いよいよ最初のグラベルに突入した5人の女性ライダー。序盤こそ順調に見えたものの、チェーン切れ、ミスコース、そして疲れでバラバラになりはじめる仲間たち…。ハードなコースを進むTeam BNPには次々と試練が襲いかかります。



「これは…行けるぞ。」

昔見たガンダムのアムロの台詞のようなものが頭に浮かび、脚を止めずにとにかく回す。集中しすぎて呼吸をわすれないように、苦しくても、息はする。

すると、わたしの背中に大きな手が添えられた。…えっ?ナニ?でっかい外国人が私の背中を押してくれるらしい。だがしかし。ペースが速い!

あのね、ご好意はとっても嬉しいんだけど、アナタのペースで脚を回し続けることが、私にとってはたいへんなのよーーーーーー!って言いたい、けど英語で言えない。たぶん日本語通じない、けど、日本語でも無理。声が出ない。もう必死。この日いちばん必死になった。心拍計、つけてなかったけど、190はオーバーしてたと思う。

後ろではマリちゃんも押してもらってるらしく、英語でどこから来たん?とか聞いてる。えらいわー。ちはるこは押してもらってないみたいだ。You are strong.と一蹴されたらしい。オーストラリア人もアスリートかそうでないかは見て分かるんだな。さすがだ。ちはちゃん、それは褒め言葉やで。

代わる代わるこのオーストラリア人部隊3名ほどのジェントルマンに背中を押してもらい、と言っても、ほとんど押されてる感無い程度に脚を回し続け、グラベルをクリア!一度も脚をつかなかったのえらい!やった!サンキュージェントルマン!あなたたちこそ強さを優しさに使える紳士たちだわ!私に彼が居なかったらインターナショナルな恋が芽生えてもおかしくない局面であった。これこそがRGR。(チガウそうじゃない…(以下略))

お礼を言って、彼らと別れ、ひと息。補給をとりながら後続のチームメイトを待つ。

ここで衝撃の一報をうけとる。
『この下でチームの方、チェーン切れてましたよ』

なんだってーーー!?!?!?

パンクならまだしも、チェーンか。まだピークに来てないのはにゃおちとやましょうだ。トラブルはどっちだ。

チームでチェーンカッターとコネクトピンを持っているのは私だ。リーダーちはること顔を見合わせ『行くしかないね』『もう一回ここ登るんかー』マリちゃんをピークに残し、下山。ほどなくにゃおちをゲット。ほぼ登り切っていた。が、一緒に下ってくれると言う。すれ違う他のチームの皆さんに「うちのチーム員、まだ下ですか?」と聞きながらーーーー内心、どこまで下るんだろう、と。

途中、すれ違った方から「他のチームの方が手を貸して、作業してましたよ」と教えてもらい、私達の目的はやましょうを迎えにいくことだけになった。ありがとうチームベロベロのジェントルマン。やましょうはここで恋が芽生えてもおかしくない局面だったのだがーーーどうやら彼女にその余裕はなかったらしい。






私達が自転車を押し歩くやましょうと合流できたのはほぼグラベルの入口に近いところだった。『乗った方がいいよ』とちはるこに促され、再び自転車に跨がるやましょう。さっき私達がオーストラリアから来たジェントルマンたちにしてもらったように、ちはるこがやましょうの背中に手を添える。にゃおちとわたしはできるだけゆっくり、もう一度グラベルを登った。おかわり開始。まさかグラベルをおかわりすることになるとは思わなかったが、これもまたRGRだ。

ピークで待っててくれたマリちゃんに迎えてもらい、全員、グラベルをクリア。

下りはきもちよーく下れるかと思いきや、路面には針葉樹の小枝や落ち葉が堆積し、日陰はしっとりと苔むしているところもある。細心の注意を払ってコーナリングする。それでも私は下りが好きだ。少し長い下りのセクションが終わるとまた細かい登りの繰り返しが待っている。その小さな登りのひとつひとつで遅れ、九十九折りから見下ろすと、時に押し歩く姿が見えるやましょうは大丈夫だろうか…

一方、初参加でこちらも心配の種ではあったマリちゃん、今年は特に雪深かった野辺山で暮らしながらこの日のために走れる時間を見つけては走りにでていた。わたしたちはstravaにグループを作りお互いの走りを見ていた。みんなそれぞれ走れる環境が違う中でのことだから、そのことを敢えて話題にすることはなかったが、たった20数kmしか走ってなくてもその獲得標高が600mと見て『さすが野辺山』と彼女の環境をうらやんでもいたし、彼女のがんばりは一緒に走れなくてもデータから伝わっていた。

ただ、今日のこの日が彼女にとって初めて走る長距離、初めての長時間のライド、それが未知数だったのが心配だった。なるべく待たせずに先へ進めてあげたい。この先、まだあるかもしれないキツい局面での完走へのモチベーションを保つためにも。

ちはるこはピークまで行ってはやましょうを拾いに下る、ということを繰り返し、その度に背中を押した。押されるやましょうは、押してもらいながらもそのペースに合わせることで脚を使うだろう。堪えきれず脚をつき、しばらく歩き、また乗る、という繰り返しだった。自転車は、たとえ背中を押してもらったとしても、漕ぐのは自分。その力の100%を助けてもらえることはまずない。

60km弱走った時点での経過時間がスタートからほぼ6時間後の正午だった。

114km地点にあるチェックポイント2での足切り時刻は午後4時半。あと4時間半で54km走らなくてはならない(ゴールはそれよりさらに25km先だが)。これまで通りのペースで走っていたのでは間に合わないが、ここまでの疲労がある分、これまで以上にペースを上げるのも難しい。完走は、厳しいかもしれない、と思いがよぎる。

それでもマリちゃんはあまり大きく離れてしまわない程度に先へ進むことを選択し、わたしたちはやましょうを待った。待って脚を揃え、やましょうを先へやり、後ろからついて行ってもみるが、わたしたちに可能な低い速度での走行を超えてさらにゆっくり。なので、自然と最後尾がやましょうになってしまう。






ピークでやましょうを待つ間、私達は思い思いにやっておきたいことを済ませる。撮った写真をInstaにアップしたり、補給食を食べたり、キューシートを確認したり。私は補給食を食べて出たゴミを片付けて、ボトルケージに入れた『おやつ箱』(ツール缶)から新しいおやつを背中へ移す。ちょっとしたことだけど、走りながら食べるためにこれをやっておくことで脚を止める回数が減る。

今回のコース、もちろん山深いエリアを走っているのだけれど、そのコースのほとんどはコース脇に必ず水がある。川が流れているのだ。光と空気がきれいで水が流れる音が聞こえるというのはそこに身を置くだけで心が洗われるようであり、この土地の水の豊かさをことさらに感じる。火の國くまもと、という言葉を聞いたことがあるが、なんの、水も豊かな場所である。

わたしたちは清流の脇を遡る。その流れが山を登るにつれてだんだんと細くなり、次の集落に下った時には川の流れがさっきと反対に、私達とともに下流へ向かうのを見た。

先行していたマリちゃんからちはるこに連絡が入る。今いる場所が合っているか分からなくなったようだ。そして、私達もガーミンのマップ情報が揃って『Off Course』の表示となる。脚を止め、ガーミンのデータを睨みながら来た道を引き返す。

正しいルートはここを入るんだな、というところまでは分かったが、後ろにいるはずのやましょうも追いついてこない。先へ行ったマリちゃんの居所も分からない。これは…やましょうは後からでも追いついてくれれば良いのだが、マリちゃんは探しにでかけないとダメか。

しばし連絡を待つ。かなりの時間待ったが、やましょうも追いついて来ない。ちょっと嫌な感じがするくらい待っても来ない。下り区間だったから大丈夫だと思ったけど、一カ所、曲がるところがあった。

にゃおちとちはるこには待っててもらい、ちょっと戻ってみる。曲がったところまで戻って、もし反対に曲がっていたとしたら…とその先に目をやると、いた!自然界にはないはずの光に近いピンクのラインが木々の向こうにほんの小さく見えた。その先はトンネルになっている。間に合うか。「やましょーそっちじゃない!」叫んでみるけれど、その背中はトンネルの中へ消えたようだ。

トンネルになっているということは、多少は登っているのか、また、その先へ抜けてしまうと下ってしまうのか。彼女が余計な脚を使う前に、捕まえたい。渾身の力で後を追う。さっきのグラベルの次にキツいと思うくらい踏んだ。

トンネルに入り、向こう側へ抜けようとする彼女と思しき影を見つけて「そっちじゃないよ!戻ってー」。今度は聞こえたらしい。

やましょうはガーミンのマップデータが読み出せてなかったらしく、キューシートを頼りに走っていたという。この時道を間違えたポイントというのが、今回唯一、キューシートで訂正の入った箇所だった。

羊飼いの犬のように、やましょうを群へ戻し、連絡はとれたがまだ戻らないマリちゃんを待つのをちはることにゃおちにお願いして、やましょうと先へ進む。『ハイキングコース→』という看板をみつけ、あぁキューシートにあったな、と看板の通り右へ激坂を登ったが、Off Course。なんだよ。違うのかよ。と再び下って元の道へ。ガーミンのGPSはタイミングが悪いとうまく拾わないから要注意、という場面に何度も出くわした。

でもそれも、みんなでする探検、冒険には楽しいエッセンスだ。ひとりじゃなければ、ね。やましょうも、マリちゃんも、それぞれひとりで知らない場所でどんなに不安だっただろう。ほどなくしてマリちゃんも無事みんなと合流してこちらへ向かって動き出したようだ。

チームはなるべく離れたくない。けれど、これほどまでに脚の差があるのは予想外だった。いくら自転車が『心で乗る』ものだと言っても、モチベーションだけで動かせる身体の能力には限界がある。やはり、それなりに積み上げたものがなければこのコースを走り切るのは難しい。あらためてそれを知ることになっている。

再び登り基調に転じた。マリちゃん、ちはるこ、わたし、が自然にまとまって、にゃおちがやましょうと離れないように走る構成になった。

text:Miho.Ishii