ディフェンディングチャンピオンの西薗良太(チャンピオンシステム)はスタート前に「窪木が速いのは分かっている。あと、このコースでは大場も速い」と警戒した。その言葉通り、トップタイムを叩き出したのは、「ひたすらマイペースで走った」という24歳の大場政登志(Cプロジェクト)だった。

エリート男子 スタート前にリラックスする西薗良太(チャンピオンシステム)エリート男子 スタート前にリラックスする西薗良太(チャンピオンシステム) photo:Kei Tsuji全日本選手権タイムトライアルの舞台は今年も秋田県大潟村のソーラースポーツライン。かつて日本第2位の面積を誇った八郎潟の広大な干拓地を、ほぼ一直線、ほぼ真っ平らなコースが貫いている。

エリート男子 最終走者の西薗良太(チャンピオンシステム)がスタートエリート男子 最終走者の西薗良太(チャンピオンシステム)がスタート photo:Kei Tsuji今年はツール・ド・コリアやJプロツアー第6戦栂池高原と日程が重なったため、例年よりもメンバーは薄い。全日本チャンピオンを決める全日本選手権だと言うのに、アクセスの悪さも影響し、出場選手は実業団レースに劣る。全日本ロードと比較して、取材するメディアの数が驚くほど少ないのが現実だ。

昨年、男子エリートのコースは30km(30km x 1周)から42km(21km x 2周)に変更された。片道10km強の往復直線路を2度行って帰ってくる。ちょうどレースの中間地点でスタート地点を通過するため、ラップタイムを参考にしたペース配分がいくらか容易になる。これは観戦する側にとっても有り難いコース変更だ。

レース当日は曇り時々晴れのコンディションで、午後にかけて気温は22度前後まで上昇する。好タイムが期待出来る弱風のコンディションだが、路面の影響なのか空気の影響なのか、何故か「今日はバイクが進みにくかった」というのがライダー共通の見解。

エリート男子 大場政登志(Cプロジェクト)がスタートエリート男子 大場政登志(Cプロジェクト)がスタート photo:Kei Tsuji
エリート男子 平坦コースに向かって漕ぎ出す西薗良太(チャンピオンシステム)エリート男子 平坦コースに向かって漕ぎ出す西薗良太(チャンピオンシステム) photo:Kei Tsuji1周回を完了した時点で暫定トップに立ったのは、多くの有力選手に「あいつは速い」と名指しされていた窪木一茂(和歌山県教育委員会)。マトリックス所属だが、和歌山県教育委員会のオレンジジャージを着て走った窪木が前半から飛ばす。遅れること5秒差で大場、23秒差で西薗という状況。いずれの3名も余裕のある表情で1周目を終え、2周目の直線路に視線を移して再び踏み込む。

「去年は前半から飛ばした影響で後半にガクンとペースが落ちた。だから今年はペース配分を考えて、前半は出来るだけ抑えて走りました。だからまさか自分が23秒もリードしているとは思わなかった」と話す窪木が、トップタイムを維持したままゴールに向かう。

エリート男子 スピードを維持したままコーナーをクリアする窪木一茂(和歌山県教育委員会)エリート男子 スピードを維持したままコーナーをクリアする窪木一茂(和歌山県教育委員会) photo:Kei Tsuji
エリート男子 ゴールに向かう窪木一茂(和歌山県教育委員会)の前輪はパンクしているエリート男子 ゴールに向かう窪木一茂(和歌山県教育委員会)の前輪はパンクしている photo:Kei Tsuji2周目にペースを上げるのはどの選手も共通。後半にかけてタイムを大きく挽回したのは西薗で、2周目の折り返し(残り10km)の時点で窪木とのタイム差を5秒まで詰める。9秒差で大場という状況に。

エリート男子 優勝した大場政登志(Cプロジェクト)エリート男子 優勝した大場政登志(Cプロジェクト) photo:Kei Tsujiスタート順の関係で先にゴールしたのは大場で、55分19秒の暫定トップタイムをマーク。続く窪木は好ペースを維持したが、ラスト1kmを切ったところで前輪がパンクしてしまう。窪木はゴールに向かってスピードを乗せることが出来ず、大場から24秒遅れのタイムでゴールした。

そして最終走者、ディフェンディングチャンピオンの西薗が全開でもがきながらゴールにやってくる。タイム表示は55分20秒。僅か1秒、大場に届かなかった。

西薗と窪木の接戦を破った大場が、目を赤らめながら表彰台に向かう。新チャンピオンが誕生した。

全日本チャンピオンジャージに袖を通した大場は「勝利の秘訣は…マイペースです。周りからの情報は一切聞かず、マイペースで、目標のスピードに合わせて走っていただけです。全開で行けるだけ行ってみた。(往復コースで)すれ違う時、2人(西薗と窪木)が速いとしか思わなかった。負けたくないという気持ちだけで走っていました」と話す。

エリート男子 ゴールに向かって追い込む西薗良太(チャンピオンシステム)エリート男子 ゴールに向かって追い込む西薗良太(チャンピオンシステム) photo:Kei Tsuji
「これまで結果が出ず、勝てないレースが続いていたので本当に嬉しい。家族とスポンサーと、彼女に感謝しています」と照れながら話す大場。今年からCプロジェクト(キャノンデール・チャンピオンシステム)に所属する24歳が、ロードレース初勝利、ならびに初の全日本タイトルを手にした。

エリート男子 優勝の一報を聞き、涙する大場政登志(Cプロジェクト)エリート男子 優勝の一報を聞き、涙する大場政登志(Cプロジェクト) photo:Kei Tsuji大場は過去に全日本学生個人タイムトライアルで西薗に次いで2位。昨年までチームユーラシアに所属し、橋川健監督のもとベルギーで活動した。昨年までのチームメイトで、現在ベルギーのコルバ・スペラーノハムで活動する竹之内悠に勝利を報告したいと大場は笑う。

エリート男子表彰台エリート男子表彰台 photo:Kei Tsuji「(竹之内)悠は得意分野であるシクロクロスで全日本チャンピオンになった。だから僕は得意なタイムトライアルで勝ちたかった」。同い年の2人は互いに高め合える存在のようだ。

「策士策に溺れました」とは、1秒差で連覇を逃した西薗の言葉。「去年いろいろ機材でミスした窪木が速いのは分かっていたし、学生時代から大場君が速いのも知っていた。普段のトレーニングでは20分走が多いので、20分間の自分の限界がどれぐらいかは感覚で分かる。でもそれ以上はパワーメーターに頼らないとペースを作りにくい。伴走車からタイム差を聞く予定が、風で全く聞こえなかった。今日はメーターの調子がおかしくて、目測で窪木との差を計って『これは危ない。踏むしかない』と思い一気にペースを上げましたが、修正が遅かった。1周目で余裕を持ちすぎてしまった。ペーシングには失敗したけど、走りとしてはそこまで悪くなかったと思います」。

チャンスを目前にしながらも3位に終わった窪木は「走る前から大場さんと『西薗さんはめちゃくちゃ速そう。西薗さんに負けないようにお互い頑張りましょうよ』と話していたんです。だから大場さんが勝ってとても嬉しい」と、1歳年上の大場の勝利祝福するが、表情から悔しさがにじみ出る。年齢の近い大場、西薗、窪木は今後もライバルとして闘い続けることになるだろう。

エリート男子 全日本チャンピオンに輝いた大場政登志(Cプロジェクト)エリート男子 全日本チャンピオンに輝いた大場政登志(Cプロジェクト) photo:Kei Tsuji
エリート男子 44秒差の4位に入った武井亨介(チームフォルツァ!)エリート男子 44秒差の4位に入った武井亨介(チームフォルツァ!) photo:Kei Tsujiエリート男子 1分差の5位に入った豊田勉(豊田業務店)エリート男子 1分差の5位に入った豊田勉(豊田業務店) photo:Kei Tsuji
エリート男子 1分07秒差の6位に入った安井雅彦(シマノレーシング)エリート男子 1分07秒差の6位に入った安井雅彦(シマノレーシング) photo:Kei Tsujiエリート男子 郡司昌紀(宇都宮ブリッツェン)は1分14秒差の7位エリート男子 郡司昌紀(宇都宮ブリッツェン)は1分14秒差の7位 photo:Kei Tsuji

※その他のカテゴリーのレースレポートならびに機材特集は後ほどお伝えします。

全日本選手権タイムトライアル2013
男子エリート(42km)
1位 大場政登志(Cプロジェクト)                55'19"(Ave.45.54km/h)
2位 西薗良太(チャンピオンシステム)               +01"
3位 窪木一茂(和歌山県教育委員会)                +24"
4位 武井亨介(チームフォルツァ!)                +44"
5位 豊田勉(豊田業務店)                    +1'00"
6位 安井雅彦(シマノレーシング)                +1'07"
7位 郡司昌紀(宇都宮ブリッツェン)               +1'14"
8位 嶌田義明(Team UKYO)                  +1'29"
9位 倉林貴彦(なるしまフレンド)                +1'55"
10位 吉田隼人(シマノレーシング)                +1'55"

text&photo:Kei Tsuji

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