「長い間ずっとこの瞬間を待っていた。レッドジャージを着るという夢が叶った」。3級山岳の山頂フィニッシュが設定されたブエルタ・ア・エスパーニャ第3ステージで、41歳のクリストファー・ホーナー(アメリカ、レディオシャック・レオパード)がグランツールの歴史を塗り替えた。



ブエルタ・ア・エスパーニャ2013第3ステージ高低図ブエルタ・ア・エスパーニャ2013第3ステージ高低図 image:Unipublicガリシア州のビーゴから「リアス式海岸」の語源となった入り組んだ海岸線を北上する第3ステージ。フィニッシュラインは3級山岳ミラドール・デ・ロベイラの頂上に引かれている。コースの大半はフラットだが、海風が強い地域を通過するだけに、後半にかけてナーバスなレースが展開された。

逃げグループを形成するロメン・ジングル(ベルギー、コフィディス)ら逃げグループを形成するロメン・ジングル(ベルギー、コフィディス)ら photo:Vuelta a Espanaスタート直後に形成されたパブロ・ウルタスン(スペイン、エウスカルテル)やビセンテ・レイネス(スペイン、ロット・ベリソル)ら5名の逃げが、暖かな太陽を浴びながら、バカンス終盤の観光客に見守られながら、海岸線を駆け抜ける。

第1ステージのゴール地点サンシェンショを通過第1ステージのゴール地点サンシェンショを通過 photo:Vuelta a Espanaメイン集団をコントロールしたのはマイヨロホ擁するアスタナで、オメガファーマ・クイックステップやキャノンデールプロサイクリングもこれに合流。タイム差は2分に抑え込まれた。

残り50kmを切って風の強い海岸線が近づくと集団内の緊張感が一気に増す。危険回避のために各チームがトレインを組んで集団先頭へ。すると残り43kmの直角左コーナーで落車が発生し、集団が大きく2つに割れた。

その後のペースアップも手伝って、逃げグループは吸収され、バウク・モレマ(オランダ、ベルキンプロサイクリング)やサイモン・ゲランス(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)が第2集団に取り残される事態に。大西洋に浮かぶアロウサ島に渡る細い橋でモビスターが積極的にメイン集団のペースを上げた。

しかしメイン集団と第2集団のタイム差は決定的なものにならず、風が弱まったところで遅れていた選手が続々と合流。遅れていたドメニコ・ポッツォヴィーヴォ(イタリア、アージェードゥーゼル)やミケル・ニエベ(スペイン、エウスカルテル)が事なきを得る。3級山岳ミラドール・デ・ロベイラを前に、レースはフリダシに戻った。



アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)らが集団前方に上がるアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)らが集団前方に上がる photo:Vuelta a Espana横風区間でメイン集団のペースを上げるモビスターやスカイプロサイクリング横風区間でメイン集団のペースを上げるモビスターやスカイプロサイクリング photo:Vuelta a Espana



アスタナがメイン集団のペースアップを図るアスタナがメイン集団のペースアップを図る photo:Vuelta a Espana大西洋を見下ろす展望台に向かう登坂距離4.2km・平均勾配5.7%の登りで、オリカ・グリーンエッジやヴァカンソレイユ・DCMがペースアップ。残り3kmを切ったところでフアンアントニオ・フレチャ(スペイン、ヴァカンソレイユ・DCM)がアタックを仕掛け、これに反応したイヴァン・サンタロミータ(イタリア、BMCレーシングチーム)が独走に持ち込む。

登りで飛び出したフアンアントニオ・フレチャ(スペイン、ヴァカンソレイユ・DCM)とイヴァン・サンタロミータ(イタリア、BMCレーシングチーム)登りで飛び出したフアンアントニオ・フレチャ(スペイン、ヴァカンソレイユ・DCM)とイヴァン・サンタロミータ(イタリア、BMCレーシングチーム) photo:Vuelta a Espana緩斜面を快調に走ったイタリアチャンピオンが7秒ほどのリードを得て残り1km。するとメイン集団からクリストファー・ホーナー(アメリカ、レディオシャック・レオパード)が単独でアタック。それまで逃げていたサンタロミータを勢い良く抜き去ったホーナーが、そのままフィニッシュラインまで独走した。

独走でゴールするクリストファー・ホーナー(アメリカ、レディオシャック・レオパード)独走でゴールするクリストファー・ホーナー(アメリカ、レディオシャック・レオパード) photo:Vuelta a Espanaレディオシャックのエースを担うベテランのホーナーが、自身初のグランツールステージ優勝を飾った。直前のツアー・オブ・ユタ山岳ステージで優勝し、総合2位に入っているホーナーは「登り始めから頂上までアタックが掛かりっぱなしで、何人かがリードを得て飛び出していた。それを見て僕もアクセル全開でアタックしたんだ」と振り返る。

ホーナーのプロデビューは今から18年前の1995年。同じ1971年生まれのチームメイトのイェンス・フォイクト(ドイツ)とともに、プロトン最年長の選手として走っている。英語の質問にもスペイン語で返答するホーナーは「目標はこのブエルタで出来る限り良い総合成績を残すこと」と意気込む。後続との3秒とボーナスタイム10秒によって総合首位に立ち、マイヨロホに袖を通した。

41歳307日でのステージ優勝はグランツール史上最高齢の記録。同時にグランツール史上最高齢のリーダージャージ着用だ。42歳目前という年齢についてホーナーは次のようにコメントしている。「バイクレースが好きで、トレーニングが好き。毎日『このレースが最後になるかもしれない』と感じながら走っている。1回の落車でキャリアが終了することも有り得るから、集中力とモチベーションを絶やさずに走れるんだ。今日はある選手が『もうバイクレースに疲れたよ』と言ってきたけど、僕の場合は、年を重ねる毎にこのスポーツが好きになり、いつまでも走り続けたい気持ちが強くなっている」。

総合首位を明け渡したヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)が3秒差の総合2位。2つの山頂フィニッシュを終えて、総合タイム差1分以内に19人がいる状態。「チームタイムトライアルのタイムがこのジャージ獲得に繋がった。今日ジャージ獲得のチャンスがあると思っていた。夢が叶ったよ」。最年長ホーナーが総合リーダーとしてブエルタを引っ張る。

マイヨロホに袖を通したクリストファー・ホーナー(アメリカ、レディオシャック・レオパード)マイヨロホに袖を通したクリストファー・ホーナー(アメリカ、レディオシャック・レオパード) photo:Vuelta a Espana
選手コメントはレース公式サイトやチーム公式サイトより。



ブエルタ・ア・エスパーニャ2013第3ステージ結果
1位 クリストファー・ホーナー(アメリカ、レディオシャック・レオパード)   4h30'18"
2位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)              +03"
3位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)
4位 リゴベルト・ウラン(コロンビア、スカイプロサイクリング)
5位 ダニエル・マーティン(アイルランド、ガーミン・シャープ)
6位 バウク・モレマ(オランダ、ベルキンプロサイクリング)
7位 ミケーレ・スカルポーニ(イタリア、ランプレ・メリダ)
8位 アイマル・スベルディア(スペイン、レディオシャック・レオパード)      +06"
9位 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、サクソ・ティンコフ)
10位 イヴァン・バッソ(イタリア、キャノンデールプロサイクリング)

敢闘賞
ロメン・ジングル(ベルギー、コフィディス)

個人総合成績(マイヨロホ)
1位 クリストファー・ホーナー(アメリカ、レディオシャック・レオパード)   9h37'40"
2位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)              +03"
3位 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、サクソ・ティンコフ)           +11"
4位 アイマル・スベルディア(スペイン、レディオシャック・レオパード)      +13"
5位 ロベルト・キセロフスキー(クロアチア、レディオシャック・レオパード)    +23"
6位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)              +24"
7位 リゴベルト・ウラン(コロンビア、スカイプロサイクリング)          +25"        
8位 ラファル・マイカ(ポーランド、サクソ・ティンコフ)             +35"
9位 ダニエル・モレーノ(スペイン、カチューシャ)                +44"
10位 ロマン・クロイツィゲル(チェコ、サクソ・ティンコフ)            +45"

プントス(ポイント賞)
1位 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、サクソ・ティンコフ)          32pts
2位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)             32pts
3位 クリストファー・ホーナー(アメリカ、レディオシャック・レオパード)    28pts

モンターニャ(山岳賞)
1位 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、サクソ・ティンコフ)          10pts
2位 ダニエル・モレーノ(スペイン、カチューシャ)               6pts
3位 ドメニコ・ポッツォヴィーヴォ(イタリア、アージェードゥーゼル)      4pts

コンビナーダ(複合賞)
1位 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、サクソ・ティンコフ)          5pts
2位 クリストファー・ホーナー(アメリカ、レディオシャック・レオパード)    8pts
3位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)             14pts

チーム総合成績
1位 レディオシャック・レオパード                      27h53'28"
2位 サクソ・ティンコフ                              +11"
3位 ベルキンプロサイクリング                          +1'16"

text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos