まずはもとの塗装を剥がしていく剥離作業。そして同時に新たな塗装デザインを考える瞬間が何より楽しい。想像力を働かせ、とびっきりアートなバイクにするべく遊んでみよう!


オーバーホールで問題発見

デザインの話に移る前に、まずは綾野号の分解オーバーホール中に問題発見。トレック5900のヘッドパーツ下部のワンが特殊すぎて外すことが出来ない。接着構造のようなのだ。結局ヘッドパーツ下ワンが交換できない...。このバイク、市販車なのに「軽量化のためにそこまでするか!」というフォーミュラマシンだったようです。
今の流れとはちょっと違うけど、トレックの発想ってのは、当時から凄かったんだなー。

でも、雨にやられてヘッドのベアリングは完全に死んでいました。この交換も必要。トレック・ジャパンから純正のベアリング(約8,000円也)を取り寄せ、交換することに。普通の人にとって、BBやヘッドの不調はオーバーホールしなければ気づかないポイントです。再塗装までしなくとも、オフにはぜひ点検・オーバーホールを!。


元塗装の剥離作業は根気が要る!

で、アバウトなデザインが頭の中で決まってきたので、塗装の剥離作業に入る。元々のペイントを剥がしていく作業だ。鉄フレームと違い、カーボンフレームの剥離は薬剤が使えないため写真のような手作業で行っていく。

機械で大まかにサンディング中のKatsuri カーボンフレームの塗装剥離はデリケートです機械で大まかにサンディング中のKatsuri カーボンフレームの塗装剥離はデリケートです
ただ、カツリーズではほとんどのフレームを手作業で剥がしている。鉄(クロモリ)であっても、極端に年式が古いフレームや、最新の極薄パイプで製作された物は、同じように手作業に頼っている。なぜならアルミや軽量スチールの性能に、薬剤が影響を与えるからだ。最初の荒削りは250番のペーパーで、最後は400番で表面を滑らかにしていきます。

最後の仕上げは400番のサンドペーパーで仕上げていく。細かな作業は職人見 習いの米君や新保君のお仕事最後の仕上げは400番のサンドペーパーで仕上げていく。細かな作業は職人見 習いの米君や新保君のお仕事

「あ~しんどい・・・」

現在剥離作業は3人で交代しながら行っているが、1日にこなせるのは3台程度が限度。これだけでもいかに手間がかかる作業なのかが分かってもらえるでしょうか。ただしこの作業は、ユーザー自身でも行うことが可能です。自分でやるなら、制作費用の大幅な削減が可能なので、是非挑戦してみてもらいたいのです。

カツリーズでは、剥離に関する手順もアドバイスしています。また、もし近隣の方なら、作業スペースの無料提供も行っているので、是非挑戦してもらいたい作業です。自分の手で少しでも手を加えた自転車への愛着は、それはそれは大きいですから!


写真をあしらうデザイン

僕が思いついたアイデアは、フォトグラファーの綾野氏のフレームだからこそ、彼の作品をフレームというキャンバスの上に展開すること。幸い、トレックのフレームはチューブも太く、面積がそれなりに大きい。そこで彼の写真をフレームに散りばめてプリントしてしまおうというデザインを進めてみようと思う。

綾野氏から送られてきた数百カットに及ぶレース写真を見ながら、浮かんだアイデアをパソコン上で描いてみる。

「 こんなんできましたけど、どないでしょう~?(落語家風) 」


綾野氏のフォトグラフをあしらったデザイン綾野氏のフォトグラフをあしらったデザイン

デザインを送ると、綾野編集長から即連絡が。
「トレックにはプロジェクトワンというすごいカラーオーダーシステムがあるから、こりゃケンカ売ってるみたいなんで、TREKロゴを入れるのはやめてネ。お願い」。

「そりゃそうですねー(笑)」。やり直します。基本はこの線で、旧モデルだし、TREKのロゴはなくしましょう。でもポイントになるロゴがないというのも寂しいし、cyclowired.jpのロゴはセンスはいいけどバイクフレームにあしらうには線が細すぎるんですよね~。

また別のデザインを考えます。次回までまた、少々お待ち下さいませ。





カツリーズの仕事ファイル

この連載では、変臭長、あ、ちがった、編集長のお達しにより、今までカツリーズが手がけたアートなバイクやエキップメントを紹介していきます。思い出の作品の数々を、デザインしたときのワンポイント・アドバイスを交えてご紹介していきましょう。それぞれ聞くも涙、語るも涙、です。


■キング三浦氏のMUURをデザイン

MUUR LASER プロトタイプ完成MUUR LASER プロトタイプ完成
ご存じKINGこと三浦恭資さんのプライベートブランド「MUUR(ミュール)」のデザイン依頼。綾野編集長の注文も唐突だったけど、三浦さんからも突然荷物が送られてきて、逆にどこからか確認の電話があった。

「お~オレや! なんかかっこいいデザインにしてくれ!」 (←オイ)

じつはカスタムペイントは、三浦さんが最初のお客様だ。当初、メーカーで塗装するもんだと思っていたから、好き勝手に複雑なデザインを制作した。そして以下のデザインを三浦さんに提案してみた。
MUUR LASER デザイン画MUUR LASER デザイン画 MUUR 3スポークホイールデザインMUUR 3スポークホイールデザイン


そうすると翌日 「じゃ~塗ってくれ!」
「え~~~~~」

それまでは単色での塗装や、パーツにいたずらしてほぼ個人的に楽しんでいただけのレベル。しかし相手はKING...。断れば、この業界で生きていけない...って、そんな事はないんだけど(笑)、「出来ない」って言えない、損な職人気質な僕がいた。

実は当時、自転車が嫌になって...て言うか、よく「オリンピックシンドローム」なんて言葉を耳にするけど、4年の歳月を費やしたアテネオリンピックに、当時面倒を見ていた唐見実世子選手が参加してくれた事で、選手よりもコーチをしていた僕が真っ白な灰になってしまっていた。仕事も手につかず、アルコール漬けの日々。当然生活も苦しくなってくる。

そんな時 KINGが「お前もうちょっと自転車界に居ろよ」と言ってくれた。

生きていく為のお題をくれたんだって思った。三浦さんて、そんな人。だから多くの選手達に慕われるだと思うね。

写真のTTバイクはカツリーズ初のカスタムペイントです。当時はマスキングシートの知識もなかったので、通常のマスキングテープを目見当で、曲げながら製作したのを覚えている。しかし今から考えると、「よ~くこの素人に高級フレームのデザインと塗装を託したもんだ 」と、感心してます。

モトMAVICに乗ってレース現場で活躍中の園田氏特注のMUURモトMAVICに乗ってレース現場で活躍中の園田氏特注のMUUR




成田 加津利(カツリーズサイクル)成田 加津利(カツリーズサイクル) プロフィール
成田 加津利(なりた かずとし)


1967年11月27日生まれ(ブルースリーと同じ日である事が自慢)。文化系の生い立ちで美術系への進学を試みるが、ことごとく失敗。その反動で、体育会系へ転身。

高校時代にピスト競技で日本一に輝き、実業団へと進む。ツール・ド・北海道や国際大会で入賞し、平成元年に競輪へと進む。2000年に現役を引退し、現在のショップ「カツリーズ」を開業。

同時に選手指導への思いも強く、アテネオリンピック代表の唐見実世子を育成。現在も石川県のヘッドコーチを務める。メカニックとしても活躍し、現在はNIPPO COLNAGOに所属。過去にはジャパンナショナル、愛三工業、EQA・梅丹本舗・グラファイトデザイン、ブリヂストン・アンカーでもスポットでメカニックを努めた事がある。

デザイナーとしては自分が選手として参加した、石川インターハイのパンフレットや、グッドデザインにも輝いたナカガワサイクルワークスの初代チームジャージを手がけている。ちなみに現在のカツリーズサイクルのカツリは、中川茂氏が間違えて読んだ事からニックネームとして定着。開業時に相談したところ、「カツリで行け!」と、かん高い声で名付けたという(分かる人には分かる話!)。

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