再びマイヨジョーヌを襲った悲劇。重傷を負いリタイアを余儀なくされたマルティンは「本当に悲しい。このツールはまるで映画のような感情のジェットコースターだ。終わったことも分かっているが、明日も走りたい」と悔しさを語っています。



マイヨジョーヌを着たままレースを去るトニ・マルティン(ドイツ、エティックス・クイックステップ)

チームメイトたちにエスコートされてフィニッシュに向かうトニ・マルティン(エティックス・クイックステップ)チームメイトたちにエスコートされてフィニッシュに向かうトニ・マルティン(エティックス・クイックステップ) photo:Makoto.AYANO
左腕をおさえるトニ・マルティン(ドイツ、エティックス・クイックステップ)左腕をおさえるトニ・マルティン(ドイツ、エティックス・クイックステップ) photo:Kei Tsujiその時何が起きたのかよく覚えていない。チームは僕を最高のポジションに位置取ってくれた。残り1km地点では誰も力を残しておらず、集団のペースが一気にスローダウンし、"待ち"の体制になっていた。そして突然前の選手のホイールにぶつかってしまったんだ。その時はまだ耐えていたけれど、ジャイアント・アルペシンの選手(バーギル)とぶつかってバランスを崩してしまった。

左腕をかばいながら表彰台に登場したトニ・マルティン(ドイツ、エティックス・クイックステップ)左腕をかばいながら表彰台に登場したトニ・マルティン(ドイツ、エティックス・クイックステップ) photo:Kei Tsujiその時は低速だったものの左肩で全ての体重を受け止めてしまった。すぐにどこかが折れたと分かったんだ。すぐにX線検査を受けにいったが、"僕の(骨折したという)考えはきっと間違いだ。明日も走れる"という願いも叶わず、結果は左鎖骨の骨折。このツールはまるで映画のような感情のジェットコースターだ。今はとても悲しい。チームは全力でマイヨジョーヌを守るべく動いてくれたし、もう数日キープできるようチャレンジしていた。ここまではとても成功に満ちた2日間だったのに。今日、スティバにとっては最高の瞬間だったから、悲しさと喜びが混ざった変な気分だ。

落車したトニ・マルティン(ドイツ、エティックス・クイックステップ)が医療班と話す落車したトニ・マルティン(ドイツ、エティックス・クイックステップ)が医療班と話す photo:CorVosスティバには僕のことを悲しく思わないで、彼の一日を思う存分楽しんで欲しいと伝えた。チームの士気は高いままだと信じているし、これがツール・ド・フランスなんだ。僕は折れていても明日走りたいし、明日のスタートセレモニーで最後にもう一度マイヨジョーヌを掲げたい。ここ数日マイヨジョーヌを思う存分楽しんだが、今すぐにでも病院に行き手術を受けなきゃならないことも、そして自分のレースが終わったことも分かっている。受け入れ難いよ。僕は戦い続けたい。でもドクターはもう無理だと僕に伝えたし、それを認めなければならない。

エティックス・クイックステップのチームドクター

残念な事に左鎖骨折だった。鎖骨がバラバラになってしまっていたので、相当に大きな衝撃が加わったんだろう。バラバラになった破片が飛び出してしまっていたので、粉砕解放骨折という診断になる。トニは明日も走りたいと訴えているが、さすがに許可するわけにはいかない。選手はいつだってそう思うがトニにとっては特別だろう。トニは昨年骨を折ったまま走りきれることを証明してみせたものの、医療的に不可能なんだ。即手術が必要だ。重大な怪我なんだ。

ステージ優勝を飾ったゼネク・スティバル(チェコ、エティックス・クイックステップ)

ツールのステージ初優勝を飾ったゼネク・スティバル(チェコ、エティックス・クイックステップ)ツールのステージ初優勝を飾ったゼネク・スティバル(チェコ、エティックス・クイックステップ) photo:Tim de Waele
ゴール前の登り区間でスパートする ゼネク・スティバル(チェコ、エティックス・クイックステップ)ゴール前の登り区間でスパートする ゼネク・スティバル(チェコ、エティックス・クイックステップ) photo:Makoto.AYANOステージを勝つことができたけど、トニ・マルティンがクラッシュしたことを考えると手放しでは喜べないね。表彰式で彼と会った時、僕のことを祝福してくれて、この喜びを味わう様にと言ってくれたんだけど、僕を心配させまいとどれだけの傷を負ったのかについては何も語らなかった。

ツールのステージ優勝は、シクロクロス世界戦での優勝と同じくらい素晴らしく感じているんだ。シクロクロスからロードに転向して、かなり苦労してきたなかで、ストラーデ・ビアンケとエネコツアーでの総合優勝をはじめ、いくつかのリザルトを獲得してきた。落車が多く、ツいていなかった去年に比べると凄くハッピーだよ。僕に訪れることがそうそう無いチャンスでトライし、そして勝つことができたのだから。

落車に巻き込まれた選手たち
落車に巻き込まれたクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)ら落車に巻き込まれたクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)ら photo:Tim de Waeleクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)
膝の骨を打ち付けて、少し出血してしまったけど、それ以上の影響は無いよ。でも、後輪が曲がってしまったから、ホイール交換のために止まることになった。今日のステージは今までの中で最もイージーなステージだったね。天気も良かったし、あり得ないような横風が吹くこともなかった。レース全体のペースも落ち着いていしね。

落車から復帰し、遅れてフィニッシュに向かうヴィンチェンツォ・ニーバリ(アスタナ)落車から復帰し、遅れてフィニッシュに向かうヴィンチェンツォ・ニーバリ(アスタナ) photo:Makoto.AYANO僕もトラブルを避けるべく、チームメートたちの良い仕事に守られて集団前方をキープすることが出来た。これだけレースがうまく運んでいることはホントにうれしいね。この調子でパリまで行きたいね。

ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)
どのチームも前に前にと出てくるから、うまくポジションをキープするのはとても難しい。ラスト400mでクラッシュに巻き込まれてしまった。どうやってあの落車が起こったのか、混乱していてよく分かってないんだ。

落車から復帰してゴールを切るナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター)落車から復帰してゴールを切るナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター) photo:CorVos怪我に関して言えば、僕は全然問題ない。少し脚と肩が傷が付いてしまったくらい。まあ、普通の落車で受ける傷だね。でも、本当に何が起こったかわからない。フルームが左から右に抜けていったことしか知らないんだ。多分(ワレン)バーギルが僕にぶつかったんだと思うんだけど、でも確かな記憶じゃないんだ。

マルティンと接触したワレン・バーギル(フランス、ジャイアント・アルペシン)
クラッシュの前、僕はジョンをサポートしようと思ってスティバルの番手に付けていた。落車したこともジョンのサポートができなかったことも最悪だ。幸い僕に問題は無いし、これから動いていきたいと思う。

落車に巻き込まれたナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター)
トニの3番手後ろくらいに位置していて、彼の落車が僕のところまで影響してしまった。薄く擦り傷を負ってしまった程度で痛みはほとんど無いけれど、とにかく今は明朝に肘が痛んでいないことを祈るばかりだよ。ファンの皆は気を落ち着けて欲しい。

ティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、BMCレーシング)
今日のようなフィニッシュ前であろうとも、ツールはいつだって危険だ。登りフィニッシュはタイム差がつくから総合勢はもちろん、スプリンターだって前方を固めていた。様々な思惑が入り混じるステージは本当に危ない。今日はずっと海岸線を走っていたので、横風で昨日の繰り返しか、もっと最悪な展開になる懸念もあった。でも幸運にも風は弱く、青空もあって美しい一日だったと思う。

山岳賞を獲得したダニエル・テクレハイマノ(エリトリア、MTNキュベカ)

マイヨアポワに袖を通したダニエル・テクレハイマノ(エリトリア、MTNキュベカ)マイヨアポワに袖を通したダニエル・テクレハイマノ(エリトリア、MTNキュベカ) photo:Makoto.AYANO
マイヨアポワを獲得できて本当に嬉しい。アフリカの自転車競技にとって大きな一歩だと思うし、とても誇りに思っている。表彰台でチームカラーを示せたことにも興奮しているし、キュベカの5000台の自転車を寄付するというプログラムにとって大きく貢献できると思う。いつか山岳賞ジャージが欲しいとずっと思っていた。アフリカに、そしてエリトリアを誇りに思う。今日という日を絶対に忘れない。

今大会3度目の逃げを敢行したペリグ・ケムヌール(フランス、ユーロップカー)

敢闘賞はペリグ・ケムヌール(フランス、ユーロップカー)の手に敢闘賞はペリグ・ケムヌール(フランス、ユーロップカー)の手に photo:Kei Tsuji僕が集団前方にいた時、少ないながらも逃げを成功させるチャンスを感じた。僕の仕事はアタックすること。それは自分自身の喜びでもあるし、チームとしてもメリットになる。チームへのスポンサードが今年で終わってしまうから、僕らが結果を残せるということを見せないといけない。

5日間で3度の逃げに参加できたのはいい兆候だ。また、明日からも逃げにトライしていくよ。できれば最後まで逃げ続けたいね。ピレネーではトマ・ヴォクレールとピエール・ロランのために働くつもりだ。

各選手のコメントはチーム公式サイト、レース公式サイトより。

text:So.Isobe,Naoki.Yasuoka
photo:Makoto.Ayano,Kei.Tsuji,CorVos,Tim de Waele