息をひそめて石畳の急坂をクリアしたダニエル・マーティン(アイルランド、ガーミン・シャープ)が、ライバルたちの後ろから一気にスパート。落車続きの不運なシーズンを送ったマーティンが秋の大一番を制した。



ロンバルディア地方北部の山岳地帯を行くロンバルディア地方北部の山岳地帯を行く photo:Tim de Waele


イル・ロンバルディア2014コース高低図イル・ロンバルディア2014コース高低図 image:RCS Sportヨーロッパ最終戦を迎えたカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシング)を含め、コモのスタートラインに並んだ選手たちを迎えたのは暖かな太陽だった。第108回イル・ロンバルディア(UCIワールドツアー)は2004年から2010年までフィニッシュを迎えていたコモを発った。

秋色のコモ湖沿いを駆けるプロトン秋色のコモ湖沿いを駆けるプロトン photo:Tim de Waele6時間半におよぶ距離260km/獲得標高3800mのレースが始まると、ジェレミー・ロワ(フランス、FDJ.fr)やフランチェスコ・ガヴァッツィ(イタリア、アスタナ)を含む10名の逃げが先行。8分強のリードを得てマドンナ・デル・ギザッロ教会の前を通過し、コモ湖に別れを告げてロンバルディア平原の北端を舐めるように東に向かう。

世界チャンピオンのミカル・クヴィアトコウスキー(ポーランド、オメガファーマ・クイックステップ)世界チャンピオンのミカル・クヴィアトコウスキー(ポーランド、オメガファーマ・クイックステップ) photo:Tim de Waeleレースが動きを見せたのは、フィニッシュまで70kmを切ってから始まる大会最標高地点(標高1060m)パッソ・ガンダの登り。逃げグループがヤン・ポランク(スロベニア、ランプレ・メリダ)、セルジオ・パウリーニョ(ポルトガル、ティンコフ・サクソ)、アンドレア・フェーディ(イタリア、イエローフルオ)に絞られると、4分後方のメイン集団ではフィリップ・ダイグナン(アイルランド、チームスカイ)のアタックを切っ掛けに次々と飛び出す選手が現れた。

先頭で逃げるピーター・ウェーニング(オランダ、オリカ・グリーンエッジ)とベン・ヘルマンス(ベルギー、BMCレーシング)先頭で逃げるピーター・ウェーニング(オランダ、オリカ・グリーンエッジ)とベン・ヘルマンス(ベルギー、BMCレーシング) photo:Tim de Waeleメイン集団から完全に飛び出すことに成功したのはアメツ・チュルカ(スペイン、カハルーラル)で、残り40km地点でピーター・ウェーニング(オランダ、オリカ・グリーンエッジ)やバウク・モレマ(オランダ、ベルキン)、ベン・ヘルマンス(ベルギー、BMCレーシング)、ミカエル・シュレル(フランス、AG2Rラモンディアール)がここに合流。

ベルガモ・アルタの登りを先頭で駆け上がるティム・ウェレンス(ベルギー、ロット・ベリソル)ベルガモ・アルタの登りを先頭で駆け上がるティム・ウェレンス(ベルギー、ロット・ベリソル) photo:Tim de Waele逃げのオリジナルメンバーであるポランク、パウリーニョ、フェーディに、残り30km地点でウェーニング、モレマ、ヘルマンスが合流。残り26km地点のベルベンノの登りで先頭はウェーニングとヘルマンスに絞られ、メイン集団から勢い良くジャンプしたレオポルド・ケーニッヒ(チェコ、ネットアップ・エンドゥーラ)がここに追いついた。

ガーミン・シャープやカチューシャ率いるメイン集団は人数を減らしながらも確実に先頭とのタイム差を詰める。するとフィニッシュまで10kmを残してトム・ドゥムラン(オランダ、ジャイアント・シマノ)が落車で後退。程なくして世界チャンピオンのミカル・クヴィアトコウスキー(ポーランド、オメガファーマ・クイックステップ)が右脚の痙攣によって脱落した。

最後の難所である石畳&最大勾配12%のベルガモ・アルタを前に、粘っていたウェーニングとヘルマンスは吸収。同時にアタック合戦が始まる。

果敢に飛び出したティム・ウェレンス(ベルギー、ロット・ベリソル)がそのまま先頭でベルガモの旧市街を駆け上がり、残り3.5kmから始まる下りへ。フィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシング)率いる8名の追走グループは頂上でウェレンスをキャッチする。

下りでルイ・コスタ(ポルトガル、ランプレ・メリダ)やサムエル・サンチェス(スペイン、BMCレーシング)が仕掛けるシーンも見られたが決まらない。3連覇が懸かったホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)を含む9名のグループが残り1kmアーチを駆け抜けた。



先頭ウェレンスを追うフィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシング)先頭ウェレンスを追うフィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシング) photo:Tim de Waele


後続を振り切ってフィニッシュするダニエル・マーティン(アイルランド、ガーミン・シャープ)後続を振り切ってフィニッシュするダニエル・マーティン(アイルランド、ガーミン・シャープ) photo:Tim de Waele牽制気味のグループの最後尾から残り500mで飛び出したのはガーミン・シャープのアーガイルジャージ。「躊躇いの瞬間を見逃さなかった。いつもグループの一番後ろで走っていたので、存在に気付かれていなかったのかも知れない」と振り返るマーティンが一発でアタックを決めた。

表彰台の真ん中でトロフィーを受け取るダニエル・マーティン(アイルランド、ガーミン・シャープ)表彰台の真ん中でトロフィーを受け取るダニエル・マーティン(アイルランド、ガーミン・シャープ) photo:Tim de Waele2人を揃えたBMCレーシングやUCIワールドツアーランキングを狙うアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)らの足並みは揃わず、数秒の牽制がマーティンの先行を許す。「昨年のロンバルディアや今年のリエージュでは最終コーナーでチャンスを失った。だからトップスピードに乗せて後続を引き離してからは、落車しないことだけを考えた」というマーティンが慎重に最終コーナーを抜け、1秒差でフィニッシュラインまで独走した。

「今年はリエージュで落車し、ジロで落車し、ブエルタで落車した。決まって悪いタイミングでの落車が続いたんだ。先週の世界選手権でも目の前で発生した落車のおかげでチャンスを失った。不運続きの難しいシーズンを良いカタチで締めくくりたくて、ブエルタが終わってからはトレーニングに明け暮れたよ。狙っていたロンバルディアで勝つことが出来て本当にスペシャルだ」と勝者は語る。

マーティンはリエージュ〜バストーニュ〜リエージュに続く2度目のモニュメント制覇。「今はワンデーレースを楽しんでいる。エネルギー満タンでスタートし、リスクを負いながら走り、フィニッシュでタンクが空になるようなレースが好きだ。今年のブエルタで3週間のステージレースでも闘えることを証明した(総合7位)。でも本格的に優勝を狙うのは数年先の話だ」。現在28歳のマーティンは将来的にグランツールの総合を狙う。

ベルガモ・アルタの登りで脱落して34位に終わったアルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ・サクソ)に代わって、2位に入ったバルベルデがUCIワールドツアーランキング首位に浮上。両者のポイント差は46ポイント。UCIワールドツアーランキングの行方は最終戦ツアー・オブ・北京に委ねられた。北京には昨年大会総合2位のマーティンも出場する予定だ。

選手コメントはレース公式サイトより。



イル・ロンバルディア2014結果
1位 ダニエル・マーティン(アイルランド、ガーミン・シャープ)        6h25'33"
2位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)               +01"
3位 ルイ・コスタ(ポルトガル、ランプレ・メリダ)
4位 ティム・ウェレンス(ベルギー、ロット・ベリソル)
5位 サムエル・サンチェス(スペイン、BMCレーシング)
6位 ミハエル・アルバジーニ(スイス、オリカ・グリーンエッジ)
7位 フィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシング)
8位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)
9位 ファビオ・アル(イタリア、アスタナ)
10位 リナルド・ノチェンティーニ(イタリア、AG2Rラモンディアール)        +14"

text:Kei Tsuji
photo:Tim de Waele

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