2009年5月31日、ローマの街を舞台に100周年記念のジロ・デ・イタリアのラストを締めくくる個人タイムトライアルが行われ、イグナタス・コノヴァロヴァス(リトアニア、サーヴェロ・テストチーム)がステージ優勝。デニス・メンショフ(ロシア、ラボバンク)はゴール手前で落車に見舞われながらもステージ10位でフィニッシュ。ジロ・デ・イタリア初優勝を飾った。

ステージ5位に入ったマルツィオ・ブルセギン(イタリア、ランプレ)、来季はチームを離れるステージ5位に入ったマルツィオ・ブルセギン(イタリア、ランプレ)、来季はチームを離れる photo:Kei Tsuji近年ジロ・デ・イタリアのゴール地点はミラノというのが通例だったが、100周年記念大会の今年はローマの観光地を巡る14.4kmのコースを使った個人タイムトライアルが用意された。コース前半に高低差40mほどの上りはあるものの、おおむねフラット。しかし、荒れた石畳と連続するコーナーがステージの難易度を上げている。

マリアローザのデニス・メンショフ(ロシア、ラボバンク)と個人総合2位のダニーロ・ディルーカ(イタリア、LPRブレークス)のタイム差は20秒。個人TTの能力という点ではメンショフに分がある。しかし落車やメカトラブルなどが発生すれば、その後の対応如何で逆転の可能性も秘めている。しかも当日は降水確率70%。空模様も気にかけながらのスタートとなった。

個人総合169位のエフゲニー・ソコロフ(ロシア、Bboxブイグテレコム)を皮切りに、個人総合下位の選手から順にスタート。
まず33番目にスタートしたトム・スタムスニデル(オランダ、ラボバンク)が19分28秒のトップタイムを叩き出した。

これを大きく上回ったのが69番手スタートのマーティン・チャリンギ(オランダ、ラボバンク)だ。スタムスニデルを25秒上回るタイムは、しかし直後にドリス・デヴェナインス(ベルギー、クイックステップ)によって塗り替えられた。



好タイムをマークしたフランコ・ペッリツォッティ(イタリア、リクイガス)好タイムをマークしたフランコ・ペッリツォッティ(イタリア、リクイガス) photo:Kei Tsuji畳みかけるように好タイムを叩き出す選手が続く。デヴェナインスの4人後、79番目にスタートしたイグナタス・コノヴァロヴァス(リトアニア、サーヴェロ・テストチーム)が、デヴェナインスを20秒上回るタイムを叩き出した。

コノヴァロヴァスがゴールした数分後、空から雨が落ち始めた。雨に濡れた石畳の路面は非常に滑りやすく、選手は慎重なコーナリングを強いられた。コースの終盤で雨に見舞われたTTスペシャリストのブラドレー・ウィギンズ(イギリス、ガーミン・スリップストリーム)は、中間計測地点ではコノヴァロヴァスを上回るタイムを記録していたが、コノヴァロヴァスより1秒遅れの18分43秒というタイムでフィニッシュ。また、昨年のミラノでの個人TTの覇者、マルコ・ピノッティ(イタリア、チームコロンビア)も29秒遅れの7位という成績に甘んじた。
結局、リトアニアのTTナショナルチャンプ、コノヴァロヴァスの出した18分42秒というタイムは最後まで塗り替えられることはなかった。

その後雨は上がり、時折晴れ間も覗いたが、石畳の路面はなかなか乾かず、多くの選手に影響を与えることとなった。



ハイスピードでコーナーを攻めるダニーロ・ディルーカ(イタリア、LPRブレークス)ハイスピードでコーナーを攻めるダニーロ・ディルーカ(イタリア、LPRブレークス) photo:Kei Tsujiレースも終盤。個人総合上位の選手が1人、また1人とスタートし始める。
この頃には路面のコンディションもだいぶ良くなり、ヤロスラフ・ポポヴィッチ(ウクライナ、アスタナ)、マルツィオ・ブルセギン(イタリア、ランプレ)が上位に食い込む走りを見せた。
その中で健闘を見せたのがステファノ・ガルゼッリ(イタリア、アックア・エ・サポーネ)だ。個人総合7位に付け、ステージ優勝こそなかったものの、山岳を中心にキレのある走りを見せたガルゼッリは、コノヴァロヴァスから23秒遅れの9位でフィニッシュしている。多くのTTスペシャリストが伸び悩む中でのこの成績は大健闘と言ってもいいだろう。

そしてついにディルーカ、メンショフがスタートした。再び雨が落ち始める中、ディルーカは気合いの入った走りで第1計測地点をトップ通過する。メンショフはディルーカより5秒遅れで通過。

しかし、徐々にペースアップするメンショフに対して、ディルーカは伸び悩んだ。第2計測地点ではディルーカはトップから17秒遅れ、メンショフは3秒遅れで通過。この時点で逆に14秒のタイム差を付けた。
ディルーカは45秒遅れの16位でゴールした。



ゴール目前でスリップ、転倒したデニス・メンショフ(ロシア、ラボバンク)ゴール目前でスリップ、転倒したデニス・メンショフ(ロシア、ラボバンク) photo:CorVos一方、快調な走りを見せるメンショフ。危なげないフォームで残り1kmのバナーをくぐった。このまま走り切ればマリアローザは確実と思われたその時、石畳の路面でメンショフが落車。前方に滑っていったバイクに小走りに駆け寄ったが、駆け付けたスタッフが新しいバイクを手渡す。メンショフは新しいバイクにまたがり、再びゴールを目指し始めた。

栄誉あるジロ最終ステージを制したイグナタス・コノヴァロヴァス(リトアニア、サーヴェロ)栄誉あるジロ最終ステージを制したイグナタス・コノヴァロヴァス(リトアニア、サーヴェロ) photo:Kei Tsuji内心の焦りを押し隠し、冷静にゴールまで走り切ったメンショフ。
結局、落車にも関わらずトップから24秒遅れの10位でフィニッシュしたメンショフがマリアローザを守り抜いた。
ジロの新王者に輝いたデニス・メンショフ(ロシア、ラボバンク)ジロの新王者に輝いたデニス・メンショフ(ロシア、ラボバンク) photo:Kei Tsuji駆け寄るスタッフと抱き合い喜びを分かち合うメンショフ。エアロヘルメットを脱ぎ捨て、興奮冷めやらぬままに雄たけびを上げる。普段冷静なメンショフが思わず見せたこのしぐさが、3週間に渡る闘いの熾烈さを物語っていた。

表彰台に上がる総合トップスリー表彰台に上がる総合トップスリー photo:Kei Tsuji100周年記念大会のジロ・デ・イタリアはメンショフが制した。第12ステージの山岳TTを制し、山岳ステージではライバルのディルーカをぴったりマークし、時にゴール前でディルーカを突き放すスプリントを見せた。さらには最終日前日には中間スプリントポイントのボーナスタイムを自ら獲りに行くこともした。ライバルを力でねじふせ、最後はリードを41秒に広げてマリアローザを守り切った。

笑顔でシャンパンを開けるダニーロ・ディルーカ(イタリア、LPRブレークス)笑顔でシャンパンを開けるダニーロ・ディルーカ(イタリア、LPRブレークス) photo:Kei Tsuji落車した瞬間についてメンショフは「考える時間は無かった。監督車のブロイキンク監督からはすべてOKだという情報をもらっていた。『リスクを冒すな、危ないことはするな、パニックになるな』と。(落車前に)総合差で30秒以上あることを知っていた。パニックにはならなかった。ただ新しいバイクに交換してフィニッシュした」と語る。
マリアヴェルデは文句無しのステファノ・ガルゼッリ(イタリア、アックア・エ・サポーネ)マリアヴェルデは文句無しのステファノ・ガルゼッリ(イタリア、アックア・エ・サポーネ) photo:Kei Tsuji「たぶんレース自体は昨年より難しくはなかった。昨年使ったようなギアは使わなかった。でも百周年ということが選手たちのレベルを本当に本当に高く上げた。でも僕はいい体調、最高のコンディションで来た」と語った。

マリアビアンカを獲得したケヴィン・シールドライヤース(ベルギー、クイックステップ)マリアビアンカを獲得したケヴィン・シールドライヤース(ベルギー、クイックステップ) photo:Kei Tsuji最後まで諦めず、熱く闘い抜いたディルーカはメンショフとの闘いには敗れたが、マリアチクラミーノを手にした。

「(メンショフに対する)讃辞だけを述べるよ。最後に一番強い選手が勝った」とディルーカ。
「雨が降り始めたからノーマルバイクでスタートした。リスクは避けたかったからね。できるだけのことはやったよ」と語った。

またイヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス)とダブルエース体制で臨み、当初はその体制が災いしたかとも言われたペッリツォッティだが、山岳で果敢に攻める姿勢を見せ、ブロックハウスではステージ優勝をも飾った。復活のバッソとともにその活躍に拍手を送りたい。

この日9位でフィニッシュしたガルゼッリがマリアヴェルデを獲得。
マリアビアンカはシールドライヤース。リーダージャージマジックか、山岳ステージも気合いで乗り切り、2位のフランチェスコ・マシャレッリ(イタリア、アックア・エ・サポーネ)とのタイム差を2分55秒に伸ばして守り切った。今後の活躍が楽しみな22歳だ。

忘れてはいけない。ステージ優勝は169名の選手のちょうど真ん中ぐらいにスタートし、トップタイムを叩き出したコノヴァロヴァスだ。コノヴァロヴァスは2008年にプロデビューした23歳。アマチュア時代の2006年と2008年にリトアニアのTTナショナルチャンピオンに輝いている。
「今はまだ今日自分がやり遂げたことを信じられない」と語るコノヴァロヴァス。
この日の勝利は雨のせいでは?という意地悪な質問に対して「そうかもしれない、でもそうじゃないかもしれない。僕にはわからない。最初の選手から最後の選手までコンディションは違ってた。われわれがいえるのは、いつもそういうものだし、今回は雨が僕を助けてくれたってこと」と語った。
雨の影響はあったとはいえ、並みいる強豪を押しのけてのステージ優勝は見事。今後さらに大きな勝利を重ねていくことが期待される。

最後の最後まで目の離せない緊迫したレースを繰り広げた2009年ジロ・デ・イタリア。100周年記念の名に恥じない素晴らしい大会となった。いつまでも記憶に残る大会となるだろう。


ジロ・デ・イタリア2009第21ステージ結果
1位 イグナタス・コノヴァロヴァス(リトアニア、サーヴェロ・テストチーム) 18'42"
2位 ブラドレー・ウィギンズ(イギリス、ガーミン・スリップストリーム) +1"
3位 エドヴァルド・ボアッソン(ノルウェー、チームコロンビア) +7"
4位 ヤロスラフ・ポポヴィッチ(ウクライナ、アスタナ) +11"
5位 マルツィオ・ブルセギン(イタリア、ランプレ) +16"
6位 ジョヴァンニ・ヴィスコンティ(イタリア、ISD) +18"
7位 ドリス・デヴェナインス(ベルギー、クイックステップ) +20"
8位 マーティン・チャリンギ(オランダ、ラボバンク) +21"
9位 ステファノ・ガルゼッリ(イタリア、アックア・エ・サポーネ) +23"
10位 デニス・メンショフ(ロシア、ラボバンク) +24"
16位 フランコ・ペッリツォッティ(イタリア、リクイガス) +40"
17位 ダニーロ・ディルーカ(イタリア、LPRブレークス) +45"
18位 イヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス) +46"
20位 マイケル・ロジャース(オーストラリア、チームコロンビア) +49"
23位 タディ・ヴァリャベッチ(スロベニア、アージェードゥーゼル)+51"
27位 リーヴァイ・ライプハイマー(アメリカ、アスタナ) +53"
65位 カルロス・サストレ(スペイン、サーヴェロ・テストチーム) +1'26"

個人総合最終成績
1位 デニス・メンショフ(ロシア、ラボバンク) 86h03'11"
2位 ダニーロ・ディルーカ(イタリア、LPRブレークス) +41"
3位 フランコ・ペッリツォッティ(イタリア、リクイガス) +1'59"
4位 カルロス・サストレ(スペイン、サーヴェロ・テストチーム) +3'46"
5位 イヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス) +3'59"
6位 リーヴァイ・ライプハイマー(アメリカ、アスタナ) +5'28"
7位 ステファノ・ガルゼッリ(イタリア、アックア・エ・サポーネ) +8'43"
8位 マイケル・ロジャース(オーストラリア、チームコロンビア) +10'01"
9位 タディ・ヴァリャベッチ(スロベニア、アージェードゥーゼル) +11'13"
10位 マルツィオ・ブルセギン(イタリア、ランプレ) +11'28"

ポイント賞 マリアチクラミーノ
ダニーロ・ディルーカ(イタリア、LPRブレークス)

山岳賞 マリアヴェルデ
ステファノ・ガルゼッリ(イタリア、アックア・エ・サポーネ)

新人賞 マリアビアンカ
ケヴィン・シールドライヤース(ベルギー、クイックステップ)

チーム総合成績
アスタナ