ツール・ド・スイス(UCIプロツアー)の最終第9ステージ、個人タイムトライアルでファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク)がステージ優勝、ならびに逆転の総合優勝に輝いた。奇しくもレース開催地はカンチェラーラの地元ベルン。ゴール後、カンチェラーラは妻子と抱き合い、泣いた。

地元だけに熱烈な応援を受けるファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク)地元だけに熱烈な応援を受けるファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク) photo:www.tds.ch最終日はスイス中部のベルンで行なわれる39kmの個人タイムトライアル(以下個人TT)。コーナーが絶えず登場するテクニカルなコースで、途中には石畳の上りも登場する。地元ベルンが生んだ最強TTスペシャリストのカンチェラーラを一目見ようと、沿道には沢山の観客が詰めかけた。

チームメイトのシュレク兄弟(ルクセンブルク)の失速により、総合優勝狙いに切り替えたカンチェラーラは、山岳ステージでタディ・ヴァリャベッチ(スロベニア、アージェードゥーゼル)を抑え込むことに成功。地元で錦を飾るべく、モチヴェーション高くレースに挑んだ。

圧倒的な独走力を見せつけ、総合優勝に輝いたファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク)圧倒的な独走力を見せつけ、総合優勝に輝いたファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク) photo:www.tds.ch第8ステージを終えた時点で、総合首位ヴァリャベッチとカンチェラーラのタイム差は僅かに4秒。ステージ優勝候補のカンチェラーラが圧倒的に有利な状況だ。

大歓声に包まれるコースで、スイスチャンピオンジャージを着るカンチェラーラは序盤から飛ばしに飛ばした。それまで暫定トップに立っていたトーマス・デッケル(オランダ、サイレンス・ロット)の中間計測タイムを次々と更新し、更には2分前にスタートした総合3位のロマン・クロイツィゲル(チェコ、リクイガス)までも捉えた。

2分前にスタートしたロマン・クロイツィゲル(チェコ、リクイガス)を捉えるファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク)2分前にスタートしたロマン・クロイツィゲル(チェコ、リクイガス)を捉えるファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク) photo:www.tds.chカンチェラーラは平地と下りで攻め込み、上りでペースを抑える走法。追い抜いたクロイツィゲルに上りで追いつかれる場面も見られたが、平地で踏みなおしてゴールへ。すでに下位を1分以上引き離していることを聞かされていたカンチェラーラは、個人TTとしては珍しく両手を挙げてゴールに飛び込んだ。

ゴール後、カンチェラーラは駆けつけた妻子と抱き合い、涙にくれた。「ホームグラウンドで勝つなんて特別な気持ちだ。正直に告白すると、沿道の観客たちの熱い声援がヒシヒシと伝わってきて、レース中は鳥肌が立っていた」と語る。地元の声援が大きな後押しになったようだ。

妻子と抱き合うファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク)妻子と抱き合うファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク) photo:www.tds.chこれまで世界選手権個人TT通算2勝、北京五輪個人TT優勝、スイス選手権個人TT通算6勝を始め、ツール・ド・フランスでステージ通算2勝、パリ〜ルーベとミラノ〜サンレモ優勝という輝かしい戦歴を残すカンチェラーラ。

このツール・ド・スイスでは2007年から3年連続でステージ2勝を飾っているカンチェラーラだが、その重厚な体格が山岳での走りを妨げるため、ステージレースで総合優勝争いに絡むことは少ない。ステージレースでは、昨年のティレーノ〜アドリアティコに続く総合優勝だ。

ステージ2位、総合2位のトニ・マルティン(ドイツ、チームコロンビア)ステージ2位、総合2位のトニ・マルティン(ドイツ、チームコロンビア) photo:www.tds.ch「ツール・ド・スイスが開幕した時点で、総合優勝の可能性なんて全く考えもしなかった。でもチームメートの支えと、僕自身の調子の良さで総合優勝に手が届いた。僕にとってもチームにとっても、特別な1週間だったよ。支えてくれたチーム、観客、そしてスポンサーに感謝したい」。地元が生んだ王者の活躍に会場は沸いた。

今シーズンカンチェラーラはツアー・オブ・カリフォルニアのプロローグを制したが、その後は怪我や体調不良で低迷。ツール・ド・フランスを前に、ようやく本来のカンチェラーラが戻ってきた。ツールでは、今回のスイスでアシストに回ったシュレク兄弟の強力なアシストとしての活躍が期待される。そして自身の個人TT勝利にも注目が集まる。

ステージ7位、総合3位のロマン・クロイツィゲル(チェコ、リクイガス)ステージ7位、総合3位のロマン・クロイツィゲル(チェコ、リクイガス) photo:www.tds.chこの日ステージ2位に入ったのは、ピンクの山岳賞ジャージを着て走ったトニ・マルティン(ドイツ、チームコロンビア)。カンチェラーラと同様に、TTスペシャリストながら山岳でも遅れない走りで総合上位をキープし、最終個人TTで総合4位から2位にジャンプアップした。

チームコロンビアはステージ6勝、山岳賞、総合2位という申し分ない成績を残し、ツールに向けて勢いに乗る。このスイスを調整レースと位置づけて走ったマーク・カヴェンディッシュ(イギリス)は最後まで走りきり、総合115位でレースを終えている。

最終総合トップスリー、左から3位ロマン・クロイツィゲル(チェコ、リクイガス)、優勝ファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク)、2位トニ・マルティン(ドイツ、チームコロンビア)最終総合トップスリー、左から3位ロマン・クロイツィゲル(チェコ、リクイガス)、優勝ファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク)、2位トニ・マルティン(ドイツ、チームコロンビア) photo:Cor Vos終盤の山岳ステージで何度もアタックを仕掛けたクロイツィゲルは、ステージ7位で総合3位。大会連覇はならなかったが、リクイガスのチームリーダーとしての脚を再び世界に示した。個人TTよりも山岳ステージの比重が高い今年のツールでは、マイヨブランのみならず、総合上位に絡んでくるだろう。

選手コメントはチーム公式サイトより。

ツール・ド・スイス第9ステージ結果
1位 ファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク)45'59"
2位 トニ・マルティン(ドイツ、チームコロンビア)+1'27"
3位 トーマス・デッケル(オランダ、サイレンス・ロット)+1'42"
4位 マークス・ブルグハート(ドイツ、チームコロンビア)+1'43"
5位 シルヴァン・シャヴァネル(フランス、クイックステップ)+1'48"
6位 キャメロン・マイヤー(オーストラリア、ガーミン)+1'50"
7位 ロマン・クロイツィゲル(チェコ、リクイガス)+2'00"
8位 ブリアン・ヴァントボルグ(デンマーク、リクイガス)+2'02"
9位 アンドレアス・クレーデン(ドイツ、アスタナ)+2'09"
10位 トル・フースホフト(ノルウェー、サーヴェロ)+2'14"

最終個人総合成績
1位 ファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク)33h05'51"
2位 トニ・マルティン(ドイツ、チームコロンビア)+2'02"
3位 ロマン・クロイツィゲル(チェコ、リクイガス)+2'24"
4位 アンドレアス・クレーデン(ドイツ、アスタナ)+2'50"
5位 ウラディミール・カルペツ(ロシア、カチューシャ)+3'18"
6位 ダミアーノ・クネゴ(イタリア、ランプレ)+3'23"
7位 タディ・ヴァリャベッチ(スロベニア、アージェードゥーゼル)+3'45"
8位 レイン・ターラマエ(エストニア、コフィディス)+4'04"
9位 キム・キルシェン(ルクセンブルク、チームコロンビア)+4'04"
10位 マキシム・モンフォール(ベルギー、チームコロンビア)+4'08"

ポイント賞
ファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク)

山岳賞
トニ・マルティン(ドイツ、チームコロンビア)

中間スプリント賞
エンリーコ・ガスパロット(イタリア、ランプレ)

チーム総合成績
サクソバンク

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