グリーンエッジの結成で盛り上がるオーストラリアで、14年目のツアー・ダウンアンダーが始まった。初日のダウンアンダー・クラシックに参戦する133名を迎えたのは、真っ青な空と自己主張の強い太陽だ。

コースマップを眺めながら出番を待つ宮澤崇史(チームサクソバンク)コースマップを眺めながら出番を待つ宮澤崇史(チームサクソバンク) photo:Kei Tsujiシーズンの幕開けを告げる初戦として定着したツアー・ダウンアンダー。今年も真夏のアデレードでその火蓋が切って落とされた。

だがしかし、真夏と言ってもレースの前週は最高気温が25度に届かないような涼しさが続き、とてもビーチが恋しくなるような気温ではなかった。例年のような40度に達する猛暑を期待していたのに。

チームプレゼンテーションでステージに上がった宮澤崇史(チームサクソバンク)チームプレゼンテーションでステージに上がった宮澤崇史(チームサクソバンク) photo:Kei Tsujiダウンアンダー・クラシックのレース当日はようやく気温は30度に届き、「ダウンアンダーらしい暑さ」が戻って来た。空は真っ青に澄み渡っていて、ギラギラした太陽がアデレードの街を照らし出す。幸い(?)ツアー・ダウンアンダー本戦が行なわれる翌週は高温続きだ。

何と言っても注目すべきは、日本人初のツアー・ダウンアンダー出場者となるチームサクソバンクの宮澤崇史の存在。UCIプロチームのチームサクソバンクに移籍した宮澤が、早速アデレードの地でトップレースに出場する。

数日間メンバーとトレーニングに出かけた宮澤は「ヨーロッパから来た彼らはまだ走れていないと言いながらも、練習からかなり速い。練習中に千切れることもあった」と少しの焦りを見せる。そこに「でもレースはまた違うから」という言葉も添える。

宮澤は温暖なタイでトレーニングキャンプを行ない、そのままアデレード入りした。出場選手の中では人一倍日焼けしている印象。気温の上昇は宮澤に味方するかもしれない。

スタートラインに並んだ選手たち 宮澤崇史(チームサクソバンク)も前方に位置スタートラインに並んだ選手たち 宮澤崇史(チームサクソバンク)も前方に位置 photo:Kei Tsuji

大会スポンサーのサントス社のビルには巨大なキャメロン・マイヤーが登場大会スポンサーのサントス社のビルには巨大なキャメロン・マイヤーが登場 photo:Kei Tsuji環状道路で囲まれたアデレード中心街の東の外れに、クリテリウムの舞台となるライミルパークはある。1周1.7kmのコースは緩やかなアップダウンがあるが、概ねフラットと言っていい。実は、コースの大部分は、1985年からF1オーストラリアGPに使われていたサーキットを使用している。

当時「アデレード市街地コース」と呼ばれたF1サーキットは、ライミルパークの南に位置する競馬場をスタートする3.78kmで、現在のクリテリウムとは逆周りに走った。しかし1996年にオーストラリアGPの開催地はメルボルンのアルバートパークサーキットに移っている。

スタート時間の19時が近づき、日が傾き始めるスタート時間の19時が近づき、日が傾き始める photo:Kei Tsujiアデレードが「F1を失って」から3年が経った1999年に、ツアー・ダウンアンダーは産声をあげた。

それまでF1に注がれていた資金や労力、注目を、サウスオーストラリア州はロードレースに投入。同州が全面的にバックアップする一大スポーツイベントとして成長を続け、現在に至る。ちなみに昨年のツアー・ダウンアンダーがもたらした経済効果は4330万オーストラリアドル(約34億4000万円)だ。

ライミルパーク周回コースを駆けるライミルパーク周回コースを駆ける photo:Kei Tsujiレース関係者の宿泊ホテルからチームのメカニックテントまで、アデレード中心部のヒルトンホテルならびにその前の広場に集約。UCIワールドツアーレースでありながら、非常にコンパクトに、そして効率の良い運営がなされている。

選手は期間中ずっと同じヒルトンホテル滞在で、ステージレースでありがちな移動の煩わしさは皆無。そのうえ気候が良いのでトレーニングにも打ってつけ。レースの運営に対する選手やスタッフからの評価はすこぶる高い。

常に集団前方に位置する宮澤崇史(チームサクソバンク)常に集団前方に位置する宮澤崇史(チームサクソバンク) photo:Kei Tsuji今年もライミルパークの会場に大勢の観客が詰めかけた。観客は老若男女、自転車に乗る人乗らない人、選手の名前を知っている人知らない人つまり様々で、その雰囲気は日本とも、またヨーロッパとも違う。盛り上がりがオーストラリアの活躍を後押ししている。そしてオーストラリアの活躍が盛り上がりに拍車をかける。

クリテリウムレースは夜7時にスタート。すぐに日が傾き、コースの大半が影に覆われる。いくら真夏の開催だからとは言え、夜8時が近づくとさすがに辺りは暗くなる。

21位でゴールラインを切る宮澤崇史(チームサクソバンク)21位でゴールラインを切る宮澤崇史(チームサクソバンク) photo:Kei Tsujiブルーのヘルメット、ブルーのジャージに身を包んだ宮澤は、常に最前列に近い位置で周回。その後ろにはエーススプリンターのジョナサン・キャントウェル(オーストラリア)の姿も確認できる。

しかし最終周回が近づき、人数を揃えるロット・ベリソルやチームスカイの本格的なペースアップが始まると、サクソバンクジャージは少し番手を下げてしまう。

キャントウェルのアシストとして働き、初戦を終えた宮澤崇史(チームサクソバンク)キャントウェルのアシストとして働き、初戦を終えた宮澤崇史(チームサクソバンク) photo:Kei Tsuji最後はロット・ベリソルの猛烈なリードアウトがレースを支配。完璧な位置から、完璧なタイミングで、そして抜群の加速で飛び出したグライペルが悠々と勝った。この日の走りを見る限り、こんなシーズン序盤でありながら、最も統率の取れたトレインを組んでいるのはロット・ベリソル。この先のステージでもロットトレインが主導権を握りそうな勢いだ。

宮澤は苦しい表情を見せながら7秒遅れのグループでゴールした。ゴール後すぐにキャントウェルの順位を確認するが、上位に絡めていないことを知ると少し苦い表情を見せる。

「今日はずっとジョナサン(キャントウェル)のアシストでした。でも前に行きたいチームが多くて、ゴールまで半周を残したところでジョナサンと離れてしまい、最後まで仕事ができなかった」と悔やむが、同時に「思ったよりも走れて楽しめた。それほどレースが速いとは思わなかった」とも。課題を見つけながらも、次に繋がる感触を得た様子だ。

レース終了が夜8時半に近かったため、選手たちはすぐに身支度を整えて自走でヒルトンホテルに直帰。一日の休息日を経て、火曜日にツアー・ダウンアンダー本戦が始まる。

text&photo:Kei Tsuji in Adelaide, Australia

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