ヒルクライム大会では東アジア最高到達地点まで登る台湾の「MAXXIS太魯閣国際ヒルクライム2016」。2年前悪天候で登頂を果たせなかった田代恭崇さんによる参加レポートで紹介する。最高峰のインターナショナルクラスは標高3,275mを目指し約90kmを登る、壮大なヒルクライムだ。



MAXXIS太魯閣国際ヒルクライムは、3,000mを越す台湾の中央山脈を挟んで中央東部に位置する花連の海岸線をスタートし、美しい太魯閣(タロコ)渓谷を抜け、一般道で到達できる東アジア最高地点である標高3,275mの武嶺(ウーリン)まで登る約90kmの壮大なヒルクライム大会だ。運営は日本企業のR1ジャパンが行っており、アジアでのモータースポーツのクロスカントリーラリー、タイのチェンライ国際MTBチャレンジなども手掛けている。つまり海外の大会ながら日本人にはとても参加しやすく、安心の大会だ。

受付会場で頂上で受け取る荷物を預ける受付会場で頂上で受け取る荷物を預ける スタート地点は海抜0mから。スタート前には朝焼けが私達を迎えてくれるスタート地点は海抜0mから。スタート前には朝焼けが私達を迎えてくれる

約700名がスタートしいていく。ずらっとサイクリストが並ぶ様子は圧巻だ約700名がスタートしいていく。ずらっとサイクリストが並ぶ様子は圧巻だ 太魯閣渓谷は素掘りのトンネルを抜けていく太魯閣渓谷は素掘りのトンネルを抜けていく 海抜0mから標高2,000mまで上がってきた!海抜0mから標高2,000mまで上がってきた! 6月26日(日)大会当日の天気予報は、晴れのち雨。一昨年に悪天候で頂上までたどり着けなかった記憶が蘇る。今年もゴールできないなんて嫌だ。スタートは朝6時と早朝だ。花連市内のホテルからスタート地点の新城郷秀林國中の海岸までは約25km、自走でも行けなくないが、ツアーオプションで専用送迎バスが用意され、自転車は専用のトランスポーターでスタート地点まで持って行ってくれる。さらにゴール地点からホテルまでも送迎があるので迷わずお願いした。これはほとんどの参加者が利用したありがたいサービスだ。

朝4時にバスは出発し、ホテルのミールボックスと事前にコンビニで用意した朝食を食べながらスタート会場に向かう。薄明るくなり雲ひとつない空が広がる。到着する頃には海岸線の朝焼けが私たちを迎えてくれた。

会場に到着し、バイクを受けとり、頂上で受け取る着替えなどの荷物を受付に持っていく。頂上は富士山の8合目ぐらいの標高。天候が悪くなれば寒いので防寒具を忘れずに入れた。日本からの参加者の証「赤のリボン」もヘルメットに装着済み。途中エイドステーションでパンやバナナ、水などは受け取れるが、念のために日本から持ってきたゼリー、どら焼き、羊羹を背中のポケットに入れた。90kmも登るのでハンガーノックになってはならない。天候も変わりやすいので長袖のウインドブレーカーを1枚。準備は万端だ。

スタートラインでは、アテネオリンピックの出場選手ということで紹介され、昨日の観光サイクリングに帯同してもらった台湾自転車メーカー「TAOKAS」のサポートを受けて活動するMTB選手の廣瀬由紀さんも一緒に最前列に並んでスタートした。

スタート直後は海岸線をパレード走行。早朝の清々しい空気と晴天が気持ち良く走らせてくれる。海岸線から登り始めるところでパレード走行は解除され、順位やタイムを狙う参加者は駆け上がって行く。ここから太魯閣渓谷を抜けてかなりゆるい勾配が続く。23km/標高480mの天祥からが本格的な登りの開始だ。

今回は6時間の完走を目指しツアー参加者のサポートをするので徐々に後方に下がり、声をかけながらの走りとなった。太魯閣渓谷は浸食された大理石の岩盤沿いに造られた道を走る。そして渓谷は見上げるほど深く神秘的だ。後ろも前もこの圧倒的で壮大な景色をしっかり感じながら走ることができ、感動だ。

23km地点の天祥を過ぎるとゆるい勾配から平均4~6%勾配になる。ゴール前15kmぐらいから急勾配が始まり、平均時速が落ちることを考えて時速20km弱で走る。ここまででかなり後方に下がっていたので、ツアー参加者に声をかけながら一緒に走りながら頂上を目指す。

絶壁の道を進む太魯閣渓谷絶壁の道を進む太魯閣渓谷 ゴールまで残り3km。頂上が見えてきたゴールまで残り3km。頂上が見えてきた

長く続く山々の先にゴールが待っている長く続く山々の先にゴールが待っている
49km/標高1,640mの新白湯エイドステーションで一度休憩。ここまでで半分だ。イメージ的にはすでに乗鞍ヒルクライムを登った感じだ。しかし先を見上げると、はるか彼方に道は続いている。まだまだ先は長い。休憩は長すぎると逆に疲れるので、バナナ、パン、水を補給し一息ついてすぐに再スタート。

高地トレーニングは標高1,500mぐらいから行うので、酸素量も随分少なくなってきている。急に息苦しくなってきたときに標高2,000mの看板を通過。勾配も徐々にきつくなってきているように感じる。 山をくり抜いただけの素掘りトンネルをいくつもくぐり、山深くへと入って行く。

ゴール地点はタイヤメーカーのMAXXISのバナー一色だゴール地点はタイヤメーカーのMAXXISのバナー一色だ ゴールしたら即タイムが記載された完走証とメダルがもらえるゴールしたら即タイムが記載された完走証とメダルがもらえる 3日間も一緒にいればもう気が知れた仲間。完走パーティは格別だ3日間も一緒にいればもう気が知れた仲間。完走パーティは格別だ 途中ダウンヒルもこなして、チャレンジクラスのゴールである74km/標高2,374mの関原エイドステーションに到着。乗鞍ヒルクライムを2回登った感じだ。暖かいスープを飲んでホッと一息いれると、先頭グループに日本の選手がいるとスタッフが教えてくれた。天候も安定していて頂上の天気を聞くと大丈夫と言われて一安心。もう天気が悪かったから登頂できなかったとは言い訳できない!

そしてここから先が「壁」と言われている後半区間の残り15kmが始まる。一昨年、この壁区間で頂上付近が悪天候のため大会中止となり下山した。入り口のキツさは覚えている。そのときはノーマルクランクで後悔したので、今回はここのためにコンパクトクランクをチョイスしたのだ。それでも止まりそうな速度、時速6~7kmしか出ていない。勾配は20%弱ぐらいだ。

脚を地面につきたくなる衝動を必死におさえながら登る。1時間ぐらい苦しい長い時間をなんとかクリアすると、標高3,000mを超えた。もうここまででお腹一杯なところで尾根を下るが、頂上はまだ上の方に見える。

最後も気力を振り絞ったが、やはり時速10km以下。この区間だけで1時間半以上もかかりながら、90km/標高3,275mの武嶺にゴール。タイムは5時間40分。最後のこの区間は日本で例えると富士山のふじあざみラインだ。

東アジア最高到達地点にたどり着いた達成感とともに脱力感。余韻に浸っていると華奢な日本人が話しかけてくれてきた。埼玉から参加した今井基裕(29歳)さん。なんと彼が優勝者だった。タイムは4時間22分。ブルベ好きで昨日もコース途中まで下見した強者。なんだか自分が勝ってないのに嬉しくなって得した気分だ。

後半は誰かをサポートするなんて感じではなくなってしまったが、この壮大なヒルクライムにチャレンジできて良かったと素直に思えた。ツアー参加者は制限時間8時間以内にゴールできた人もできなかった人もいたが、みなさん清々しい表情だった。また来年リベンジですね!

最後はホテルに戻ってからツアーのみなさんと完走パーティ。花連駅近くのガチョウ肉店へ。達成感と安堵感で台湾式飲みを忠実に行った私が、初日同様へべれけになったのは言うまでもない。登りの辛かったことはもう忘れて来年のことを考えていたのだ。



筆者プロフィール
田代恭崇さん(リンケージサイクリング)


田代恭崇さん(リンケージサイクリング)田代恭崇さん(リンケージサイクリング) サイクリングプランナー。2004年アテネ五輪ロード日本代表。10年間ブリヂストンアンカーに所属し、ヨーロッパプロレースや全日本選手権等多くの優勝を飾る。07年で選手を引退し、08年ブリヂストンサイクルに入社。スポーツ自転車の商品企画、販売促進、広報、マーケティング、ショールーム運営、サイクリングイベント等の業務を6年間担当。

2013年には“世界一過酷” なアマチュアサイクリストの祭典 “オートルート・アルプス” で日本人初完走を果たす。2014年よりフリーランスとしてサイクリングの魅力を伝える活動を始める。 同年、サイクリングイベントやスクール、コーチを行うリンケージサイクリングを創業。

report&photo: 田代恭崇(Yasutaka.Tashiro)
photo:R1ジャパン、廣瀬由紀(Yuki Hirose)