激しいアタック合戦の末に繰り広げられた30名のスプリント勝負。マチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス)を打破したビニヤム・ギルマイ(エリトリア、アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ)が、アフリカ出身選手として大きな記録を打ち立てた。



マリアローザを祝う記念品を授与されたフアン・ロペス(スペイン、トレック・セガフレード)マリアローザを祝う記念品を授与されたフアン・ロペス(スペイン、トレック・セガフレード) photo:CorVosアスタナ・カザフスタンは故ミケーレ・スカルポーニをイメージした特別ボトルを用意アスタナ・カザフスタンは故ミケーレ・スカルポーニをイメージした特別ボトルを用意 photo:CorVos

アドリア海に面したペスカーラの街をスタートアドリア海に面したペスカーラの街をスタート photo:CorVos
2022年のジロ・デ・イタリア第2週目は、アドリア海に面したアブルッツォ州中部の街ペスカーラから動き出す。前半は真っ平ら、後半に丘陵地帯という珍しいコースレイアウトで、獲得標高差1760mのほとんどが後半95kmに詰め込まれている。

この日は逃げ切りの可能性もあると思われていたが、意外にもプロトンはそれに対して消極的だった。オリヴェルの弟ローレンス・ナーセン(ベルギー、AG2Rシトロエン)とマッティア・バイス(イタリア、ドローンホッパー・アンドローニジョカトリ)がスタートと共に飛び出し、遅れてアレッサンドロ・デマルキ(イタリア、イスラエル・プレミアテック)が合流。10kmを要さず3名があっさりとエスケープを決めた。

逃げた3名
ローレンス・ナーセン(ベルギー、AG2Rシトロエン)
マッティア・バイス(イタリア、ドローンホッパー・アンドローニジョカトリ)
アレッサンドロ・デマルキ(イタリア、イスラエル・プレミアテック)

逃げるローレンス・ナーセン(ベルギー、AG2Rシトロエン)たち逃げるローレンス・ナーセン(ベルギー、AG2Rシトロエン)たち photo:CorVos
メイン集団内で走るフアン・ロペス(スペイン、トレック・セガフレード)メイン集団内で走るフアン・ロペス(スペイン、トレック・セガフレード) photo:CorVos
トロフェオ・センツァフィーネを運ぶ特別列車と並走トロフェオ・センツァフィーネを運ぶ特別列車と並走 photo:CorVos
ブロックハウスでの粘り強い走りでマリローザを維持するフアン・ロペス(スペイン、トレック・セガフレード)を筆頭に、和やかモードで進むメイン集団は最大6分程度のタイム差を3名に許した。丘陵スプリントで強さを発揮するマチュー・ファンデルプール(オランダ)擁するアルペシン・フェニックスとビニヤム・ギルマイ(エリトリア)のステージ優勝を狙うアンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ、そして第1ステージと第6ステージのリベンジを狙うカレブ・ユアン(オーストラリア)擁するロット・スーダルがメインの先頭に立ち続けた。

ジロ・デ・イタリアの特別ラッピングが施されたトロフェオ・センツァフィーネ(総合優勝者に送られるトロフィー)を運ぶ特別列車と並走し、丘陵ゾーン突入手前に用意された中間スプリントポイント(100km地点)ではメイン集団内でジャコモ・ニッツォーロ(イタリア、イスラエル・プレミアテック)が先頭通過。アップダウンの連続区間に入ると、まだペースが上がっていないメイン集団後方では登りに苦しむユアンの姿が映し出された。

明らかに本調子ではないユアンはフィニッシュまで80km弱を残して遅れ、マイペース走法に切り替えて完走を目指した。結果的に先頭のフィニッシュタイムから13%、つまり35分23秒遅れまで完走扱いになるタイムリミットをほぼ全て使い切る31分18秒遅れの最下位で辛くも翌日以降に望みを繋げている。

ライバルスプリンターを振り落とすべくアルペシン・フェニックスが高速牽引ライバルスプリンターを振り落とすべくアルペシン・フェニックスが高速牽引 photo:CorVos
総合4位リチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ)は残り78kmのダウンヒルで落車するも、幸い背中に軽い擦り傷を負ったのみで集団復帰。マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、クイックステップ・アルファヴィニル)も脱落する中、プロトンは2017年に急逝したミケーレ・スカルポーニ(イタリア)の故郷フィオットラーノを通過。アルペシン・フェニックスや、サイモン・イェーツ(オーストラリア)の総合脱落によって戦略変更をとったバイクエクスチェンジ・ジェイコが積極的に動く中、フィニッシュまで20km以上を残して唯一逃げ続けていたデマルキを飲み込んだ。

アンテルマルシェとアルペシンの牽引でアルデンヌクラシックのようなアップダウンコースを飛ばしに飛ばし、最終盤に位置する4級山岳ではアレッサンドロ・コーヴィ(イタリア、UAEチームエミレーツ)らがアタックを打ち続ける。ここまで粘っていたマリアチクラミーノのアルノー・デマール(フランス、グルパマFDJ)やニッツォーロを含めてピュアスプリンター勢は軒並み脱落を喫した。

4級山岳でアタックするアレッサンドロ・コーヴィ(イタリア、UAEチームエミレーツ)4級山岳でアタックするアレッサンドロ・コーヴィ(イタリア、UAEチームエミレーツ) photo:CorVos
粘ったアルノー・デマール(フランス、グルパマFDJ)だが、最後の4級山岳で脱落粘ったアルノー・デマール(フランス、グルパマFDJ)だが、最後の4級山岳で脱落 photo:CorVos
4級山岳を越え、メイン集団に残ったのはファンデルプールとギルマイ、そして総合勢を含むわずか30名程度。すでに総合成績で遅れているヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、アスタナ・カザフスタン)や、膝にサポーターを巻いたサイモン・イェーツ(オーストラリア、バイクエクスチェンジ・ジェイコ)、ジュリオ・チッコーネ(イタリア、トレック・セガフレード)が動き、ファンデルプールは5kmを残した下り区間で渾身の攻撃を仕掛けた。

しかしファンデルプールに対し、そのライバルと目されるギルマイが追走して引き戻す。アタッカーに加えてカラパスやロマン・バルデ(フランス、チームDSM)、ヒュー・カーシー(イギリス、EFエデュケーション・イージーポスト)といった総合陣もアタックを放つ混沌とした展開が続いたものの、フィニッシュ手前の平坦区間に入ったタイミングで打ち止めに。一瞬の静寂を挟んでから集団スプリントが始まった。

ギルマイのアシストを務めるドメニコ・ポッツォヴィーヴォ(イタリア、アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ)ギルマイのアシストを務めるドメニコ・ポッツォヴィーヴォ(イタリア、アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ) photo:CorVos
集団スプリントでファンデルプールを下したビニヤム・ギルマイ(エリトリア、アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ)集団スプリントでファンデルプールを下したビニヤム・ギルマイ(エリトリア、アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ) photo:RCS Sport
健闘を讃えあうビニヤム・ギルマイ(エリトリア、アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ)とマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス)	健闘を讃えあうビニヤム・ギルマイ(エリトリア、アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ)とマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス) photo:CorVos
ひときわ小柄なドメニコ・ポッツォヴィーヴォ(イタリア、アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ)がリードアウトを担い、その背後につけていたギルマイが残り300mで加速。爆発的なロングスプリントするギルマイには唯一ファンデルプールが追従し、残り100m手前でスリップストリームを飛び出して並びかけるも、これを確認したギルマイはフィニッシュ手前でもう一段加速。諦めたファンデルプールがサムアップで讃えるのを尻目に、ギルマイが勢いよく両手を振り上げた。

フィニッシュ直後、ファンデルプールと抱き合ったギルマイが、ついに待望の勝利に手を届かせた。アフリカ出身の黒人選手として初のグランツールステージ優勝という、アフリカ大陸にとって大きな大きなマイルストーンを打ち立てることとなった。

デマールから祝福を受けるビニヤム・ギルマイ(エリトリア、アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ)デマールから祝福を受けるビニヤム・ギルマイ(エリトリア、アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ) photo:RCS Sport
満面の笑顔で表彰台に現れたビニヤム・ギルマイ(エリトリア、アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ)満面の笑顔で表彰台に現れたビニヤム・ギルマイ(エリトリア、アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ) photo:RCS Sport
「僕たちはステージ優勝という目標と共にこのジロに乗り込んだ。僕がそれを叶えられれば自転車界の歴史に名を刻むことになると分かっていたよ。何度もトップ5入りを繰り返した結果、アフリカの黒人選手として初のグランツールステージ覇者に輝くことができた。チームメイトやスタッフ、家族、僕を支えてくれた全ての人に感謝の気持ちを持っている」。ヒストリーメイカーとなったギルマイは、そのようにコメントする。「チームの総合メンバーですら僕のために走ってくれた。残り600mでドメニコ(ポッツォヴィーヴォ)が付いてこいと叫んでくれたんだ。彼のリードアウトは完璧だった。本当に嬉しい勝利だ!」。

この日先頭集団でフィニッシュしたのはたった28名。総合上位勢は全員遅れることなく先頭集団内でゴールラインを切ったため、ロペスはマリアローザ着用日数をさらに一日増やすことに。翌日は真っ平らな200km、それ以降も小集団スプリント、あるいは逃げ切りが予見されるレイアウトであり、まだ数日間はロペスのマリアローザ姿を見ることができそうだ。

ジロ・デ・イタリア2022第10ステージ結果
1位 ビニヤム・ギルマイ(エリトリア、アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ) 4:32:07
2位 マチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス)
3位 ヴィンチェンツォ・アルバネーゼ(イタリア、エオーロ・コメタ)
4位 ウィルコ・ケルデルマン(オランダ、ボーラ・ハンスグローエ)
5位 リチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ)
6位 クーン・ボウマン(オランダ、ユンボ・ヴィスマ)
7位 ロマン・バルデ(フランス、チームDSM)
8位 ペリョ・ビルバオ(スペイン、バーレーン・ヴィクトリアス)
9位 ジョアン・アルメイダ(ポルトガル、UAEチームエミレーツ)
10位 マウロ・シュミット(スイス、クイックステップ・アルファヴィニル)
166位 カレブ・ユアン(オーストラリア、ロット・スーダル) +31:18
マリアローザ 個人総合成績
1位 フアン・ロペス(スペイン、トレック・セガフレード) 42:24:08
2位 ジョアン・アルメイダ(ポルトガル、UAEチームエミレーツ) +0:12
3位 ロマン・バルデ(フランス、チームDSM) +0:14
4位 リチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ) +0:15
5位 ジャイ・ヒンドレー(オーストラリア、ボーラ・ハンスグローエ) +0:20
6位 ギヨーム・マルタン(フランス、コフィディス) +0:28
7位 ミケル・ランダ(スペイン、バーレーン・ヴィクトリアス) +0:29
8位 ドメニコ・ポッツォヴィーヴォ(イタリア、アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ) +0:54
9位 エマヌエル・ブッフマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ) +1:09
10位 ペリョ・ビルバオ(スペイン、バーレーン・ヴィクトリアス) +1:22
マリアチクラミーノ ポイント賞
1位 アルノー・デマール(フランス、グルパマFDJ) 151pts
2位 ビニヤム・ギルマイ(エリトリア、アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ) 148pts
3位 マチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス) 90pts
マリアアッズーラ 山岳賞
1位 ディエゴ・ローザ(イタリア、エオーロ・コメタ) 83pts
2位 クーン・ボウマン(オランダ、ユンボ・ヴィスマ) 69pts
3位 レナード・ケムナ(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ) 43pts
マリアビアンカ ヤングライダー賞
1位 フアン・ロペス(スペイン、トレック・セガフレード) 42:24:08
2位 ジョアン・アルメイダ(ポルトガル、UAEチームエミレーツ) +0:12
3位 テイメン・アレンスマン(オランダ、チームDSM) +1:27
チーム総合成績
1位 ボーラ・ハンスグローエ 27:15:29
2位 バーレーン・ヴィクトリアス +4:17
3位 アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ +5:24
text:So Isobe
photo:CorVos

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