スイスの超級山岳フィノー・エモッソンで繰り広げられた登坂バトル。2ヶ月前に鎖骨を骨折したイルヌール・ザッカリン(ロシア、カチューシャ)が逃げ切り、その8分後方ではマイヨジョーヌをかけた戦いが活発化した。



超級山岳フィノー・エモッソンのフィニッシュ地点にあるダム超級山岳フィノー・エモッソンのフィニッシュ地点にあるダム photo:TDWsport/Kei Tsuji
ツール・ド・フランス2016第17ステージツール・ド・フランス2016第17ステージ image:A.S.O.ツール・ド・フランス2016第17ステージツール・ド・フランス2016第17ステージ image:A.S.O.


ベルンの旧市街をスタートしていくベルンの旧市街をスタートしていく photo:TDWsport/Kei Tsuji勝負のツール・ド・フランス最終週が始まった。残る5ステージは(最終日パリを除いて)1日たりとも気が抜けない。アルプス初日の第17ステージはスイス国内を走る184.5km。スイスのドイツ語圏ベルンをスタートし、山岳地帯を抜けて同国のフランス語圏に入る。終盤に連発する1級山岳フォルクラ峠(13km/平均7.9%)と超級山岳フィノー・エモッソン(10.4km/平均8.4%)の組み合わせは今大会最難関とも言われ、休息日明けの選手たちの脚を試した。

ニュートラル走行中に発生したワレン・バーギル(フランス、ジャイアント・アルペシン)やゴルカ・イサギーレ(スペイン、モビスター)を含む落車ニュートラル走行中に発生したワレン・バーギル(フランス、ジャイアント・アルペシン)やゴルカ・イサギーレ(スペイン、モビスター)を含む落車 photo:TDWsport/Kei Tsujiともにリオ五輪に照準を合わすマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ)とローハン・デニス(オーストラリア、BMCレーシング)が休息日にツールを離れたため181名でのスタート。ニュートラル走行中に落車したボルト・ボジッチ(スロベニア、コフィディス)がゴルカ・イサギーレ(スペイン、モビスター)がリタイアしたためプロトンは179名に減っている。落車にはワレン・バーギル(フランス、ジャイアント・アルペシン)も巻き込まれたが大怪我は免れている。

アイガー、メンヒ、ユングフラウというオーバーランド三山に向かって走るアイガー、メンヒ、ユングフラウというオーバーランド三山に向かって走る photo:TDWsport/Kei Tsuji51.5km/hという猛烈なスピード(最初の1時間の平均スピードとしては今大会最速)で始まった第17ステージ。「アタック」「吸収」「落車」を延々と繰り返すラジオツール(競技無線)がようやく落ち着きを取り戻したのはレース開始から1時間半が経ってから。距離にして70kmを走ったところで飛び出した4名に7名が追いつく形で、合計11名が先行を開始した。

ペーター・サガン(スロバキア、ティンコフ)を先頭に山岳コースを進むペーター・サガン(スロバキア、ティンコフ)を先頭に山岳コースを進む photo:TDWsport/Kei Tsuji逃げグループを形成したのはマイヨヴェールを着るペーター・サガン(スロバキア、ティンコフ)やマイヨアポワのラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ)、第15ステージで優勝したヤルリンソン・パンタノ(コロンビア、IAMサイクリング)、イルヌール・ザッカリン(ロシア、カチューシャ)ら11名。総合成績に関係する選手が入っていないとして、メイン集団はペースを上げることなくこの動きを静観した。

レース想定通過時間を20〜30分も上回るハイスピードな進行を見せる中、サガンにアシストされたマイカが前半から着実に山岳ポイントを獲得する。長時間追走していたアレクセイ・ルトセンコ(カザフスタン、アスタナ)とグレッグ・ファンアフェルマート(ベルギー、BMCレーシング)、トマ・ヴォクレール(フランス、ディレクトエネルジー)が追いつき、フィニッシュまで63kmを残して先頭は14名に膨れ上がる。

サガンを先頭にマルティニーの街に設置されたスプリントポイントを通過すると、いよいよ1級山岳フォルクラ峠の登坂が始まる。メイン集団から13分ものリードを築き、逃げ切りをほぼ確実なものにした先頭グループからはトニー・ギャロパン(フランス、ロット・ソウダル)が飛び出した。



1級山岳フォルクラ峠に差し掛かるメイン集団1級山岳フォルクラ峠に差し掛かるメイン集団 photo:TDWsport/Kei Tsuji
チームスカイがメイン集団を徹底的にコントロールチームスカイがメイン集団を徹底的にコントロール photo:TDWsport/Kei Tsuji緊急事態が発生してキャンピングカーに駆け込んだペーター・サガン(スロバキア、ティンコフ)緊急事態が発生してキャンピングカーに駆け込んだペーター・サガン(スロバキア、ティンコフ) photo:TDWsport/Kei Tsuji
先頭のマイカとパンタノに合流したイルヌール・ザッカリン(ロシア、カチューシャ)先頭のマイカとパンタノに合流したイルヌール・ザッカリン(ロシア、カチューシャ) photo:TDWsport/Kei Tsuji


超級山岳フィノー・エモッソンで先頭に立ったイルヌール・ザッカリン(ロシア、カチューシャ)超級山岳フィノー・エモッソンで先頭に立ったイルヌール・ザッカリン(ロシア、カチューシャ) photo:TDWsport/Kei Tsuji1級山岳フォルクラ峠で先頭から飛び出したギャロパンにはルトセンコが追いつき、やがてはルトセンコが独走に持ち込む。延々と8%前後の勾配が続く幹線道路を独走したルトセンコだったが、頂上手前で追走グループに吸収。マイヨアポワを着るマイカがしっかりと頂上を先頭通過し、10ポイントを稼いだ。

独走に持ち込んだイルヌール・ザッカリン(ロシア、カチューシャ)独走に持ち込んだイルヌール・ザッカリン(ロシア、カチューシャ) photo:TDWsport/Kei Tsuji1級山岳フォルクラ峠と超級山岳フィノー・エモッソンの間にあるハイスピードダウンヒルで逃げグループは分裂し、最高速90.3km/hをたたき出したマイカとパンタノの2人が抜け出す。第15ステージと同様にマイカとパンタノが先行する展開となったものの、超級山岳の登りが始まると、フィニッシュまで8kmを残してザッカリンが合流した。

20秒程度のタイム差でザッカリンを追うヤルリンソン・パンタノ(コロンビア、IAMサイクリング)20秒程度のタイム差でザッカリンを追うヤルリンソン・パンタノ(コロンビア、IAMサイクリング) photo:TDWsport/Kei Tsuji第15ステージでマイカとパンタノとともに逃げながらコンタクトレンズが外れた影響でチャンスを失っていたザッカリン。悔しい思いを胸に挑んだザッカリンは数度のアタックの末にマイカとパンタノをふるい落とす事に成功する。

歯を食いしばりながら急勾配区間を乗り切り、そのまま頂上まで逃げ切った26歳のザッカリン。主催者の想定スピードよりも2km/h速い40.0km/hで難関山岳コースを走り抜けたザッカリンが、2009年のセルゲイ・イワノフ以来となる7年ぶりの勝利をロシアとカチューシャにもたらした。

「全力で走って最高の結果を得ることができた。サポートしてくれたチームメイトたちのおかげ。これまでもアタックを繰り返してきたので、この勝利には驚いていない」と、ステージ初優勝のザッカリンは冷静に記者会見で言葉を並べる。ザッカリンは2015年ジロ・デ・イタリアでステージ優勝を飾り、今年のジロでは総合上位に絡む走りを披露。しかし第19ステージのアニェッロ峠の下りで落車し、鎖骨を骨折していた。

ステージ2位に入ったパンタノが敢闘賞を獲得し、ステージ3位のマイカが山岳賞のリードを広げる結果に。最終的にステージ9位までを逃げのメンバーが占めている。



超級山岳フィノー・エモッソンを制したイルヌール・ザッカリン(ロシア、カチューシャ)超級山岳フィノー・エモッソンを制したイルヌール・ザッカリン(ロシア、カチューシャ) photo:TDWsport/Kei Tsuji


メイン集団から最初に仕掛けたダニエル・マーティン(アイルランド、エティックス・クイックステップ)メイン集団から最初に仕掛けたダニエル・マーティン(アイルランド、エティックス・クイックステップ) photo:TDWsport/Kei Tsuji先頭から13分遅れで1級山岳フォルクラ峠の登坂を開始したメイン集団ではチームスカイが鉄壁の走りを見せる。淡々とハイペースを刻むメイン集団からはピエール・ロラン(フランス、キャノンデール・ドラパック)やティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、BMCレーシング)が脱落。約40名に絞られた状態で頂上をクリアし、最後の超級山岳フィノー・エモッソンを目指す。

アタックしたリッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシング)がマイヨジョーヌの姿を確認するアタックしたリッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシング)がマイヨジョーヌの姿を確認する photo:TDWsport/Kei Tsujiランダ、ポエルス、エナオモントーヤというアシストを揃えたチームスカイに勝負を挑んだのはアスタナ。ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)がアシストとしてファビオ・アル(イタリア、アスタナ)のために強力なペースを作るとメイン集団の人数はさらに絞られていく。

ポートの背中を追うクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)ポートの背中を追うクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ) photo:TDWsport/Kei Tsuji残り7.5kmでニーバリの牽引が終わると再びメイン集団はチームスカイの支配下に。続いてアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)とダニエル・マーティン(アイルランド、エティックス・クイックステップ)がアタックしたものの、マイヨジョーヌを引き連れるワウト・ポエルス(オランダ、チームスカイ)がすべての動きを封じ込める。

先頭でフィニッシュに向かうリッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシング)とクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)先頭でフィニッシュに向かうリッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシング)とクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ) photo:TDWsport/Kei Tsuji唯一フルームのアシスト体制を崩したのはリッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシング)だった。「総合表彰台を狙うためには動く以外に方法がなかった」というポートが残り2km地点で強力なアタックを仕掛けると、ついにポエルスが失速する。そこまで徹底的にアシストに守られて走ったフルームが自ら動き、ポートの背中に追いついた。

ナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター)はフルームの加速に反応したものの、あまりのペースに対応できずに後退する。1年前の再現のようなポート&フルームのタッグが、総合2位バウク・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード)を含むライバルを突き放す。トップから7分59秒遅れでフィニッシュしたポートとフルームが総合ライバルたちからリードを奪う結果となった。

フルームを基準に見ると、この日アダム・イェーツ(イギリス、オリカ・バイクエクスチェンジ)は8秒、ロメン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアール)は11秒、ファビオ・アル(イタリア、アスタナ)は19秒、キンタナは28秒、そしてモレマは40秒ものタイムを失っている。

「今日はリッチーのペースが強力で、前に出ることができなかった。そもそも自ら前に出て弾く必要もなかった」というコメントを残すフルーム。山岳個人タイムトライアルを前にフルームは総合2位モレマから2分27秒、総合3位イェーツから2分53秒のリードを得ている。フルームと互角の登坂力を見せたポートは総合6位に順位を上げた。



超級山岳フィノー・エモッソンにフィニッシュするリッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシング)とクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)超級山岳フィノー・エモッソンにフィニッシュするリッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシング)とクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ) photo:TDWsport/Kei Tsujiフルームとポートから8秒遅れでフィニッシュするアダム・イェーツ(イギリス、オリカ・バイクエクスチェンジ)フルームとポートから8秒遅れでフィニッシュするアダム・イェーツ(イギリス、オリカ・バイクエクスチェンジ) photo:TDWsport/Kei Tsuji
フルームから28秒失ったナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター)フルームから28秒失ったナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター) photo:TDWsport/Kei Tsuji26分15秒遅れでフィニッシュした新城幸也(ランプレ・メリダ)26分15秒遅れでフィニッシュした新城幸也(ランプレ・メリダ) photo:TDWsport/Kei Tsuji


ツール・ド・フランス2016第17ステージ結果
1位 イルヌール・ザッカリン(ロシア、カチューシャ)              4h36’33”
2位 ヤルリンソン・パンタノ(コロンビア、IAMサイクリング)            +55”
3位 ラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ)                 +1’26”
4位 クリスチャン・デュラセック(クロアチア、ランプレ・メリダ)         +1’32”
5位 ブリース・フェイユ(フランス、フォルトゥネオ・ヴァイタルコンセプト)    +2’33”
6位 トマ・ヴォクレール(フランス、ディレクトエネルジー)            +2’46”
7位 ドメニコ・ポッツォヴィーヴォ(イタリア、AG2Rラモンディアール)       +2’50”
8位 スタフ・クレメント(オランダ、IAMサイクリング)              +2’57”
9位 スティーブ・モラビート(スイス、FDJ)                   +4’38”
10位 リッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシング)             +7’59”
11位 クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)
12位 アダム・イェーツ(イギリス、オリカ・バイクエクスチェンジ)         +8’07”
13位 ロメン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアール)             +8’10”
14位 ファビオ・アル(イタリア、アスタナ)                    +8’18”
15位 ルイス・マインティーズ(南アフリカ、ランプレ・メリダ)
16位 ナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター)                 +8’27”
18位 バウク・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード)             +8’39”
19位 ダニエル・マーティン(アイルランド、エティックス・クイックステップ)    +8’46”
22位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)               +9’11”
23位 ロマン・クロイツィゲル(チェコ、ティンコフ)                +9’38”
25位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)             +10’01”
64位 ティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、BMCレーシング)        +26’15”
67位 新城幸也(日本、ランプレ・メリダ)

マイヨジョーヌ(個人総合成績)
1位 クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)               77h25’10”
2位 バウク・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード)             +2’27”
3位 アダム・イェーツ(イギリス、オリカ・バイクエクスチェンジ)         +2’53”
4位 ナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター)                 +3’27”
5位 ロメン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアール)             +4’15”
6位 リッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシング)             +4’27”
7位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)              +5’19”
8位 ファビオ・アル(イタリア、アスタナ)                    +5’35”
9位 ダニエル・マーティン(アイルランド、エティックス・クイックステップ)    +5’50”
10位 ルイス・マインティーズ(南アフリカ、ランプレ・メリダ)           +6’07”

マイヨヴェール(ポイント賞)
1位 ペーター・サガン(スロバキア、ティンコフ)                 435pts
2位 マルセル・キッテル(ドイツ、エティックス・クイックステップ)        228pts
3位 ブライアン・コカール(フランス、ディレクトエネルジー)           156pts

マイヨアポワ(山岳賞)
1位 ラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ)                 173pts
2位 トーマス・デヘント(ベルギー、ロット・ソウダル)              90pts
3位 イルヌール・ザッカリン(ロシア、カチューシャ)               78pts

マイヨブラン(ヤングライダー賞)
1位 アダム・イェーツ(イギリス、オリカ・バイクエクスチェンジ)      77h28’03”
2位 ルイス・マインティーズ(南アフリカ、ランプレ・メリダ)          +3’14”
3位 ワレン・バーギル(フランス、ジャイアント・アルペシン)          +30’12”

チーム総合成績
1位 モビスター                              232h22’54”
2位 チームスカイ                               +2’20”
3位 BMCレーシング                              +14’48”

ステージ敢闘賞
ヤルリンソン・パンタノ(コロンビア、IAMサイクリング)

リタイア
マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ)
ローハン・デニス(オーストラリア、BMCレーシング)
ボルト・ボジッチ(スロベニア、コフィディス)
ゴルカ・イサギーレ(スペイン、モビスター)

text&photo:Kei Tsuji in Finhaut-Emosson, Switzerland

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