2011年12月4日、サイパン島を舞台に100kmレース「ヘル・オブ・マリアナ」が開催された。南の島の地形を生かしたこのユニークなレースは、誰もが楽しんで挑戦できる魅力に溢れている。編集部の実走レポートをお届けしよう。

試走に出かけた日本人と韓国人参加者たち。バンザイクリフを背に試走に出かけた日本人と韓国人参加者たち。バンザイクリフを背に

レースを前にした日本人参加者たちレースを前にした日本人参加者たち 「マリアナの地獄」という名のファンレース

ヘルオブマリアナは、2007年に誕生し、今回紹介する2011年12月の大会で5回目を迎える大会だ。
レースを主催するのはサイパン随一のリゾートホテルであるパシフィックアイランドクラブ・サイパン(以下P.I.C.サイパン)。マリアナ政府観光局と地元の協賛と協力を得て開催され、地元ライダーに加えてグアムやサイパン近隣諸島、そして日本や韓国からも参加者が集まっている。前年大会を体験した編集部・綾野が、今回の日本からの参加ツアーのホスト役として同行取材させていただいた。レースの心得からガイド、そしてメカニック役も兼任でつとめさせていただく。
バンザイクリフへの広々とした道バンザイクリフへの広々とした道 (大半の参加者はリピーターさんかホノルルセンチュリーライドで面識のある方だったのでまったく負担はありませんでした・笑)

距離100kmで獲得標高1700m!とあって、「マリアナの地獄」という名前がキャッチフレーズについているこのレース。キャッチコピーは"The Toughest bikerace in Marianas"(=マリアナ地域でもっともタフなバイクレース)だ。

サイパン島は総面積が約185キロ平米(伊豆大島の約2倍)の小さな島とあって、100kmのコースをとるにはほぼ全島をくまなく走る必要がある。島の幹線道路をメインコースに、そこからアプローチできる登りポイントと下りポイントをバンザイクリフ 太平洋戦争の激戦地だバンザイクリフ 太平洋戦争の激戦地だ 組みわせて走ることになるのだ。
それらほとんどのチェックポイントが登りか下りの先にあり、登っては下るの繰り返し。アップダウンを繰り返しての全コースの獲得標高差は1700mにのぼるから、これはなかなかハードな数字だ。

しかしレースというカテゴリーだが、その中身はファンライド的。ハードなコースでもほどよい距離であるため、ゲーム性のあるレースが楽しめるのが特徴だ。

100kmコースのロングライドにソロで挑戦する参加者がほとんどだが、仲間同士でエントリーするリレー部門、100キロコースを50キロずつ2名チームで走る「タンデム」 、100キロコースを25キロずつ4名チームで挑戦する「クウォッド」青い海に向かい、物思う青い海に向かい、物思う もある。

また、参加賞のサイクルジャージを着て走れば、そのジャージを着た人の順位で表彰されたり、自分のゴール予想タイムを申告し、それにもっとも近かったら表彰されるなど、対象となる賞はたくさんある。女性というだけで入賞率がかなり高いのも特徴だ。最後まで何だかよくわからない賞もある。しっかり賞金はもらえるが(笑)。


日本からわずか3時間半の楽園

年間平均気温27℃の常夏の島、サイパン島には成田からわずか3時間半のフライトで到着する。スタート地点にもなっているPICホテルには空港からたった5分で到着。
さっそく自転車を組み上げ、走行チェックを兼ねて試走に出かけた。
日本からの参加者と、韓国の飛び入り参加者が一緒になって、島の北端のバンザイクリフを目指す。レース日は体力を使い果たしてしまうので、この試走を兼ねての島の観光ライドはオススメだ。

島の中心部であるガラパン地区を抜けると、その先はのどかな一本道。島にはアップダウンがつきものだが、バンザイクリフまでの区間には大きな坂はないため、慣らし走行には最適だ。
まずは暑さに馴れることも大事。サイパンは常夏で、けっこう湿度が高い。ここで一汗かいておけば、明日のレースが楽になる。

サイパンは戦跡の島でもある。太平洋戦争の激戦地であることは言うまでもないだろう。北部のバンザイクリフ周辺には、日本軍のラストコマンドポスト(最後の砦)がある。野ざらしの戦車や高角砲の残骸など、当時に思いを馳せながら立ち寄ってみる。

ラストコマンドポストに残された高射砲の残骸ラストコマンドポストに残された高射砲の残骸 朽ちた戦車が物語るものは...朽ちた戦車が物語るものは...

バンザイクリフに到着すると、海に面したところには、日本政府が建碑した慰霊碑が並び立つ。断崖絶壁を見上げ、「バンザイクリフ」「スーサイドクリフ」という地名の意味を噛み締める。明日はここを最後の正念場として駆け抜けるだけだ。

100kmで獲得標高1700m!

翌日迎えたレースのスタートは朝6:15。夜明けと共に走り出すことになる。スタートラインに並ぶのは、地元選手に加えてグアム島やアメリカ人、韓国人、そして日本人など国際色豊か。賞金がいいので本格レーサーの姿が年々増えつつあるようだ。

ヘル・オブ・マリアナのスタートライン 空は白んできたヘル・オブ・マリアナのスタートライン 空は白んできた ロシアからきた選手たち。賞金狙いだロシアからきた選手たち。賞金狙いだ

地元のライダーがかなりの割合を占める地元のライダーがかなりの割合を占める 前年度女子優勝者のミエコ・ケリーさんとファンライドのハシケン前年度女子優勝者のミエコ・ケリーさんとファンライドのハシケン

しかし、ファン系ライダーの姿が大半を占める。マウンテンバイクで走る地元の「チャレンジャー」の姿も多いことがこのイベントの性格を良く表している。そして日本の参加者でもわかるように、リピーターが多いのも特徴だ。(一度出場すると、ハマるようである)

スタート地点では再会を喜び合う仲間たちの挨拶で和やかな雰囲気だ。スタート時間が近づくに連れてだんだんと緊張感が高まってくるが、ピリピリしたものは感じられない。飛び交うのは「ハーイ!」の声。

夜明けとともにスタート。集団は海岸沿いのメインストリートでの顔見せを兼ねて一度反対方向に走りだし、折り返してスタート地点をもう一度通過してのスタートとなる。ここである程度集団はバラけ、サイパン一周へと走りだしてゆく。

島のメインストリートを走リ出した選手たち島のメインストリートを走リ出した選手たち

マウンテンバイカーも多いマウンテンバイカーも多い スタートしばらくは前方に集団ができるようだが、大部分のライダーはバラバラ。アップダウンの厳しいチェックポイントをひとつ経れたあとは、ほぼすべてのライダーが単独に近い形で走ることになる。

私も撮影を終えてすぐにスタート。延々と伸びる集団を、少しづつ追い越しながら前へ上がっていく。MTBで走る選手も多く、あんまりレースっぽくない。

先頭集団はすぐに6人ほどに絞られたようだ。コースに設定されたチェックポイントまでの上り・下りは基本的に往復コースに設定されているので、すれ違うことでレースをする選手の様子も把握することができる。
トップグループを走るハシケン 健闘しているトップグループを走るハシケン 健闘している
小さな先頭グループに残っているのはファンライド誌のハシケンだ。オフシーズンとはいえプロレベルの選手と一緒に走っているのは、かなりのレベルである証拠だ。

各チェックポイントでは通過チェックが行われ、同時に補給ポイントにもなっている。ここではボランティアさんがスポーツドリンクの入ったボトルを手渡ししてくれるので、暑くても補給に困ることはない。

第2チェックポイントで、路肩でパンク修理をしているミエコ・ケリーさんの姿を見つける。サイパン在住のミエコさんは女子の常連優勝者で、エクステラなどでも常に上位につけるプロアスリートだ。昨年もヘルオブマリアナとツール・ド・タイヤがバーストしたミエコ・ケリーさん 大ピンチだタイヤがバーストしたミエコ・ケリーさん 大ピンチだ グアムで優勝している。

停まってみると、なんとタイヤサイドがバーストして避けていた。替えたチューブもまたパンクしてしまったらしく、かなりの苦戦。私の持っていたスペアチューブとタイヤレバーなど一式を渡すも、それで直せない状態だった。
ミエコさんはその後他の選手のサポートできていた人からスペアバイクを受け取って走りだしたが、チェックポイントに行くまでにクルマに乗ってしまったのでここでノーレース状態に。あとは、楽しみで走ることに切り替えてライドを続けた。サイパンの女王は、あっけなく優勝のチャンスを逃してしまった。

ミエコさんとしばし走るが、その速いこと...。

コース上の最高標高ポイントのレーダータワー(戦時中に使われたレーダーの廃墟)への上りをやり過ごし、次のポイントへ向かうときに雨がふりだした。そしてたちまちのスコールとなった。雨になるととたんに滑りやすくなるのが島の道。慎重に走る。

コースの3分の1を残して、早くもトップとすれ違う。そして2位にハシケンが独走中。これにはびっくりした。すぐ後ろに韓国の2人が追走しているが、ハシケンのスピードは衰えない感じ。

最高標高のレーダータワー 雨雲がたれこめてきた最高標高のレーダータワー 雨雲がたれこめてきた 海の見渡せるハイライト、スーサイドクリフへの上り海の見渡せるハイライト、スーサイドクリフへの上り


青空が広がるバンザイクリフ青空が広がるバンザイクリフ スーサイドクリフへの登りでは、サイパンならではの碧い海とエメラルドの珊瑚礁が眼下いっぱいに臨める。ここがコース上の景色のハイライトだ。
通り雨を経験はしたが、南の島独特の眩しい天気はすぐに戻ってきた。

島の北端のバンザイ・クリフからゴールまでの帰路の30kmはほぼ平坦の幹線道路。早い人で3時間。コースに手を焼いた人で5時間半程度でほぼ全員が制限時間内に完走した。
ゴールに飛び込む人の喜びが弾ける。困難なコースだけに、その喜びはひとしお。この様子はツール・ド・おきなわやホノルルセンチュリーライドにも似ている。達成感に溢れたいい笑顔だ。

ゴール!苦しいコースだっただけに思わず歓びのポーズが出るゴール!苦しいコースだっただけに思わず歓びのポーズが出る ゴールして歓びを分かち合うゴールして歓びを分かち合う


ゴキゲンなアワードパーティ 日本女性が表彰独り占め??

昼のゴールの後は、13時半からのアワードパーティ(表彰式)が待っている。PICホテルのビーチレストランで、皆で昼食を食べながらレースを振り返る楽しいひととき。ごきげんなDJの進行により、次々に表彰される人がコールされていく。

100kmソロ(オープン)男子の部ではハシケンが2位に!一緒に走ったオーストラリア人選手はナショナルチームレベルの選手。そして3位は2010大会の覇者で、かつて梅丹本舗エキップアサダで走った韓国のソウ・ジョニヨン。これはすごいことだ。2位賞金のUS$500をゲット!

気の合う仲間と食事を楽しみながらの表彰パーティ気の合う仲間と食事を楽しみながらの表彰パーティ ハシケンが2位で500ドルゲット 優勝はジョン・アンダーソン(オーストラリア)、3位はソウ・ジョニヨン(韓国)ハシケンが2位で500ドルゲット 優勝はジョン・アンダーソン(オーストラリア)、3位はソウ・ジョニヨン(韓国)

そして女子では野沢安澄さんが3位に。そしてよく分からない賞も含めて3度も表彰台に呼ばれ、賞品、賞金、お買い物チケットなどのお土産をどっさり受け取った。これにはかなりビックリ。本人もビックリ。なにしろ野沢さん、ロングライド初心者で、全然速くない。このあたりがヘルオブマリアナのユルさというか、魅力である。

3度も表彰され、賞金とお食事券などをゲットした野沢安澄さん3度も表彰され、賞金とお食事券などをゲットした野沢安澄さん MTBの部で入賞した石松克基さんMTBの部で入賞した石松克基さん


もちろん適当にやっているわけでもないが、純粋にタイムでのレースの他に、年齢や性別、そしてブービー賞のような賞が様々設定されていて、誰が入賞するかわからないのだ。
とにかく多くの人に賞をあげようというのが大会の意向だ。本人もよくわからないままプレゼントを受け取ると、皆でそれを讃え、喝采。このフレンドリーなパーティに出るだけでハッピーな気分になれる。

常連参加者の石松克基さんは、例年ロードレーサーで出ていたが、今年はマウンテンバイクで参加。MTBの部でみ見事表彰台に上がった。こういうのも、うまいテである。


レースの後はマッサージのサービスが受けられるレースの後はマッサージのサービスが受けられる レースで疲れた後は、ホテルの充実したプールやビーチ施設でゆっくりと体を休ませながらリゾートステイを楽しむ。PICホテルの敷地内にはファミリーで楽しめる施設が充実しており、さらにシュノーケリングやボディボード、カヤックなどのビーチアクティビティは宿泊客なら無料で好きなだけ楽しめるようになっている。参加者たちは日焼けした身体を癒しに、思い思いに海へと出かけていった。

私たちも、夜のガラパンの街に食事に繰り出す。賞金をゲットしたハシケンと、お食事券をゲットした野沢さんに少しおごってもらった。ありがとう。

サイパンならではのリラックス

地元のボランティアスタッフは素敵な笑顔地元のボランティアスタッフは素敵な笑顔 ヘル・オブ・マリアナはサイパン島の美しい海、自然、風、そしてローカルの声援をたっぷり味わえるアットホームなレースだ。上り下りした坂の記憶はしっかりと身体に刻まれ、100kmといえど走りごたえはたっぷり。誰もが十分な達成感を味わえるし、もしあなたが実力派のレーサーなら、上位の賞金を狙うのもいいと思う。
ホノルルセンチュリーライドを卒業した人や、ロードレースはちょっと無理だけどもっと厳しめのライドがいいという人にはとてもおすすめできる。もちろん賞金狙いのレーサーにも。


photo&text Makoto.AYANO

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