半世紀以上の長きにわたり、ロードレースへの情熱とともに歩んできたイタリアンブランド、コルナゴ。フレーム素材がクロモリからアルミニウム、そしてカーボンへと変遷した中にあっても、一貫したフィロソフィーを持ってフレームを製作してきたコルナゴが創業60年の節目に送り出すフラッグシップ、C60をインプレッション。



コルナゴ C60コルナゴ C60 (c)MakotoAYANO/cyclowired.jp
溶接工であったエルネスト・コルナゴが22歳の時に独立を果たし、生まれ故郷であるミラノ郊外のカンビアーゴにて自らのチクリを立ち上げたのがコルナゴの原点だ。その後、ローマオリンピックでの金メダル獲得や史上最強の選手の呼び声高いエディ・メルクスのアワーレコード挑戦用のフレーム供給などをきっかけに一躍その名声を高めていった。

スチールフレームがロードレースの中心であったころからトップレベルのレーシングフレームを製作してきたコルナゴに転機が訪れたのは、1980年代後半、同郷のスポーツカーブランドであるフェラーリとのカーボンファイバーを使った共同開発プロジェクトにある。ロードレーサーのフレーム素材がスチールから、アルミやチタン、マグネシウム、そしてカーボンファイバーといった新素材に移り変わっていこうとする過渡期にあって、コルナゴはカーボンファイバーの有用性に着目していた。

コルナゴのアイデンティティであるカーボンラグ工法を採用するコルナゴのアイデンティティであるカーボンラグ工法を採用する 角につぶしが入ったジルコデザインの断面形状を持つダウンチューブ角につぶしが入ったジルコデザインの断面形状を持つダウンチューブ スチールがメインだった頃から受け継がれるストレートフォークスチールがメインだった頃から受け継がれるストレートフォーク


フェラーリとのコラボレーションは成功し、1989年にはコルナゴ初のカーボンフレーム「C35」を誕生させている。そしてその5年後には、通算1000勝以上を挙げると共に、「北の地獄」パリ~ルーベを制した史上初のカーボンバイク「C40」を送り出しカーボンフレームの技術を完全に手中に収めたコルナゴ。

その後もコルナゴは、世界選手権を2度制した「C50」や新城幸也も駆る「C59」をリリースし、トップレベルのカーボンレーシングフレームメーカーとして君臨してきた。そのコルナゴレーシングフレームの系譜に連なるモデルとして、今回インプレッションする「C60」は開発されている。

ケーブル類は全て内蔵。アウター受けはラグに設けられているケーブル類は全て内蔵。アウター受けはラグに設けられている ヘッドチューブのアルカンシェルはコルナゴがこれまで何度も世界選手権優勝に貢献した証だヘッドチューブのアルカンシェルはコルナゴがこれまで何度も世界選手権優勝に貢献した証だ

ジルコデザインから丸断面へ徐々に変化するトップチューブにはエルネストのサインが配されるジルコデザインから丸断面へ徐々に変化するトップチューブにはエルネストのサインが配される 独自のBB規格「スレッドフィット82.5BB」によって横剛性の向上を実現独自のBB規格「スレッドフィット82.5BB」によって横剛性の向上を実現


C60は、これまでのコルナゴレーシングフレームのアイデンティティであるカーボンラグ工法を採用していることが大きな特徴だ。多くのブランドがモノコック工法へとスイッチしていく中、コルナゴはフラッグシップモデルにおいて、頑なにラグ構造を堅守している。それは、ライダーの身体にフィットした自転車を作るというレーシングフレームにおいてもっとも大切なことをコルナゴが最重要視していることの表れだ。

実際、C60のサイズ展開はスローピング、ホリゾンタル合わせて14種類と、他のフレームメーカーが真似できないほどの豊富なラインナップとなっている。このラインナップを実現するために、200種類以上のラグとチューブを用意しなければならず、生産効率はどうしても低下してしまう。それでも選手が望むバイクを提供するために、最高のものづくりに取り組む姿勢は、エディ・メルクスにフレームを供給した当時のスピリットが今も脈々と受け継がれていることを感じさせてくれる。

フレームの製造番号は左側のリアエンドに記されるフレームの製造番号は左側のリアエンドに記される チェーンステーは高さを変化させることで剛性と快適性、トラクション性能を両立チェーンステーは高さを変化させることで剛性と快適性、トラクション性能を両立


ただ、トラディショナルなだけがコルナゴではない。伝統に縛られることなく、最高のレーシングスペックを実現するために必要なものは取り込んでいく姿勢こそが、現在もコルナゴをトップブランドとしている原動力だ。前作C59からの最大の変更点であり、C60の核心部分ともいえるのが、新たにデザインされたボトムブラケット部。従前のJIS規格を捨て、新たに採用したコルナゴ独自の「スレッドフィット82.5BB」を採用したBBラグにより、各チューブの大径化、そして全体的な性能の底上げを実現した。

近年流行し各社がこぞって採用する、PF86やBB30に代表される圧入式BBは、シェル幅やクランクシャフト径の拡大からくる寸法的な優位がある。また、ねじ切りという工程を減らすことにより製造コストの軽減という側面もあるだろう。一方、圧入という取り付け方式は着脱の際にフレームへの負担が大きく、メンテナンス性が低くなってしまったり、異音の発生といったトラブルが起きやすいというデメリットもある。

「スレッドフィット82.5BB」はねじ切りされたスリーブを拡幅されたBBシェルに取り付けるというもので、フレームへの攻撃性を抑えつつ、BB周辺のボリュームアップと横剛性の向上を達成している。BBシェルへのねじ切りという加工工程の増加によるコスト増と、ユーザーのメリットを秤にかけて、後者をとることができる真摯な姿勢こそがコルナゴのものづくりの真髄だろう。

シンプルな形状のシートステーによってコルナゴらしいかっちりとした乗り心地を演出シンプルな形状のシートステーによってコルナゴらしいかっちりとした乗り心地を演出 ダウンチューブの裏側に大胆に配されたグラフィックダウンチューブの裏側に大胆に配されたグラフィック トリコローレの描かれたシートチューブもジルコデザインから丸断面へと徐々に変化するトリコローレの描かれたシートチューブもジルコデザインから丸断面へと徐々に変化する


コルナゴ伝統のジルコデザインを踏襲し、前三角を構成するチューブにはリブが設けられることでねじれ剛性を高めている。フロントフォークも伝統に則ったストレートフォークとなり、ボリュームのあるフォークブレードはブレーキング、コーナーリングともにしっかりとパワーを受け止める。一方でバックステーは、扁平に設計されることで快適性とトラクション性能の向上を図っている。

また、優美なペイントもコルナゴバイクの魅力の一つだ。C60においては、クラシックと冠されるカラーリングにおいては、エアブラシによる濃淡が美しい芸術的なカラーリングが施され、見ているだけでも満足してしまうような存在感をまとっている。

今回のインプレッションバイクは、480SサイズのC60にシマノ 9000系デュラエースをアッセンブル。ホイールは50mmハイトのコルナゴオリジナルカーボンホイールにヴィットリアのチューブラータイヤが組み合わせられる。創業以来積み重ねてきた60年間の伝統と、それを支えてきた革新との融合によって常に最高のロードレーサーを世に送りだしてきたコルナゴ。それではC60のインプレッションをお届けしよう。



―インプレッション

「バランスの良さからくる一体感の高さが心地よい」山崎嘉貴(ブレアサイクリング)

このバイクが欲しい人にとって、もっとも気になる部分は「硬すぎるのではないか?」という部分だと思います。特に前作C59がかなり高剛性の自転車であり、一般的なレベルのホビーサイクリストにとっては、剛性過剰な側面がありました。

自身、スプリント力については出力でいうと1250wぐらいでアマチュアサイクリストにとってはそれなりに高いレベルではあると思うのですが、C59については下りからののぼり返しで60km/hオーバーのスプリントをかけたときに、非常に良く伸びるフレームという印象を持つほどで、平地ではその気持ち良い速度域まで持っていくことは至難の業でした。

そのような流れの中で出てきたC60ですから、外観でいえばBBの拡大とチューブの大径化でより剛性が高まっていそうな印象を受けます。ただ、乗ってみるとその期待はいい意味で裏切られます。C35から連綿と続くCシリーズでいうと、前作C59よりもC50の流れを汲んだ軽量・進化版と言える乗り心地です。

「バランスの良さからくる一体感の高さが心地よい」山崎嘉貴(ブレアサイクリング)「バランスの良さからくる一体感の高さが心地よい」山崎嘉貴(ブレアサイクリング)
ベクトランなどを配合することで衝撃吸収性を向上させているバイクに通じる乗り心地を持っているのですが、コルナゴの場合、素材による味付けではなくて、スケルトンによって振動吸収能力とトラクション性能を得ているように感じます。

これまでのコルナゴバイクはフロント周りが強く非常に突っ張っている感覚があったのですが、その感覚が初めて消えたバイクです。フロントフォークとバックフォークの調和がとれており、どちらかが引っ張っていくような感覚はありません。絶対的な剛性は非常に高いレベルですが、そのバランスの良さからくる一体感の高さが心地よいため、嫌な硬さを感じさせない乗り味につながっています。

ハイエンドバイクにありがちな腰高感もなく、非常に落ち着いた乗り味です。シッティングとダンシング、どちらのシチュエーションでもBBが下に入っていく感覚があり、硬さを感じさせない踏み味を持っています。硬いと感じさせる自転車はBBが上に浮いてしまうような感覚があるのですが、そういった感触ではなく滑らかに足が回る、まるでセラミックベアリングをインストールした時のような乗り味のバイクです。

コルナゴの弱点であったスピードの上げ下げにおいても非常にキビキビとした反応を返すようになっており、ある種モノコックのバイクのようなフィーリングに近くなってきています。そういった乗り味にもかかわらずラグにこだわるのは、体に機材を合わすべきだというコルナゴのレーシングバイクに対する考え方が現れている部分でしょう。

60万円というプライスですが、エルネスト・コルナゴという伝説が存命でありフレーム製作の一線に立っている間に作られたフレームということを考えれば妥当なところかもしれません。どんなジャンルの趣味でも、必ずプレミアが付くプロダクトというものがあると思いますが、コルナゴのCシリーズはそういった存在です。


「優しさと厳しさが同居したレーシングバイク」三上和志(サイクルハウスMIKAMI)

高速域での伸びの良さは今までのコルナゴバイクの良さでしたが、その特長はそのままにも更に中速域での加速性能もブラッシュアップされており、より懐が深くなった印象を受けました。乗り心地についても、以前のモデルに比すれば、かなり快適性が上がっているのが実感できます。

BBラグの大径化と各チューブのサイズアップの結果、外見的には前作C59に比べても剛性が向上しているのではないか、もう硬すぎてアマチュアサイクリストはお断りの乗り心地なのではないか、という乗る前のイメージは良い意味で裏切られました。

パイプの薄肉化、シートステーの扁平加工という造作のおかげか、縦方向の快適性とトラクションの向上の結果、低い速度域、つまり低い出力域においてもライダーの踏む力を進む力へと変換し、前へと押し出してくれる自転車へと進化を遂げています。

「優しさと厳しさが同居したレーシングバイク」三上和志(サイクルハウスMIKAMI)「優しさと厳しさが同居したレーシングバイク」三上和志(サイクルハウスMIKAMI) 45km/hから上の速度域での飛び抜けた気持ちよさはそのままに、パワーバンドが広がったようなイメージです。また、重心が少し上がったのか動きに軽やかさが増しました。特にダンシング時のバイクの振りが軽くなり、登りでの軽快感も向上しています。

コーナーリングについても、安定感がありつつもキビキビと曲がっていく感覚でいかにもコルナゴらしい旋回の挙動を持っています。レースでも必要な分だけ倒しこんでいくことができるでしょう。

用途としては、やはりピュアレーシングマシンなのでコンペティティブなシーンでこそ真価を発揮するバイクであるのは間違いありません。ただ、対応するパワーバンドが広がった結果、ファンライダーや、週末サイクリストであっても、ある程度気持ち良く走れる速度域をカバーしているため、幅広い層のライダーがその良さに触れることができるようになっています。

つらい時にこそつい頑張りたくなるような性格のバイクなので、どんどん足が削られていきます。しかし、格段に高くなった快適性のおかげで、いったん足が売り切れてからももう一度踏みなおすことができる回復力も持っています。BBも新規格を採用していますが、後発の規格ということもありデメリットは少ないでしょう。特に圧入規格の採用には慎重なブランドなのでトラブルの出づらさという点では信頼度は高いと思います。

アッセンブルについては、基本的にどんなホイールでもマッチすると思います。登りも、平坦もこなせるという点においては、50mmハイト程度のカーボンチューブラーホイールがもっともオーソドックスな組み合わせではないでしょうか。そこから登るのが好きな人は軽量ホイールに、巡航が好きな人はエアロホイールに組み替えてもよく走るでしょう。

60周年ともなり、頑固親父のようなバイクかと思いきや、少し丸くなったおじいさんが孫のために作った様な、優しさと厳しさが同居したレーシングバイクです。その懐の広さで、ピュアレーサーから、コルナゴに乗りたいホビーサイクリストまで受け入れてくれる自転車に仕上がっています。

コルナゴ C60コルナゴ C60 (c)MakotoAYANO/cyclowired.jp
コルナゴ C60(フレームセット)
サイズ:
■トラディショナル(ホリゾンタル)530、550、570、590、610
■スローピング 420S、450S、480S、500S、520S、540S、560S、580S、600S
カラー:12種類
納 期:3ヶ月(受注生産)
価 格:645,000円(税別)



インプレライダーのプロフィール

山崎嘉貴(ブレアサイクリング)山崎嘉貴(ブレアサイクリング) 山崎嘉貴(ブレアサイクリング)

長野県飯田市にある「ブレアサイクリング」店主。ブリヂストンアンカーのサテライトチームに所属したのち、渡仏。自転車競技の本場であるフランスでのレース活動経験を生かして、南信州の地で自転車の楽しさを伝えている。サイクルスポーツ誌主催の最速店長選手権の初代優勝者でもあり、走れる店長として高い認知度を誇っている。オリジナルサイクルジャージ”GRIDE”の企画販売も手掛けており、オンラインストアで全国から注文が可能だ。

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三上和志(サイクルハウスMIKAMI)三上和志(サイクルハウスMIKAMI) 三上和志(サイクルハウスMIKAMI)

埼玉県飯能市にある「サイクルハウスMIKAMI」店主。MTBクロスカントリー全日本シリーズ大会で活躍した経験を生かし、MTBに関してはハード・ソフトともに造詣が深い。トレーニングの一環としてロードバイクにも乗っており、使用目的に合った車種の選択や適正サイズに関するアドバイスなど、特に実走派のライダーに定評が高い。

サイクルハウスMIKAMI


ウェア協力:GRIDE

text:Naoki.YASUOKA
photo:Makoto.AYANAO
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