登場から話題を振りまいて止まない新型マドン。本頁では8月頭に京都で開催されたトレックワールドにて、OCLV700カーボンを使った最上級モデル、マドン9シリーズのインプレッションを行った。テスターはトレックに造詣の深い色川浩樹(オンザロード)と奥村貴(正屋)両氏。注目の性能たるやいかに。

大注目のマドン9シリーズをトレックワールド会場にてインプレッション大注目のマドン9シリーズをトレックワールド会場にてインプレッション photo:Kei.Tsuji

「スムースかつダイレクトなレーシングバイク」色川浩樹(オンザロード)

一踏みしただけで、このバイクのアドバンテージは体感できます。試乗車にはディープリムが付いているわけではなかったのですが、まるで高級な軽量カーボンディープホイールを履いているのかと錯覚するようなスピードの伸びが心地いいですね。おそらく、綿密に設計されたエアロ形状が効果的に働いているのだと思われます。

前作のマドンやエモンダに代表されるようなスムースネスなライディングフィールをこの新型マドンも受け継いでいます。それらのバイクと比べると縦方向へのたわみも抑えられているので、ダイレクト感もありレーサーにはちょうど良いフィーリングなのではないでしょうか。エアロバイクでありながらも、横方向への剛性もしっかりとしているので、ダンシングで踏み負けるようなこともないですね。

「スムースかつダイレクトなレーシングバイク」色川浩樹(オンザロード)「スムースかつダイレクトなレーシングバイク」色川浩樹(オンザロード) photo:Kei.Tsuji
登りにおいても、縦方向への硬さを活かしてシッティングで回していくとのびやかに登っていきます。さすがに山岳モデルであるエモンダと比べると少し遅れをとりますが、けして登りが不得意なバイクではありません。エモンダに50mmディープを履かせるのと、このマドンにローハイトホイールを履かせたものだと、マドンに軍配が上がるかもしれませんね。

エアロバイク独特の直進安定性があるので、平坦でもリラックスした走ることが出来ます。空力効果も相まって、40km/hで巡航しながらローテーションするようなシチュエーションではかなりアドバンテージが大きいでしょう。フミが「プロトンで自然と前の選手に追いつく」と言っていましたが、今回乗ってみて、その意味を実感できました。直進安定性が高いので、下りでは少しアンダーステア気味に感じました。とはいえ、曲がるきっかけを与えてあげれば、素直に旋回していくので、乗り慣れれば安心して身を預けられます。

ボリュームあるダウンチューブやヘッドチューブといったいかにも剛性が高そうなルックスですが、ISOスピードのおかげで拍子抜けするほど快適性は高いので乗ってみると誰もが驚いてしまうでしょうね。振動吸収性だけではなく、トラクションの向上にも効果があり、それが独特のスムーズな持ち味にもつながっているのでしょう。

「横方向への剛性もしっかりとしているので、ダンシングで踏み負けることも無い」「横方向への剛性もしっかりとしているので、ダンシングで踏み負けることも無い」 photo:Kei.Tsuji
きっとだれもが気になっている(笑)オリジナルのブレーキについては、正直全く問題ない仕上がりだと思います。デュラエースのキャリパーと比べても剛性感は高めで、硬質な感触があります。カッチリとした握り心地なので、好みは分かれると思いますが、絶対的な制動力について不満が出るひとはいないでしょう。フィーリングについてはブレーキシューを交換することでアジャスト出来る範囲だと思います。

特殊な構造の内装ケーブルですが、実使用においてワイヤリングに起因するバッドフィーリングがあるかというと、それは感じられません。ブレーキについては先ほど述べたとおりですし、シフトについても引きは軽いです。ただ、メンテナンス面では少し複雑ではあると思うので、信頼できるショップにお願いしたほうが良いでしょうね。

「褒め殺ししかできない。マイバイクに欲しくなってしまう。」奥村貴(正屋)

見た目の印象ではかなりボリュームも増していて、少し癖がありそうだなと思いながら今回の試乗に臨んだのですが、その想像は良い意味で裏切られました。自分のバイクとして欲しくなってしまうほどの高性能モデルで、褒め殺しのような感想しか出てこないです。

「褒め殺ししかできない。マイバイクに欲しくなってしまう。」奥村貴(正屋)「褒め殺ししかできない。マイバイクに欲しくなってしまう。」奥村貴(正屋) photo:Kei.Tsuji
まず、踏みだした瞬間の加速感のナチュラルさが「ああ、トレックのバイクだ」という印象です。極めてスムースで初めて乗るバイク、こんなにも趣向が凝らされているバイクにも関わらず全く違和感や不安感を抱くことなく乗ることができます。身体感覚に寄り添った、トレックイズムを感じましたね。

「予算さえ許すのであれば、新型マドンを選べば他のバイクは必要ないと思えてしまう」「予算さえ許すのであれば、新型マドンを選べば他のバイクは必要ないと思えてしまう」 photo:Kei.Tsuji以前に乗ったマドン7に比べても、各チューブのボリュームは大幅にアップしているのですが快適性に関してははるか上を言っています。それはもちろんISOスピードテクノロジーのおかげでありますが、ここまで違うとは想像もしていませんでした。複雑な構造をしている理由が納得できる性能です。

今回のテストコースでは、残念ながらペースで登れるような長い登りが無かったのですが、エアロロードでありながらヒルクライムに挑戦したくなるような軽快感を感じます。エアロモデルで心配されがちな横方向への剛性感も、私の脚力ではどれだけもがいてもパワーロスするほどのたわみを発生させることはできませんでした。

オリジナルのブレーキの出来も非常に良いですね。一世代まえのオリジナルキャリパーはすこし物足りないものがあった。でもこのモデルは凄く剛性感もあって、デュラエースのキャリパーと比べても遜色のない性能を発揮してくれます。ハンドルも専用品ですが、剛性も振動吸収性も高いスグレモノですね。

欲をいうなら、H1フィットを下位グレードでも展開してほしいですね。小さいサイズのH2フィットはポジションの自由度が低くなってしまいます。ハンドルも専用品が付いてくるので、フィッティングに関してはもう少し自由に出来ればと感じましたが、走行性能という面においては文句のつけようがないスーパーバイクです。

エモンダよりも脚に来ない優しい乗り味でありながら、ドマーネよりもレース志向に仕上がっている新型マドンは長距離のレースで特に真価を発揮してくれるでしょう。もちろん、ロングライドでもいいですし、ヒルクライムだって専用モデルに引けをとらない性能を持っています。予算さえ許すのであれば、新型マドンを選べば他のバイクは必要ないと思えるだけの満足を手に入れることができるでしょう。

ライダープロフィール



色川浩樹(オンザロード)色川浩樹(オンザロード) photo:Kei.Tsuji
色川浩樹(オンザロード)

オンザロード守谷店の店長を務める35歳。かつてはジャイアントやスペシャライズド、そしてコラテックの契約プロクロスカントリーMTBライダーとして国内トップシーンで活躍し、世界選手権やアジア選手権に日本代表選手として出場した経験を持つ。もちろんロードバイクにも通じ、現在はショップ店長として自転車の楽しさ、ダート遊びの楽しさを広めるべく活動している。

奥村貴(正屋)奥村貴(正屋) photo:Kei.Tsuji
奥村貴(正屋)

福岡市東区千早のトレックコンセプトストア「MASAYA Bicycle Works 」の店長を務める。10代半ばからMTBの魅力に取り付かれてはや20年。2001年から2006年まではMTBジャパンシリーズのエリートクラスで全国を転戦した実績を持つ。「自転車で遠くまで行ったり、山を登ったときの達成感、美味しいものを食べたときの嬉しさを伝えたい」と話す1978年生まれの36歳。
提供:トレック・ジャパン photo:Kei Tsuji 制作:シクロワイアード