マルク・マディオ監督の激を受けながら、ティボー・ピノ(フランス、FDJ・ビッグマット)がスイス・ポラントリュイに独走ゴール。登りと下りしかない厳しいツール・ド・フランス第8ステージで、22歳になったばかりのピノが独走勝利を飾った。

第8ステージ・コースプロフィール第8ステージ・コースプロフィール image:A.S.O.ツールはジュラ山脈を駆け抜ける。「ジュラ紀」の語源である同山脈は、フランスとスイスの国境にまたがる標高1500m弱の山の集まり。ベルフォールをスタート後、立て続けに7つのカテゴリー山岳を越える。距離は157.5kmと短いものの、その内容は濃い。

マイヨジョーヌのブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)らがスタートを待つマイヨジョーヌのブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)らがスタートを待つ photo:Makoto Ayano登場するのは4級、3級、2級、2級、2級、2級、そして1級山岳。いずれもツールの山岳にしては珍しく急勾配で、ゴール16km手前の1級山岳ラクロワ峠は登坂距離3.7km・平均勾配9.2%・最大勾配17%。スイスに向かうこの日、レース序盤から激しいアタック合戦が繰り広げられた。

レース序盤に集団からアタックするシルヴァン・シャヴァネル(フランス、オメガファーマ・クイックステップ)レース序盤に集団からアタックするシルヴァン・シャヴァネル(フランス、オメガファーマ・クイックステップ) photo:Makoto Ayanoフィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシングチーム)やイェンス・フォイクト(ドイツ、レディオシャック・ニッサン)、シルヴァン・シャヴァネル(フランス、オメガファーマ・クイックステップ)、ミハエル・アルバジーニ(スイス、オリカ・グリーンエッジ)らが断続的にアタックを仕掛け、その度にメイン集団がスピードを上げて捕まえる。

レース序盤にアタックしたフィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシングチーム)らレース序盤にアタックしたフィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシングチーム)ら photo:Cor Vos1時間以上にわたってアタックと吸収が繰り返された結果、ハイスピードで進むメイン集団からは多くの選手が脱落。前日までの落車で怪我を負った選手やスプリンターたちは、このアップダウンステージに苦しめられた。

ようやく逃げが決まったのは55km地点。モワナール、ギャロパン、ケルヌ、マルツァーノ、ネルツ、ペロー、シェレル、カドリ、モンクティエ、ジャンデボス、フーガーランド、バルス、カルーゾ、ピノ、ロワ、クルイスウィク、モレマ、テンダム、キリエンカ、セレンセン、キセロフスキー、デウェールト、ウェーニングの21名がメイン集団から抜け出すことに成功する。

メイン集団からアタックするステフェン・クルイスウィク(オランダ、ラボバンク)らメイン集団からアタックするステフェン・クルイスウィク(オランダ、ラボバンク)ら photo:Cor Vosしかし、あまりにも大きな逃げグループのため、チームスカイは警戒心を解くことなく追撃体制を維持する。エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー)とクリスティアン・クネース(ドイツ)が延々とメイン集団を牽引。タイム差は抑え込まれた。

ここでサムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)が激しくクラッシュ。昨年マイヨアポワを獲得した北京五輪金メダリストは鎖骨骨折によりレース離脱。苦痛の表情を浮かべながら救急車で病院へ搬送された。

安定しない逃げグループからはフレデリック・ケシアコフ(スウェーデン、アスタナ)とジェレミー・ロワ(フランス、FDJ・ビッグマット)が抜け出し、追走グループから1分、メイン集団から3分30秒のリードを得てカテゴリー山岳を越えて行く。

やがて先頭ではケシアコフが独走を開始。今年ツール・ド・スイスの個人タイムトライアルでカンチェラーラを押さえて優勝したスウェーデン人選手が、ステージ優勝に向けて独走する。これをトニー・ギャロパン(フランス、レディオシャック・ニッサン)とピノの2人が追走した。

ゴールまで40kmを切ると、ペーター・サガン(スロバキア)で勝利を狙うリクイガス・キャノンデールが集団コントロールに合流。しかし逃げグループとのタイム差は縮まらない。

観客をかき分けて1級山岳ラクロワ峠を登るティボー・ピノ(フランス、FDJ・ビッグマット)観客をかき分けて1級山岳ラクロワ峠を登るティボー・ピノ(フランス、FDJ・ビッグマット) photo:Makoto Ayano

1級山岳ラクロワ峠を登るルイ・コスタ(ポルトガル、モビスター)ら1級山岳ラクロワ峠を登るルイ・コスタ(ポルトガル、モビスター)ら photo:Makoto Ayanoそしてこの日最後の1級山岳ラクロワ峠でレースは動く。ギャロパンを振り切ったピノが単独でケシアコフを追走。急勾配に苦しむケシアコフに追いつき、そのまま独走で頂上を通過したピノが、ゴールまで16kmのダウンヒル区間に入った。

メイン集団ではロット・ベリソルのペースアップがスタート。この厳しい展開により、メイン集団はファンデンブロック、エヴァンス、ニーバリ、ウィギンズ、フルーム、モンフォール、スベルディア、Fシュレク、メンショフに絞られた状態で1級山岳ラクロワ峠の頂上を通過する。

観客が詰めかけたラクロワ峠観客が詰めかけたラクロワ峠 photo:Makoto Ayanoピノは50秒リードでラスト10km。後方からは、脱落者を引き離したいメイン集団が迫る。ピノと並走するチームカーからは、マルク・マディオ監督の熱い檄が飛ぶ。

最後まで勢いを絶やさないピノが、そのまま独走でポラントリュイのゴールへ。一人でメイン集団を振り切り、美しい独走勝利を飾った。メイン集団は26秒遅れでゴールしている。

熱狂するマディオ監督とティボー・ピノ(フランス、FDJ・ビッグマット)熱狂するマディオ監督とティボー・ピノ(フランス、FDJ・ビッグマット) photo:Cor Vos「人生で一番長い10kmだった。ラスト10kmでリードが50秒まで縮まった時にはパニックになったよ」と、レース終盤を振り返るピノ。「この勝利はジェレミー・ロワに捧げたい。彼が逃げグループからアタックしたので、僕は力を温存出来たんだ」。

1990年5月生まれのピノは今大会最年少の22歳(サガンは1990年1月生まれ)。プロ3年目の今年、ツール・ド・ロマンディの山岳タイムトライアルで8位、ツール・ド・スイスの頂上ゴールで6位に入るなど、その山岳力を発揮していた(偶然にも、いずれもスイスでの成績)。

独走でゴールするティボー・ピノ(フランス、FDJ・ビッグマット)独走でゴールするティボー・ピノ(フランス、FDJ・ビッグマット) photo:Cor Vosピノは本来ブエルタ・ア・エスパーニャに出場予定だったが、本人の希望で今年ツールデビュー。マディオ監督の期待に応えた。

惜しくも1級山岳ラクロワ峠でピノに先頭を奪われ、メイン集団にも追い抜かれたケシアコフはステージ12位。その奮闘が功を奏し、マイヨアポワと敢闘賞を獲得している。

また、マイヨアポワを着るレイン・ターラマエ(エストニア、コフィディス)は1級山岳ラクロワ峠で脱落したが、何とかタイムロスを最小限に抑え、新人賞首位の座を守った。ステージ3位のギャロパンが46秒差の新人賞2位、ステージ優勝のピノが1分14秒差の新人賞3位。3名をメイン集団に残したレディオシャック・ニッサンはチーム総合成績トップに立っている。

選手コメントはレース公式サイトより。

ステージ初優勝を飾ったティボー・ピノ(フランス、FDJ・ビッグマット)ステージ初優勝を飾ったティボー・ピノ(フランス、FDJ・ビッグマット) photo:Cor Vosマイヨアポワを獲得したフレデリック・ケシアコフ(スウェーデン、アスタナ)マイヨアポワを獲得したフレデリック・ケシアコフ(スウェーデン、アスタナ) photo:Cor Vos


ツール・ド・フランス2012第8ステージ結果
1位 ティボー・ピノ(フランス、FDJ・ビッグマット)           3h56'10"
2位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)        +26"
3位 トニー・ギャロパン(フランス、レディオシャック・ニッサン)
4位 ブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)
5位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)
6位 ユルゲン・ファンデンブロック(ベルギー、ロット・ベリソル)
7位 クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)
8位 デニス・メンショフ(ロシア、カチューシャ)
9位 アイマル・スベルディア(スペイン、レディオシャック・ニッサン)
10位 フランク・シュレク(ルクセンブルク、レディオシャック・ニッサン)    +30"

15位 マキシム・モンフォール(ベルギー、レディオシャック・ニッサン)    +1'25"
16位 ピエール・ロラン(フランス、ユーロップカー)
17位 ミケーレ・スカルポーニ(イタリア、ランプレ・ISD)
18位 ティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、BMCレーシングチーム)
20位 リーヴァイ・ライプハイマー(アメリカ、オメガファーマ・クイックステップ)
21位 ヤネス・ブライコヴィッチ(スロベニア、アスタナ)
26位 レイン・ターラマエ(エストニア、コフィディス)            +2'21"
31位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)

個人総合成績 マイヨ・ジョーヌ
1位 ブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)          38h17'56"
2位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)        +10"
3位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)    +16"
4位 デニス・メンショフ(ロシア、カチューシャ)                +54"
5位 アイマル・スベルディア(スペイン、レディオシャック・ニッサン)      +59"
6位 クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)                +1'32"
7位 マキシム・モンフォール(ベルギー、レディオシャック・ニッサン)      +2'08"
8位 ユルゲン・ファンデンブロック(ベルギー、ロット・ベリソル)        +2'11"
9位 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、アージェードゥーゼル)         +2'21"
10位 レイン・ターラマエ(エストニア、コフィディス)             +2'27"
123位 新城幸也(日本、ユーロップカー)                   +41'11"

ポイント賞 マイヨ・ヴェール
ペーター・サガン(スロバキア、リクイガス・キャノンデール)

山岳賞 マイヨ・ブラン・アポワ・ルージュ
フレデリック・ケシアコフ(スウェーデン、アスタナ)

新人賞 マイヨ・ブラン
レイン・ターラマエ(エストニア、コフィディス)

チーム総合成績
レディオシャック・ニッサン

敢闘賞
フレデリック・ケシアコフ(スウェーデン、アスタナ)

text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos, Makoto Ayano