ここまでの山岳ステージで、いつも最後尾でゴールを目指すアンドレア・グアルディーニ(イタリア、ファルネーゼヴィーニ)を見てきた。別に力を温存しているわけではなく、ただ単に登りが苦手なだけ。そのグアルディーニが勝った。これからもっともっと伸びて行く選手だと思う。

スタート地点サンヴィート・ディ・カドーレスタート地点サンヴィート・ディ・カドーレ photo:Kei Tsujiジロはドロミテを離れ、ヴェネツィア方面に向かって南下する。ドロミテの山々に囲まれた標高974mのサンヴィート・ディ・カドーレから、標高45mのヴェデラーゴに向けて緩やかに下る。

実質的にこの第18ステージがスプリンターたちのラストチャンス。スプリンターたちはこの日のために山岳を乗り越えてきた。

スタート地点サンヴィート・ディ・カドーレスタート地点サンヴィート・ディ・カドーレ photo:Kei Tsujiスプリンターを欠くオリカ・グリーンエッジは、別府史之とイェンス・ケウケレール(ベルギー)でスプリントを狙う方針。フミにとっても結果を残す最後のチャンスでもある。雨上がりのサンヴィート・ディ・カドーレにやってきたフミは「かっ飛ばしますよ!」と言いながら元気な表情を見せる。

ドロミテの渓谷を抜けてヴェネト州の平野に入ると、ムワッとした熱気があたりを包む。温度計の数字は30度を超える。見上げるとそこにはモクモクと積乱雲。一気に季節は夏へと変わった。

スタートを待つ別府史之(オリカ・グリーンエッジ)スタートを待つ別府史之(オリカ・グリーンエッジ) photo:Kei Tsujiヴェネト州は多くのサイクリストを輩出している。がっつり絞れているアマチュアサイクリストがゴール地点に大勢たむろする。ピナレロのお膝元トレヴィーゾも近い。

同地出身の代表的な選手としては、アレッサンドロ・バッラン(イタリア、BMCレーシングチーム)、マルツィオ・ブルセギン(イタリア、モビスター)、マッテーオ・トザット(イタリア、チームサクソバンク)、マルコ・バンディエラ(イタリア、オメガファーマ・クイックステップ)、サーシャ・モードロ(イタリア、コルナゴ・CSFイノックス)、そしてオスカル・ガット(イタリア、ファルネーゼヴィーニ)。彼らの多くは地元のアマチュアチーム・ザルフ出身だ。

チームメイトと談笑しながら走る別府史之(オリカ・グリーンエッジ)チームメイトと談笑しながら走る別府史之(オリカ・グリーンエッジ) photo:Kei Tsuji

ゴールスプリントで先行するアンドレア・グアルディーニ(イタリア、ファルネーゼヴィーニ)ゴールスプリントで先行するアンドレア・グアルディーニ(イタリア、ファルネーゼヴィーニ) photo:Kei Tsuji前日の第17ステージを終えて、マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームスカイ)の心中は穏やかではなくなった。何しろ、ステージ優勝を飾ったホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)が、ポイント賞争いにおいて、僅か1ポイント差に迫ったのだ。

もちろんロドリゲスの狙いはマリアローザであって、マリアロッサではない。だけど厳しい第19ステージと第20ステージでポイントを稼ぐことは目に見えて明らか。カヴェンディッシュはこのラストチャンスで出来る限りポイントを伸ばす必要がある。

ゴールスプリントでカヴェンディッシュを下したアンドレア・グアルディーニ(イタリア、ファルネーゼヴィーニ)ゴールスプリントでカヴェンディッシュを下したアンドレア・グアルディーニ(イタリア、ファルネーゼヴィーニ) photo:Kei Tsujiチームスカイは逃げの存在をまるっきり無視するかのように、トレインを組んで中間スプリントに突進する。逃げを捉え、そしてゴールスプリントさながらの連携で、カヴェンディッシュを中間スプリント先頭通過させる。これでカヴェンディッシュは8ポイントを加算。

さらにチームスカイはカヴェンディッシュのゴールスプリント25ポイント獲得&ステージ4勝目を狙った。他の追随を許さない圧倒的なスピードで主導権を握り、ラスト1kmアーチを通過して行く。全てが計画通りに進んでいるように見えた。

22歳のアンドレア・グアルディーニ(イタリア、ファルネーゼヴィーニ)22歳のアンドレア・グアルディーニ(イタリア、ファルネーゼヴィーニ) photo:Kei Tsujiすると、マリアロッサの後ろから、蛍光色のジャージが飛び出た。まるで蛍光塗料でも入っているんじゃないかと思うほどの眩しいジャージが、夏のような太陽に照らされる。

これまでの山岳ステージで、グルペットからも遅れ、一人で喘いでいるグアルディーニを何度も見てきた。アルプスやドロミテの難関山岳だけでなく、ちょっとした登りでも見事に遅れた。個人総合成績は下から2つめの166位・4時間07分26秒遅れ(カヴェンディッシュより45分遅い)。

落胆の表情を浮かべるマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームスカイ)落胆の表情を浮かべるマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームスカイ) photo:Kei Tsujiグルペットの住人カヴェンディッシュと、そのグルペットからも遅れるグアルディーニ。山岳ステージで最下位を争う2人による最上位対決は、22歳のグアルディーニに軍配が上がった。

「ちょっとでも登りがあれば彼は遅れる。でも今日は前半から下りが続き、後半は完全にフラット。ラスト5kmが一直線。今日ほど彼向きのコースは無い」と、ファルネーゼヴィーニの広報担当は話す。

昨年のツール・ド・ランカウイでステージ5勝、今年のツール・ド・ランカウイで驚異のステージ6勝を飾った若者が、初出場のジロでステージ初優勝。苦しい山岳を乗り越えた後のラストチャンスを見事に掴んだ。

敗れたカヴェンディッシュは、うつろな表情で表彰台に上がり、マリアロッサを受け取る。ゴールスプリント2位・20ポイントを獲得し、ロドリゲスとの差を29ポイントとした。

しかし29ポイントは決して大きなリードとは言えない。ツール・ド・フランスとは違って、ジロのステージポイント配分は全ステージ共通(1位25ポイント、2位20ポイント、3位16ポイント…)。つまりロドリゲスが2日連続で上位に入るだけでカヴェンディッシュはジャージを失ってしまう。もちろんロドリゲスがポイント賞を頭に入れて走ることはないと思うけど。

カヴェンディッシュとグアルディーニは、ゴール脇で収録が行なわれているレース振り返り番組に出演した。MCの挑発的な質問にも、カヴェンディッシュは愛想良く、至って冷静に受け流す。父親になり、イタリアに住み、ミラノまで走りきる宣言をし、愛想良くファンと交流する。イタリア国内におけるカヴェンディッシュの株はこのジロで数段上がったように思う。

あとはミラノまで走りきり、マリアロッサを受け取ることができるかどうか。その運命はロドリゲスが握っている。

text&photo:Kei Tsuji in Treviso, Italy