勢いのある風圧と、使い終わったボトルをまき散らしながら、平均46.2km/hでプロトンはアデレードを駆け回った。サイモン・ジェランス(オーストラリア、グリーンエッジ)の総合優勝に沸いたツアー・ダウンアンダー第14回大会。再びアタックした宮澤崇史(チームサクソバンク)のコメントも紹介する。

高速でアデレード市内を駆け抜ける高速でアデレード市内を駆け抜ける photo:Kei Tsuji最終日を迎えてなお、宮澤崇史(チームサクソバンク)のバイクにはビャルヌ・リース監督による「リースフィット(参照:第5ステージ現地レポート)」が施された。前日に5mm上げたサドルを更に2〜3mm上げ、更に3mm前方に動かした。

レース期間中にプロ選手がそんな大幅なポジション変更することに対して驚くサイクリストは多いと思う。だけど宮澤は『リースフィット』がしっくり来ている様子。

SOUTHAUSTRALIA.COMSOUTHAUSTRALIA.COM photo:Kei Tsuji「自分の中で割り切って、変更後のイメージが出来れば何mm動かしても問題ない。もちろんイメージが出来なければ動かしたらダメ。やっぱり他の人に客観的にポジションを見てもらったほうがいい。ポジションを変更して『ああこんな感じ!こんな感じ!』という感覚が戻ってきた」と、走っている本人は実際に好感触を得ている。リース監督に勝手に尊敬の念を抱いてしまう。

最終ステージの舞台は、アデレード中心部に近い4.5km周回コース。選手たちは1kmしか離れていないヒルトンホテルから自走でコースに向かう。6日間の闘いを終えようとする130名の選手たちの中で、ひと際大きな歓声を受けたのは、オレンジのリーダージャージを着るジェランスだ。

逃げグループを率いるイェンス・フォイクト(ドイツ、レディオシャック・ニッサン)逃げグループを率いるイェンス・フォイクト(ドイツ、レディオシャック・ニッサン) photo:Kei Tsujiオーストラリアチャンピオンジャージの上にリーダージャージを着る(実際は重ね着していません)ジェランスを守るため、グリーンエッジはスタート直後から全開だった。

現オーストラリアTTチャンピオンのルーク・ダーブリッジ(オーストラリア)によるファーストアタックに始まり、リー・ハワード(オーストラリア)やキャメロン・マイヤー(オーストラリア)が断続的にアタックを仕掛ける。逃げでボーナスタイムを潰してバルベルデの逆転を阻止しようとする目論み。

ポーズをとるジャパンカップ覇者のネイサン・ハース(オーストラリア、ガーミン・バラクーダ)ポーズをとるジャパンカップ覇者のネイサン・ハース(オーストラリア、ガーミン・バラクーダ) photo:Kei Tsuji仮にバルベルデがスプリントを狙おうものなら、ロビー・マキュアン(オーストラリア)やスチュアート・オグレディ(オーストラリア)、マシュー・ゴス(オーストラリア)がジェランスを前に連れて行く。まさにチーム一丸の動きだ。

ジャパンカップ覇者のネイサン・ハース(オーストラリア、ガーミン・バラクーダ)もかなり元気に動き回る。「ジャパンカップでトップ選手を打ち負かしたことが大きな自信になった」と笑顔で話す22歳は、もっと大きな選手に化ける素質を秘めていると感じる。新人賞と山岳賞を獲得したローハン・デニス(オーストラリア、UniSAオーストラリア)とともに、オーストラリアが次世代オールラウンダーとして期待を寄せる存在だ。そしてキャラも気さくでいい感じ。

青空のアデレード市街地サーキットを駆け抜ける青空のアデレード市街地サーキットを駆け抜ける photo:Kei Tsuji

レース中盤にアタックした宮澤崇史(チームサクソバンク)レース中盤にアタックした宮澤崇史(チームサクソバンク) photo:Kei Tsuji宮澤もアタックに参加。「コーナーで詰まって、前にスペースが出来たのでそこから踏んでいった。レディオシャックの選手(バケランツ)が後ろから付いてきて、彼がそこから前に出た。でもすぐ後ろに集団が迫っていたので踏むのを止めたら、そのレディオシャックの選手がそのまま先行。一緒に行けばよかった」。結果は失敗に終わったが、落車の影響を感じさせない走りを披露する。

そしてレースは再びアンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ベリソル)の勝利で幕を閉じた。ジェランスが総合首位を守り抜いたのはレースレポートでお伝えした通り。

メカニックやマッサーがレースを繰り広げて観客を盛り上げるメカニックやマッサーがレースを繰り広げて観客を盛り上げる photo:Kei Tsuji宮澤らのアシストを受けたジョナサン・キャントウェル(オーストラリア、チームサクソバンク)は8位。コンスタントにトップ10入りするものの、スプリント最前線に絡むことは最後まで出来なかった。

結果は伴わなかったが、最終日にして宮澤はチームとしてのスプリントの連携を確認出来たと話す。

水を頭からかぶる宮澤崇史(チームサクソバンク)水を頭からかぶる宮澤崇史(チームサクソバンク) photo:Kei Tsuji「ジョナサン(キャントウェル)はチームとしてまとまって動くよりも、自分で好きなように他の動きを見つけてそれに乗ったりする。その点はコンチネンタルチーム上がりの選手っぽくて、自分と似ていると思う。そんな彼の性格が段々と分かってきたから、チーム内の連携も良くなった」。

「でも残り2周の下りでジョナサンを前に連れて行ったのが、自分の最後の仕事になってしまった。それまで動いていたので、そこからアシスト出来ず。残り1周でもう少しサポート出来ていれば…」。

チームメイトの祝福を受けるサイモン・ジェランス(オーストラリア、グリーンエッジ)チームメイトの祝福を受けるサイモン・ジェランス(オーストラリア、グリーンエッジ) photo:Kei Tsujiレース会場で何度も「日本人として初出場の〜」という紹介を受けた宮澤は、日本人として初めてツアー・ダウンアンダーを完走した。その本人に6日間の闘いの感想を聞く。

「初めてのUCIワールドツアーレース。やはりレースのレベルが高いので最初は戸惑いがあった。周りの選手はとにかく身体がでかくてパワフル。力強くて速い。でも最初は戸惑った部分も徐々に慣れてきた。あと1週間ぐらいレースが続けば走れるようになると思う。特に今日は『リースフィット』でかなり調子良かったから、もっと走りたい気分」。

6日間の闘いを終えた宮澤崇史(チームサクソバンク)6日間の闘いを終えた宮澤崇史(チームサクソバンク) photo:Kei TsujiUCIワールドツアーであるツアー・ダウンアンダーを完走した宮澤は、ロンドン五輪ロードレースの日本代表選考に係わる50ポイントを獲得。すでに別府史之(グリーンエッジ)が出場を内定されているので、残りの1枠の行方に注目が集まる。

昨年10月26日の時点で、新城幸也は388ポイント、宮澤崇史は251ポイント、福島晋一は238ポイント、西谷泰治は195ポイント、畑中勇介は183ポイント。今年4月に開催される全日本選手権までのポイント集計で、日本代表選手が決定される。ちなみに、JCFのポイント表によると、ツール・ド・フランスで総合優勝しても200ポイントしかもらえない。さすがにそれはおかしい。

このツアー・ダウンアンダーが終わると、宮澤はしばらくイタリアで過ごし、2月5〜9日にスペインのマヨルカ島で開催されるチャレンジ・マヨルカに備える。そこでは再びスプリンターたちの連携を確認するはず。

宮澤は、ヒルトンホテルのすぐそばにある中華街に行って、イタリアで手に入りにくい調味料を買いたいと大会期間中ずっと呟いていた。おそらく、大会翌日の月曜日に調味料を買い込み、それを持ってイタリアに渡る。

2012年。宮澤崇史にとって勝負のシーズンが始まった。

text&photo:Kei Tsuji in Adelaide, Australia