今年もジロ・デ・イタリアはドイツ語圏へと入って行く。休息日明けの選手たちを待っていたのは、ハイスピードで幕開ける平穏な逃げステージ。山岳決戦を前にした箸休め的なステージで11名が逃げた。

リモーネ・スル・ガルダのスタート地点にあるヴィラッジョリモーネ・スル・ガルダのスタート地点にあるヴィラッジョ photo:Kei Tsujiロンバルディア州北部のガルダ湖の畔、岩山と湖の間にリモーネ・スル・ガルダはある。街の名前を直訳すると「ガルダ湖のレモン」。古くからレモンの産地として知られている。湖近くで温暖なため、レモンが栽培できる土地としては北限だそうだ。

現在リモーネ・スル・ガルダはレモンの産地ではなく保養地として有名。毎年多くの観光客が同地を訪れる。その多くがドイツ人で、ドイツナンバーの自動車が溢れている。

別府史之(オリカ・グリーンエッジ)別府史之(オリカ・グリーンエッジ) photo:Kei Tsujiコースレイアウト的に、スプリンターには難しいが、総合が動くほど難しくはない。つまり「逃げ」のステージだ。当然多くの選手が序盤からアタックする。

レーススタート後すぐに、レーススピードはマックスまで上がる。アタックに次ぐアタックで、スピードは上がりっ放し。登りを含むコースにもかかわらず、レース最初の1時間の平均スピードは49.8km/hをマークする。

「RYDE ME」「RYDE ME」 photo:Kei Tsuji別府史之(オリカ・グリーンエッジ)もアタックに参戦した選手の一人。「リミットまで追い込んで走ったけど逃げに乗ることは出来なかった」。フミは好機をつかむことが出来なかった。

逃げ切りのチャンスを手にした11名はいずれも総合争いに関係のない選手たち。これは十中八九決まる。

フミの言葉を借りると「プレミアチケット」。ゲットするのは難しいが、ゲットすれば大きなチャンスが手に入る。逆にゲット出来なければ、アタックによる体力の浪費という対価を払うことになる。

ガルダ湖を離れ、オーストリア方面に向かう渓谷沿いの平坦路に入る。ワイン用のブドウ畑が広がる渓谷に差し掛かる頃には、タイム差は10分を越えていた。


ブドウ畑の広がる渓谷を北上するブドウ畑の広がる渓谷を北上する photo:Kei Tsuji

南チロル特有の尖った鐘楼とプロトン南チロル特有の尖った鐘楼とプロトン photo:Kei Tsujiレースはロンバルディア州を抜け、トレンティーノ=アルトアディジェ州に向かう。71km地点でトレンティーノ自治県からボルツァーノ自治県へ。すると街の雰囲気がガラリと変わる。交通標識ばかりでなく、街の名前も全て二カ国語表記。ジロはドイツ語圏に脚を踏み入れた。

いわゆる南チロル地方(イタリア語:ティローロ)。レンガ作りではなく木造&白壁の建物が目立つようになり、街の中心には決まって職人が一本ずつ丹念に削り上げた鉛筆のような教会が立つ。

集団最前列で登りをこなすホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)集団最前列で登りをこなすホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ) photo:Kei Tsujiかつてオーストリアに帰属していた同地は、ドイツ語が第一言語。第一次世界大戦以降イタリアに属しているが、あくまでも独自の文化と言語を守り続けている。

言葉にすると難しいが、南チロルはとにかくイタリアでありながらイタリアっぽくない。街も言語も雰囲気も民族も、そして目の色も。

集団から遅れて登りをこなす別府史之(オリカ・グリーンエッジ)集団から遅れて登りをこなす別府史之(オリカ・グリーンエッジ) photo:Kei Tsuji南チロルの人々は、ジロの応援に積極的ではないように思う。公式グッズを詰め込んだバンを運転し、毎日コース上を売り歩いて(走って)いるおじさん曰く、南チロルでの売れ行きは悪いらしい。沿道の観客の国籍は多様化し、逆にイタリア語を話す観客は減る。ツアーで行動している英語圏の一般サイクリストの姿も多く見受けられる。

ゴール地点ファルツェス(ドイツ語でファルツェン)は今大会の最北端(デンマークを除く)。すぐ目の前の山はプラン・デ・コロネス。目を凝らすと、周囲には雪に覆われたドロミテの山々が乱立している。

ドロミテの決戦はもう近い。ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)がマリアローザ争いのポールポジションを維持しているが、ネックとなるのが最終日ミラノの個人タイムトライアル。総合首位に胡座をかいて他の選手の動きを静観しているわけにはいかない。マリアローザ自ら動く必要がある。

1位 ホアキン・ロドリゲス
2位 ライダー・ヘジダル   +30"
3位 イヴァン・バッソ    +1'22"
4位 パオロ・ティラロンゴ  +1'26"
5位 ロマン・クロイツィゲル +1'27"
6位 ミケーレ・スカルポーニ +1'36"

危なげなくメイン集団内でゴールするホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)危なげなくメイン集団内でゴールするホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ) photo:Riccardo Scanferlaここまで安定した走りを見せるライダー・ヘジダル(カナダ、ガーミン・バラクーダ)は、上記6名の選手たちの中では最もTTが速い。ロドリゲスも「個人タイムトライアルでヘジダルから2分失うだろう」と認める。

どちらかというと、加減速を繰り返す登りではなく、一定勾配をハイテンポで進み続けるような登りがヘジダルは得意。ヘジダルがこのままの位置をキープしてドロミテを越えることが出来れば、ひょっとしたらひょっとする。

ポディウムガールポディウムガール photo:Riccardo Scanferla「ここまで秒差の闘いだったけど、ここからは分差の闘いになる」とは総合3位イヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)の言葉。見事に3週目にかけてコンディションを上げてきたバッソは、ヘジダル同様ディーゼルエンジンタイプの走りでグイグイとレースを引っ張るだろう。

バッソにとって唯一気がかりなのは、第17ステージのゴールが下りの先にあること。1級山岳ジャウ峠からコルティーナ・ダンペッツォまで、テクニカルなダウンヒルが待っている。しかも天気予報によると、午後にかけて降水確率が上昇傾向。

当然下りを得意とするロマン・クロイツィゲル(チェコ、アスタナ)やミケーレ・スカルポーニ(イタリア、ランプレ・ISD)は黙っていないだろう。バッソが予言する「分差」が早速コルティーナ・ダンペッツォのゴールでつく可能性は充分にある。

text&photo:Kei Tsuji in Falzes, Italy
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