2014年にIRCよりリリースされたクリンチャータイヤのフラッグシップ、ASPITE(アスピーテ)シリーズ。ビードからビードまで全面に耐パンク層を配しつつ、レーシングモデルたる軽量性、グリップ性、空力性を獲得しているオールラウンドタイヤである。今回の特集ページでは、発売開始から4年目を迎える今も人気を得続けている同製品に今一度焦点を当て、開発者やサポートライダーの言葉と共にその実力を掘り下げていきたい。



IRCのベストセラークリンチャータイヤ ASPITE PRO&WETIRCのベストセラークリンチャータイヤ ASPITE PRO&WET (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
IRCのロード用タイヤと言えば?との問いに、「チューブレス」と答える方も多いだろう。2007年という初期からチューブレスタイヤのリーディングブランドとして製品をラインアップし人気を得てきただけに、それも一つの事実。しかし忘れてはならないのが、よりメジャーなクリンチャータイプのレーシングタイヤ「ASPITE(アスピーテ)」の存在だ。

2014年のデビューに至るまでにおよそ3年という期間を要したASPITEシリーズは、リリースと同時にレーサーからの評価を高め、一躍レースから練習まで不安無くこなせるレーシングタイヤとして知名度を得た。登場から4年目を迎える現在でもIRCがサポートするキナンサイクリングチームやNIPPOヴィーニファンティーニなどから愛用されており、その地位は確固たるものと言えるだろう。

IRCタイヤを使うキナンサイクリングチームIRCタイヤを使うキナンサイクリングチーム photo:Hideaki TAKAGIレースでもASPITEを愛用する椿大志と山本元喜(キナンサイクリングチーム)レースでもASPITEを愛用する椿大志と山本元喜(キナンサイクリングチーム)


今回は企画担当として開発に深く携わったIRCタイヤの山田浩志さんを訪ね、今だからこそ語れる開発経緯や誕生秘話を伺った。開発前には「200g以下で、かつパンクに強いことと」という当時不可能に思われたターゲットを目指し、一つ一つ課題をクリアしていったのだという。

山田浩志さんプロフィール

山田浩志さん(井上ゴム工業)山田浩志さん(井上ゴム工業) photo:Hideaki TAKAGI学生時代にMTBクロスカントリーの選手として活躍。国内エリートクラスを走り、U23カテゴリーにおいて世界選手権の日本代表として走った経験も。IRCのタイヤサポートを受けていた時期もあり、大学を卒業した後、井上ゴム工業へ就職。

始めの3年間はゴムの配合の開発に携わり、その後タイヤそのものの企画開発に。フォーミュラプロを始め数々のタイヤを手掛けた。6年間にわたる開発経験をもとに現在は営業職として活動。今回紹介するASPITEも手がけた。

開発者インタビュー

「可能な限り細部を突き詰めた妥協のない製品を目指した」

― どういった経緯でASPITEシリーズは誕生したのでしょう?

「IRC=チューブレスだけ」というイメージを覆したかったんですよね。やっぱり市場ではクリンチャーの使用率が圧倒的に高いですし、後発ブランドとして最良のレーシングタイヤを作ってやろうと考えました。それが2012年の話ですね。チューブレスタイヤの開発で培ってきた技術や、その中で開発してきたコンパウンドのノウハウを用いて、可能な限り細部を突き詰めた妥協のない製品を作ろうとしたんです。

「200gの軽量性を持ちつつパンクしないタイヤを目指しました」「200gの軽量性を持ちつつパンクしないタイヤを目指しました」 photo:Hideaki TAKAGI
良いロードタイヤの条件とは何か。市場では何が求められているのか。様々な要素がありますが、ASPITE開発の上で重点を置いたのがパンクしないこと。どんなに良いタイヤでもパンクしてしまえば気分も下がるし、もしかしたら予定にも遅れてしまうかもしれない。それに従来、市場に存在する高耐パンクタイヤの全てが重いものでしたので、それなら「200gの重量でパンクしないタイヤ」を目指そうと決めたんです。

加えて、当時タイヤ幅が23cから25cに変わりつつある時期でしたので、それに合わせやや太めの24cという設定にしました。それでも重量は軽くパンクしないという部分は譲れず、当然製造の現場からも「そんなもの実現するはずがない!」と言われたり、大いに揉めましたね(笑)。それでもひとつひとつ問題点を解決していき、1年の開発期間をかけてようやく求める性能まで仕上げることができました。

― 具体的にはどういったパンク対策がなされていますか?

構造的なところで言えば、極めて破断強度の高いメッシュ状の繊維を織り込んだ耐パンクガードがトレッド下に挿入されています。タイヤの全面にかけて1枚のガードが入っているためサイドカットにも強く、様々な繊維をテストして、刃物を押し当てても切れない高強度素材を採用しました。そのため、タイヤそのものもやや硬いものとなっています。

PROとWETで異なるトレッドパターンを採用するPROとWETで異なるトレッドパターンを採用する photo:Hideaki TAKAGI薄いケーシングと全面に配された耐パンクガードが確認できる薄いケーシングと全面に配された耐パンクガードが確認できる photo:Hideaki TAKAGI


また、コンパウンドに小さい傷が入り、そこから石やガラスが刺さって起こるパンクを避けるために、いかに傷が入りにくく頑丈なコンパウンドにするかも難題でした。もともと耐貫通強度が高いことがIRCの特徴ではあったのですが、更にその性能を高めてやろうと新たな配合を開発したんです。結果として、構造、そしてコンパウンドと2つの面からパンクに強いタイヤが出来上がりました。

― 軽量化のためにはどういった工夫がありますか?

「構造とコンパウンドの2つの面から耐パンク性を突き詰めました」「構造とコンパウンドの2つの面から耐パンク性を突き詰めました」 photo:Hideaki TAKAGIナイロンコードによる180TPIケーシングを使用しているので、高い強度を確保しながらもケーシング自体を薄くすることができ軽量化に繋がっています。加えて、トレッドゴムの肉厚もタイヤの性能と軽さのバランスが取れるよう設計しました。当初はトレッドもやや薄くして200gを切る案も出ましたが、様々な点を考慮して結局205gという重量に。PR的には200gを割りたかったのですが、耐パンク性能を重視した中では世界最軽量の数値です。

コットンなどをケーシングの材料として使用するハンドメイド系タイヤはが一本一本の繊維が極めて細く、320TPIと数値が大きくなります。TPI値が大きいイコール良いイメージになるのですが、耐久性や耐パンク性に劣る材料ため、私たちのようなナイロンケーシングを使う工業系メーカーのタイヤとはTPI値で優劣を比較する事は出来ません。当時ナイロンコードで180TPIの軽量ケーシングを使用したタイヤは他に無かったのではないでしょうか。それくらい先駆けた製品だったわけですね。

― 他にこだわった部分はありますか?

当時市場で良いとされるタイヤは、長持ちするもの。当時のIRCタイヤは3000kmでだいたい寿命かなというくらいだったため、+2000kmの5000kmを寿命として設定しました。もちろんゴムを厚くすれば摩耗に対して強くなりますが、それでは重量も転がりも重くなってしまう。目指していた200gを達成するためにトレッドの厚みは必然的に決まってきますし、それでも5000km持たせるコンパウンドは難しいチャレンジでしたね。

「走行距離5000kmの寿命を持たせ、かつ性能の劣化が少ない自身作がASPITEです」「走行距離5000kmの寿命を持たせ、かつ性能の劣化が少ない自身作がASPITEです」 photo:Hideaki TAKAGI
他社でも5000km持つタイヤはありましたが、どれも耐パンクを考えていなかったり、重量が重かったり。ASPITEは耐パンクガードを入れつつやや太い24cで205gの重量に抑え、かつ5000kmは持つ性能が自慢です。ここまでの製品は今でも他社を見回してもありません。それがこの製品がロングランしている理由でもあるでしょう。自分たちでも納得いくまで作り込んだ自信作になっています。

また、長持ちしてもゴムが劣化していっては意味がありません。よくタイヤ表面がひび割れたり固くなったり、カサカサやツルツルになってしまったものを見ますが、それはダメ。5000km持つタイヤなら、きっちり5000km分性能を発揮させたい。それを実現するために、ゴムに配合するオイルとのマッチングを考え、一般的な量産品では踏み込まない領域にまで切り込んで開発しています。結果として、従来よりも長くタイヤの性能を保つ長寿命のゴムが完成しています。このあたりは、ブランドではなくメーカーとして自社工場を持っているところの強みですね。

一点、長く使っていると耐パンクガードの継ぎ目部分で斜めにひび割れのようなものが出てきます。これはASPITEの構造上出てくるもので、ゴムの劣化ではないので性能には何も問題はありません。その点は安心していただければと思います。

― ASPITEはエアロ効果も考えて作られていますよね?

風洞実験を行い空力性能を向上させた風洞実験を行い空力性能を向上させた (c)IRCはい。当時いかに空気抵抗を減らすかというエアロダイナミクスが大きく着目され始めた時期でもありました。我々もタイヤの重量が増えない範囲でタイヤのエアロ効果を上げられないかということで、タイヤとリムとの段差をなくすために、ビードの上の部分に若干せり上がるようなエアロフィンをつけています。IRCとしては初の試みでしたね。とにかく細かいところまで徹底的にやってやろうという気概でした。

結果としては大きくエアロ効果が生まれるものではありませんでしたが、それでも風洞実験において時速40kmで約4%の空気抵抗削減の働きを見せてくれました。加えて、このフィンによってリムとの接地面が増えたことでスタビライザー的な役割を果たし、タイヤのヨレや潰れを防いでくれるものにもなったんです。これは特に狙っていなかったのですが、結果としてタイヤの剛性が上がり、従来よりもコーナリング等が安定するようになっています。

― ASPITEは「WET」タイヤもラインアップしていますね

RBCコンパウンドを使用しグリップ性能を高めたASPITE WETRBCコンパウンドを使用しグリップ性能を高めたASPITE WET photo:Hideaki TAKAGIそうですね。Formula PROにも使われているハイグリップなRBCコンパウンドを使用し、雨の日でも滑りにくい性能を持たせたのがASPITE WETです。コンパウンド以外は通常と全く同じで、RBCコンパウンドは、スタッドレスタイヤなどにも良く使用されるシリカでゴムを補強したシリカ配合でグリップを確保しています。ゴムとしては柔らかめになりモジュラスが下がるので、しっとりとした乗り心地となり、タイヤ寿命も5000kmとはいかず3000kmほど。ロードバイクらしいシャキッとした乗り心地を好む人は通常のASPITEが良いかもしれません。

WETと名付けていますが、雨の日だけでなくハイグリップタイヤとして使っていただけたらと思います。実際にASPITEを供給しているキナンサイクリングチームやチームユーラシア、NIPPOヴィーニファンティーニの選手らも普段の練習ではグリップの高いWETを好んで使っていますね。

― 2つのラインアップでそれぞれトレッドパターンが違いますが、その意味を教えてください

通常のASPITEは耐摩耗5000kmをターゲットとしているので、センターをスリックとすることで摩耗に対して走行距離を稼げるようにしています。タイヤのコーナーにはブロックをつけることで路面との摩擦係数を上げてグリップを高める狙いがあります。

対してASPITE WETは排水性をイメージしてV字型のパターンとしました。アスファルト路面はややデコボコがあるためまだいいですが、白線等の滑りやすい路面の上では斜めに溝が切られたパターンによって接地面を減らすことで、単位面積当たりの接地圧を上げる役目を果たします。滑りやすい路面でのコントロール性向上に繋がる部分ですね。

「ASPITEは各性能を突き詰めたIRCの自信作。ぜひ一度手に取ってもらいたいですね」「ASPITEは各性能を突き詰めたIRCの自信作。ぜひ一度手に取ってもらいたいですね」 photo:Hideaki TAKAGI
完全なスリックだとラボデータ上は良いのですが、実際の走行シーンでグリップのピークを超えた時に一気に破綻してしまう、感覚を掴みづらいタイヤになってしまうんですね。パターンをつけてやれば、その感覚がマイルドになりタイヤの状況がより分かりやすい。この辺はNIPPOの選手からのフィードバックによるところも大きいですね。

ASPITEはとにかく様々な要素を徹底的に煮詰め、数値的にもライバル製品を上回る我々IRCの自信作です。4年前よりも原料や製造方法の分析は進んでいる今現在でも、ASPITE以上の物を作れと言われてもかなり難しいでしょう。とにかく安心を突き詰めた製品ですので、ぜひ一度手に取ってもらいたい商品です。

スペック:ASPITE PRO&WET

IRC ASPITE PRO

サイズ700×24c、700×26c
重 量205g(24c、カタログ値)、245g(26c、カタログ値)
空気圧100~130psi(24c)、90~115psi(26c)
価 格6,200円(税抜)

IRC ASPITE PRO WET

サイズ700×24c
重 量205g(カタログ値)
空気圧100~130psi
価 格6,200円(税抜)



IRC ASPITE PRO NIPPO VINI FANTINI ボトル付きキャンペーンIRC ASPITE PRO NIPPO VINI FANTINI ボトル付きキャンペーン photo:Hideaki TAKAGIASPITE2本とNIPPOヴィーニファンティーニのチームボトルセット発売中

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提供:IRC 制作:シクロワイアード編集部 photo:Hideaki TAKAGI