自動車メーカーのスバルは、スポーツ自転車の安全な乗り方を学び、スキルアップを図ってもらおうと昨年から「スポーツ自転車教室」を開いている。第3回スポーツ自転車教室が3月25日、三重県鈴鹿市の鈴鹿ツインサーキットで開かれ、東海・関西エリアのおよそ60人が元プロロード選手らからレクチャーを受けた。今回は初の試みとして補助輪外しのクラスも設けられ、30組の親子が参加した。



スバルが主催する第3回スポーツ自転車教室には、東海・関西エリアからおよそ60人のホビーサイクリストと30組の親子が参加したスバルが主催する第3回スポーツ自転車教室には、東海・関西エリアからおよそ60人のホビーサイクリストと30組の親子が参加した photo:Masanori.ASANO
元プロロードレーサーや現役競輪選手など一流講師陣がレクチャー

スポーツ自転車教室は、すでにスポーツ自転車に趣味として乗っている人を対象にしたスキルアップクラスと、スポーツ自転車にあまり乗っていない人や初めて乗る人向けのビギナークラスの2クラスが設けられている。この日はまず「スポーツ自転車の安全な乗り方講座」という座学を受け、その後クラス別に実技講習を受けるという流れだった。

今回の講師は、株式会社ウォークライドの主任インストラクターでプロコーチの須田晋太郎さんと、元プロロード選手で現在TeamZenkoの代表を務める辻善光さんが務めた。また、サポート役にはトライアスロンやロードバイクに取り組むMCの濱田恵梨子さんや京都競輪所属の現役競輪選手らも加わった。

株式会社ウォークライドの主任インストラクターの須田晋太郎さん(左)と、TeamZenko代表の辻善光さん(右)が講師を務めた株式会社ウォークライドの主任インストラクターの須田晋太郎さん(左)と、TeamZenko代表の辻善光さん(右)が講師を務めた photo:Masanori.ASANOヘルメットの正しいかぶり方の実演も行われた。ヘルメットの正しいかぶり方の実演も行われた。 photo:Masanori.ASANO

午前中の座学では、プロジェクターを活用しながらケーススタディーなどを行った午前中の座学では、プロジェクターを活用しながらケーススタディーなどを行った photo:Masanori.ASANO
座学では、公道を安全に走るためのポイントとして、「自転車は道路のどこを走るか」「交差点の走り方」「ハンドサインの出し方」「ヘルメットの重要性」などについてプロジェクターを使いながら説明。また、いざというときの備えとして自転車保険や自動車保険などの特約などで個人賠償責任保険に加入しておくことの重要性にも話題が及んだ。

ハンドサインの話題では、須田さんは「イベントなどでたまにハンドサインを出すことに一生懸命になりすぎてフラフラ走ってしまったりブレーキのタイミングが遅れてしまう人を見かけますが、それで事故を起こしてしまっては意味がありません」と説明。さらに辻さんがこれを受け「一番大切なのは自分も安全に走ること。そういうときはハンドサインにこだわらず、声を出しましょう」と補足。講師らそれぞれの経験をもとに、初心者でもすぐに活かせる知識を分かりやすく伝えていた。



走る・曲がる・止まるの基礎を反復練習した実技講習

昼休みをはさんで行われた実技講習では、まず自転車を惰性で走らせながら前後や左右に大きく体重を移す練習から始まった。実技講習のメニューを監修する須田コーチによると「これらの動きがコーナーリングやブレーキングをマスターする上で重要」だという。

参加者の顔ぶれは、スポーツバイク経験者でも「これまで自己流でなんとなく走っていた」という方が多く、大きく重心を前後させる動作が最初はうまくできない人も多かった。しかし、コーチのアドバイスを受けながら反復するうちにコツをつかみ、多くの参加者がうまくできるようになっていった。

実技講習では、バイクの上で身体を前後や左右に大きく動かして重心をコントロールする練習からスタート。この動きが基本となるという実技講習では、バイクの上で身体を前後や左右に大きく動かして重心をコントロールする練習からスタート。この動きが基本となるという photo:Masanori.ASANO小型のパイロンを使ったスラローム練習に取り組むグループでは、スムーズに曲がれるように反復練習小型のパイロンを使ったスラローム練習に取り組むグループでは、スムーズに曲がれるように反復練習 photo:Masanori.ASANO

幅15cm程度の一本橋を渡る練習。受講生は少しずつスピードを落として難易度を高めていった幅15cm程度の一本橋を渡る練習。受講生は少しずつスピードを落として難易度を高めていった photo:Masanori.ASANO
引き続きコーナーでの走り方や目線の配り方、急制動と狙ったポイントに止まるブレーキコントロール、低いコーンを使ったスラロームなど、自転車の基本的な乗りこなしに関する反復練習に多くの時間が割かれた。

最後に実際にサーキットを周回しながら集団走行の練習も行った。公道では行えない2列併走や3人、4人での併走を体験し、最終的には20人ほどでレースでよく見られる集団走行を体験したグループもあった。

ここ数年、レースやイベントに参加するサイクリストは増加傾向にあるが、最近は初心者に限らず普段は一人で走っている方が多く、レースやイベントで集団走行を初めて体験するという方も少なくない。レースやイベントで落車事故が増えている原因のひとつはここにあると須田コーチ。

スキルアップクラスやビギナークラスは、サーキットでの集団走行も体験。まわりに人がいることを常に意識し、好き勝手なラインで走ってはいけないことを体感したスキルアップクラスやビギナークラスは、サーキットでの集団走行も体験。まわりに人がいることを常に意識し、好き勝手なラインで走ってはいけないことを体感した photo:Masanori.ASANO
コーナーリングの練習では、視線を曲がりたい方向に向けることと常に先を見ることを学んだコーナーリングの練習では、視線を曲がりたい方向に向けることと常に先を見ることを学んだ photo:Masanori.ASANO急制動で狙ったラインに止まる練習。腰を大きく後ろに引く重心移動の練習がここで役に立った急制動で狙ったラインに止まる練習。腰を大きく後ろに引く重心移動の練習がここで役に立った photo:Masanori.ASANO


「このイベントでは、集団走行することによる風よけのメリットを体感してもらいながら、集団はいつもと違って周りに他の人が走っていることや集団の中では自分勝手に走ることはできず、常に周りの人に気をつけながら走る必要があることを体感してもらっています。ここで体感したことがイベントやレースで生かされ、落車の減少につながることを願っています」



補助輪外しを通じてスポーツ自転車の認知拡大をめざす

今回のスポーツ自転車教室では、初の試みとして子どもの補助輪外しクラスが開かれた。

講師は元プロロードレーサーの辻さんや京都競輪の所属選手らが担当。まず補助輪とペダルを外した自転車をキックバイクのように走らせ、2輪でバランスをとりながら走る感覚をマスターし、それができるようになったらペダルを付けて自力で乗れるようにするという流れで行われた。飲み込みが早い子の中には30分もしないうちに乗れるようになった子もいた。

補助輪外しクラスでは、辻さんや京都競輪の現役選手、MCの濱田さんが講師を務めた。補助輪外しクラスでは、辻さんや京都競輪の現役選手、MCの濱田さんが講師を務めた。 photo:Masanori.ASANO
補助輪外しのクラスを開催した狙いについて、主催者は「車のドライバーである親世代にスポーツ自転車の存在を知ってもらうことにある」という。「今回参加された親子は、スポーツ自転車と接点がない方もいらっしゃいます。補助輪外しクラスを通じ、こういった方にもスポーツ自転車について理解を深めていただきたいと考えています」



自動車メーカーが自転車教室を開く意味とは?

スポーツ自転車教室は、スバルの参加型イベント「スバル・アクティブライフスクエア」の一環で、車を活用しながらスポーツ自転車に趣味として取り組むことで、よりアクティブで豊かな人生を楽しんでもらおうというもの。昨年3月に始まり、今回が3回目の開催となる。

スバルは自転車競技のサポートを積極的に行っており、国内のロードレースシーンではマヴィックのニュートラルカーやプロツアーチームのチームカーとして採用されている。さらにホビーサイクリストの間でもスバル車のユーザーである“スバリスト”は少なくない。サイクリストにとってはおなじみのブランドと言っても過言ではない。

自動車メーカー・スバルのイベントらしく、実車を使ってドライバーからの死角に関する説明も行われた自動車メーカー・スバルのイベントらしく、実車を使ってドライバーからの死角に関する説明も行われた photo:Masanori.ASANO
自転車競技とのゆかりも深いスバルがスポーツ自転車教室を開くのは、クルマと自転車というともに車道を走る乗り物が、お互いに気持ちよく走るための環境を作るのが狙いだという。そのことを象徴するように、このスポーツ自転車教室では単なるスキルアップのための教室ではなく、「公道を安全に走るための知識やスキルを身につけ、それをイベント参加時にも応用できるようにする」ということに主眼が置かれているのが特徴だ。

一般的な自転車教室とは違い、基本的な走行テクニックをマスターするだけでなく、事故を起こさない走り方や万一の際の備えについて学ぶ。実際のクルマを使ってドライバーからの死角についてレクチャーしているのもその一環だ。

クルマと自転車が道路をシェアするという意識を醸成していくことに対して、自転車業界ではなく自動車メーカーが取り組んでいることにこのイベントの価値がある。

text&photo:Masanori.ASANO