2013年のトレックロードラインナップにおいて、エアロ形状を取り入れた新型マドンの存在は大きなトピックス。しかしカタログの後半ページにも要注目のバイクが存在する。それがアルミロードのマドン2。今回のインプレッションでは、上位グレードと同様の機構を数多く設けたエントリーモデルにフォーカスを当ててゆく。

トレック Madon2.1トレック Madon2.1 (c)MakotoAYANO/cyclowired.jp

今までマドンと言えば、トレックのカーボンロードバイクを指すものだった。しかし2013年モデルから追加されたマドン2シリーズは、従来ラインナップされていたアルミバイク「2シリーズ」を進化させ、マドンの名称を奢ったアルミバイクだ。「マドン」たる所以は、完成車価格10万円台をマークするシリーズの末弟ながら、上級モデルと同様の構造を数多く搭載していところに拠るもの。

エントリーモデルながら塗装も美しく、価格以上の高級感を感じさせるエントリーモデルながら塗装も美しく、価格以上の高級感を感じさせる ヘッドは上1-1/8、下1-1/2インチのE2ヘッドチューブヘッドは上1-1/8、下1-1/2インチのE2ヘッドチューブ KVF形状を用い、エアロを考慮したカーボン製フロントフォークKVF形状を用い、エアロを考慮したカーボン製フロントフォーク


まず特徴的なのは、アルミ素材ながら7~5シリーズと同様のKVF断面のエアロチューブを採用していることだ。他ブランドでもエアロ形状のアルミバイクは存在するが、「翼断面の後端を切り落とした」とよく比喩される最新のカムテール理論に則ったもの、特にエントリーグレードとしてはかなり希少な存在だ。

ダウンチューブとフォークにKVF形状を取り入れることでエアロ効果の獲得はもちろんのこと、一般的なエアロチューブに対して横剛性や軽量性を手に入れていることは事実。そして何よりもそのフレーズは、マドン2がメインターゲットとする、これから本格的にロードに乗り込みたい若いライダーのハートをガッチリ掴んで離さない。

ワイヤー中通しとなるマドン2シリーズ。ルーティングも計算されているワイヤー中通しとなるマドン2シリーズ。ルーティングも計算されている スローピング角度も大きすぎること無く、自然なルックスだスローピング角度も大きすぎること無く、自然なルックスだ


スピードコンセプトにも採用されるKVF形状を用いたダウンチューブスピードコンセプトにも採用されるKVF形状を用いたダウンチューブ BB86.5方式を使ったBB部分は高い剛性を確保するBB86.5方式を使ったBB部分は高い剛性を確保する


ビギナーでも安心できるハンドリングを手にするため、ヘッドは上1-1/8、下1-1/2インチの「E2ヘッドチューブ」を採用。これは3グレード上の5シリーズにも採用されているテクノロジーだ。

さらにフロントフォーク内に搭載されたスピードトラップや、ボトムブラケットをマドン3シリーズと同じBB86.5とすることで、ただ単なるエントリーモデルとは一線を画す付加価値が与えられているのだ。

ディレイラーは前後とも105で、クランクはR565を採用ディレイラーは前後とも105で、クランクはR565を採用 レバーは105とし、ルックスを向上させているレバーは105とし、ルックスを向上させている


フレームのジオメトリーは、トップエンドを除くマドンシリーズや、ロングライドモデル・ドマーネにも採用されるH2フィット。ヘッドチューブ長がやや長めに取られていることで首や背中の負担を少なくし、コラムスペーサーを高く積まずともホビーライダーにとって最適なポジションを出すことが可能だ。

エントリーグレードという点を踏まえ、フェンダーを取り付ける為のマウントがエンドに取り付けられていることもトピックス。雨でも乗りたい元気なライダーにも最適で、いずれバイクを乗り換え、マドン2を通勤・通学用に下ろした場合にも最適だろう。アルミフレームだけに衝撃にも堅牢で、将来的にも長く付き合うことができる。

がっしりとしたリアバックの造り。エンドにはフェンダー用のダボがあるがっしりとしたリアバックの造り。エンドにはフェンダー用のダボがある リアブレーキ周りは基本に忠実な造りで不安が無いリアブレーキ周りは基本に忠実な造りで不安が無い エントリーモデルながら、チューブ集合部の造形も雑味が無いエントリーモデルながら、チューブ集合部の造形も雑味が無い


販売価格は、シマノ・105をメインにボントレガーRaceホイールで組まれたマドン2.3が169,000円(税別)、今回のテストバイクである、エントリーレベルのホイールを搭載しコストダウンを図ったマドン2.1で149,000円(税別)という、これからロードバイクを始めたいユーザーにとっても購入しやすい価格とされている。

さて、上位機種譲りの機構を多く備え、エントリーグレードの中において一際目立つ存在のマドン2を、テストライダー両氏はどのように評価するのだろうか。早速インプレッションに移ろう。




―インプレッション

「トレックらしく細部まで作りこまれ、価格以上のプレミア感がある」西谷雅史(サイクルポイント オーベスト)

細部に至るまで作りこまれていて、価格以上のプレミアム感が漂うバイクですね。走りでの第一印象はいわゆる「アルミらしい走りのバイク」といったことろ。ターゲットとするビギナーライダーがロードバイクに慣れやすい走りの印象です。

直線での安定性は高く、高速域でも走りがブレることがありませんでした。この点はロードバイクを扱うことに慣れていないビギナーには良いポイントと言えることろ。踏み心地はゴチッと硬めで、乗り心地もカーボンバイク等に比べるとハードな印象です。

「トレックらしく細部まで作りこまれ、価格以上のプレミア感がある」西谷雅史(サイクルポイント オーベスト)「トレックらしく細部まで作りこまれ、価格以上のプレミア感がある」西谷雅史(サイクルポイント オーベスト)

走りでの難点といえば、上りでのダンシングの振りが重いことが挙げられますね。それは恐らく、フロントフォークの剛性がやや低く、左右に振った際、振りに対して遅れてついてくる性格があるからだと感じます。加えてリアバックの動くタイミングとリズムが合わないためでしょう。

そのため斜度のあるヒルクライムは苦手なのですが、緩やかであまりダンシングを必要としない場面ですと「意外に不得意ではないんだな」という印象をもちました。アルミモデルということで重量もそれなりにありますし、上りをガンガン走るのは不得意かなと感じます。ただエントリーグレードですし、そういった不満が出てきた時は、バイクの替え時が来たということだと思います。むしろそういった意味でライダーを育ててくれるバイクではないでしょうか。

ルックスは自転車自体の完成度がこの価格帯のバイクとしてはとても良くできていて、満足感のある造りですね。たとえば上位モデルと同じようなワイヤーのフレーム中通しや、フレーム自体もキレイな造りになっています。価格こそ安価ですが、ルックスに安っぽさが微塵もありません。

カーボンバイクのようなルックスですし、「トレックの自転車に乗りたい!」というビギナーライダーとってそれは大きな所有欲となってくれるはずです。ビジュアルを楽しみたい方にはオススメだと思いました。

上位モデルで採用しているからだと思いますが、ワイヤールーティングはかなり自然で、レバー操作を邪魔しませんでした。このあたりはトレックの巧さを感じるポイントです。アッセンブルされているパーツは値段相応ですが、レバーを105にしているのだから、欲を言えばブレーキも105グレードにして欲しかったですね。ティアグラクラスだと正直不安を感じる部分ですので、購入したらブレーキの交換はしておきたいところです。

ターゲットユーザーは、まさにこれからロードバイクを始めたいライダーでしょう。そんな方にとっては上位モデル譲りのシステムを多く持っているマドン2は魅力的なバイクなのではないでしょうか。総括して対価格的な性能は決して悪く無く、エンデューロでもヒルクライム、マスドレースでも初心者がレースに出るには何ら問題無いバイクだと感じます。


「アルミバイクらしい走りを感じる。ロードレーサーらしさを楽しみたいビギナーに」戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)

「アルミバイクらしい走りを感じる。ロードレーサーらしさを楽しみたいビギナーに」戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)「アルミバイクらしい走りを感じる。ロードレーサーらしさを楽しみたいビギナーに」戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート) 第一印象として、やや走りの硬いバイクだな、という印象を持ちました。少し昔っぽいアルミバイクの走りをしますね。フレームの剛性感がかなりあるため、グイッとトルクを掛けて踏み込んだ時のダッシュは比較的に良好だと感じました。

フォークとリアバックはどちらもかなり硬くできているため、走っている際の安心感に繋がってくれるポイントと言えますね。そのため乗り心地こそ決して良くはありませんが、柔らかいサドルや、初心者も無理なく乗れるジオメトリーのおかげでロングライドにも対応してくれると思いました。

ただ剛性が高い分、ハンドリングを含めて全体の挙動がクイック気味で、路面の情報も小さな石粒を感じさせるような、かなり硬い乗り味です。よく言えば情報が掴みやすく、悪く言ってしまえば乗り心地はよくありません。縦方向の突き上げは割と強く感じ、アルミらしいと言えばアルミらしいですが、太めのタイヤを履かせることである程度は改善できるでしょう。

アッセンブルされているパーツについては、14万円台という価格でシマノ105を積んでいますし、なかなか良いのではないでしょうか。レースを走るならブレーキは105以上にしておきたいところですが、市街地を走ったり、ゆっくり走るツーリング的使用であれば十分でしょう。重量もめちゃくちゃ重いというわけではないので、長い上りもある程度はこなせるはずです。

価格やキャラクターももちろんですが、走りそのものからも、まだロードバイク一台目のビギナーライダーに適しているのかなと感じます。ある程度乗りなれている方からすれば不満点も出てくるでしょうが、初心者の方にとっては「ロードバイクらしさ」を強く楽しめるので良いのではないでしょうか。ジョギングのようなレベルの走りは向いていますね。

西谷さんも仰っていましたが、コストに対してフレームの造りや満足感がとても高い事がこのバイクの魅力だと感じます。フレームの形もワイヤー中通しも、他のエントリーグレードと比較して満足度はずば抜けて高いですよね。スピードセンサーのフォーク内蔵システムなど、トレックらしさを感じますし、スマートなルックスに貢献していて魅力的だと感じます。そういった意味でお買い得なモデルではないでしょうか。


トレック Madon2.1トレック Madon2.1 (c)MakotoAYANO/cyclowired.jp


トレック Madone2.1
フレーム:200 Series Alpha Aluminum, E2, KVF (Kammtail Virtual Foil) tube shape, press-fit BB
フォーク:Madone KVF carbon, E2, SpeedTrap compatible
サイズ:50, 52, 54, 56, 58, 60cm
フレームフィット:H2
ホイール:Alloy hubs w/Bontrager Approved alloy rims
タイヤ:Bontrager R1, 700x23c
コンポーネント:シマノ 105&ティアグラ
サドル:Bontrager Affinity 1, steel rails
シートポスト:Bontrager Race, infinite tilt adjustment, 20mm offset
ハンドルバー:Bontrager Race VR-C, 31.8mm
ステム:Bontrager Race Lite, 31.8mm, 7 degree
ヘッドセット:Integrated, cartridge bearings, sealed, alloy, 1-1/8" top, 1.5" bottom
ブレーキセット:Alloy dual-pivot brakes w/Shimano 105 STI levers
価 格:149,000円(税込)



インプレライダーのプロフィール

 西谷雅史(サイクルポイント オーベスト) 西谷雅史(サイクルポイント オーベスト) 西谷雅史(サイクルポイント オーベスト)

東京都調布市にある「サイクルポイント オーベスト」店長。チームオーベストを率い、自らも積極的にレースに参戦。主なリザルトはツール・ド・おきなわ市民200km優勝、ジャパンカップアマチュアレース優勝など。2007年の実業団小川大会では、シマノの野寺秀徳、狩野智也を抑えて優勝している。まさに「日本最速の店長」だ。

サイクルポイント オーベスト



戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート) 戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)

1990年代から2000年代にかけて、日本を代表するマウンテンバイクライダーとして世界を舞台に活躍した経歴を持つ。1999年アジア大陸マウンテンバイク選手権チャンピオン。MTBレースと並行してロードでも活躍しており、2002年の3DAY CYCLE ROAD熊野BR-2 第3ステージ優勝など、数多くの優勝・入賞経験を持つ。現在はOVER-DOバイカーズサポート代表。ショップ経営のかたわら、お客さんとのトレーニングやツーリングなどで飛び回り、忙しい毎日を送っている。09年からは「キャノンデール・ジャパンMTBチーム」のメカニカルディレクターも務める。

OVER-DOバイカーズサポート

ウェア協力:BIEMME(ビエンメ)


text:So.Isobe
photo:Makoto.Ayano