ピレネー山脈を走るツール・ド・フランス第7ステージで逃げグループの中からスティーブ・クミングス(イギリス、ディメンションデータ)がアタック。1級山岳アスパン峠を独走で駆け上がったクミングスが「キャリアの中で最も美しい勝利」を飾った。



BMCレーシングがメイン集団の沈静化を図るが、アタックが止まらないBMCレーシングがメイン集団の沈静化を図るが、アタックが止まらない photo:Kei Tsuji
ツール・ド・フランス2016第7ステージツール・ド・フランス2016第7ステージ image:A.S.O.ツール・ド・フランス2016第7ステージツール・ド・フランス2016第7ステージ image:A.S.O.


元チームメイトのロランに敢闘賞を祝福される新城幸也(ランプレ・メリダ)元チームメイトのロランに敢闘賞を祝福される新城幸也(ランプレ・メリダ) photo:Kei Tsujiノルマンディーでのグランデパールから1週間が経ち、ツールはピレネー山岳初日を迎える。トゥールーズ近郊のリル=ジュルダンをスタート後およそ100kmにわたって平坦路が続くが、残り60kmを切ってからコースは緩やかに上昇を開始する。

出走サイン台で紹介される新城幸也(ランプレ・メリダ)出走サイン台で紹介される新城幸也(ランプレ・メリダ) photo:Kei Tsujiピレネー山脈の玄関口である4級山岳コート・ド・カプヴェルン(7.7km/3.1%)を過ぎると1級山岳アスパン峠(12km/平均6.5%)の登りがスタート。標高1,490mの峠を越えると7kmのハイスピードダウンヒルを経てフィニッシュを迎える。

渾身の力でアタックするアンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル)渾身の力でアタックするアンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル) photo:Kei Tsujiレースは開始直後から高速化した。逃げ切りに有利なコースレイアウトであるため、すでに総合順位を落としているクライマーたちが積極的にアタック。さらにステージ後半の中間スプリントポイントでのポイント獲得を狙うスプリンターもアタック合戦に加わった。

逃げグループに入ったヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)逃げグループに入ったヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ) photo:Kei Tsujiスタート後すぐポイント賞1位のマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ)と同3位のペーター・サガン(スロバキア、ティンコフ)がメイン集団を飛び出し、ルイ・コスタ(ポルトガル、ランプレ・メリダ)らとともに12名の逃げグループを形成する。カヴェンディッシュらは30秒のリードを得たものの、ポイント賞狙いのエーススプリンターを送り損ねたエティックス・クイックステップとロット・ソウダルが猛烈なペースで追撃し、43km地点で逃げグループを捉えた。

逃げが吸収されると当然次なる動きが生まれる。キャリア最後のツールを走るファビアン・カンチェラーラ(スイス、トレック・セガフレード)を含む9名が先行を開始し、そこに20名の追走グループがジョインする。攻撃が最大の防御と言わんばかりに、マイヨジョーヌのグレッグ・ファンアフェルマート(ベルギー、BMCレーシング)も逃げに乗った。

ポイント賞に関係するスプリンターたちが誰も入らなかったため、メイン集団は合計29名の大きな逃げ集団の先行を容認する。すでに総合で14分06秒遅れていたヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)もピレネー初日にエスケープ。総合系チームの中ではチームスカイがヴァシル・キリエンカ(ベラルーシ)を、モビスターがゴルカ・イサギーレ(スペイン)を逃げに送り込んだ一方で、ティンコフはメイン集団にメンバー全員を残した。

スタートから続いた50km/h近い高速巡航が落ち着くとタイム差は5分30秒まで拡大。大きな逃げ集団はニーバリを先頭に4級山岳コート・ド・カプヴェルンをクリアし。モビスターとチームスカイ率いるメイン集団から5分のリードを奪ったまま1級山岳アスパン峠を目指した。



アスパン峠を目指すアルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ)らアスパン峠を目指すアルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ)ら photo:Kei Tsuji
マイヨジョーヌのグレッグ・ファンアフェルマート(ベルギー、BMCレーシング)が逃げグループを率いるマイヨジョーヌのグレッグ・ファンアフェルマート(ベルギー、BMCレーシング)が逃げグループを率いる photo:Kei Tsuji第7ステージを走る新城幸也(ランプレ・メリダ)第7ステージを走る新城幸也(ランプレ・メリダ) photo:Kei Tsuji


独走で1級山岳アスパン峠を駆け上がるスティーブ・クミングス(イギリス、ディメンションデータ)独走で1級山岳アスパン峠を駆け上がるスティーブ・クミングス(イギリス、ディメンションデータ) photo:Kei Tsuji追い風が吹く渓谷に入ったところで逃げ集団の中から動きが生まれる。1級山岳アスパン峠の登り口まで23kmを残してアントワーヌ・デュシェーヌ(カナダ、ディレクトエネルジー)とマッティ・ブレシェル(デンマーク、キャノンデール・ドラパック)がアタック。ここにダニエル・ナバーロ(スペイン、コフィディス)が合流した。

先頭クミングスを追走するルイスアンヘル・マテマルドネス(スペイン、コフィディス)、ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)、ダリル・インピー(南アフリカ、オリカ・バイクエクスチェンジ)先頭クミングスを追走するルイスアンヘル・マテマルドネス(スペイン、コフィディス)、ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)、ダリル・インピー(南アフリカ、オリカ・バイクエクスチェンジ) photo:Kei Tsuji追走グループの中からはカウンターアタックが続き、クミングスが単独で先頭グループに追いつくことに成功する。ファンアフェルマートやニーバリを含む追走グループが徐々にタイム差を詰めて近づくと、残り27km地点ででクミングスが先頭から飛び立った。

独走で1級山岳アスパン峠を駆け上がるスティーブ・クミングス(イギリス、ディメンションデータ)独走で1級山岳アスパン峠を駆け上がるスティーブ・クミングス(イギリス、ディメンションデータ) photo:Kei Tsujiトラック出身選手らしい上半身が固定されたフォームで平坦路を快走し、中間スプリントポイントを先頭で通過したクミングスが独走のままツール73回目の登場となるアスパン峠の登坂を開始する。後方ではニーバリ、ナバーロ、ダリル・インピー(南アフリカ、オリカ・バイクエクスチェンジ)が追走グループを組織。ファンアフェルマートは脱落しながらもマイペースを刻み続けた。

1級山岳アスパン峠の頂上に差し掛かるスティーブ・クミングス(イギリス、ディメンションデータ)1級山岳アスパン峠の頂上に差し掛かるスティーブ・クミングス(イギリス、ディメンションデータ) photo:Kei Tsuji5分遅れでアスパン峠に突入したメイン集団は、徐々に人数を減らしながらも比較的平穏に登坂を続ける。やがてワレン・バーギル(フランス、ジャイアント・アルペシン)らがアタックを仕掛けると、メイン集団からティボー・ピノ(フランス、FDJ)が脱落。総合ライバルの失速を知ったAG2Rラモンディアールがペースを上げると、ピノとのタイム差は広がっていった。

独走のままフィニッシュするスティーブ・クミングス(イギリス、ディメンションデータ)独走のままフィニッシュするスティーブ・クミングス(イギリス、ディメンションデータ) photo:Kei Tsuji先頭クミングスはリードを失うことなく追走ナバーロとインピーから1分先行したままアスパン峠を通過する。単独のニーバリとファンアフェルマートに続いて、チームスカイが5名を揃える約27名のメイン集団は3分20秒遅れで頂上に到着した。

クミングスは安全にアスパン峠を下りきり、最終的にインピーとナバーロを1分05秒引き離したままフィニッシュ。ニーバリが3分04秒、ファンアフェルマートが3分04秒遅れでフィニッシュラインを切っている。

逃げ切りで2年連続ステージ優勝を飾ったクミングスは「ニーバリやナバーロに勝てるかどうか自信がなかったし、逃げ集団の中にはコフィディスやキャノンデール、アスタナは複数名を揃えていたので戦略的に走る必要があった。ナバーロらのアタックには迷うことなく反応。後ろからニーバリに追いつかれる展開は避けたかったので、早めに仕掛けて独走に持ち込んだんだ。勾配5〜6%の登りが続くアスパン峠は自分向きだった」と語る。

ディメンションデータはステージ2連勝。ここまで7ステージのうち4勝という圧倒的なパフォーマンス。「すでに大成功だった1週間がこの勝利でさらに素晴らしいものになる。これまでキャリアの中で最も美しい勝利だ。今年のツールはエースのマーク(カヴェンディッシュ)のために走っている。自分を信頼し続けてくれているチームにはとても感謝している」とクミングスは締めくくった。



チームスカイが人数を揃えたメイン集団が1級山岳アスパン峠を登るチームスカイが人数を揃えたメイン集団が1級山岳アスパン峠を登る photo:Kei Tsuji
1級山岳アスパン峠の頂上に差し掛かるプロトン1級山岳アスパン峠の頂上に差し掛かるプロトン photo:Kei Tsuji1級山岳アスパン峠でメイン集団から脱落したティボー・ピノ(フランス、FDJ)1級山岳アスパン峠でメイン集団から脱落したティボー・ピノ(フランス、FDJ) photo:Kei Tsuji


フラムルージュがコースを塞ぐフラムルージュがコースを塞ぐ photo:Kei Tsujiピノの脱落を除いてアスパン峠で総合争いは大きく動かなかったが、頂上手前でヤングライダー賞4位(アラフィリップから6秒遅れ)のアダム・イェーツ(イギリス、オリカ・グリーンエッジ)がアタックを仕掛けたことで慌しくなる。

崩壊したフラムルージュと接触して落車したアダム・イェーツ(イギリス、オリカ・バイクエクスチェンジ)崩壊したフラムルージュと接触して落車したアダム・イェーツ(イギリス、オリカ・バイクエクスチェンジ) photo:Kei Tsuji下りでリードを広げたイェーツはメイン集団から7秒先行した状態で残り3kmアーチを通過。しかしフィニッシュに向かう登りに差し掛かったイェーツを悲劇が襲う。発電機から伸びる電源コードを観客が抜いてしまったことでバルーン式のフラムルージュ(残り1kmアーチ)が突如崩れ、接触したイェーツが落車。顎を4針縫う怪我を負ったイェーツはメイン集団から遅れてフィニッシュした。

レース後すぐに出されたリザルト上でイェーツはメイン集団から3分38秒遅れ。当然オリカ・バイクエクスチェンジはコミッセールに抗議し、フィニッシュから2時間経ってようやくリザルトに修正が入る。全ての選手の総合成績に残り3kmアーチ通過時のタイムが反映された。

ファンアフェルマートは最終的にメイン集団から1分25秒先行してフィニッシュしたものの、残り3kmアーチ通過時のタイム差40秒が反映。それでも総合リードを失うことなくむしろ広げる走りでマイヨジョーヌをキープしている。

そして落車負傷したイェーツはメイン集団から7秒差でフィニッシュの扱いに。イェーツは総合2位に浮上するとともに1秒差でマイヨブランをアラフィリップから奪うことに成功している。



ペースを落としてフィニッシュするメイン集団ペースを落としてフィニッシュするメイン集団 photo:Kei Tsujiステージ優勝を飾ったスティーブ・クミングス(イギリス、ディメンションデータ)ステージ優勝を飾ったスティーブ・クミングス(イギリス、ディメンションデータ) photo:Kei Tsuji


ツール・ド・フランス2016第7ステージ結果
1位 スティーブ・クミングス(イギリス、ディメンションデータ)       3h48’09”
2位 ダリル・インピー(南アフリカ、オリカ・バイクエクスチェンジ)      +1’04”
3位 ダニエル・ナバーロ(スペイン、コフィディス)
4位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)            +1’58”
5位 グレッグ・ファンアフェルマート(ベルギー、BMCレーシング)       +2’57”
6位 ルイスアンヘル・マテマルドネス(スペイン、コフィディス)        +3’37”
7位 ゲラント・トーマス(イギリス、チームスカイ)
8位 ワウト・ポエルス(オランダ、チームスカイ)
9位 ゴルカ・イサギーレ(スペイン、モビスター)
10位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)
62位 ティボー・ピノ(フランス、FDJ)                   +6’41”
73位 アダム・イェーツ(イギリス、オリカ・バイクエクスチェンジ)      +3’30”
110位 新城幸也(日本、ランプレ・メリダ)                 +13’21”

マイヨジョーヌ(個人総合成績)
1位 グレッグ・ファンアフェルマート(ベルギー、BMCレーシング)      34h09’44”
2位 アダム・イェーツ(イギリス、オリカ・バイクエクスチェンジ)       +5’50”
3位 ジュリアン・アラフィリップ(フランス、エティックス・クイックステップ) +5’51”
4位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)            +5’53”
5位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)             +5’54”
6位 クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)               +5’57”
7位 ナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター)
8位 ワレン・バーギル(フランス、ジャイアント・アルペシン)
9位 ピエール・ロラン(フランス、キャノンデール・ドラパック)
10位 ダニエル・マーティン(アイルランド、エティックス・クイックステップ)

マイヨヴェール(ポイント賞)
1位 マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ)      204pts
2位 マルセル・キッテル(ドイツ、エティックス・クイックステップ)      182pts
3位 ペーター・サガン(スロバキア、ティンコフ)               175pts

マイヨアポワ(山岳賞)
1位 トーマス・デヘント(ベルギー、ロット・ソウダル)            13pts
2位 グレッグ・ファンアフェルマート(ベルギー、BMCレーシング)       13pts
3位 スティーブ・クミングス(イギリス、ディメンションデータ)        10pts

マイヨブラン(ヤングライダー賞)
1位 アダム・イェーツ(イギリス、オリカ・バイクエクスチェンジ)      34h19’54”
2位 ジュリアン・アラフィリップ(フランス、エティックス・クイックステップ)  +01”
3位 ワレン・バーギル(フランス、ジャイアント・アルペシン)          +07”

チーム総合成績
1位 BMCレーシング                            102h43’01”
2位 チームスカイ                              +4’16”
3位 モビスター                               +4’52”

ステージ敢闘賞
ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)

リタイア
なし 

text&photo:Kei Tsuji in Lac de Payolle, France