ゴールまで45kmを残して、総合2位のフランク・シュレク(ルクセンブルク、レディオシャック・ニッサン)がアタック。「挑戦する他なかった。あれがこの大会で唯一勝つ方法だったから」と回想するフランク。しかしゴールは遠すぎた。ルイ・コスタ(ポルトガル、モビスター)が総合リードを守り抜いた。

スイス東部の山岳地帯を進むプロトンスイス東部の山岳地帯を進むプロトン photo:Cor Vos2つの超級山岳を越え、2級山岳ゼーレンベルクにゴールするツール・ド・スイス第9ステージ。距離216kmのこの難関山岳コースで、イエロージャージ争いは決着を迎える。

前日の第8ステージを終えた時点で、総合首位コスタと総合2位Fシュレクのタイム差は僅かに14秒。以下、総合タイム1分以内に7名がひしめく混戦状態だ。

逃げグループを形成するジェレミー・ロワ(フランス、FDJ・ビッグマット)ら逃げグループを形成するジェレミー・ロワ(フランス、FDJ・ビッグマット)ら photo:Cor Vosエスケープを試みたジェレミー・ロワ(フランス、FDJ・ビッグマット)、ブレント・ブックウォルター(アメリカ、BMCレーシングチーム)、マッテオ・モンタグーティ(イタリア、アージェードゥーゼル)、タネル・カンゲルト(エストニア、アスタナ)の4名は、最大で12分のリードを得る。

この日だけで山岳ポイントを52ポイントを荒稼ぎしたモンタグーティは、最終日にして山岳賞ジャージを射止めた。

超級山岳グラウベンベルクでアタックしたフランク・シュレク(ルクセンブルク、レディオシャック・ニッサン)超級山岳グラウベンベルクでアタックしたフランク・シュレク(ルクセンブルク、レディオシャック・ニッサン) photo:Cor Vos約6時間に及ぶロングステージのうち、レースが活性化したのは最後の1時間。この日2つ目の超級山岳グラウベンベルクで、総合上位陣が動きを見せる。総合5位ミケル・ニエベ(スペイン、エウスカルテル)の動きに乗じて、Fシュレクがアタック。平均勾配が4%に満たない最後の2級山岳ゼーレンベルクでは決定的なタイムを奪えないと判断したFシュレクが、ライバルたちの意表を突き、早めに動いた。

ライバルたちを振るい落とし、急勾配の超級山岳グラウベンベルクを独走で駆け上がるFシュレク。登り区間だけで、イエロージャージのコスタを含むメイングループに対して50秒のリードを稼ぎ出す。

メイングループを献身的に牽引するアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)メイングループを献身的に牽引するアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター) photo:Cor Vosしかし、超級山岳グラウベンベルクからゴールまで40km。Fシュレクは懸命に下りを攻めたが、長時間の独走は得策ではないとしてペースダウン。最後の2級山岳ゼーレンベルクを前に、コスタら20名ほどが追いつき、総合争いはフリダシに戻された。

様々な思惑が交錯するアタック合戦。クリスアンケル・セレンセン(デンマーク、チームサクソバンク)のアタックを切っ掛けに、総合8位のステフェン・クルイスウィク(オランダ、ラボバンク)を含む4名が飛び出し、メイングループを引き離す。

2級山岳ゼーレンベルクでアタックするステフェン・クルイスウィク(オランダ、ラボバンク)2級山岳ゼーレンベルクでアタックするステフェン・クルイスウィク(オランダ、ラボバンク) photo:Cor Vosクルイスウィクを逃がしておけないモビスターのアレハンドロ・バルベルデ(スペイン)が献身的に、そして徹底的にメイングループをハイスピード牽引。クルイスウィクのグループとのタイム差を縮めるとともに、Fシュレクらにアタックの隙を与えない。

先頭ではステージ優勝争いが加熱し、モンタグーティが脱落。最後はロワとカンゲルトの一騎打ちに持ち込まれ、アスタナジャージを着るエストニアライダーが片手を挙げた。

ロワを振り切ってゴールするタネル・カンゲルト(エストニア、アスタナ)ロワを振り切ってゴールするタネル・カンゲルト(エストニア、アスタナ) photo:Cor Vosバルベルデが力尽きた後も、コスタは自らメイングループのペースを上げてクルイスウィクを追い、Fシュレクらの動きを封じる。緩斜面でメイングループはばらけずにゴールに到達。ライバルたちのアタックを封じたコスタがガッツポーズでゴールした。

総合優勝を果たしたコスタは、アシストとして働き、総合優勝に大きく貢献したバルベルデを真っ先に讃える。「混沌としたレース終盤に、アレハンドロ(バルベルデ)の存在は大きな助けになった。彼の働きっぷりはインプレッシブだったよ。この勝利は彼のおかげ。彼は偉大なチャンピオンであり、偉大なチームメイトで、素晴らしき友人だ」。

1分48秒遅れでゴールするフランク・シュレク(ルクセンブルク、レディオシャック・ニッサン)と、ガッツポーズするルイ・コスタ(ポルトガル、モビスター)1分48秒遅れでゴールするフランク・シュレク(ルクセンブルク、レディオシャック・ニッサン)と、ガッツポーズするルイ・コスタ(ポルトガル、モビスター) photo:Cor Vos昨年ツール・ド・フランス第8ステージで勝利した25歳のコスタが、キャリア最大の勝利。4度目の出場となるツールでは、バルベルデをアシストする。

最終的に、総合2位Fシュレクとコスタのタイム差は14秒。賭けに出たFシュレクは「総合優勝するためには全力でチャレンジする必要があった。我々に残された選択肢はただ一つだけであり、それを実行したまで。1日の中で、総合逆転のチャンスがあったのはあの場所(超級山岳グラウベンベルク)だけだった。自分たちの走りに満足すべきだと思う。何も後悔していない」と話す。弟アンディのツール欠場が決まった今、兄フランクがレディオシャック・ニッサンのエースとしてマイヨジョーヌを目指す。

チームメイトのアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)を讃えるルイ・コスタ(ポルトガル、モビスター)チームメイトのアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)を讃えるルイ・コスタ(ポルトガル、モビスター) photo:Cor Vos総合表彰台、左から2位フランク・シュレク(ルクセンブルク、レディオシャック・ニッサン)、優勝ルイ・コスタ(ポルトガル、モビスター)、3位リーヴァイ・ライプハイマー(アメリカ、オメガファーマ・クイックステップ)総合表彰台、左から2位フランク・シュレク(ルクセンブルク、レディオシャック・ニッサン)、優勝ルイ・コスタ(ポルトガル、モビスター)、3位リーヴァイ・ライプハイマー(アメリカ、オメガファーマ・クイックステップ) photo:Cor Vos

選手コメントはモビスターならびにレディオシャック・ニッサンの公式サイトより。

ツール・ド・スイス2012第9ステージ結果
1位 タネル・カンゲルト(エストニア、アスタナ)                5h54'22"
2位 ジェレミー・ロワ(フランス、FDJ・ビッグマット)               +02"
3位 マッテオ・モンタグーティ(イタリア、アージェードゥーゼル)          +31"
4位 ロベルト・キセロフスキー(クロアチア、アスタナ)              +1'46"
5位 ステフェン・クルイスウィク(オランダ、ラボバンク)
6位 マティアス・フランク(スイス、BMCレーシングチーム)
7位 クリスアンケル・セレンセン(デンマーク、チームサクソバンク)
8位 フランク・シュレク(ルクセンブルク、レディオシャック・ニッサン)      +1'48"
9位 ロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)
10位 ルイ・コスタ(ポルトガル、モビスター)

個人総合成績
1位 ルイ・コスタ(ポルトガル、モビスター)                 35h54'49"
2位 フランク・シュレク(ルクセンブルク、レディオシャック・ニッサン)       +14"
3位 リーヴァイ・ライプハイマー(アメリカ、オメガファーマ・クイックステップ)   +21"
4位 ロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)                 +25"
5位 ミケル・ニエベ(スペイン、エウスカルテル)                  +40"
6位 ロマン・クロイツィゲル(チェコ、アスタナ)                  +47"
7位 トム・ダニエルソン(アメリカ、ガーミン・バラクーダ)              +48"
8位 ステフェン・クルイスウィク(オランダ、ラボバンク)              +59"
9位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)              +1'42"
10位 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、アージェードゥーゼル)          +1'52"

ポイント賞
ペーター・サガン(スロバキア、リクイガス・キャノンデール)

山岳賞
マッテオ・モンタグーティ(イタリア、アージェードゥーゼル)

チーム総合成績
アスタナ

text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos

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