終着地ニースに向けてステージ優勝と総合優勝を狙う選手たちがアタックを連発。総合2位アルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ)に先行を許しながらも、タイム差を詰めたゲラント・トーマス(イギリス、チームスカイ)が総合優勝に輝いた。



ニースのプロムナード・デ・ザングレ(イギリス人の遊歩道)をスタートニースのプロムナード・デ・ザングレ(イギリス人の遊歩道)をスタート photo:Tim de Waele


パリ〜ニース2016第7ステージパリ〜ニース2016第7ステージ image:A.S.O.第74回パリ~ニースを締めくくるのは、地中海に面したコートダジュールの玄関口ニースを発着する134kmの山岳コース。標高600m前後の峠をいくつも繋ぎ、残り15km地点で1級山岳エズ峠(登坂距離7.7km/平均勾配5.7%)を越える。スタート地点ならびにフィニッシュ地点は観光客で賑わうプロムナード・デ・ザングレ(イギリス人の遊歩道)だ。

逃げグループを率いるトーマス・デヘント(ベルギー、ロット・ソウダル)やアントワーヌ・デュシェーヌ(カナダ、ディレクトエネルジー)逃げグループを率いるトーマス・デヘント(ベルギー、ロット・ソウダル)やアントワーヌ・デュシェーヌ(カナダ、ディレクトエネルジー) photo:Tim de Waeleスプリンターには活躍の場がないため、ミラノ〜サンレモを見据えるアレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、カチューシャ)らはスタートせず。先頭で形成された19名の逃げグループの中に、山岳賞ジャージを着るアントワーヌ・デュシェーヌ(カナダ、ディレクトエネルジー)やダリル・インピー(南アフリカ、オリカ・グリーンエッジ)、ロベルト・キセロフスキー(クロアチア、ティンコフ)、ティム・ウェレンス(ベルギー、ロット・ソウダル)らが入った。

メンバーを揃えてメイン集団をコントロールするチームスカイメンバーを揃えてメイン集団をコントロールするチームスカイ photo:Tim de Waele連続するカテゴリー山岳でポイントを稼いだデュシェーヌはレース中盤の時点で山岳賞獲得を確定させる。メイン集団からはユーリ・トロフィモフ(ロシア、ティンコフ)やセプ・ファンマルク(ベルギー、ロットNLユンボ)らが飛び出して先頭に合流。メイン集団の先頭ではチームスカイがコントロールを続けた。

レース展開が慌ただしくなったのは、フィニッシュまで60kmを切ってから登場した1級山岳ペイユ峠の登りだ。メイン集団から勢いよく総合2位アルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ)が飛び出し、先行させていたチームメイトのキセロフスキーとトロフィモフに合流。2007年と2010年大会の総合優勝者コンタドールは、メイン集団から1分近いリードを稼ぎ出すことに成功する。

一方のメイン集団ではチームスカイのニコラス・ロッシュ(アイルランド)やイアン・ボズウェル(アメリカ)、そしてジャパンカップクリテリウム2位のベン・スウィフト(イギリス)が懸命にペースを作ってコンタドールを追撃。逆転を阻止したいチームスカイの牽引によって、最後の1級山岳エズ峠を前に、フィニッシュまで23kmを残してコンタドールは捕らえられた。



コートダジュールの峠道を進むメイン集団コートダジュールの峠道を進むメイン集団 photo:Tim de Waele


マイヨジョーヌを着て最終ステージを走るゲラント・トーマス(イギリス、チームスカイ)マイヨジョーヌを着て最終ステージを走るゲラント・トーマス(イギリス、チームスカイ) photo:Tim de Waele生き残っていた逃げグループの中から1級山岳エズ峠で抜け出したウェレンスが独走を開始。1分後方のメイン集団ではラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ)のペースアップが始まり、総合5位トム・ドゥムラン(オランダ、ジャイアント・アルペシン)は脱落する。

逃げていた選手たちを抜き去るアルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ)逃げていた選手たちを抜き去るアルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ) photo:Tim de Waeleそこから最後の総合逆転のチャンスを狙ってコンタドールはアタックを繰り返した。断続的なコンタドールのアタックをセルジオルイス・エナオモントーヤ(コロンビア、チームスカイ)が封じ込め続けたが、マイヨジョーヌを着るトーマスが徐々にポジションを落とす。

1級山岳エズ峠で先行するリッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシング)とアルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ)1級山岳エズ峠で先行するリッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシング)とアルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ) photo:Tim de Waeleやがて歯を食いしばって飛び出したコンタドールに総合4位リッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシング)が合流。トーマスはエナオモントーヤのアシストを受けながらも失速し、総合優勝に黄信号が灯る。ハイペースを刻んだコンタドールとポートはやがて先頭ウェレンスに追いつき、トーマスから33秒リードした状態で1級山岳エズ峠をクリアした。

コンタドールとポートを下したティム・ウェレンス(ベルギー、ロット・ソウダル)が勝利コンタドールとポートを下したティム・ウェレンス(ベルギー、ロット・ソウダル)が勝利 photo:Tim de Waele第7ステージのスタートの時点で総合首位トーマスと総合2位コンタドールのタイム差は15秒。フィニッシュ地点ではボーナスタイム(10秒、6秒、4秒)が加算されるため、仮にコンタドールがトーマスを11秒以上(ステージ3位の場合)引き放せば総合逆転が起こる。

ステージ優勝を飾ったティム・ウェレンス(ベルギー、ロット・ソウダル)ステージ優勝を飾ったティム・ウェレンス(ベルギー、ロット・ソウダル) photo:Tim de Waeleニースに至るハイスピードダウンヒルを攻めた先頭コンタドール、ポート、ウェレンスの3名。しかし下りと平坦路では「北のクラシック」でも活躍するトーマスに分があった。自ら集団を率いる走りでトーマスはタイムを挽回し、残り5kmでタイム差を15秒まで詰める。追いつくには至らなかったが、先頭3名を視界にとらえた状態でフラムルージュを通過した。

最後は先頭3名によるスプリント勝負に持ち込まれ、「正しい逃げグループに入り、後方からコンタドールとポートが合流する展開は好都合だった。彼らは後ろを振り返ることなく総合タイムを挽回することに専念。彼らについていければステージ優勝が可能だと思っていた」と語るウェレンスが勝利。コンタドールはステージ2位でボーナスタイム6秒を獲得したものの、トーマスを含む集団が5秒遅れでフィニッシュしたため総合優勝には届かなかった。

コンタドールらの攻撃を封じ込め、パリ〜ニース総合優勝を飾ったトーマスは「アルベルト(コンタドール)のアタックには落ち着いて対応出来ていたけど、エズ峠では脚がついてこず、正直言って総合表彰台も逃してしまうと思った。でもそこからの下り区間で挽回。今日も素晴らしいアシストぶりを見せてくれたセルジオ(エナオモントーヤ)に感謝だ。このマイヨジョーヌは彼のものでもある。史上最高のステージレーサーの一人であるアルベルトや、昨シーズン出場したステージレースで総合優勝を連発したリッチー(ポート)の前で総合優勝するなんて信じられない気持ち。本当に素晴らしく、キャリアの中で最高の勝利だと言える」と喜びのコメントを残している。

積極的かつ戦略的な走りでレースを沸かしたコンタドールは「総合2位を望んではいなかった。タイム差を挽回するための方法を全て試し、総合優勝まであと僅かのところまで行った。まだチャンスは残されていると思っていたし、チームとしてモチベーション高く挑んだ。結果的に逆転は出来なかったけど、エキサイティングなショーを見せることが出来たと思う。ゲラント・トーマスはそのチーム力を生かして賢く走った。調子の良さを確認出来たし、次のボルタ・ア・カタルーニャに向けてやる気を得たよ」とコメント。総合首位トーマスとの最終的なタイム差は4秒だった。

ディフェンディングチャンピオンのポートはイルヌール・ザッカリン(ロシア、カチューシャ)を抜いて総合3位でフィニッシュ。「ティム・ウェレンスがステージ優勝を狙っていることは分かっていたけど、アルベルト(コンタドール)と自分にとってはそれよりも総合タイムが重要だった。最後のエズ峠の下りは考える時間もないほどハイスピードだったよ。勝利に値する走りをしたゲラント(トーマス)を賞賛したい」と、元チームメイトの走りを讃えた。

選手コメントはレース公式サイトより。



最終総合表彰台 2位コンタドール、1位トーマス、3位ポート最終総合表彰台 2位コンタドール、1位トーマス、3位ポート photo:Tim de Waele



パリ~ニース2016第7ステージ結果
1位 ティム・ウェレンス(ベルギー、ロット・ソウダル)                3h16’09”
2位 アルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ)
3位 リッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシング)
4位 トニー・ギャロパン(フランス、ロット・ソウダル)                  +05”
5位 サイモン・イェーツ(イギリス、オリカ・グリーンエッジ)
6位 アルノー・ジャネソン(フランス、コフィディス)
7位 ルイ・コスタ(ポルトガル、ランプレ・メリダ)
8位 ヘスス・エラーダ(スペイン、モビスター)
9位 ロメン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアール)
10位 ヨン・イサギーレ(スペイン、モビスター)

11位 ゲラント・トーマス(イギリス、チームスカイ)
12位 イルヌール・ザッカリン(ロシア、カチューシャ)
97位 別府史之(日本、トレック・セガフレード)                    +16’41”

個人総合成績
1位 ゲラント・トーマス(イギリス、チームスカイ)                 27h26’40”
2位 アルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ)                  +04”
3位 リッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシング)                 +12”
4位 イルヌール・ザッカリン(ロシア、カチューシャ)                   +20”
5位 ヨン・イサギーレ(スペイン、モビスター)                      +37”
6位 セルジオルイス・エナオモントーヤ(コロンビア、チームスカイ)            +44”
7位 サイモン・イェーツ(イギリス、オリカ・グリーンエッジ)
8位 トニー・ギャロパン(フランス、ロット・ソウダル)                  +51”
9位 ロメン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアール)                +1’00”
10位 ルイ・コスタ(ポルトガル、ランプレ・メリダ)                  +1’07”

ポイント賞
1位 マイケル・マシューズ(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)

山岳賞
1位 アントワーヌ・デュシェーヌ(カナダ、ディレクトエネルジー)

チーム総合成績
1位 モビスター

text:Kei Tsuji
photo:Tim de Waele