するクーン・デコルト(オランダ、トレック・セガフレード) photo:Kei Tsuji / TDWsport放火被害によってチームバスを失ったアクアブルースポート放火被害によってチームバスを失ったアクアブルースポート photo:Kei Tsuji / TDWsport

雨の2日間を終え、ブエルタに暑さと太陽が戻ってきた。年間平均325日が晴れというアンダルシア州らしい太陽に照らされたスタート地点は、前夜にアクアブルースポートのチームバスが放火の被害にあったというニュースで持ちきり。廃車となったチームバスの代わりに急遽手配した観光バスに乗ってアイルランドのUCIプロコンチネンタルチームの選手たちはスタートに到着した。

アンダルシア州の海岸線を西に向かい、後半にかけて1級山岳レオン峠(長さ17.4km/平均4.9%)と2級山岳トルカル峠(長さ7.6km/平均7.0%)を越えるレイアウトは完全に逃げ向き。そのためこの日もスタート直後から熾烈なアタック合戦が繰り広げられる。気温30度オーバーの暑い海岸線を走るうち、スタートから1時間が経ってようやく14名が先行を開始した。

総合リーダーチームのチームスカイに逃げを捕まえる理由はなく、タイム差は拡大の一途をたどる。集団スプリントに持ち込みたいスプリンターチームが集団コントロールに加わることはなく、早い段階で事実上14名の逃げ切りが容認された。悪天候が続いた影響もあり、この日はセルジュ・パウェルス(ベルギー、ディメンションデータ)とジョージ・ベネット(ニュージーランド、ロットNLユンボ)がスタートせず。さらにホルヘ・アルカス(スペイン、モビスター)とレナード・ホフステッド(オランダ、サンウェブ)もレースを降りている。

第14ステージの逃げメンバー
エドワード・トゥーンス(ベルギー、トレック・セガフレード)
ホセ・ロハス(スペイン、モビスター)
パウェル・ポリャンスキー(ポーランド、ボーラ・ハンスグローエ)
アンドレアス・シリンガー(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)
ジュリアン・デュヴァル(フランス、アージェードゥーゼール)
ブレンダン・カンティ(オーストラリア、キャノンデール・ドラパック)
ミカエル・モルコフ(デンマーク、カチューシャ・アルペシン)
スタフ・クレメント(オランダ、ロットNLユンボ)
ヤン・ポランツェ(スロベニア、UAEチームエミレーツ)
トーマス・マルチンスキー(ポーランド、ロット・ソウダル)
オマール・フライレ(スペイン、ディメンションデータ)
アントニー・ペレス(フランス、コフィディス)
ダビ・アローヨ(スペイン、カハルーラル・セグロスRGA)
ピーター・コニング(オランダ、アクアブルースポート)

13チームの選手で構成された14名の逃げ。ステージ優勝を飾っていない16チームのうち11チームが逃げに選手を送り込むことに成功する。すでにステージ4勝を飾っているクイックステップフロアーズやステージ2勝のアスタナは逃げに選手を送り込まず。レース中盤にタイム差が7分を超えてもなおチームスカイがメイン集団の先頭で淡々としたペースを作り、1級山岳レオン峠の登りが始まっても状況は変わらなかった。

アンダルシアの青い海岸線を行くアンダルシアの青い海岸線を行く photo:Kei Tsuji / TDWsport
熾烈なアタック合戦の末に形成された14名の逃げグループ熾烈なアタック合戦の末に形成された14名の逃げグループ photo:Kei Tsuji / TDWsportスペイン名物の牛の看板が見下ろすスペイン名物の牛の看板が見下ろす photo:Tim de Waele / TDWsport
トーマス・マルチンスキー(ポーランド、ロット・ソウダル)を含む14名の逃げトーマス・マルチンスキー(ポーランド、ロット・ソウダル)を含む14名の逃げ photo:Tim de Waele / TDWsport
チームスカイを先頭に1級山岳レオン峠を登るプロトンチームスカイを先頭に1級山岳レオン峠を登るプロトン photo:Tim de Waele / TDWsport

1級山岳レオン峠を先頭通過したロハスは山岳賞ランキングの3位に浮上。逃げグループからは下りを利用してモルコフが飛び出したものの、続く2級山岳トルカル峠までに他の逃げメンバーによって吸収される。メイン集団が9分後方に控える状況のまま、アンダルシア特有の乾燥した岩山を登る長さ7.6kmの2級山岳トルカル峠が始まる。カンティのアタックにフライレとマルチンスキー、ロハス、ポリャンスキーが食らいつき、そこからさらに加速したマルチンスキーが頂上まで4kmを残して独走に持ち込んだ。

第6ステージで逃げグループ内のスプリントを制して優勝している33歳が独走を開始。同ステージで2位だったポリャンスキーやフライレ、ロハス、カンティ、クレメントの5名が追走グループを形成したものの、その視界から赤いロットジャージが離れていく。追走グループを引き離す圧倒的な登坂力を見せたマルチンスキーが1分のリードで2級山岳トルカル峠をクリアし、フィニッシュ地点アンテケラに至るダウンヒルに突入した。

チームスカイのコントロール下に置かれた9分遅れのメイン集団では、総合9位のアルベルト・コンタドール(スペイン、トレック・セガフレード)が再び動いた。総合11位のニコラス・ロッシュ(アイルランド、BMCレーシング)と力を合わせてメイン集団から抜け出した3度の総合優勝者(2008年、2012年、2014年)コンタドールは、ダンシングを多用して総合ライバルたちを引き離しにかかる。ロッシュはハイペースに対応できずに脱落。コンタドールは30秒のリードを築いて2級山岳トルカル峠を登りきり、逃げグループから下がってきたトゥーンスにアシストされながら下りをこなした。

チームスカイが終始メイン集団をコントロールするチームスカイが終始メイン集団をコントロールする photo:Tim de Waele / TDWsport
マイヨロホを着て暑い1日を走るクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)マイヨロホを着て暑い1日を走るクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ) photo:Tim de Waele / TDWsportマルチンスキーを追うホセ・ロハス(スペイン、モビスター)らマルチンスキーを追うホセ・ロハス(スペイン、モビスター)ら photo:Tim de Waele / TDWsport
2級山岳トルカル峠を独走で駆け上がるトーマス・マルチンスキー(ポーランド、ロット・ソウダル)2級山岳トルカル峠を独走で駆け上がるトーマス・マルチンスキー(ポーランド、ロット・ソウダル) photo:Tim de Waele / TDWsport
フィニッシュまで独走するトーマス・マルチンスキー(ポーランド、ロット・ソウダル)フィニッシュまで独走するトーマス・マルチンスキー(ポーランド、ロット・ソウダル) photo:Tim de Waele / TDWsport

コンタドールが攻撃を成功させた一方で、マイヨロホを着るクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)が下り区間で落車した。前輪が壊れたためスペアバイクで再スタートしたフルームは直後のコーナーで再び落車。2度の落車に見舞われたフルームにはミケル・ニエベ(スペイン)とワウト・プールス(オランダ)が寄り添ったものの、1分前を走るコンタドールと30秒前を走るメイン集団とのタイム差が縮まらない。

追走グループを52秒振り切り、ステージ2勝目を示すVサインでフィニッシュしたマルチンスキーから遅れること7分25秒でコンタドールがフィニッシュ。ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、バーレーン・メリダ)ら総合上位陣を含むメイン集団は7分47秒遅れ、フルームは8分07秒遅れでフィニッシュした。

「独走だったので勝利を堪能する時間が長かったこともあり、1勝目よりも感動が大きい。グランツールで独走勝利を飾るのが子供の頃からの夢だった。今日、夢がかなった」と、マルチンスキーは流暢なスペイン語でインタビューに答える。「ずっと脚の調子が良い状態だったので今日も挑戦することにした。逃げに乗るために100回はアタックしたと思う。逃げグループに入った時点で『今日は俺のものだ』と思った」。デヘントとハンセンに続くロット・ソウダルの「逃げ屋」が鮮やかな2勝目を飾った。

独走でフィニッシュするトーマス・マルチンスキー(ポーランド、ロット・ソウダル)独走でフィニッシュするトーマス・マルチンスキー(ポーランド、ロット・ソウダル) photo:Tim de Waele / TDWsport
攻撃を成功させたアルベルト・コンタドール(スペイン、トレック・セガフレード)が独走でフィニッシュ攻撃を成功させたアルベルト・コンタドール(スペイン、トレック・セガフレード)が独走でフィニッシュ photo:Tim de Waele / TDWsport
プールスにアシストされてフィニッシュするクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)プールスにアシストされてフィニッシュするクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ) photo:Tim de Waele / TDWsport

「想像よりずっと良い結末になった」と喜ぶのは、総合トップ10の選手たちから22秒奪ったコンタドール。総合順位は9位のままだが、総合3位チャベスまでのタイム差を1分にまで縮めている。「良い友人であるロッシュと話して一緒にアタックした。逃げていたチームメイト(トゥーンス)に追いついて、全力でライバルを引き離したんだ。ブエルタは最後の最後まで戦い続けたい」。

落車によって膝から流血し、ショーツを破りながらフィニッシュしたフルームは「もっと深刻な状況になりえたのでホッとしている。落車は2回とも前輪のスリップが原因。チームメイトのおかげで、たった20秒のタイムロスで済んだことを喜びたい」と前向きに結果を受け入れる。総合1位フルームと総合2位ニーバリのタイム差は1分を割り込んで59秒に。広がりつつあった総合タイム差がここに来て縮まった。

ショーツが破れ、膝から流血した状態でフィニッシュしたクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)ショーツが破れ、膝から流血した状態でフィニッシュしたクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ) photo:Tim de Waele / TDWsportステージ2勝目を飾ったトーマス・マルチンスキー(ポーランド、ロット・ソウダル)ステージ2勝目を飾ったトーマス・マルチンスキー(ポーランド、ロット・ソウダル) photo:Kei Tsuji / TDWsport
落車しながらもマイヨロホを守ったクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)落車しながらもマイヨロホを守ったクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ) photo:Kei Tsuji / TDWsport

ステージ成績
1位 トーマス・マルチンスキー(ポーランド、ロット・ソウダル) 3:56:45
2位 オマール・フライレ(スペイン、ディメンションデータ) 0:00:52
3位 ホセ・ロハス(スペイン、モビスター)
4位 パウェル・ポリャンスキー(ポーランド、ボーラ・ハンスグローエ)
5位 スタフ・クレメント(オランダ、ロットNLユンボ)
6位 ブレンダン・カンティ(オーストラリア、キャノンデール・ドラパック) 0:01:42
7位 アントニー・ペレス(フランス、コフィディス) 0:02:50
8位 ヤン・ポランツェ(スロベニア、UAEチームエミレーツ)
9位 アンドレアス・シリンガー(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)
10位 ダビ・アローヨ(スペイン、カハルーラル・セグロスRGA) 0:03:00
13位 アルベルト・コンタドール(スペイン、トレック・セガフレード) 0:07:25
17位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、バーレーン・メリダ) 0:07:47
32位 クリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ) 0:08:07
DNF ホルヘ・アルカス(スペイン、モビスター)
DNF レナード・ホフステッド(オランダ、サンウェブ)
DNS ジョージ・ベネット(ニュージーランド、ロットNLユンボ)
DNS セルジュ・パウェルス(ベルギー、ディメンションデータ)
敢闘賞 オマール・フライレ(スペイン、ディメンションデータ)
マイヨロホ(個人総合成績)
1位 クリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ) 49:22:53
2位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、バーレーン・メリダ) 0:00:59
3位 エステバン・チャベス(コロンビア、オリカ・スコット) 0:02:13
4位 ダビ・デラクルス(スペイン、クイックステップフロアーズ) 0:02:16
5位 ウィルコ・ケルデルマン(オランダ、サンウェブ) 0:02:17
6位 イルヌール・ザカリン(ロシア、カチューシャ・アルペシン) 0:02:18
7位 ファビオ・アル(イタリア、アスタナ) 0:02:37
8位 マイケル・ウッズ(カナダ、キャノンデール・ドラパック) 0:02:41
9位 アルベルト・コンタドール(スペイン、トレック・セガフレード) 0:03:13
10位 ミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、アスタナ) 0:03:51
マイヨプントス(ポイント賞)
1位 マッテオ・トレンティン(イタリア、クイックステップフロアーズ) 78pts
2位 クリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ) 75pts
3位 パウェル・ポリャンスキー(ポーランド、ボーラ・ハンスグローエ) 58pts
マイヨモンターニャ(山岳賞ジャージ)
1位 ダヴィデ・ヴィレッラ(イタリア、キャノンデール・ドラパック) 38pts
2位 ホセ・ロハス(スペイン、モビスター) 27pts
3位  クリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ) 21pts
マイヨコンビナーダ(複合賞)
1位 クリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ) 6pts
2位 エステバン・チャベス(コロンビア、オリカ・グリーンエッジ) 24pts
3位 ホセ・ロハス(スペイン、モビスター) 27pts
チーム総合成績
1位 モビスター 147:36:48
2位 アスタナ 0:02:49
3位 チームスカイ 0:09:40
text:Kei Tsuji