最後の山岳ステージ、総合争いのクライマックスとなったジロ第20ステージは話題の未舗装の峠、フィネストレ峠が登場する。そしてセストリエーレの峠を登りつめてフィニッシュする。早めの逃げに加わったヴァシル・キリエンカ(ベラルーシ、モビスターチーム)がフィネストレ峠でアタック。ゴールまで独走し、2008年ジロに続く2度目のステージ勝利を飾った。

フィネストレ峠で独走するヴァシル・キリエンカ(ベラルーシ、モビスターチーム)フィネストレ峠で独走するヴァシル・キリエンカ(ベラルーシ、モビスターチーム) (C)RCS Sports

観客が詰めかけたフィネストレ峠観客が詰めかけたフィネストレ峠 photo:Kei Tsuji未舗装区間を含む1級山岳コッレ・デッレ・フィネストレは、2005年以来6年ぶり2度目の登場となる。194km地点が登り口で、平均勾配9.2%・登坂距離18.5km。勾配は常に9%オーバー。スイッチバックの数は45カ所。峠の標高は2178m。そしてなにより頂上手前の7.8kmに未舗装のダート区間を含むリスキーな峠だ。

2005年のジロで初登場した当時、マリアローザをかけてパオロ・サヴォルデッリ(イタリア)とジルベルト・シモーニ(イタリア)がこの未舗装の峠でバトルを繰り広げた。
逆転総合優勝を狙ったシモーニはこの峠でアタックを仕掛け、マリアローザを着るサヴォルデッリを引き離すことに成功。しかし下り区間で脚が痙攣してしまう。結局シモーニはセストリエーレのゴール地点でサヴォルデッリから1分29秒のリードしか奪うことが出来ず、28秒差で3度目のジロ制覇を逃した。
フィネストレからセストリエーレへのルートは当時を再現。主催者はジロ最後のドラマの舞台としてふたたびこの地を選んだのだ。

逃げグループを形成するディエゴ・ウリッシ(イタリア、ランプレ・ISD)ら13人逃げグループを形成するディエゴ・ウリッシ(イタリア、ランプレ・ISD)ら13人 photo:Riccardo Scanferla242kmのロングステージはスタートから194kmの平坦路をこなす。37km地点でアタックがかかり、13人が抜けだした。この逃げ集団はすぐに差を開き、10分ほどのタイム差をつける。

逃げた13人
ヤロスラフ・ポポヴィッチ(ウクライナ、レディオシャック)
ヴァシル・キリエンカ(ベラルーシ、モビスターチーム)
ケヴィン・シールドライヤース(ベルギー、クイックステップ)
エドゥアルト・ヴォルガノフ(ロシア、カチューシャ)
アンヘル・ビシオソ(スペイン、アンドローニ・ジョカトリ)
フレデリック・フェヘレン(ベルギーヴァカンソレイユ・DCM)
ルーカ・マッツァンティ(イタリア、ファルネーゼヴィーニ・ネーリソットリ)
ホセ・フフレ(スペイン、アスタナ)
セバスティアン・ラング(ドイツ、オメガファーマ・ロット)
クリスティアーノ・サレルノ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)
ディエゴ・ウリッシ(イタリア、ランプレ・ISD)
カルロスアルベルト・ベタンクール(コロンビア、アックア・エ・サポーネ)
ミゲール・ミンゲス(スペイン、エウスカルテル・エウスカディ)

雪の残るフィネストレ峠を進むメイン集団雪の残るフィネストレ峠を進むメイン集団 photo:Riccardo Scanferla第3ステージの勝者ビシオソ、第17ステージの勝者ウリッシの2名のステージ覇者が入ったこの逃げ集団。
このなかで一番総合がいいのは総合32位のキリエンカ。ポポヴィッチはフーガ・ピナレロ賞(逃げ賞)で首位を守り、この動きで受賞をほぼ確定的に。

194km地点のフィネストレ峠の登り口で、11分あった逃げ集団のもつタイム差は6分24秒まで縮小した。
ニーバリ擁するリクイガスがメイン集団のペースを上げる。

登り口から峠頂上までは18.5kmあるが、序盤の急勾配セクションがアタックポイントだった。2005年当時のステージ覇者ホセ・ルハノ(ベネズエラ、アンドローニ・ジョカトリ)がアタックを開始。しかしコンタドールのマリアローザ集団はこフィネストレ峠で独走するヴァシル・キリエンカ(ベラルーシ、モビスター)フィネストレ峠で独走するヴァシル・キリエンカ(ベラルーシ、モビスター) photo:Riccardo Scanferlaれを鎮圧する。
マリアローザ集団先頭はリクイガスのシルヴェスタ・シュミットがペースを上げる。ニーバリは後ろにつき、すぐそばでスカルポーニがマークする。コンタドールは後ろで静観する構えだ。

イゴール・アントンとミケル・ニエベ(ともにスペイン、エウスカルテル・エウスカディ)はここから脱落。マリアヴェルデを着るステファノ・ガルゼッリ(イタリア、アックア・エ・サポーネ)も早々に脱落する。コンタドールがもし2つの峠を上位通過すればジャージは奪われる危機的状態に陥る。

前を行く逃る13人からはキリエンカがアタックし、4分の差を持って独走に入った。コンタドール集団では3たびのルハ未舗装のフィネストレ峠を登るアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード)未舗装のフィネストレ峠を登るアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード) photo:Riccardo Scanferlaノのアタックが決まり、キリエンカの追走に入る。

頂上まで7.8kmでいよいよ未舗装区間へ入る。締まっているとはいえパンクのリスクが付きまとう。独走するキリエンカはペースを保ったまま頂上を越えた。

後方マリアローザ集団ではフィネストレ頂上が迫る1kmでニーバリが苦しい状態に陥り、遅れてしまう。

コンタドール集団は頂上を前にスカルポーニ(ランプレ)、メンショフ(ジェオックス)、ロドリゲス(カチューシャ)、ガドレ&デュポン(AG2R)、クルイスウィック(ラボバンク)とコンタドールの7人に絞られた。
フィネストレ峠でライバルたちから遅れを取るヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)フィネストレ峠でライバルたちから遅れを取るヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール) photo:Kei Tsuji遅れたクロイツィゲル(アスタナ)にはクルイスウィックにマリアヴェルデを奪われる危機が訪れる。2人のタイム差は2分51秒差。追いつけなければセストリエーレまでに十分逆転される差だ。

麓へのダウンヒルをこなすうち、追いついたのはまずニーバリ。そして苦手なダウンヒルで懸命の努力を続けたクロイツィゲルも麓付近で追いついた。

キリエンカは麓で4分21秒差をもってセストリエーレへ登りはじめる。後方ではルハノが合流したベタンクールとともに懸命の追走を試みるが、差は逆にじわじわと広がり続けた。
マリアローザ集団でも最後の総合順位逆転のチャンスに賭ける上位陣たちがアタックを繰り返す。コンタドールは後キリエンカを追走するカルロスアルベルト・ベタンクール(コロンビア、アックア・エ・サポーネ)とホセ・ルハノ(ベネズエラ、アンドローニ・ジョカトリ)とキリエンカを追走するカルロスアルベルト・ベタンクール(コロンビア、アックア・エ・サポーネ)とホセ・ルハノ(ベネズエラ、アンドローニ・ジョカトリ)と photo:Riccardo Scanferla方でそれを落ち着いて見守る展開だ。

ラスト10km、アタックを決めて抜け出せたのはロドリゲス(カチューシャ)。ハイペースを刻み前を行くルハノを目指して逃げる。しかしルハノには届かなかった。

キリエンカは麓で4分21秒だった差を4分43秒まで広げるコンスタントな強さを披露し、セストリエーレまで逃げ切った。そしてフィニッシュラインを通過するとき、両手を挙げて天を指さした。もちろん先週不慮の事故で命を落としたチームメイト、シャビエル・トンドに勝利を捧げるというジェスチャーだ。

ベタンクールを切り離したルハノが4分43秒遅れでフィニッシュ。ロドリゲスはベタンクールを交わしてフィニッシュし、総合を5位に上げることに天を指差し、セストリエーレに独走でゴールするヴァシル・キリエンカ(ベラルーシ、モビスター)天を指差し、セストリエーレに独走でゴールするヴァシル・キリエンカ(ベラルーシ、モビスター) photo:Riccardo Scanferla成功。

コンタドール集団は激しい攻防を繰り広げたが、ここでも遅れたニーバリを切り離して一団でゴールする。
スカルポーニはニーバリが遅れたことでタイムトライアルを前に総合2位の座に+22秒を追加した。ガドレは総合4位をキープ。クロイツィゲルはマリアビアンカを辛くも守った。

いちばんの敗北を喫したのは、遅れたカンスタンティン・シウトソウ(ベラルーシ、HTC・ハイロード)の総合5位から11位への転落だ。

コンタドールは攻撃すること無く、マリアローザを守りきった。残る最終ステージのタイムトライアルを前に2位スカルライバルたちとともにゴールするマリアローザのアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード)ライバルたちとともにゴールするマリアローザのアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード) photo:Riccardo Scanferlaポーニに5分18秒の大差をつけ、総合優勝を事実上確定させた。

パンクで遅れた別府史之はガルゼッリやディルーカと同じ集団で、32分50秒遅れの88位でゴール。難関山岳を乗り切り、こちらもジロの完走は確実だ。

ステージ優勝を挙げたキリエンカは、2008年のティンコフ時代にもジロ第19ステージの難関山岳モンテ・ポラ頂上へゴールするステージでも似たような逃げ切り勝利を飾っている。
TTが得意で、ベラルーシナショナルチャンピオンに2度輝いているキリエンカ。今年はバスク一周でステージ優勝を挙げている。トラックの選手のバックグラウンドがあるが、厳しい山岳ステージで勝てるステージレーサーになることを目指している。

天国のシャビエル・トンドを指差すヴァシル・キリエンカ(ベラルーシ、モビスターチーム)天国のシャビエル・トンドを指差すヴァシル・キリエンカ(ベラルーシ、モビスターチーム) (C)RCS Sportsキリエンカのコメント
今日の勝利を捧げるのは、もちろん友人だったトンドだ。北の(クラシック)レースで彼のことはよく知っていた。彼はとてもいい奴で、自転車レースを楽しんでいた。自転車レースにある苦しみも愛していた。
彼のことを記憶にとどめる最良の方法は勝つこと。それができてとても嬉しい。彼の死の後、ぼくたちは彼の思い出と情熱を称えるためにジロに残ったんだ。
今日は第20ステージ、そして3年前に勝利したのは第19ステージだった。ここまでたくさん距離を乗って結果が出せる。ジロの序盤は、皆のスピードがとてもとても速くて、スプリンターチームも逃げを許さないようにコントロールしてくる。最終週になると僕の耐久力で勝負できるから、強みが発揮できる。僕は自分の肉体の疲労耐性について学び、理解しているんだ。

コンタドールのコメント
さあ、勝利が近づいた。あとは何事もなければいい。エトナからずっと信じられないぐらいの好調が続いている。
フィネストレは写真で見て想像するだけだった。でも今日はライバルたちの動きを見ていれば良かった。秒差を稼ぐ必要はなかった。
明日、ニーバリとスカルポーニの2位争いはすごいものになるだろうね。でも僕は自分のカーブを気をつければいいだけだ。ステージ優勝しようと急ぐ必要もない。最後に向けてすごく集中しているけど、同時にどう祝福するかも楽しみに考えているよ。



第20ステージ結果
1位 ヴァシル・キリエンカ(ベラルーシ、モビスターチーム) 6h17'02"
2位 ホセ・ルハノ(ベネズエラ、アンドローニ・ジョカトリ)+4'43"
3位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)+4'50"
4位 カルロスアルベルト・ベタンクール(コロンビア、アックア・エ・サポーネ)+5'31"
5位 ジョン・ガドレ(アージェードゥーゼル)+5'54"
6位 ミケーレ・スカルポーニ(イタリア、ランプレ・ISD)+5'58"
7位 ステフェン・クルイスウィック(オランダ、ラボバンク)+5'58"
8位 アルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード)+5'58"
9位 デニス・メンショフ(ロシア、ジェオックス・TMC)+5'58"
10位 ロマン・クロイツィゲル(チェコ、アスタナ)+6'16"
88位 別府史之(レディオシャック) +'32"50


個人総合成績 マリアローザ 
1位 アルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード) 83h34'25"
2位 ミケーレ・スカルポーニ(イタリア、ランプレ・ISD)+5'18"
3位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)+6'14"
4位 ジョン・ガドレ(アージェードゥーゼル)+7'49"
5位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)+9'27"
6位 ホセ・ルハノ(ベネズエラ、アンドローニ・ジョカトリ)+10'23"
7位 ロマン・クロイツィゲル(チェコ、アスタナ)+10'38"
8位 デニス・メンショフ(ロシア、ジェオックス・TMC)+10'51"
9位 ステフェン・クルイスウィック(オランダ、ラボバンク)+12'56"
10位 ミケル・ニエベ(スペイン、エウスカルテル・エウスカディ)+12'57"
67位 別府史之(レディオシャック) +2h23'39"

ポイント賞 マリアロッサ・パッシオーネ
アルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード)

山岳賞 マリアヴェルデ
ステファノ・ガルゼッリ(イタリア、アックア・エ・サポーネ)

新人賞 マリアビアンカ
ロマン・クロイツィゲル(チェコ、アスタナ)

チーム総合成績
アスタナ

text:Makoto.AYANO
photo:Kei Tsuji,Riccardo Scanferla,CorVos

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