昨年に引き続き岩手県八幡平の一般公道で開催された全日本選手権ロードレースは、252.8kmの闘いの末、土井雪広(アルゴス・シマノ)が欧州プロのプライドと貫禄、そして実力を見せて勝利した。

朝8時。スタートラインに並んだ選手たち朝8時。スタートラインに並んだ選手たち (c)Makoto.AYANOロンドン五輪と世界選手権の代表候補選手選考参考大会

スタートを待つ土井雪広(アルゴス、シマノ)スタートを待つ土井雪広(アルゴス、シマノ) (c)Makoto.AYANO例年なら各国ナショナル選手権同様に6月末に開催される全日本選手権。しかし今年はロンドン五輪イヤーということで、早めに代表選手選考をしたいという意図から今回の4月末の日程となった。
しかし2ヶ月以上早い大会の開催にUCIの認可は得られず、上位入賞者に通常付与されるUCIポイントがつかないということになってしまった。

左手首を痛めている新城幸也(ユーロップカー)左手首を痛めている新城幸也(ユーロップカー) (c)Makoto.AYANOロンドン五輪と世界選手権の「代表候補選手選考参考大会」を兼ねており、この大会の優勝者は両大会の代表選手に選ばれる可能性が出てくる。とくにロンドン五輪は別府史之(グリーンエッジ)がすでに内定しており、ロンドンへの切符はあともう1枚。これをJCFが独自に定めたポイントランキングをもとに選考する。

このランキングで別府に続く獲得ポイントをもつのが新城だが、誤算は4月4日の落車事故による左手首骨折。大掛かりな手術を要した骨折で、出場を決めたもののまだ手首に痛みがあり、ハンドルがしっかりとは握れない状況だ。
新城は左手首をプレートでに補強した状態で走る。変速操作さえ思うようにできないため、カンパニョーロジャパンが電子シフトのEPSを用意してコルナゴのバイクに装着した。

宮澤崇史も別府史之同様に本来のプロ活動を優先して欠場。もう一枚のロンドン行きチケット争いの行方は、週明けには決着が付いている。このレースと、宮澤が出場中のツアー・オブ・ターキーでの結果が左右する。ポイント上位の新城が完走できなくても、その優位は揺るがないようにも思えるが。

逃げグループの選手たち逃げグループの選手たち (c)Makoto.AYANO夏日の長距離レース 大きな逃げが容認される

メイン集団は愛三レーシングがコントロールメイン集団は愛三レーシングがコントロール (c)Makoto.AYANOコースは昨年大会と同じ八幡平。しかし距離は伸び252.8kmという国内レースとしては稀にみる長距離レースとなった。この日の予想最高気温は24度で、朝8時のスタートから気温は上昇してゆく。勾配のなだらかなローリングコースをレースは16周する。

1周目から逃げたのは9名。加地邦彦(なるしまフレンド)中村誠(宇都宮ブリッツェン)、浜頭恭(グルッポアクアタマ)、藤田信一(Eperance Stage/WAVEONE山口)、中西重智・澤田賢匠・岡崎陽介(シエルボ奈良)太田貴明・嶌田義明(TeamUKYO)。
これを第2グループ、井上和郎(ブリヂストンアンカー)、平塚吉光(シマノレーシング)、中島康晴(愛三工業レーシング)、遠藤績穂(CANNONDALE SPACEZEROPOINT)の4名が追走する。
メイン集団はこの2グループを見送り、差はどんどん広がった。
レースは<逃げ集団>→<追走集団>→<メイン集団>という構図のまま続き、逃げ集団とメイン集団とのタイム差は11分ほどにまで広がった。

後半勝負に向けて差を詰めていく

集団最後尾で様子をうかがいながら走る新城幸也(ユーロップカー)集団最後尾で様子をうかがいながら走る新城幸也(ユーロップカー) (c)Makoto.AYANO残り周回が6周を切ったところでメイン集団もシマノレーシング、宇都宮ブリッツェンなどが中心となってペースを上げ始める。
国内プロ、ホビーレーサーが入り混じった前を行く選手たちも分解、再合流を繰り返す。粘ったのはブリッツェン中村。それにチームメイトの普久原奨(宇都宮ブリッツェン)と阿部嵩之(シマノレーシング)が追いつき、合流。
昼を回ると風が出てきて、上昇を続ける気温とともに選手たちを苦しめはじめる。

先頭を逃げる2人先頭を逃げる2人 (c)Makoto.AYANO残り3周に入る手前でそれまで200kmを逃げてきた中村は遅れ、普久原と阿部のランデブーが始まる。メイン集団はアタックがかかることもなく、そしてレースは残り2周を迎える。すでに最後の1周、最後の上り勝負へ向けての雰囲気だ。上りでは人数減らしのペースアップがあるものの、シマノレーシングと愛三工業レーシングの組織力が目立つようになる。

それでも人数は減らず、レースは中集団のままどの選手にとっても意識は完全に最後の上り5kmの争いにフォーカスされる。

最後の上りで抜けだした3人

最後の上りに入ると、ブリヂストンアンカーが前に出て西薗良太がペースを大きく上げて前に出る。それに飛びついたのが土井雪広。土井はすぐさま軽いアタックで返し、リードを広げる。後方を確認しながらアタックを続ける土井に対し、後方から清水都貴(ブリヂストンアンカー)と増田成幸(宇都宮ブリッツェン)が詰め寄ってくる。
後方のグループは急速に分解しながら人数を減らすが、土井・清水・増田の3人に届く勢いがある走りは見えない。3人はそのまま差をジリジリと広げる。

土井雪広が攻撃を開始。集団から抜け出す土井雪広が攻撃を開始。集団から抜け出す (c)Makoto.AYANO

清水都貴(ブリヂストンアンカー)、土井雪広(アルゴス・シマノ)、増田成幸(宇都宮ブリッツェン)清水都貴(ブリヂストンアンカー)、土井雪広(アルゴス・シマノ)、増田成幸(宇都宮ブリッツェン) (c)Makoto.AYANOトリオの前を牽くのは清水。土井は後方に控え、様子を伺いながらついている。明らかに余裕があるのは土井。勝負は3人に絞られた。

ゴールが迫るとまず清水が脱落し、スプリントは土井と増田の勝負に。しかし前に出た土井が余裕を持ってゴールラインを越え、指を突き出してフィニッシュ。そしてチームの新スポンサー「ARGOS」と、「SHIMANO」を指さしながらアピール。
チームとしてはひとりながら、今日の土井はシマノレーシングのメンバーをアシストとして使えるというメリットもあった。チームスポンサーを同じとし、しかも土井の出身チーム。シマノレーシングにも畑中勇介と鈴木譲の2人のエースがいるため勝利のゴールは完全に同じではないが、同じチームとしてシマノレーシングのサポートを受けられたのは強みだった。
昨年の全日本では膝関節の骨折からのリハビリ期間という状況で出場し、結果は残せなかった。しかしとうとう自身初のタイトルを手にした。

土井雪広(アルゴス・シマノ)が勝利のポーズでゴールに飛び込む土井雪広(アルゴス・シマノ)が勝利のポーズでゴールに飛び込む (c)Makoto.AYANO

新スポンサーのARGOSとSHIMANOを指さす土井雪広新スポンサーのARGOSとSHIMANOを指さす土井雪広 (c)Makoto.AYANOツール・ド・フランス出場メンバーが近づいた

土井は言う「やっと勝てました。思った通りの展開で、ラスト2周でBS、アンカー、愛三が動き出すと思っていたので備えていた。西薗のアタックは僕にとってペースが上がっただけで余裕で対処できた。ミヤタカ、増田の3人になってからも僕には後方にユズル(鈴木譲)と畑中が控えているので前には出なかった。最後のスプリントはきつかったけど、余裕がありましたね。

新城幸也(ユーロップカー)が9位でゴール新城幸也(ユーロップカー)が9位でゴール (c)Makoto.AYANOアルデンヌクラシックを走って帰国するとき、フミからは<バトンは渡したよ>と言われたんです。この勝利で、ツール・ド・フランスのメンバーセレクションに一歩近づいたと思う。ナショナルジャージを着てツールを走るのは僕の夢ですから」。

優勝した土井雪広(アルゴス・シマノ)、2位増田成幸(宇都宮ブリッツェン)、3位清水都貴(ブリヂストンアンカー)優勝した土井雪広(アルゴス・シマノ)、2位増田成幸(宇都宮ブリッツェン)、3位清水都貴(ブリヂストンアンカー) (c)Makoto.AYANOアルゴス・シマノは先日A.S.O(アモリー・スポール・オルガニザシヨン)からツール・ド・フランスへの招待を受け取っている。また、土井が昨年日本人として初の完走したブエルタ・ア・エスパーニャの招待も受け取り、アルゴス・シマノは2つのグランツールに出場の可能性が出てきた。上りに強い土井は今年も有力候補だ。
これからはツールに向けたレースでチーム内のメンバー選考が始まっていく。国のナショナルジャージを着ることは、そのチームにとっても大きな選考理由となりうる。そしてチームのサブスポンサーは日本のシマノ。日本人選手をツールメンバーに入れることはチームにとっても大きな理由が出てくるのだ。

土井はこの後、ジロ期間中の5月に開催されるツアー・オブ・カリフォルニアに初めて出場。その後、ツール・ド・フランスの準備レースとして知られるクリテリウム・ドゥ・ドーフィネに出場する。すでにツールメンバーへのレールの上を走っているのだ。それらのレースでアピールする走りが出来れば、土井の夢であるツール出場が現実味を帯びて見えてくる。
会見で手術した左腕の状態を説明する新城幸也(ユーロップカー)会見で手術した左腕の状態を説明する新城幸也(ユーロップカー) (c)Makoto.AYANO土井は、ツールにどれぐらい近づいたと思うか?の問いに対し、「15%ぐらい確率が上がった。そのもとの可能性が何%かは言えないですが」と笑った。

5月1日には東京都内でロンドン五輪代表メンバーが発表される。ポイントどおり新城なのか、土井あるいは他の選手が選ばれるのかはJCF強化スタッフ陣の判断による。この日、日本ナショナルチームの監督・松本整氏らもレースに帯同し、選手たちの走りを現場で見極めていた。




全日本選手権ロードレース2012男子エリート 結果
1位 土井雪広(アルゴス・シマノ) 6:55:38
2位 増田成幸(宇都宮ブリッツェン) 6:55:38
3位 清水都貴(ブリヂストンアンカー) 6:55:41
4位 飯野智行(宇都宮ブリッツェン) 6:55:52
5位 西谷泰治(愛三工業レーシング) 6:55:57
6位 鈴木真理(キャノンデール・スペースゼロポイント) 6:55:57
7位 六峰 亘(ブリヂストンアンカー・エスポワール)
8位 畑中勇介(シマノレーシング)
9位 新城幸也(ユーロップカー)
10位 寺崎武郎(ブリヂストンアンカー・エスポワール)

JCFのレース2日目全リザルト

text&photo:Makoto.AYANO