アンカー2013年のラインナップの中でおそらく最も注目を集めるのが、ホビーサイクリストから高い人気を博したRFX8の後継モデルとなる「RL8」だろう。ピュアレーシングバイクであるRIS9のコンセプトを受け継ぎ生まれ変わった「マルチロールバイク」の実力は如何に。

アンカー RL8 アンカー RL8  (c)MakotoAYANO/cyclowired.jp

「所有欲を満たす上質なフォルム」そして「ゆったりと乗ることを楽しむための走り」とアンカーによって解釈される「ラグジュアリー」をテーマとし、その頭文字の'L'を車名とするRL8。しかし単なるコンフォートバイクの枠に留めることはせず、レーシングバイクとしての運動性能と、ロングライドに最適な快適性を高い次元で両立することを目指して開発・研究が進められた。

ヘッドからダウンチューブ、チェーンステーに掛けてのフレームの下回りの剛性を上げ、反対にトップチューブからシートステーにかけてを細身のチューブとし、バランスを最適化するアンカー独自の「イノベート・スティフネス」はこのRL8にも応用され、下側1-1/4インチとしたヘッドチューブはダウンチューブとの接合面積を増大しパワーラインの強化に繋げている。

細身に仕上げられたトップ&ダウンチューブ。ホビーライダーに向く剛性バランスを追求した結果だ細身に仕上げられたトップ&ダウンチューブ。ホビーライダーに向く剛性バランスを追求した結果だ 下側1-1/4の上下異型テーパードヘッドチューブを採用下側1-1/4の上下異型テーパードヘッドチューブを採用 RIS9と同じフロントフォークを採用し、シャープなハンドリングを実現しているRIS9と同じフロントフォークを採用し、シャープなハンドリングを実現している


RIS9よりも外径を落としたダウンチューブが意図するのは、BBハンガー部分の剛性を必要以上に上げないこと。具体的には、RIS9と比較して横剛性を20%落とすことで、ファンライダーの脚力に合った剛性感と快適性を実現している。内側に向かって微妙に反ったデザインも快適性を演出する要素だ。

緩やかに湾曲したトップチューブからシートステーにかけてのラインもRL8の特徴の一つだ。特にモノタイプ形状から分岐していくシートステーは扁平形状とされ、板バネ同様に動かすことで高い振動吸収性を狙っている。スリムなチェーンステーも乗り心地の向上に貢献する部分だが、BBシェル側を角断面としペダリングに対するねじれ剛性を強めている。

ケーブル類はフレーム内蔵工作。小物を取り外すことでDi2にも対応するケーブル類はフレーム内蔵工作。小物を取り外すことでDi2にも対応する ゆるやかなアーチを描くトップチューブは乗り心地に貢献しているゆるやかなアーチを描くトップチューブは乗り心地に貢献している


過度な剛性を求めず、バランスを追求したことで生まれたBB周りのシェイプ過度な剛性を求めず、バランスを追求したことで生まれたBB周りのシェイプ 適度なボリュームに抑えられるヘッドチューブ周りの造り適度なボリュームに抑えられるヘッドチューブ周りの造り


しなやかさと剛性をバランスするフレームに対し、シャープなハンドリングを求めるためにフロントフォークはRIS9と同じストレート形状のものがアッセンブルされる。比較的細身のフォークは、サポートを行うチームブリヂストン・アンカーの選手からも高い評価を得ているという。

ジオメトリー的にもヘッドチューブを長く、トップチューブを短くとることで無理せずアップライトなポジションを取ることが可能だ。コラムを高く積まずともポジション出しができるのは、ホビーライダーにとっても良いポイントの一つだ。

ねじり剛性を増しための角型断面から緩やかに変化するチェーンステー。ねじり剛性を増しための角型断面から緩やかに変化するチェーンステー。 横つぶしの入れられたチェーンステー横つぶしの入れられたチェーンステー


各種ワイヤー類を内蔵式とするRL8だが、軽い変速性能を求めるためシフトワイヤーの入り口をダウンチューブに設け、その取り入れ角度を煮詰めるなど、細やかな部分にも高い完成度を求めるアンカーらしさの感じられる部分だ。シフト用の取り入れパーツは取り外し可能で、機械式と電動式コンポーネントどちらにも対応可能とした。Di2バッテリー搭載位置は非駆動側のチェーンステー下側となる。

セーフティーマージンを大きく取り、フォークエンドにアルミ製パーツを使うなど、単なる軽量性を追求していないRL8だが、フレーム単体重量は480mmサイズで980gとRIS9に迫る重量に仕上げられ、軽いペダリング特性と通じて長い距離のヒルクライムにおいてアドバンテージを発揮するという。

弓なりにベンドするシートステーは衝撃吸収性を狙ったもの弓なりにベンドするシートステーは衝撃吸収性を狙ったもの 横つぶしのモノステー方式とし、板バネのようにしなりを生む横つぶしのモノステー方式とし、板バネのようにしなりを生む フロントディレイラーは直付式。シンプルなデザインにアンカーの意志が反映されるフロントディレイラーは直付式。シンプルなデザインにアンカーの意志が反映される


様々な販売パッケージが選択できる中、今回インプレッションを行うのは6700系アルテグラを搭載した「RL8 ELITE」。チェーンやカセットに至るまでフルセットでコンポーネントを統一しながら、340,000円(税込)という買い求めやすい価格を実現しているのもユーザーにとって嬉しい点。性能と価格的にもホビーライダーにマッチした一台だ。

週末ライドからレース参加まで、ホビーライダーの日常を豊かにしてくれるバイクがこのRL8。RFX8を受け継ぎつつ、RIS9のコンセプトを活かしたRL8の実力は果たして? テストライダー両氏がインプレッションを行う。





―インプレッション

「自然な加速力とフィーリングが気持ち良い。オールラウンドに使えるバイク」藤野智一(なるしまフレンド)

非常に軽い加速性があるバイク、という第一印象を受けました。特にある程度のスピードで巡航している場面から更に速度を上げた時の加速の良さ、そしてそのスピードを維持する能力に長けていますね。上りの能力も高く、シッティングからダンシングに切り替える際に自転車が止まるような感覚がありませんでした。ライダーのペダリングをそのまま推進力に繋げられる性格があって、後ろから押し出されるような自然な加速力を持ったバイクだと感じました。

アンカーは日本人の体型に合わせクセの無いバイクを作るというコンセプトなのですが、RL8はそれを残しつつも機敏な動きが取れるように設計されているのでしょう。ヘッド周りにもう少し剛性があればよりダウンヒルで安心できるかと思いますが、その辺りは乗り手の体重や走る速度域で大きく変わってくる部分です。バイクのコンセプト通りの仕上りとなっています。

「自然な加速力とフィーリングが気持ち良い。オールラウンドに使えるバイク」藤野智一(なるしまフレンド)「自然な加速力とフィーリングが気持ち良い。オールラウンドに使えるバイク」藤野智一(なるしまフレンド)

このRL8はホビーライダーが走る速度域、つまり40km/hほどまでの範囲で輝くバイクですね。その速度域ですと、自然とバイクが乗り手のペダリングに合わせるので心地良いフィーリングで走ることができました。その性格とダンシングの振りの軽さが相まって、上り性能が非常に良いと感じます。

フロントフォークは事前にRIS9と同じものという事を事前に聞いていました。あえてフォークをしごくようなハードブレーキをして下りコーナーに突っ込んでみたのですが、ラインが一気に崩れるようなこともなく、嫌な共振もありません。非常にしっかりとしていて良いのではないでしょうか。

振動吸収も全体的に優秀ですが、バックステーからの振動に関しては少し気になる所ですね。ショックは取れていますが、ボヨンという振動とは別の波が感じられました。原因はインプレでは分かりませんでしたが、タイヤやホイールを変えてみれば改善されるのかもしれません。

旧モデルのRFX8は大振りに乗った場合に扱いやすいバイクでしたが、このRL8は大きく振るとハンドリングに重みを感じます。バイクの戻ろうとするタイミングが早く、大きなダンシングだと力と力がぶつかってしまうのでしょう。バイクのリズムを掴んでテンポ良く小刻みに乗った方が良いですね。

フレームの素性はとても良いバイクですので、その性格を引き出してあげるのならばアルテグラ以上で組むことをオススメします。デュラエースでも55万円と非常にお手頃価格ですよね。レースやヒルクライムに出場しても、サイクリングに使ってもしっかりと楽しめる性能を持ち合わせたオールラウンドなバイクです。


「ロングライドに向きつつ、キビキビと走ってくれる。ロードの楽しさが味わえる」三上和志(サイクルハウスMIKAMI)

前モデルのRFX8の特徴だった安定感と乗り心地の良さを全部引継ぎつつ、ロードレースにも使えるようなレスポンスを兼ね備えたバイクというイメージを受けました。具体的にはリアのしなやかさ、低速での安定感を活かしながら、ダンシングでの気持ちの良い進みが加えられています。

恐らくRIS9と同じフォークに変更されたことによる部分も大きいのでしょうか。安定感がありつつもダンシングではキビキビとして、2面性のあるバイクですね。

「ロングライドに向きつつ、キビキビと走ってくれる。ロードの楽しさが味わえる」三上和志(サイクルハウスMIKAMI)「ロングライドに向きつつ、キビキビと走ってくれる。ロードの楽しさが味わえる」三上和志(サイクルハウスMIKAMI) 意図的に剛性を落として乗りやすくしているとのことですが、ロングライドの後半で疲れ果ててしまった時に効果を発揮してくれそうです。とても軽やかさがありつつ、ふわっふわっと前に進んでくれるイメージがありました。単純な乗り心地は抜群に良いですね。路面からの情報は伝えつつ、角の無い振動のみが伝わってきました。

フロントフォークは剛性も高く、良くブレーキも掛かってくれます。重心バランスが良く出来ていますので、コーナーで攻めて行きたい場合も、ゆっくりと下りたい場合どちらにも対応できるでしょう。荒れた路面での安心感もレベルが高いです。

ヒルクライムに関してはとても優秀です。極低速では推進力をバネにして登ってくれますし、ダンシングに切り替えるとキビキビとした気持ちの良い進みがありますね。ケイデンス高めのダンシングとシッティングを混ぜていけば長い登りもこなせてしまうでしょう。トルクを掛けてグワッと登る感じでは無いです。

やはり向くシチュエーションはロングライドでしょう。このバイクならばどこまでもひたすら進めそうです。だからといってそれだけしか使えないということも無く、レースにも対応できます。そのあたりはフォークのおかげなのでしょうか。いろいろな使い方ができるのは良いですよね。

柔軟性があるバイクですので、足回りはカッチリとしたホイールを入れたいですね。ロングライドを助けてくれるような、剛性のあるディープリムのホイールが良いのではないでしょうか。乗り心地の良いホイールを入れて、究極に優しいバイクを作っても面白いかもしれませんね。

ルックス的にも前モデルはリラックスして走りましょう、といった雰囲気でしたが、引き締まったフォルムで全体的にシャープなイメージですね。ロングライドを楽しみながら、ガツンと走りたい時に応えてくれる、そんなロードバイクの楽しさを感じることのできるバイクです。

アンカー RL8アンカー RL8 photo:Makoto.Ayano/cyclowired.jp

アンカーRL8 ELITE
フレームサイズ 390-420-450-480-510-540mm
フレーム 3Pieces Carbon インテグラルヘッド
フロントフォーク HM-Carbon Monocoque ストレート形状スーパーオーバーサイズ
ヘッド小物 TANGE IS47LT ダイレクトインタイプ 上1-1/8 下1-1/4
シートピン φ34.9 バンド式
ハンドルバー◆ ANCHOR-NITTO M101S φ31.8
ハンドルステム◆ ANCHOR-NITTO UI-21
サドル◆ SELLA ITALIA X1 BLACK
シートポスト ANCHOR Aluminium φ31.6X300L
タイヤ BRIDGESTONE EXTENZA RR-1X 700×23C
ホイール◆ SHIMANO WH-RS21
フロントディレーラー◆ SHIMANO ULTEGRA FD-6700G 直付けタイプ
リアディレーラー◆ SHIMANO ULTEGRA RD-6700AG-SS
スプロケット◆ SHIMANO ULTEGRA CS-6700 10S 12-25T
ギアクランク◆ SHIMANO ULTEGRA FC-6700G 52-39T
BBシャフト一体構造 390-450mm:165L/
480-510mm:170L/540mm:172.5L
ボトムブラケット SHIMANO ULTEGRA SM-BB6700 68W
チェーン SHIMANO CN-6701
ペダル◆ なし
ブレーキアーチ SHIMANO ULTEGRA BR-6700G
ブレーキレバー◆ SHIMANO ULTEGRA ST-6700

◆印のついたパーツはサイズや歯数、種類等が選択可能

フレーム重量 フレーム単体980g(480mm)
フレームセット1,440g(480mm)
完成車重量 7.8kg(480mm)ペダル付き
7.5kg(480mm)ペダルなし
完成車価格 340,000(税込)
ULTEGRA 6770仕様+¥80,000ほかパーツ選択による





インプレライダーのプロフィール

藤野智一藤野智一 藤野智一(なるしまフレンド)

92年のバルセロナオリンピックロードレースでの21位を皮切りに、94・97年にツール・ド・おきなわ優勝、98、99年は2年連続で全日本ロードチャンピオンとなるなど輝かしい戦歴を持つ。02年に引退してからはチームブリヂストン・アンカーで若手育成に取り組み、11年までは同チームの監督を務めた。2012年より出身チームのなるしまフレンドに勤務する。

なるしまフレンド


 三上 和志 三上 和志 三上和志(サイクルハウスMIKAMI)

埼玉県飯能市にある「サイクルハウスMIKAMI」店主。MTBクロスカントリー全日本シリーズ大会で活躍した経験を生かし、MTBに関してはハード・ソフトともに造詣が深い。地元でのスクール活動も積極的に展開。ロードレースやシクロクロスレースにも参戦し、ジャンルを問わず自転車遊びを追求している。使用目的に合った車種の選択や適正サイズに関するアドバイスなど、特に実走派のライダーに定評が高い。

サイクルハウスMIKAMI


ウェア協力:レリック

text:So.Isobe
photo:Makoto.Ayano
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