「北のクラシック」を前にファビアン・カンチェラーラ(スイス、トレックファクトリーレーシング)がまさかの骨折リタイア。荒れた第58回E3ハーレルベーケ(UCIワールドツアー)を制したのは、残り4kmで逃げメンバーを振り切ったゲラント・トーマス(イギリス、チームスカイ)だった。



晴れのフランドル地方を走る晴れのフランドル地方を走る photo:Tim de Waele


レース序盤に発生した大落車レース序盤に発生した大落車 photo:Tim de Waeleロンド・ファン・フラーンデレンの9日前、ヘント〜ウェベルヘムの2日前というタイミングで開催されるE3ハレルベーク。ベルギー国内における今シーズン最初のUCIワールドツアーレースであり、クラシック本戦の前哨戦としての意味合いが強い。当然、歴代の優勝者リストには一流クラシックレーサーの名前が並ぶ。

落車したファビアン・カンチェラーラ(スイス、トレックファクトリーレーシング)の顔が歪む落車したファビアン・カンチェラーラ(スイス、トレックファクトリーレーシング)の顔が歪む photo:Tim de WaeleかつてはE3プライスフラーンデレンと呼ばれていたが、2011年に現在の名称に変更。そして2012年からUCIワールドツアーレースとして開催されている。なお、E3は60年代に建設されたアントワープとフランスを結ぶ主要高速道路の名称(現在のA14)だ。

苦痛の表情を浮かべながらチームカーに乗り込むファビアン・カンチェラーラ(スイス、トレックファクトリーレーシング)苦痛の表情を浮かべながらチームカーに乗り込むファビアン・カンチェラーラ(スイス、トレックファクトリーレーシング) photo:Tim de Waeleその名の通りウェストフランデレン州に位置するハレルベークを発着する218kmには、合計17カ所の急坂が取り入れられている。その中には石畳に覆われた「パテルベルグ(700m/最大20%)」や「オウデクワレモント(2200m/最大11%)」といった定番の登りも。

レース前半から先行したのはドリス・デヴェナインス(ベルギー、IAMサイクリング)やセバスティアン・テュルゴー(フランス、AG2Rラモンディアール)を含む6名。逃げを見送ったメイン集団の平穏な時間を切り裂いたのは、突如40km地点で発生した大落車だった。

多数の選手が積み重なるように落車し、その中にはファビアン・カンチェラーラ(スイス、トレックファクトリーレーシング)やセバスティアン・ラングフェルド(オランダ、キャノンデール・ガーミン)、ラース・ボーム(オランダ、アスタナ)、ジョン・デゲンコルブ(ドイツ、ジャイアント・アルペシン)の姿もあった。

ボームとデゲンコルブはレースに復帰したが、ラングフェルドは救急車で搬送され、カンチェラーラはしばらく走った後チームカーに乗り込んだ。病院でカンチェラーラは腰椎横突起骨折が判明。事実上カンチェラーラのクラシックシーズンが終わった。



先行するゼネク・スティバル(チェコ、エティックス・クイックステップ)ら3名先行するゼネク・スティバル(チェコ、エティックス・クイックステップ)ら3名 photo:Tim de Waele


追走するアレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、カチューシャ)ら追走するアレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、カチューシャ)ら photo:Tim de Waeleビッグネームの脱落に関係なくレースは進む。連続する急坂でBMCレーシングやエティックス・クイックステップが攻撃を仕掛けたが決定的なギャップは生まれない。逃げとのタイム差を縮めながら、プロトンはレース後半の山場「パテルベルグ」と「オウデクワレモント」に差し掛かった。

残り4kmでアタックするゲラント・トーマス(イギリス、チームスカイ)残り4kmでアタックするゲラント・トーマス(イギリス、チームスカイ) photo:Tim de Waele「パテルベルグ」でセプ・ファンマルク(ベルギー、ロットNLユンボ)が勢い余って石畳でスリップするほどのスピードでアタックし、連覇が懸かったペーター・サガン(スロバキア、ティンコフ・サクソ)やデゲンコルブらが反応して一時的に10名弱が抜け出したが、しばらくして約30名の追走集団がジョインする。

残り4kmでアタックするゲラント・トーマス(イギリス、チームスカイ)残り4kmでアタックするゲラント・トーマス(イギリス、チームスカイ) photo:Tim de Waeleそして迎えた「オウデクワレモント」でレースが大きく動く。2年連続でゲラント・トーマス(イギリス、チームスカイ)がアタックを仕掛け、ここにゼネク・スティバル(チェコ、エティックス・クイックステップ)とペーター・サガン(スロバキア、ティンコフ・サクソ)が反応。それまで逃げ続けていたデヴェナインスを抜いて一気に先頭に出る。

独走でフィニッシュしたゲラント・トーマス(イギリス、チームスカイ)独走でフィニッシュしたゲラント・トーマス(イギリス、チームスカイ) photo:Tim de Waeleトーマス、スティバル、サガンの三強が、デゲンコルブやアレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、カチューシャ)を含む追走集団を引き離す。BMCレーシングやカチューシャの集団牽引によってタイム差が15秒前後まで縮まるシーンも見られたが、最後の急坂「ティーゲムベルグ」でグレッグ・ファンアフェルマート(ベルギー、BMCレーシング)が落車した影響でタイム差は再び45秒に。

逃げ切りを手中に収めた3名の協調体制が崩れたのは残り5kmを切ってから。サガンとのスプリントに持ち込みたくないトーマスがアタックを仕掛けると、サガンが反応出来ずに距離が開く。慌ててスティバルが追走したが、団体追い抜きで世界選手権で3つ&夏季オリンピックで2つの金メダルを獲得しているトーマスのスピードは冴え渡っていた。

「ずっと3人で協調体制を築けていたものの、相手は力を貯めているんじゃないかと不安だった。でも実際はそうではなかった」。そう語るトーマスがスティバルを25秒振り切って独走勝利。サガンは完全に失速し、38秒遅れの集団スプリントでクリストフを下したマッテオ・トレンティン(イタリア、エティックス・クイックステップ)が3位表彰台を射止めている。

トーマスはE3ハレルベークで2013年4位、2014年3位、そして2015年1位。石畳系レースを得意とするクラシックレーサーとして力をつけながら、今シーズンのヴォルタ・アン・アルガルヴェで総合優勝を果たし、パリ〜ニースではリッチー・ポート(オーストラリア)の強力な山岳アシストを務めながら総合5位に入っている。

「パリ〜ニースからパリ〜ルーベまでの6週間がシーズンの大きな目標。パリ〜ニースでは後半に失速したものの、ミラノ〜サンレモで調子を取り戻し、こうして勝てたことは素晴らしい」。イギリス人選手として初めて表彰台の頂点に立った28歳は語る。週末から始まるヘント〜ウェヴェルヘム、ロンド・ファン・フラーンデレン、パリ〜ルーベの3連戦でも注目の存在だ。

選手コメントはチーム公式サイトより。



E3ハレルベーク2015表彰台、2位スティバル、1位トーマス、3位トレンティンE3ハレルベーク2015表彰台、2位スティバル、1位トーマス、3位トレンティン photo:Tim de Waele


E3ハレルベーク2015結果
1位 ゲラント・トーマス(イギリス、チームスカイ)              5h15’00”
2位 ゼネク・スティバル(チェコ、エティックス・クイックステップ)         +25”
3位 マッテオ・トレンティン(イタリア、エティックス・クイックステップ)      +38”
4位 アレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、カチューシャ)
5位 セプ・ファンマルク(ベルギー、ロットNLユンボ)
6位 マッティ・ブレシェル(デンマーク、ティンコフ・サクソ)
7位 ユルゲン・ルーランズ(ベルギー、ロット・ソウダル)
8位 ジャック・バウアー(ニュージーランド、キャノンデール・ガーミン)
9位 イェンス・ケウケレール(ベルギー、オリカ・グリーンエッジ)
10位 ダニエル・オス(イタリア、BMCレーシング)

text:Kei Tsuji
photo:Tim de Waele

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