ツアー・オブ・ブリテンの開幕を告げる大集団スプリント。最終コーナーの落車でカヴェンディッシュやヴィヴィアーニが脱落する中、ドイツチャンピオンジャージを着るグライペルが勝利した。



21チームの選手たちがグラスゴーの街に集まった21チームの選手たちがグラスゴーの街に集まった photo:Kei Tsuji
ファンサービスに励むカヴェンディッシュのためにバイクを運ぶベルンハルト・アイゼル(オーストリア、ディメンションデータ)ファンサービスに励むカヴェンディッシュのためにバイクを運ぶベルンハルト・アイゼル(オーストリア、ディメンションデータ) photo:Kei Tsuji沿道ではユニオンジャックが振られる沿道ではユニオンジャックが振られる photo:Kei Tsuji


ツアー・オブ・ブリテン2016第1ステージツアー・オブ・ブリテン2016第1ステージ image:Tour of Britain9月4日、イギリス北部のグラスゴーで第13回ツアー・オブ・ブリテンが開幕。スコットランド(首都はエディンバラ)最大の都市グラスゴーの中心に位置するジョージスクエアから124名(21チームx6名)がスタートを切った。

いつでもひときわ大きな声援を受けるブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームウィギンズ)いつでもひときわ大きな声援を受けるブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームウィギンズ) photo:Kei Tsuji気温20度ほどの(この地域にしては)暖かい初秋の空の下、開始直後の登りで早速5名の逃げが決まる。逃げに選手を送り込んだのは、アンポスト・チェーンリアクション、NFTO、JLTコンドール、ワンプロサイクリングというツアー・オブ・ブリテンではおなじみとも言えるエスケープチーム。中でもピーター・ウィリアムズ(イギリス、ワンプロサイクリング)は2015年大会で連日のように逃げ、山岳賞とスプリント賞を獲得した選手だ。

スタート後すぐの登りでアタックするエミエル・ワスティン(ベルギー、アンポスト・チェーンリアクション)スタート後すぐの登りでアタックするエミエル・ワスティン(ベルギー、アンポスト・チェーンリアクション) photo:Kei Tsuji地元イギリスを中心にしたUCIプロコンチネンタルチームとUCIコンチネンタルチームによる逃げを、UCIワールドチームが追撃する展開に。1チーム9名が揃うグランツールに対し、ブリテンは1チーム6名という構成。そのためUCIワールドチームがレースを支配できずに逃げきりが決まるような荒れた展開が起こりがちだが、この日はタイム差が4分以下に抑え込まれた状態でレースは進んだ。

逃げるピーター・ウィリアムズ(イギリス、ワンプロサイクリング)ら5名逃げるピーター・ウィリアムズ(イギリス、ワンプロサイクリング)ら5名 photo:Kei Tsuji主にメイン集団を牽引したのはディメンションデータ。リオ五輪トラックレースのオムニアムで銀メダルを獲得し、カタールで行われるUCIロード世界選手権に向けて「トラックからロードに合わせて脚を調整する必要が有る」というマーク・カヴェンディッシュ(イギリス)のために南アフリカチームが集団を率いる。

ロットNLユンボやチームスカイ、ジャイアント・アルペシンが集団を牽引するロットNLユンボやチームスカイ、ジャイアント・アルペシンが集団を牽引する photo:Kei Tsujiディメンションデータの他にもチームスカイ(ヴィヴィアーニ)やオリカ・バイクエクスチェンジ(ユアン)、トレック・セガフレード(ニッツォロ)、ロット・ソウダル(グライペル)、ジャイアント・アルペシン(シンケルダム)、エティックス・クイックステップ(リケーゼ)が集団コントロールに合流する。通り雨に降られながら、メイン集団は逃げグループのリードを削っていった。

先頭でスプリントを開始するアンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル)先頭でスプリントを開始するアンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル) photo:Kei Tsujiレース中盤に登場した3つの3級山岳では、2014年ツアー・オブ・ジャパンでポイント賞6位に入っているトーマス・モゼス(イギリス、JLTコンドール)が前年度の山岳賞ライダーに挑戦したものの、ウィリアムズは若手に先行を許さず。2つの3級山岳を先頭通過したウィリアムズが翌日の山岳賞ジャージ着用の権利を得ている。

ユアンを振り切るアンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル)ユアンを振り切るアンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル) photo:Kei Tsuji羊や牛が放牧された田園風景の中を進みながら確実にタイム差を詰めたメイン集団。しばらくタイム差が20〜30秒で推移するいわゆる「逃げを泳がす状態」が続いたものの、残り10kmを切って吸収。スプリンターチームが列をなして濡れた幹線道路を高速巡航した。

両手を広げてフィニッシュするアンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル)両手を広げてフィニッシュするアンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル) photo:Kei Tsuji残り1kmを切り、リードアウトマンたちの競り合いの中から抜け出したのはロット・ソウダル。赤いトレインが残り500mの左コーナーを先頭で抜けると、そのままマルセル・シーベルグ(ドイツ)とイェンス・デブシェール(ベルギー)がドイツチャンピオンを解き放つ。

グライペルのスプリント開始に合わせて番手につけていたカレイブ・ユアン(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)がラインを変えてスリップストリームから抜け出したものの、先頭に並ぶことはできない。誰にも並ばせないままグライペルが大きく両手を広げた。

「約1ヶ月のトレーニング期間からレースに復帰したばかり。この勝利でトレーニングの成果を実感している。強力なスプリンターが揃っているこの大会での勝利はスペシャルだ」と、今シーズン10勝目を飾ったグライペルは語る。ロード世界選手権に向けて順調な仕上がりを見せている。

「今日はこの1週間で最もイージーなコースだった。スタジエール(研修生)としてチームに加わっているジェームス・ショーが他のチームと協力して集団を率いて5名の逃げを吸収。1チーム6名しかいないので、スプリントに向けてチーム力を温存することが重要だった。最後はギャロパンとデブイストの力を借りて前に上がり、シーベルグとデブシェールのリードアウトからスプリントした。残り500mで鋭いコーナーがあることを確認済みだったので、そこまでに必ず先頭に出ておく必要があった。この勝利はメンバー全員が仕事をこなした結果だ」。

グライペルの言う「鋭いコーナー」では集団前方で落車が発生し、その影響でマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ)やエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、チームスカイ)、ディラン・フルーネヴェーヘン(オランダ、ロットNLユンボ)が勝負に絡めず。いずれの選手も怪我は免れている。

黄色いリーダージャージに袖を通したグライペルは「明日以降はアップダウンコースが続くのでレース展開が読めない。しかも明日は平坦区間が存在しないようなコースで、残り30km地点に標高差400mの登りが登場する。展開によっては明日はギャロパンで勝負することになるかも知れない」と予想する。カーライルからケンダルまでの188.2kmで行われる第2ステージの獲得標高差は3,715mだ。



逃げグループとモーターバイクの近さについて話すダニエル・マーティン(アイルランド、エティックス・クイックステップ)とマキシミリアーノ・リケーゼ(アルゼンチン、エティックス・クイックステップ)逃げグループとモーターバイクの近さについて話すダニエル・マーティン(アイルランド、エティックス・クイックステップ)とマキシミリアーノ・リケーゼ(アルゼンチン、エティックス・クイックステップ) photo:Kei Tsuji今シーズン10勝目を飾ったアンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル)今シーズン10勝目を飾ったアンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル) photo:Kei Tsuji
リーダージャージに袖を通すアンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル)リーダージャージに袖を通すアンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル) photo:Kei Tsuji


ツアー・オブ・ブリテン2016第1ステージ結果
1位 アンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル)           3h52’40”
2位 カレイブ・ユアン(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)
3位 ラモン・シンケルダム(オランダ、ジャイアント・アルペシン)
4位 マキシミリアーノ・リケーゼ(アルゼンチン、エティックス・クイックステップ)
5位 ジャコモ・ニッツォロ(イタリア、トレック・セガフレード)
6位 ニコラ・ルッフォニ(イタリア、バルディアーニCSF)
7位 スティール・ヴォンホフ(オーストラリア、ワンプロサイクリング)
8位 クリストファー・レイサム(イギリス、チームウィギンズ)
9位 ダニエル・マクレー(イギリス、イギリスナショナルチーム)
10位 イェンス・デブシェール(ベルギー、ロット・ソウダル)

個人総合成績
1位 アンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル)           3h52’30”
2位 ヤスパー・ボーフンハス(オランダ、アンポスト・チェーンリアクション)    +01”
3位 カレイブ・ユアン(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)         +04”
4位 ピーター・ウィリアムズ(イギリス、ワンプロサイクリング)
5位 ラモン・シンケルダム(オランダ、ジャイアント・アルペシン)         +06”
6位 ジョナサン・マケヴォイ(イギリス、NFTO)                 +08”
7位 トーマス・モゼス(イギリス、JLTコンドール)                +09”
8位 マキシミリアーノ・リケーゼ(アルゼンチン、エティックス・クイックステップ) +10”
9位 ジャコモ・ニッツォロ(イタリア、トレック・セガフレード)
10位 ニコラ・ルッフォニ(イタリア、バルディアーニCSF)

ポイント賞
1位 アンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル)             15pts
2位 カレイブ・ユアン(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)        14pts
3位 ラモン・シンケルダム(オランダ、ジャイアント・アルペシン)        13pts

山岳賞
1位 ピーター・ウィリアムズ(イギリス、ワンプロサイクリング)         11pts
2位 トーマス・モゼス(イギリス、JLTコンドール)               8pts
3位 エミエル・ワスティン(ベルギー、アンポスト・チェーンリアクション)    6pts

スプリント賞
1位 ヤスパー・ボーフンハス(オランダ、アンポスト・チェーンリアクション)   9pts
2位 ピーター・ウィリアムズ(イギリス、ワンプロサイクリング)         6pts
3位 ジョナサン・マケヴォイ(イギリス、NFTO)                2pts

チーム総合成績
1位 カハルーラル                            11h38’00”
2位 イギリスナショナルチーム
3位 バルディアーニCSF

text&photo:Kei Tsuji in Carlisle, United Kingdom