新型CRUX発表に伴い、スペシャライズドのグラベルフルラインナップを乗り比べできる試乗会が千葉県夷隅郡大多喜町で開催された。今のスペシャライズドは、とにかくグラベルに本気(マジ)である。その意気が十二分に詰め込まれた、CRUXの素晴らしい走りを体感した。



フルモデルチェンジを果たした新型CRUX(クラックス)。試乗車はForce 1 eTap AXSを採用した「CRUX PRO」フルモデルチェンジを果たした新型CRUX(クラックス)。試乗車はForce 1 eTap AXSを採用した「CRUX PRO」 photo:So Isobe
発表された当初から、いや、正直に言うとプロトタイプが北米シクロクロスレースで走っているらしいと聞いた時から、新型CRUXが気になっていた。シクロクロスレースに投入されたそのバイクが、そのモデル名にも関わらず、実はグラベルユースに主眼を置いたモデルだと聞いたら余計に気になってしまった。

しかも設計にはAethosを主導した”軽さの魔術師”ピーター・デンク氏が深く関わり、その重量はオフロード用ドロップハンドルバイクとしては異様に軽い725g(FACT 12rフレーム)。セカンドグレードのFACT 10rフレームですら825gだというから驚くほかない。各メディアを招きCRUXを含む全グラベルバイク試乗会が夷隅郡大多喜町で開催されると聞き、馳せ参じたのだった。

夷隅郡大多喜町のSDGs大多喜学園を舞台にした発表会。周囲には無数に林道が広がる夷隅郡大多喜町のSDGs大多喜学園を舞台にした発表会。周囲には無数に林道が広がる 小規模で開催された発表試乗会。じっくりと乗り込むことができた小規模で開催された発表試乗会。じっくりと乗り込むことができた


従来スペシャライズドはグラベルユーザーに向け、ペテル・サガンのPVでお馴染みのDIVERGE(ディヴァージュ)と、E-ロードバイクのCREO(クレオ)をグラベル仕様にした完成車CREO SL EVOを用意してきたが、その一方でアンバウンド・グラベルに代表されるカリカリなレーシングモデルは存在しなかった。そこでピュアCXレーサーのCRUXを、フルモデルチェンジを機にグラベルユース志向に路線変更(CRUXのテクノロジー詳細は登場記事をチェックしてほしい)。この新生CRUXによって、スペシャライズドのフルグラベルラインナップがついに出揃ったというわけだ。

「グラベルを走る非日常感って、自転車を初めて手にした時の自由の再体験だと思うんです。それがすごく楽しくて魅力的で、そんな声が本国であまりにも大きくなったことが、CRUXがグラベルロードにシフトした要因です。ロードバイクと違ってゆったりした服装でも良いし、型にハマる必要がない気楽さも良いですよね」とは、プレゼンしてくれたスペシャライズド・ジャパンのスタッフさんの談。実際に通勤・通学ニーズだけではなく、「きちんと」未舗装路を走るユーザーが増えていて、20万円前後のDIVERGEの販売台数は右肩上がりと言う。

CRUX PROと筆者。同じコースでDIVERGEと乗り比べ、複数種類のホイールを付け替えながら走ったCRUX PROと筆者。同じコースでDIVERGEと乗り比べ、複数種類のホイールを付け替えながら走った
新型CRUXのトピックは、言うまでもなく「軽さ」である。デンク氏が開発主導を採ったというフレームは、実物を手に取ると、特に細身のフォーク(全てのCRUXモデルで共通の)が効いているのか、重心がかなり後ろ寄りと感じるほどにフロント周りが軽い。それも、今回用意されたのはフレーム825gのセカンドグレード(FACT 10r)にも関わらず、だ。

乗り味は、見た目の印象よりもずっと、驚くほど身軽だ。軽さがモロに効いた俊敏さが持ち味で、踏み込みに対してしっとりと、それでいて時間的な「タメ」を作らずに加速する。乗る前こそ「グラベルなの?シクロクロスバイクなの?」という疑問が頭にこびりついていたけれど、ひとたびフィールドに飛び出すと、あまりのパフォーマンスにそんな疑問は消え去ってしまった。これなら、どんなCXレースでも、どんなグラベルイベントでも確実に武器になる。

華奢な佇まいを見せるフロントフォーク。全モデル共通品で、400g弱という軽さを誇る華奢な佇まいを見せるフロントフォーク。全モデル共通品で、400g弱という軽さを誇る
僅かなフレア形状を持つ専用ハンドル。ロードユーザーからも人気だという僅かなフレア形状を持つ専用ハンドル。ロードユーザーからも人気だという トップチューブの一部にカーボン素地が透けて見えるトップチューブの一部にカーボン素地が透けて見える


もう少し詳しく説明すると、軽量リムブレーキバイクをぐっと洗練させたようなフィーリングがあって、その身に覚えのある記憶の元が、兄弟分とも言えるAethosだった事に気付いた。ざっくりと表現するならば、新型CRUXとAethosの走行感覚は、いい意味でかなり似通っている。

ロングリーチ+ショートステムの現代版ジオメトリーが生み出すハンドリングは比較的安定志向だが、そもそも車体の軽さゆえ野暮ったさは感じない。CXレースを想定し前後輪を1本の轍に入れながら走る・曲がることも容易だったし、軽さ(重量的にも走りでも)ゆえに細かいインターバルが速い。CXユースにおける唯一の心配事は72mmという低いBBハンガー(=深い泥や砂レースのコーナリング中やキャンバーなどでペダルヒットする可能性)だが、CRUXの走りはそれを差し引いてすらあまりある。パーツ構成次第ではUCIの6.8kgルールに抵触する可能性のある、稀有なマシンだ。

非常に線の細いリアバック。Aethosの色を最も濃く引き継ぐ非常に線の細いリアバック。Aethosの色を最も濃く引き継ぐ
PRO以下のグレードはFACT 10rだが、825gという軽さを誇る(FACT 12rは725g)PRO以下のグレードはFACT 10rだが、825gという軽さを誇る(FACT 12rは725g) センタースリックのPATHFINDER PROタイヤ(42c)。速く、それでいてしなやかなグリップセンタースリックのPATHFINDER PROタイヤ(42c)。速く、それでいてしなやかなグリップ


発表会ではCRUXとDIVERGEを乗り比べ、さらに33cから650x2.1インチまで、あらゆるタイヤを装着したロヴァールのカーボンホイールを付け替えて試すことができた。DIVERGEに650x2.1インチを入れた時に感じた重さが、CRUXに乗り換えた時にそこまで目立たなかったことが実に面白い。フロントフォークはフルブレーキをかけると目に見えてダイブするため、さすがに大きなギャップに車体をぶつけるのは躊躇してしまったが、CRUXは同社MTBラインナップと同じ強度設計が施されているのだそう。

プレゼンの言葉を借りれば、スペシャライズドはCRUXを「グラベルライドの真髄を知るバイク」と表現している。軽量かつワイドタイヤで走破性を高めたバイクこそがハイパフォーマンス。CRUXはフロントシングル専用かつ、バッグやフェンダーマウントが無いピュアパフォーマンスモデルであり、フルモデルチェンジによって、その性格はさらに鋭く研ぎ澄まされている。

650ホイールと2.1インチタイヤを組み合わせた例。「モンスタークロス」的な佇まいだ650ホイールと2.1インチタイヤを組み合わせた例。「モンスタークロス」的な佇まいだ
内幅30mmのTerra CLX EVOホイール。XC系タイヤ装着を前提とした超ワイドリムホイールだ内幅30mmのTerra CLX EVOホイール。XC系タイヤ装着を前提とした超ワイドリムホイールだ 2.1インチタイヤを飲み込むクリアランス。シクロクロスでの泥詰りも回避できそうだ2.1インチタイヤを飲み込むクリアランス。シクロクロスでの泥詰りも回避できそうだ

その走りは驚くほど身軽で、俊敏。スピードを求めるあらゆる走りをカバーするその走りは驚くほど身軽で、俊敏。スピードを求めるあらゆる走りをカバーする
各社が矢継ぎ早にニューモデルを送り込むグラベルマーケットだが、CRUXの走りは全パフォーマンスモデルを見回しても超トップクラス。しかも「素人がまともに乗れない軽量レーサー」ではなく、Aethosと同じように、誰もがその真髄を味わうことができるのだ。

加速を続けるスペシャライズドのグラベルラインナップ。今後日本法人として強くプッシュしていくという加速を続けるスペシャライズドのグラベルラインナップ。今後日本法人として強くプッシュしていくという
スペシャライズド・ジャパンは今後、CRUXも含めたグラベルカテゴリーと、レーシングではないロードバイク、つまりAethosに投資を行い、その魅力を広めていくと言う。まだ詳細未定ながら、今回の開催地となった千葉県夷隅郡大多喜町の「SDGs大多喜学園」を拠点としたグラベルイベントの開催も視野に入れているのだとか。詳細発表を心待ちにしたいと思う。

text&photo:So Isobe