自転車大国であるベルギーのフランドル地方に拠を構えるリドレーより、フルモデルチェンジを果たしたフラッグシップバイク「HELIUM SLX」をインプレッション。プロレースシーンからのフィードバックを受け、進化したスーパーライトオールラウンダーの実力に迫る。



リドレー HELIUM SLXリドレー HELIUM SLX (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
2007年の登場以降、リドレーのオールラウンドフラッグシップモデルの座を守り続けているHELIUM。空気よりも軽い気体であるヘリウムの名を冠したライトウェイトレーシングモデルとして、協力体制にあるロットチームとともにツール・ド・フランスを始め、グランツールの山岳ステージでその真価を発揮してきた。

2007年にはカデル・エヴァンス(オーストラリア、当時プレディクトール・ロット)のツール・ド・フランス総合2位を支え、2016年のツールでは超級山岳モンヴァントゥーをゴールに設定した第12ステージでのトーマス・デヘント(ドイツ、ロット・ソウダル)の優勝に貢献。プロトン屈指の山岳クライミングバイクとして、10年以上に渡りその存在感を放ち続けている。

HELIUMシリーズ伝統ともなった細身のシートステーを採用HELIUMシリーズ伝統ともなった細身のシートステーを採用 トップチューブはスクエア形状ですらっとした印象トップチューブはスクエア形状ですらっとした印象 ストレートフォークに変更となり、よりシャープなハンドリングを実現ストレートフォークに変更となり、よりシャープなハンドリングを実現


そんなHELIUMが2017年モデルよりフルモデルチェンジ。今までのHELIUMらしいロードバイク然とした美しい姿はそのままに、プロレース現場からのフィードバックを元に、剛性とコントロール性を向上させ新しいモデルとして生まれ変わっている。それに伴い従来のトップモデルであるHELIUM SLというモデル名に「X」の文字を追加し、HELIUM SLXとして新たにネーミングされた。

大きな変更点として、トップチューブ、ヘッドチューブ、ダウンチューブからなるフロントトライアングルのカーボンレイアップを見直し、チューブ形状をボリュームアップ。その結果、旧HELIUM SLに比べ15%の剛性強化を実現している。

フロントトライアングルは剛性が15%ほど強化されたフロントトライアングルは剛性が15%ほど強化された ヘッドチューブは上下異形のテーパードヘッドセットだヘッドチューブは上下異形のテーパードヘッドセットだ

エンド部分までカーボンで成型されるエンド部分までカーボンで成型される BBはプレスフィット30を採用BBはプレスフィット30を採用


また素材には60T、40T、30Tのそれぞれ弾性率の異なる複数のカーボンを適材適所に使用することで、トッププロ選手の強大なパワーを即座に推進力に変える優れたパワー伝達性能を有している。それでいてフレーム重量は据え置きの750gを維持。全体として重量剛性比の向上が実現した。

もう一つの大きな変更点として、旧HELIUM SLで採用されていたベンドフォークをストレートフォークに変更。レース現場で必要とされる素早い反応性を持ったクイックなハンドリングを実現することで、コーナリングでもより鋭角に切り込むハンドリングを手に入れている。また新しくなったフロントフォークは30gほどの軽量化も果たしているのもポイントだ。

新たに内装化されたリアのブレーキケーブル。ステアリングを考慮しトップチューブの逆サイドより通される新たに内装化されたリアのブレーキケーブル。ステアリングを考慮しトップチューブの逆サイドより通される 左右非対称設計のチェーンステーによりパワー伝達を高める左右非対称設計のチェーンステーによりパワー伝達を高める


もちろんヘリウムのアイデンティティとも言える細身のシートステーはしっかり先代から引き継いでおり、フロントトライアングルのパワーラインに対して、リアセクションは快適性を担保。地元ベルギーの石畳でテストを積み重ねているため、その振動吸収性の高さは実証済みだ。またチェーンステーのドライブ側にボリュームを持たせる左右非対称設計も先代から継承しているなど、HELIUMシリーズそのものの基本設計の良さを垣間見ることができる。

BBにはプレスフィットBB30を採用し、ヘッドベアリングは上側1-1/8、下側1-1/4インチのテーパードヘッドチューブを用いるなど昨今の基本フレームスペックを網羅。また前作ではメンテナンス性を考慮し外装となっていたリアのブレーキワイヤーを内装化。それに伴いステアリングに無理のない取り回しとなるようワイヤリングも最適化している。

シートチューブはスタンダードな丸型シートチューブはスタンダードな丸型 ダウンチューブの上部分にはお洒落なリドレーロゴが配されるダウンチューブの上部分にはお洒落なリドレーロゴが配される ヘッドチューブとフォークの接合部分は連続するようなデザインとなるヘッドチューブとフォークの接合部分は連続するようなデザインとなる


サイズはホリゾンタル換算のトップチューブが525mmのXS、545mmのS、565mmのMと3種類をラインアップ。また価格がフレームセット385,000円(税抜)と、トッププロ選手が実際に使用するフレームとしてはリーズナブルな価格に収まっているのもポイントだろう。

リドレーの旗艦として新たにフルモデルチェンジを果たしたHELIUM SLX。今回はコンポーネントにカンパニョーロレコードを、ホイールにファストフォワードF4Rのアッセンブルでテストした。今年のグランツールでも活躍が予想される軽量オールラウンダーはインプレッションライダーの目にどう映ったのだろうか。それでは、インプレッションに移ろう。



ー インプレッション

「登坂時の軽快感や力のかかり具合、加速感が非常に良い」渡辺勇大(GROVE港北)

フレーム重量750gの超軽量バイクということで、登坂時の軽快感や力のかかり具合、加速感が非常に良いですね。ヒルクライム向けオールラウンドバイクといった位置付けのバイクです。それでいてHELIUM伝統である細身のシートステーが柔軟性を発揮し、後輪部分を中心に快適な乗り心地を演出してくれます。

強く感じた部分で言えば、踏んだ瞬間に加速する反応性の高さですね。今回はホイールがセミディープリムでしたので、ほんの一瞬推進力を溜めるような動きがありましたが、このフレーム自体は軽量バイクらしくパワー入力に対して素直にスパッと進む加速感があります。

「登坂時の軽快感や力のかかり具合、加速感が非常に良い」渡辺勇大(GROVE港北)「登坂時の軽快感や力のかかり具合、加速感が非常に良い」渡辺勇大(GROVE港北)
かと言って、踏みすぎると脚が売り切れてしまうというようなスパルタンな味付けではありません。細身のシートステーが影響するのか、脚への反発を抑えてくれますので、どんどん踏んでいきたい気持ちになってしまいます。反応性はピカイチなのに脚への負担は少ないという、フレームそのものの出来の良さをひしひしと感じられる性能の高さですね。

また、シートステーによる柔軟性が上手く効いているため、快適性はもとより、路面追従性が非常に高いと感じました。一気にパワーをかけて踏み込んでもスリップしそうな気配が無く、推進力を路面にしっかり伝えている感覚があります。激坂で急加速するような時でも後輪がしっかり接地してくれるので、安心して踏み込むことができるでしょう。

旧モデルに比べて剛性アップを果たしたというヘッド周りはメーカーの謳い文句通り、がっちりとした硬い印象を受けました。かといって上半身が疲れてしまうような嫌な硬さではなく、ダンシング時でも安定感を与えてくれるような程良いバランスで成り立っています。落ち着いて体重を乗せて走ることができますね。

ホイールは今回アッセンブルされていたファストフォワードのF4Rとの相性が非常に良かったです。シッティングでじんわり踏んで行くと平坦での最高速度を底上げできます。このバイクを購入するような登りの得意なライダーの中には、平坦が少し苦手と感じている方もいるかと思いますが、この手のホイールを履くことでそういった苦手部分を補ってくれるかもしれませんね。逆にヒルクライムに完全に特化させたいというのであれば、ローハイトの軽量ホイールを組み合わせると、登りでの加速をよりキレの良いものにすることができると思います。

全体として突出した硬さでもなく、バランス良く仕上がっていますので、いわゆるハイエンドフレームが初めてな方でも十分乗りこなせる扱いやすさを秘めています。もちろん上級者の方が乗っても満足いくような感想を持つことができるでしょう。

軽快な登坂性能が売りのバイクですので、登りが好きな方や、ヒルクライムで自分の持ち味を出したい方にオススメですね。フレーム自体の推進力も高めですのでホイールをディープリムにすることで、平坦の巡航も十分にこなしてくれます。ホイールのチョイスによって、ヒルクライムレースからグランフォンドまでオールラウンドに楽しめるバイクではないでしょうか。

「山岳だけに特化せずオールラウンドな走りができるバイク」恒次智(サイクルショップフリーダム)

軽量のクライミングバイクという触れ込みですが、山岳だけに特化せずオールラウンドな走りができるバイクだと感じました。ベルギーのメーカーであるリドレーのバイクらしく、石畳もこなせるような走破性の高さも兼ね備えた性能の高さがありますね。

「山岳だけに特化せずオールラウンドな走りができるバイク」恒次智(サイクルショップフリーダム)「山岳だけに特化せずオールラウンドな走りができるバイク」恒次智(サイクルショップフリーダム) 踏み味は細いシートステーの影響からか、適度なしなりのようなウェット感があります。ダンシングしてもバイクが浮つくようなことはなく、ずっしり地に足が付いていてトラクションを掴みやすい印象です。踏み込むと路面を食うように踏ん張ってから、進んでいくような感覚を受けました。ですので、軽いギアでスイスイ走るというよりは、踏み込んでちょっと溜めを感じながら走るイメージですね。

その溜めというのはパワーが吸収されるような嫌な感覚ではなく、後から放出して推進力に変えるような働きをしてくれます。そんなフレームの性格もあり、純粋なヒルクライムというよりは適度なアップダウンがあるようなコースで光る味付けですね。平坦の先に登りがあり、惰性でグイグイ踏み込んで登っていくようなレイアウトが得意かもしれません。

軽量に作られたバイクですが、大きな力を入力してもヨレるということはありません。軽いフレームだからヒルクライマー然とした軽いライダーでなければいけないという訳ではなく、むしろ体重のあるパワーライダーのような方のほうがこのバイクに合っているかもしれません。力強い踏み込みにも十分応えてくれますね。

また乗り心地に関してもシートステーの柔軟性により、優れた振動吸収性を発揮しているように感じます。やはり石畳でテストしていることもあってか荒れた路面でもバイクが暴れるような挙動はありません。多少の段差なら気になりませんし、嫌な突き上げや跳ねをあまり感じることなく走ることができますね。

ホイールは今回、45mmリムハイトのカーボンホイールが付いていましたが、登坂性能をもう少し際立たせるために、ローハイトで良く回るようなホイールを合わせても良いかもしれません。例えば、マヴィックのキシリウムカーボンやスペシャライズドのCLX32などが最適でしょう。

快適な乗り心地ですのでロングライドに使用しても楽しめるバイクだと思います。ですが、基本的にはレースバイクといった性格ですので、ロングライドでもテンポが速めのトレーニング的要素を含んだライドに良いかもしれません。レースもロングライドもこれ1台で、という方にオススメではないでしょうか。

リドレー HELIUM SLXリドレー HELIUM SLX (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
リドレー HELIUM SLX フレームセット
素材:60T、40T、30Tハイモデュラスカーボン
BB規格:プレスフィットBB30
シートポスト径:27.2mm
サイズ:XS(440)、S(470)、M(500)
フレーム重量:750g(Mサイズ)
カラー:HSLX01Am
価格:385,000円(税抜)



インプレッションライダーのプロフィール

渡辺勇大(GROVE港北)渡辺勇大(GROVE港北) 渡辺勇大(GROVE港北)

横浜市港北区に店舗を構えるGROVE港北の店長。元MTBのダウンヒルプロライダーであり、20年以上に渡ってレース活動を行ってきたベテラン。その経験を活かしトータルとしての乗りやすさを求めるフィッティングやバイクセッティングに定評がある。ロードやMTBなど幅広くスポーツバイクをお客さんと一緒に遊びその楽しさを伝えていくことを大切にしている。愛車はスペシャライズドTarmac S-Works。

CWレコメンドショップページ
GROVE港北HP

恒次智(サイクルショップフリーダム)恒次智(サイクルショップフリーダム) 恒次智(サイクルショップフリーダム)

岡山県岡山市に店舗を構えるサイクルショップフリーダムの店長。速さやスタイルに囚われることなく自由に自転車を楽しむのがショップのコンセプト。MTBから自転車を始め、クロスカントリーレースやロードの実業団レース等にも参加、自転車歴は20年以上。最近はツーリングやトレイルライドにも力を入れる。愛車はキャノンデールのSUPERSIX EVO HI-MOD。そしてホンダS2000やロータスエリーゼ、エキシージなどなど。

CWレコメンドショップページ
サイクルショップフリーダムHP

ウェア協力:Pandani
ヘルメット&アイウェア協力:KASK

text:Kosuke.Kamata
photo:Makoto.AYANO
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