キナンサイクリングチームが出場した「ツール・ド・シンカラ」。後半のステージでは、伊丹健治が表彰台に乗り、阿曽圭佑が逃げ、野中竜馬がゴールスプリントに加わるなど、日本人選手が活躍した。第5ステージから第8ステージまでのダイジェストと、現役引退を発表した伊丹健治のコメントを併せてレポートする。



アジアツアーUCI 2.2クラスのステージレース「ツール・ド・シンカラ」。前回のレポートでお伝えした通り、日本からはキナンサイクリングチーム(以下キナンチーム)が出場している。山岳ステージが続く前半を終え、後半は平坦基調のステージが増えた。それぞれのステージをダイジェストで紹介。



第5ステージ 逃げに乗った伊丹健治が3位表彰台

第5ステージ 3位に入って表彰を受ける伊丹健治(キナンサイクリングチーム)第5ステージ 3位に入って表彰を受ける伊丹健治(キナンサイクリングチーム) photo:Satoru.Kato
ステージ5 スタート前に選手専用スペースでくつろぐステージ5 スタート前に選手専用スペースでくつろぐ photo:Satoru.Katoスタートが遅れ、コミッセールが飛び入りで歌いだすスタートが遅れ、コミッセールが飛び入りで歌いだす photo:Satoru.Kato5日目は海岸沿いを行く153.1km。途中、4級山岳を含む2か所のアップダウンがあるが、平坦基調のコース設定だ。

この日もリアルスタート直後からアタック合戦が始まり、9人が抜け出す。その中に、キナンチームから伊丹健治が加わる。個人総合順位に影響がない9人の逃げを見送ったメイン集団は、リーダージャージを擁するピシュガマンサイクリングチーム(以下ピシュガマン)がコントロールして進行。タイム差は最大で3分30秒まで開く。

レース終盤、1分30秒までタイム差が縮まるものの、逃げ集団は吸収されないまま残り10kmを過ぎる。逃げ集団内ではアタック合戦が始まり、伊丹を含む3人が残って最後の勝負へ。クリサダ・チャンパド(タイ、シンガ・インフィニテ・サイクリングチーム)が優勝。伊丹は3位に入った。

伊丹は、「今大会で一番の平坦ステージだったので、逃げを狙っていました。3位という結果は悔しいけれど、最低限の目標は達成できたかなと思っています。」と、レース後にコメント。



第6ステージ 個人総合争い最後のステージ マルコスが3位、リカルドが総合3位維持

第6ステージ 3位に入ったマルコス・ガルシア(キナンサイクリングチーム)第6ステージ 3位に入ったマルコス・ガルシア(キナンサイクリングチーム) photo:Satoru.Katoリカルド・ガルシア(キナンサイクリングチーム)をはじめ、総合上位3人がまとまってゴールリカルド・ガルシア(キナンサイクリングチーム)をはじめ、総合上位3人がまとまってゴール photo:Satoru.Katoゴール後は放水の下でクールダウンゴール後は放水の下でクールダウン photo:Satoru.Kato6日目は海岸から山岳地帯に向かって進む151km。コースのほぼ中間に標高1132mの1級山岳が設定され、ラスト10kmからゴールまでは勾配がきつめの細かいアップダウンが繰り返される。残る第7、第8ステージは平坦基調のステージになるため、事実上総合優勝を決めるステージとなる。

スタート直後に20人の逃げ集団が形成され、キナンチームからはマルコス・ガルシア、リカルド・ガルシア、ジャイ・クロフォードが入る。1級山岳への登りでマルコスを含む4人が先行し、山頂をマルコスがトップで通過。下りきったところで後続との差は約6分まで開く。

先行する4人の中には、総合6位のモハンマド・ラジャブルー(イラン、ピシュガマン)が含まれていた。総合3位のリカルドとの差は約5分。この時点でラジャブルーがバーチャル総合3位。総合2位のダディ・スリャディ(インドネシア、トレンガヌサイクリングチーム)も抜かれる可能性があった事から、同じ集団にいたリカルドと協力して前を追う。

一方先行する4人は、チームからの指示でマルコスがローテーションに加わらなくなった事でペースダウン。ラジャブルーとマルコスが牽制しあう中、他の2人が先行。ジャン・ジュング(韓国、コレイル・サイクリングチーム)が単独で逃げ切ってステージ優勝した。

マルコスはラジャブルーを振り切って3位。ラジャブルーがその後遅れた事から、リカルドは総合3位を維持してゴールした。

「厳しいコースだったけれど、チームの指示もあって前をひく必要が無くなったから、自分にはそれほど難しいレースではなかった。」と、マルコスはコメント。一方リカルドは「難しい展開だったけれど、総合3位を維持出来て良かった。残り2日は上位二人の動きに注意しつつ安全にレースするよ。」とコメント。



第7ステージ 阿曽圭佑あと4km届かず 野中竜馬がスプリント4位

第7ステージ 2位争いのスプリントに加わる野中竜馬(キナンサイクリングチーム)第7ステージ 2位争いのスプリントに加わる野中竜馬(キナンサイクリングチーム) photo:Satoru.Kato
日本の国旗を振って応援する子供達日本の国旗を振って応援する子供達 photo:Satoru.Kato 第7ステージ 落胆の表情を隠せない阿曽圭佑(キナンサイクリングチーム) 第7ステージ 落胆の表情を隠せない阿曽圭佑(キナンサイクリングチーム) photo:Satoru.Kato7日目は、前半に3級山岳を含むアップダウンが続き、後半はゴールまで平坦となる133.8km。リアルスタート直後からハイスピードな時間が20km付近まで続き、キナンチームの阿曽圭佑とサクソン・アーバイン(オーストラリア、データ#3シスコレーシングチームP/Bスコディ 以下データ#3)の2人が抜け出す。

「下りも平坦も全開で踏んでいた」とレース後に阿曽が話した通り、メイン集団との差は5分以上に開く。残り30km地点でのタイム差は5分40秒。このまま2人での逃げ切りになるかと思われた。しかし、残り10kmからアーバインが阿曽を振り切って独走。そのままゴールしてステージ優勝した。

残り4kmでメイン集団が阿曽を吸収。2位争いのスプリントに野中竜馬が加わり、僅差ながら4位に入った。

ゴール後、ひどく落胆した様子だった阿曽。「相手(アーバイン)が強かった。逃げている間も余裕がありそうだったけれど、僕はもういっぱいだった。最後まで行きたかった。」とコメント。

2位争いのスプリントに加わった野中は「最終コーナーを5番手ぐらいで通過して、最後の位置取りもぴたりとはまったので、冷静にまくりに行くつもりだった。でも、タイミングを合わされてしまって、届かないと思ったところに1人差されてしまった。でもこれで自信がついた。」と、コメント。2人共、最終ステージでの再チャレンジに意欲を見せた。



第8ステージ キナン主導で逃げを吸収も、野中はスプリントの行き場を失って9位

8日目の休息日を挟んで、9日目は西スマトラの州都パダン市内にゴールする。146.5km。序盤に標高1329mの超級山岳が設定されているが、標高約900mのブキティンギからスタートして登るため、実際に登る高低差は400m程度。コースの4分の3は下りと平坦基調だ。パダン市内に入ってから6.5kmの周回コースを6周してゴールする。

第8ステージ 超級山岳への登りで総合上位3人が抜け出す第8ステージ 超級山岳への登りで総合上位3人が抜け出す photo:Satoru.Kato第8ステージ 伊丹健治を先頭に隊列を組むキナンサイクリングチーム第8ステージ 伊丹健治を先頭に隊列を組むキナンサイクリングチーム photo:Satoru.Kato

第8ステージ ジャイ・クロフォードがメイン集団を牽引第8ステージ ジャイ・クロフォードがメイン集団を牽引 photo:Satoru.Kato第8ステージ 最後は集団でのスプリント勝負へ第8ステージ 最後は集団でのスプリント勝負へ photo:Satoru.Kato


超級山岳への登りで、個人総合上位の3人を含む数名が先行。その後の下りで一度吸収され、新たに4人の逃げ集団が形成される。4人を見送ったメイン集団は一度落ち着き、登りで遅れた選手が合流していく。レース終盤、データ#3とコレイル・サイクリングチームが集団をペースアップさせるが、パダン市内の周回コースに入る前に力尽きてしまう。代わってキナンサイクリングチームが集団を牽引し、周回コースに入った時点で約2分あった差を、データ#3の協力も得て残り2周までに約40秒まで詰める。

最終周回に逃げ集団を吸収したメイン集団は、そのままスプリント勝負へ。シャフル・マトアミン(マレーシア、トレンガヌサイクリングチーム)が優勝。行き場を失ってしまった野中竜馬は9位に終わった。総合上位勢はメイン集団内でゴール。コラドウズの総合優勝と、リカルドの総合3位が確定した。

第8ステージ 個人総合順位 表彰式第8ステージ 個人総合順位 表彰式 photo:Satoru.Kato
第8ステージ チーム総合順位 表彰式第8ステージ チーム総合順位 表彰式 photo:Satoru.Kato第8ステージ 民族衣装を着た表彰式のプレゼンター第8ステージ 民族衣装を着た表彰式のプレゼンター photo:Satoru.Kato


リカルドは、「総合3位で終われた事はとても嬉しい事だ。チームはレース期間中を通してよく動けたと思うし、強いチームだと言う事を示せたのではないかと思っている。今後のレースでも強いところを見せ続けていけるようにしたい。」と、コメント。

キナンチームの石田哲也監督は、「今回のシンカラでは、チーム発足以来初めてリーダージャージを着てスタートする経験をしました。一番厳しいステージでの事だったので、守る事が出来れば自信になると思いましたが、ピシュガマンが強かったです。この経験を、今シーズンの残りのレースに活かしていきたいと思います。しいては来年のツール・ド・熊野に繋げていく事が出来ればと考えています。」と、9日間8ステージを総括した。



伊丹健治が現役引退を発表

 第6ステージ スタート準備に向かう伊丹健治(キナンサイクリングチーム) 第6ステージ スタート準備に向かう伊丹健治(キナンサイクリングチーム) photo:Satoru.Katoこのツール・ド・シンカラ期間中に、伊丹健治が今季限りでの現役引退を発表した。

「アンダー23の時にプロになりたくてフランスで3年間走りました。けれどプロにはなれず帰国する事になり、このまま選手を続けるにしても辞めるにしても中途半端はいけないと思って10年という期限を決めて活動してきました。昨年は、それまでお世話になったブリヂストンアンカーから新興チームのキナンチームに移籍しましたが、いちから立ち上げるチームは初めてだったので、充実した2年間でした。」と、これまでの選手生活を振り返った。

引退後は、キナンチームのスポンサーでもある株式会社キナンの社員になる事が決まっているそうだが、「営業所で実務の仕事をする事になっています。チームの方は、請われれば何か手伝いをするかもしれません。」と語っている。



ツール・ド・シンカラ2016 結果
第8ステージ結果

1位 シャフル・マトアミン(トレンガヌサイクリングチーム) 3時間16分57秒
2位 チェン・シェンリャン(アクションサイクリングチーム) +0秒
3位 ジャマリディン・ヌアドラント (シンガ・インフィニテサイクリングチーム)
4位 ジョン・チェンギョ(コレイル・サイクリングチーム)
5位 トーマス・フバード(データ#3シスコレーシングチームP/Bスコディ)
6位 ムイマン・アーフィン(KFCサイクリングチーム)
9位 野中竜馬
19位 リカルド・ガルシア
48位 マルコス・ガルシア
63位 伊丹健治 +2分28秒
67位 ジャイ・クロフォード +3分23秒
71位 阿曽圭佑 +4分31秒

個人総合順位
1位 アミール・コラドウズ(ピシュガマンサイクリングチーム) 26時間8分42秒
2位 ダディ・スリャディ(トレンガヌサイクリングチーム) +1分22秒
3位 リカルド・ガルシア(キナンサイクリングチーム) +2分55秒
4位 レザ・ホセイン(ピシュガマンサイクリングチーム) +4分24秒
5位 ラヒーム・エマミ(ピシュガマンサイクリングチーム) +4分28秒
6位 モハンマド・ラジャブルー(ピシュガマンサイクリングチーム) +7分20秒
7位 マルコス・ガルシア +9分4秒
29位 ジャイ・クロフォード +29分52秒
48位 阿曽圭佑 +55分25秒
63位 伊丹健治 +1時間8分24秒
68位 野中竜馬 +1時間13分17秒

山岳賞
1位 アミール・コラドウズ(ピシュガマンサイクリングチーム) 78p
2位 ダディ・スリャディ(トレンガヌサイクリングチーム) 60p
3位 レザ・ホセイン(ピシュガマンサイクリングチーム) 51p

ポイント賞
1位 アミール・コラドウズ(ピシュガマンサイクリングチーム) 39p
2位 サクソン・アーバイン(データ#3スコレーシングチームP/Bスコディ) 36p
3位 リカルド・ガルシア

チーム総合順位
1位 ピシュガマンサイクリングチーム 78時間35分9秒
2位 キナンサイクリングチーム +28分19秒
3位 セブンイレブン・サーバ・RBP +35分27秒

text&photo:Satoru.Kato

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