フロジノーネのゴールスプリントはいつも何かが起こる。7年前にはパオロ・ベッティーニ(イタリア)が降格処分を受け、怒りを周囲にぶちまける姿が国際映像に流れた。今年はラスト350mでトップスプリンターたちが宙を舞った。

全てのバイクをスラム新型REDで揃えたチームサクソバンク全てのバイクをスラム新型REDで揃えたチームサクソバンク photo:Kei Tsuji朝、ホテルの窓を開けると本降りの雨が景色を遮っていた。耳を澄ますと、近くのホテルから選手たちのため息が聞こえてきそうなほどの雨。

幸いなことに、カンパニア州のベネヴェント近郊サンジョルジョ・デル・サンニオにチームバスが集まる頃には雨は上がった。アスタナの中野喜文マッサーやチームサクソバンクの宮島正典マッサーを含め、すべてのチームスタッフが安堵の表情を浮かべる。雨が降るだけでスタッフの仕事が倍増するからだ。

笑顔で出走サインに向かう別府史之(オリカ・グリーンエッジ)笑顔で出走サインに向かう別府史之(オリカ・グリーンエッジ) photo:Kei Tsujiカンパニア州特有のものなのか、スタート地点の観客たちはみな一様にテンションが高い。チームバスに立てかけられたバイクを許可無く持ってみる観客はまだ可愛いほうで、チームカーから勝手にボトルを持ち去ろうとする観客、コースを横断出来ないことに怒り、警備員を盛大に怒鳴りつける観客…。

しまいには、ヴィラッジョ(スポンサーテント)のエリアにバリケードを乗り越えた観客が大量になだれ込み、警察やカラビニエーリが出動して事態を収拾するシーンも見られた。

ライダー・ヘジダル(カナダ、ガーミン・バラクーダ)のハンドル周りライダー・ヘジダル(カナダ、ガーミン・バラクーダ)のハンドル周り photo:Kei Tsuji前日の頂上ゴールで9分53秒遅れた別府史之(オリカ・グリーンエッジ)は、グローブの選択に迷いながらチームバスから降りてくる。最初はネオプレーン製のごついグローブを持っていたが、外気と雨雲の様子を見て指切りグローブに落ち着いた。

「昨日は(逃げた第8ステージの疲れで)スタート直後は身体が動かなかった。後半に入って身体が動き出したけど、ステージ上位を狙うこと無く、今日のステージに集中するために力をセーブしながら2級山岳を登りました」とフミは前日のステージを振り返る。

「今日のステージに集中するため」。つまり「ゴスのスプリントに向けた位置取りに力を注ぐため」だ。

スピードを緩めたメイン集団がベネヴェントを駆け抜けるスピードを緩めたメイン集団がベネヴェントを駆け抜ける photo:Kei Tsuji

メイン集団を牽引するオリカ・グリーンエッジやFDJビッグマット、チームスカイメイン集団を牽引するオリカ・グリーンエッジやFDJビッグマット、チームスカイ photo:Kei Tsujiゴール地点フロジノーネに至るルートは、終盤にかけて丘陵地帯を抜ける。丘の上に作られた旧市街に向けて登りをこなし、そこから低地に作られた市街地に向けてダウンヒル。

フロジノーネのゴールは、2005年大会以来7年ぶり4回目。7年前はテクニカルなダウンヒル直後のスプリントでパオロ・ベッティーニ(イタリア)が競り勝ったが、バーデン・クック(オーストラリア)をバリケードに押しやり、落車させたとして降格処分を受けている。

鋭角コーナーを抜け、ジャコモ・ニッツォーロ(イタリア、レディオシャック・ニッサン)らを先頭にスプリント鋭角コーナーを抜け、ジャコモ・ニッツォーロ(イタリア、レディオシャック・ニッサン)らを先頭にスプリント photo:Kei Tsujiベッティーニに代わって繰り上げ優勝に輝いたルーカ・マッツァンティ(イタリア)は現在ファルネーゼヴィーニで走っている。

ベッティーニは現在イタリア代表チームの監督を務めている。イタリア自転車競技連盟の高級車に乗ってジロに帯同しており、ときに選手たちより熱い声援を受けている。

スクリーンに映し出された落車のシーンを見つめるフランク・シュレク(ルクセンブルク、レディオシャック・ニッサン)スクリーンに映し出された落車のシーンを見つめるフランク・シュレク(ルクセンブルク、レディオシャック・ニッサン) photo:Kei Tsuji単純ではなく、危険を伴うコースレイアウトのため、スプリンターチームだけでなく総合狙いのチームも位置取り合戦に参加した。最も積極的に隊列を組んだのはマーク・カヴェンディッシュ(イギリス)のチームスカイ。カヴェンディッシュはステージ3勝目を飾るために、マルケ、アブルッツォ、カンパニア州の山岳を乗り切ってきた。

一方のマシュー・ゴス(オーストラリア)は、まだカヴェンディッシュとの一騎打ちで勝っていない。ここまでステージ2位が2回。ツアー・オブ・トルコを含めると、この1ヶ月で2位を6回経験している。

マシュー・ゴス(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)を気遣いながらゴールする別府史之(オリカ・グリーンエッジ)マシュー・ゴス(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)を気遣いながらゴールする別府史之(オリカ・グリーンエッジ) photo:Kei Tsujiオリカ・グリーンエッジの一員としてエーススプリンターの位置取りに参加したフミは「レース中盤からメイヤー、ボブリッジ、タフトが集団を引いて、続いてランカスター。自分は10km手前から集団の前にチームメイトを連れて行く仕事をしました。(ゴール前の)登りに入る手前でインピーとトーマス(ヴァイクス)、そしてゴスのポジションを確保して、そこで仕事は終了」と話す。

フロジノーネへの登りと下りを終えた時点で、オリカ・グリーンエッジは集団先頭に3人を残す最高の展開に。ラスト1kmを切って、発射台役のインペイが強力にゴスをリードする。カヴェンディッシュは後方にポジションを落としている。

マシュー・ゴス(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)を気遣いながらゴールする別府史之(オリカ・グリーンエッジ)マシュー・ゴス(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)を気遣いながらゴールする別府史之(オリカ・グリーンエッジ) photo:Kei Tsuji「最終的にはインピーとトーマスがゴスをリードするパーフェクトな展開になった。でももう少しチームとしてまとまって動けば、メンバー全員が力をセーブ出来たと思う」とフミ。

選手たちはそれぞれ思い思いのラインで、ラスト350mの鋭角コーナーに突っ込んで行く。曰く「一番速いライン」という少し膨らみ気味でコーナーに入ったゴスに、直線的にコーナーに入ったフィリッポ・ポッツァート(イタリア、ファルネーゼヴィーニ)が突っ込んだ。

落車したフィリッポ・ポッツァート(イタリア、ファルネーゼヴィーニ)がゴール落車したフィリッポ・ポッツァート(イタリア、ファルネーゼヴィーニ)がゴール photo:Kei Tsuji落車の原因となったポッツァートは、右膝から血を流しながらゴール。レース後、ポッツァートはテレビを通して他の選手たちに謝罪している。「自分のミスだった。批判されることは承知の上だ。急にコーナーが狭まり、ゴスが目の前に入ってきて止まれなかった。残念に思っている。選手たちの許しを請いたい」。ポッツァートは手首骨折の疑いがある。

ハイスピードで地面にダイブしたゴスは、チームメイトたちに付き添われて2分40秒遅れでゴール。ラスト3km以内での落車だったためタイム差はつかないが、付き添ったフミやランカスターは落車していないため、2分40秒のタイム差がそのまま総合成績に反映されている。

大怪我を負ってリタイアを余儀なくされるような選手は出なかった。フミによると「落車したゴスは大丈夫そう」。身体の節々が痛むゴスは、少し脚を引きずりながらマリアロッサ(ポイント賞ジャージ)の表彰式に臨む。この日カヴェンディッシュが中間スプリントで4ポイントを獲得したため、ゴスとカヴの差は4ポイントにまで縮まった。

さて、ジロは首都ローマをスキップし、ティレニア海に面したラツィオ州のチヴィタヴェッキアまで移動する。第10ステージはウンブリア州のアッシジにゴール。丘の街に向かって急勾配の登りが設定されていて、ラスト800mで世界遺産サン・フランチェスコ聖堂の目の前を通過する。街中には石畳区間や急坂区間有り。刺激的なフィニッシュになるのは間違いない。

text&photo:Kei Tsuji in Frosinone, Italy
Amazon.co.jp

瞬間接着剤×3S ハイスピード

ウェーブ(Wave)
¥ 495

インヴィジブル・ベイビー

Pヴァイン・レコード
¥ 4,482