今年も開催された「タロコ」こと「第4回MAXXIS太魯閣国際ヒルクライム2015」。日本から50名も参加した世界屈指のヒルクライムイベントの様子を、過去2回出場の経験を持ちこのイベントの魅力に取り付かれている実走派ライターのハシケンのレポートでお届けします。



国内では考えられないような壮大なスケールの太魯閣国際ヒルクライム国内では考えられないような壮大なスケールの太魯閣国際ヒルクライム photo:Kenji.Hashimoto
誰が言ったか、「タロコを走らずしてヒルクライムを語るな!」と。タロコとは、台湾の国家公園に指定される大自然が広がる「太魯閣国家公園」のことだ。ここを舞台に世界最大のスケールを誇るヒルクライムレースが開催されている。海抜0m地点から、一般道の東アジア道路最高地点である標高3275mの武嶺(ウーリン)までを一気に駆け上がる。今年の参加者は1000人、台湾在住者も含め日本人は約50名が参加した。

獲得標高3620mと言われてもピンとこない人も、国内人気レースの乗鞍ヒルクライムの3倍の標高差と聞けば想像しやすいはずだ。距離は、国内のヒルクライムレースが10〜25kmほどのところ、なんと90kmだ。しかも、ラスト約10kmは、平均勾配10%に迫る激坂とくる! 国内最高難易度で知られる富士山のあざみライン(距離11.4km、平均勾配10%)が、80km上った先に待ち受けている感じだ。総獲得標高は3620mに上る壮大すぎるコース……。初めて聞いたときには、まさに空いた口が塞がらなかった。

ヒルクライムのスペックを並べるだけでも、このコースがいかに厳しく、チャレンジしがいのあるコースであることがわかってもらえるはずだ。

Mt.富士ヒルクライム
距離:24km
平均勾配:5.2%
獲得標高差:1255m
スタート地点:1051m
ゴール地点:2306m
乗鞍ヒルクライム
距離:20.5km
平均勾配:6.1%
獲得標高差:1260m
スタート地点:1460m
ゴール地点:2720m
太魯閣国際ヒルクライム
距離:89km
平均勾配 ―
獲得標高差:3620m
スタート地点:0m
ゴール地点:3275m



受付を済ませた日本人選手受付を済ませた日本人選手 photo:Kenji.Hashimoto受付の様子受付の様子 photo:Kenji.Hashimoto

台湾料理に舌鼓を打つ台湾料理に舌鼓を打つ photo:Kenji.Hashimoto長いので分割されたコースマップ長いので分割されたコースマップ photo:Kenji.Hashimoto


この大会の仕掛人は、タイのチェンライ国際MTBチャレンジレースなど、アジア各国で自転車やオートレースなどのイベントを20年近く手がける日本人の笹忠之さん(R-1ジャパン)だ。現地とのパイプを持ち、新城幸也選手や福島晋一さんらとも親交のある人物だ。太魯閣ヒルクライムは2010年に初開催。「イベントを通じて、台湾と日本の交流を大事にしていきたい。そして、アジアを舞台に様々な国の人が参加する国際色豊かなヒルクライムに成長していければ」と笹さん。

カテゴリーは脚力や参加者の志向に合わせて3つを用意。海抜ゼロメートル地点から太魯閣渓谷を抜け、終盤の激坂を攻略した先の東アジア一般道最高地点を目指す「インターナショナル」(89km)。終盤の激坂こそないが、スケールの大きな大自然の険しい山岳を満喫できる「チャレンジ」(74km)。緩いアップダウンの続く太魯閣渓谷を満喫できる初心者でも安心の「サイクリング」(24km)。初年度の参加者は200人程度だったが、年々地元でも認知され出し、4回目の開催となった今年は1000人がエントリー。ちなみに各カテゴリーの詳細は以下のようになっている。

インターナショナル
距離89km
ゴール地点標高3275m(武嶺)
獲得標高3350m
チャレンジ
距離74km
ゴール地点標高2374m(関原)
獲得標高2420m
太魯閣サイクリング
距離46km
折り返し地点(天祥23km)
獲得標高480m


花蓮亜士都飯店に宿泊した花蓮亜士都飯店に宿泊した photo:Kenji.Hashimoto日本人参加者専用のバスが仕立てられていた日本人参加者専用のバスが仕立てられていた photo:Kenji.Hashimoto

前日の競技ブリーフィングが行われた前日の競技ブリーフィングが行われた photo:Kenji.Hashimoto自転車は専用のキャリア付きトラックにて搬送される自転車は専用のキャリア付きトラックにて搬送される photo:Kenji.Hashimoto


レース2日前にタロコの拠点になる花蓮(ファーリェン)に入った。6月下旬の台湾は連日気温が30度を超え、しかも湿度が高いので、街中でただ歩いているだけで滝の汗だ。宿泊の拠点となる花蓮の街中から、スタート地点の太魯閣渓谷の入口までは20kmほど離れている。そのため、レース当日は花蓮市内のホテル(花蓮亜士都飯店)から発着する日本人参加者向けの往復バスサービスを利用。ちなみに、亜士都飯店では、前日受付や競技ブリーフィングも行なわれた。

レース当日、まだ夜明け前の4時にバスに乗込む。バイクはスタンド付きの専用トラックで現地へ運んでくれるので安心だ。バスの中では、みな寝静まって静寂が包む(笑)。バスに揺られること30分ほどで会場入り。ゴール地点への荷物を預けたり、日本人同士で記念写真を撮ったりして、6時のスタートを待った。

すでに太陽が顔を出して、今年は暑さとの戦いになることを覚悟。太魯閣渓谷入口までの約3kmのパレード走行後、リアルスタートだ。レースはとにかく長いのでマイペースで走る以外に選択肢はない。インターナショナルクラスは、トップ選手で4時間前半、ゴール関門時間が14時なので8時間の長丁場。せいぜい1〜2時間で終わる日本のヒルクライムとは別物だ。

一斉にスタートしていく参加者たち一斉にスタートしていく参加者たち photo:Kenji.Hashimoto
タロコは左!タロコは左! photo:Kenji.Hashimoto大きな橋を渡っていく大きな橋を渡っていく photo:Kenji.Hashimoto


前半のハイライトシーンは、大理石の浸食によって深くえぐられた渓谷美だ。渓谷沿いを縫うようにトンネルをつないだ道は、一歩間違えば谷底(笑)。まさにアドベンチャーヒルクライム。まだまだ勾配は緩く、そこを集団のハイペースに身を任せて気持ちよく駆け抜けていく。

この渓谷は、太魯閣サイクリングクラスの折り返し地点である天祥まで約25kmにわたり続く。最初のエイドステーションは太魯閣渓谷から本格的な山岳に入った先にある西賓(30km地点)。スタートから1時間半が経過。まだ7時30分だというのに真夏の朝陽が厳しい! 

ボトルに水を満たして、一度頭からかぶって回復させる。エイドステーションといっても、水のみのエイドが半数。全長89kmの間に、バナナやパン、洋菓子などの軽食が出るエイドは3カ所あるが、これだけでは十分とはいえない。自分自身で補給食を用意して賢く走らなければゴールまではたどり着けない。日本のイベントが至れり尽くせりなことを実感する瞬間ではあるけれど、こういったサバイバルな感覚も刺激的で楽しい。

ごつごつとした岩の谷間を行く序盤ごつごつとした岩の谷間を行く序盤 photo:Kenji.Hashimoto女性もぐいぐい登っていきます女性もぐいぐい登っていきます photo:Kenji.Hashimoto
トンネルも多いトンネルも多い photo:Kenji.Hashimoto補給に列をなす参加者たち補給に列をなす参加者たち photo:Kenji.Hashimoto


49km地点の新白陽エイドまでは標高をグングン上げていく。岸壁に沿って上ってきた道路が眼下に広がる。すでに約4時間近く上り続けてきた。日本では絶対に体感できないロングヒルクライムの境地だ。すでに大きな達成感を感じつつも、まだゴールまで40kmもあることに気が遠くなる(笑)。

中盤は傾斜のタイトなコーナーも多い。コーナーのアウト側にラインをとって、脚へのダメージを抑えながら走ることがポイント。もちろん、レース中も交通規制はしていないので、センターラインをはみ出して走ることはできない。

また、コースには多くの地元チームのチームカーが並走している。台湾ではホビーレースチームでも、スペアホイールなどを積載したチームカーを用意しているチームが多い。彼らは走りながら補給食やドリンクのサポートを受けていてうらやましく感じる。来年は「チーム・ニッポン」のサポートカーを走らせたい!

ひたすら上り続けること70km弱。気がつけば、ガーミンエッジ1000Jの標高は2000mを突破。チャレンジクラスのゴール地点・關原(74km)に向けて一端3kmほどの下りが待っている。ここまでせっかく上ってきたのに下りとは……。再度登り返してチャレンジクラスはゴールを迎える。

標高2000m、2500m地点は17km先。標高2000m、2500m地点は17km先。 photo:Kenji.Hashimoto
脚力によってラインが違ってくるヘアピン脚力によってラインが違ってくるヘアピン photo:Kenji.Hashimoto押しても全然問題なし!押しても全然問題なし! photo:Kenji.Hashimoto


インターナショナルクラスの本当の勝負は關原から! ここからゴールまで容赦なく激坂が連続する。ここまでに脚にきてしまっているようでは蛇行必至だ。蛇行ならまだ良いほうで、バイクの押しが入る参加者がまわりに急増しだす。シューズを脱いで一歩ずつ歩きで進める女性参加者は、もう諦め顔だ。チャレンジクラスなら勢いだけで挑戦することもおすすめだけど、インターナショナルクラスを完走するためには、日頃から最低限のトレーニングを積んで身体を作っておく必要がある。

おそらく、勢いだけで挑戦しても後悔することだろう(笑)。それなりの準備をして、脚力と精神力を身につけた“真の坂バカ”だけに最高地点への道が開かれる。だからこそ、タロコは完走することに大きな価値があるのだ。

いよいよレースもクライマックスへ。80kmを超えると森林限界を突破して風景が一変。酸素の薄さに集中力が低下しだし、視界がぼんやり!? 照りつける太陽が体力を奪っていく。残り6km地点、最後の補給所でひと休憩を入れて気合いを入れ直す。

九十九折れが先に見えると頂上は近い九十九折れが先に見えると頂上は近い photo:Kenji.Hashimoto
標高が上がるにつれ植生に変化がみられる標高が上がるにつれ植生に変化がみられる photo:Kenji.Hashimoto雄大な山をバックに登っていきます雄大な山をバックに登っていきます photo:Kenji.Hashimoto


正面に九十九折れの急坂が目に飛び込んでくると、いよいよ一般道東アジア最高地点の武嶺(ウーリン)は近い。気を緩める隙を見せれば、激坂にハンドルを取られてしまうので最後まで集中力を維持!

今年は一眼カメラで撮影しながらのチャレンジになったが、さすがに最終盤20%を超える激坂区間は撮影のことよりゴールへたどり着くほうに気持ちが向いてしまった(笑)。ゴールタイムは6時間45分。一言、とにかく長かった……。3度目の挑戦となった今回も変わらないハードさと達成感。

過去10年間で数々の国内ヒルクライムレースを走ってきたが、到底日本では体験することのできない素晴らしい体験がタロコにはある。国内のヒルクライムでは刺激が足りない人や、世界のヒルクライムを体感してみたい人には、ぜひおすすめしたい。

長い旅路おつかれさまでした!長い旅路おつかれさまでした! photo:Kenji.Hashimoto一般道東アジア最高地点の武嶺の石碑一般道東アジア最高地点の武嶺の石碑 photo:Kenji.Hashimoto

3度目の登頂!3度目の登頂! photo:Kenji.Hashimotoフィニッシャーはみんな金メダルです!フィニッシャーはみんな金メダルです! photo:Kenji.Hashimoto


ゴール後に各自の完走タイム入りの完走証と完走メダルが送られた。今年の大会では、計測は完走タイムのみので、順位はつけないサイクリングというスタイルをとった。これには、主催者の「一部のトップレーサーだけでなく、完走するだけで価値のあるハードなコースに、より多くのサイクリストにチャレンジしてもらいたい」という考えがある。

タロコ(とくにインターナショナルクラス)には、そう言えるだけの難易度があるのだ。もちろん、全体の中で自分のレベルを知りたい参加者からは、順位をつける要望があることも確かだ。来年の大会に向けて、より魅力的なイベントに進化していくことだろう。



太魯閣国際ヒルクライムにチャレンジした日本人参加者たちを紹介。

ポタガール埼玉の栗原育美さん、後口沙織さんとキクミミさんポタガール埼玉の栗原育美さん、後口沙織さんとキクミミさん photo:Kenji.Hashimoto
(左から)今回日本人女性で唯一インターナショナルクラスを完走した栗原育美さん。今年のハルヒル年代別優勝のクライマーだ。「もう一度はいい!って言うくらいキツかったです。デジカメで景色を撮ろうとしたけどできませんでした。とにかく90kmは果てしなく長かったです」。

栗原さんと同じくポタガール埼玉の後口沙織さんは、「とにかく暑さが堪えました」と惜しくも山頂まではたどり着けなかったが、チャレンジコースまでは完走。来年も山頂に再チャレンジ!?
キクミミさんもタロコに初参戦。持ち前の脚力を発揮して完走! 台湾でも人気者でした。あの暑さの中、あの正装で走りきった根性はさすがです。

今回日本人最年長の61歳で完走した伊藤健一さん今回日本人最年長の61歳で完走した伊藤健一さん photo:Kenji.Hashimotoマンガ『南鎌倉高校女子自転車部』作者の松本規之さんマンガ『南鎌倉高校女子自転車部』作者の松本規之さん photo:Kenji.Hashimoto大阪のサイクルショップ銀輪亭の仲間5人で参加した塩田廣大さん(左)、増田勇介さんら大阪のサイクルショップ銀輪亭の仲間5人で参加した塩田廣大さん(左)、増田勇介さんら photo:Kenji.Hashimoto


6時間33分で完走した桑野雅利さん。「ギアは36T×28Tで挑んだが、30Tはほしかったです。終盤の激坂は想像以上で後半ペースダウンしてしまいました」。来年はリベンジ!?

マンガ『南鎌倉高校女子自転車部』の作者の松本規之さんがチャレンジクラスに初参加。「今後のマンガの題材のひとつになればという思いもありチャレンジしました。まさに冒険的ヒルクライムというべきイベントでした。大理石の深い渓谷、断崖絶壁、絶景、そして何十キロと上っても終わらない坂道(笑)。日本では味わえないものが多くありました。途中でリタイアしてしまいましたが……面白かったです!」

今回日本人最年長の61歳で完走した伊藤健一さん。「これまで国内のヒルクライムは多く参加してきたけれど、タロコは走って完走するだけで自慢ができる」と参加を決めた。バイクは5.2kgまで気合いの軽量化を施して挑んだ。

「チャレンジクラスのゴール地点以降がキツすぎて、3〜4回脚を付いてしまい、途中で引き返そうとも思いましたよ。7時間30分は長かったです(笑)よく王滝MTBには参加しているけれど、タロコのほうがキツいです。標高も高いし、酸欠で目の前が霞んでいましたよ(笑)。がんばって山頂までたどり着けたので最高です!」

大阪のサイクルショップ銀輪亭の仲間5人で参加した塩田廣大さん(左)、増田勇介さんら。塩田さんは、「同じくらいのペースの台湾人と片言でコミニュケーションを取りながら一緒にがんばりました。後半は、激坂を前に何度も足を止めることはありましたが、森林限界を超えた山々を眺めたり、高山植物の花を愛でたりしながら気分よく登れました。足は着きましたが、歩かずにフィニッシュで出来たことは嬉しかったです。気候も下と上ではまったく違うことなど、走った人にしか分からない体験が待っています!」

終盤の難所に苦しみながらも完走を果たした鎌田裕司さん: photo:Kenji.Hashimoto終盤の難所に苦しみながらも完走を果たした鎌田裕司さん: photo:Kenji.Hashimoto photo:Kenji.Hashimoto
終盤の難所に苦しみながらも完走を果たした鎌田裕司さん。「50km地点くらいまでは体力的にも、時間的にも完走は余裕かなという感じでしたけど、70km以降に苦しみました。ラスト10kmはほとんど10%以上の坂なんですね。ここだけで1時間以上かかってしまいました。それでも、これまでよりは、回転重視でペダリングができて脚をつらなかったことが完走につながりました。長時間のヒルクライムですが、一番高い場所までたどり着けた達成感が大きいです」

text&photo:Kenji.Hashimoto
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