全日本チャンピオンの辻浦圭一(チームブリヂストン・アンカー)に「力負け」と言わしめる竹之内悠(Team Eurasia-Fondriest bikes)の勝利。UCI(国際自転車競技連合)公認レースとなった野辺山シクロクロスは参加者500名に大勢の観戦者が加わり、活況に満ちた大会となった。

暮れなずむ滝沢牧場 試走する選手たち暮れなずむ滝沢牧場 試走する選手たち photo:Kei Tsuji2011年11月27日、長野県南佐久郡南牧村野辺山の滝沢牧場で信州シクロクロス第4戦(UCI登録上は関西シクロクロス)「野辺山高原シクロクロスレース」が開催された。

イギリスのハイエンド・サイクリングウェアブランドRaphaやホワイト・インダストリーズ社、スペシャライズド・ジャパンが協賛する同大会は、昨年初開催ながら225名のエントリーを数える大会に。そして今年、国内で2つ目となるUCI登録レースとしてパワーアップして登場した。

本格的な立体交差が設置された本格的な立体交差が設置された photo:Kei Tsuji今年は土曜日に「野辺山シクロクロスEXPO」と題したシクロクロス関連メーカーのブース出展やハンドメイドシクロクロスバイクコレクション、試走、そして小坂親子による初心者を対象にしたシクロクロススクールが行なわれ、日曜日にUCIレースやシングルスピードレースを含む12カテゴリーのレースを開催。UCIレースはUstreamによる映像ライブ配信も。

野辺山高原は八ヶ岳を望む標高1350mの高地。観光牧場である滝沢牧場を駆け巡る2.8kmの周回コースはバリエーションに富んだものとなった。

CM1 独走勝利した筧太一(イナーメ信濃山形)CM1 独走勝利した筧太一(イナーメ信濃山形) photo:Kei Tsujiシクロクロスレースのためだけに設置された国内初の立体交差や、牧草地のスラローム、脚を苦しめる舗装路の緩斜面、四輪バギー用のサーキット、畑の中を抜ける泥セクション、テクニックが問われる林セクションなど、観光牧場の魅力を最大限活かしたものに。コースの脇では馬や牛、山羊が鳴き声を上げる。

さらにベルギービールやワッフル、コーヒーなどの出店や“観る者を惹き付けるコース”も野辺山シクロクロスの魅力の一つ。首都圏から数時間というアクセスの良さも後押しし、エントリー数500名という日本最大級のシクロクロスレースに成長した。

CL1 泥セクションを走る豊岡英子(パナソニックレディース)CL1 泥セクションを走る豊岡英子(パナソニックレディース) photo:Kei Tsuji国内のもう一つのUCI登録レース「関西シクロクロス第3戦ビワコマイアミランド」が前週の11月20日に開催されたため、1週間強の日本滞在で2つのUCIレース出場を狙う海外選手も。今年はモリー・キャメロン(MetaFilter-Portland BS)やティナ・ブルベイカー(VANILLA BICYCLES/SPEEDVAGEN)らがアメリカから来日し、UCIレースを連戦出場した。

レース当日は澄み渡る快晴。しばらく好天が続いたため、路面はドライなコンディション。土曜日の朝にはマイナス8度まで気温が下がったが、日曜日は最高10度、最低0度という比較的暖かな陽気に包まれた。

午前中に開催されたC3やC2、CL1などのレースは、水分を含んだ泥に苦しめられる選手が続出。しかし午後になると泥セクションには踏み固められた轍が現れ、バイク交換が不要なほどのハイスピードサーキットとなった。

シケイン周辺は絶好の観戦スポットシケイン周辺は絶好の観戦スポット photo:Kei Tsuji

C1 スタート直後の舗装路は池本真也(和光機器・AUTHOR)が先頭C1 スタート直後の舗装路は池本真也(和光機器・AUTHOR)が先頭 photo:Kei TsujiCL1は前週のビワコマイアミランドで宮内佐季子(CLUBviento)に敗れた豊岡英子(パナソニックレディース)が1周目から大きくリード。2番手に福本千佳(クラブシルベスト/同志社大学)が単独で続いたが、そのタイム差は縮まらない。豊岡は一度も先頭を譲ることなく、最終的に46秒リードで勝利。

3位争いは最終周回にまでもつれ込み、ティナ・ブルベイカー(VANILLA BICYCLES/SPEEDVAGEN)が宮内との接戦を制した。

C1 チームブリヂストン・アンカーの2人を引き離す竹之内悠(Team Eurasia-Fondeiest bikes)C1 チームブリヂストン・アンカーの2人を引き離す竹之内悠(Team Eurasia-Fondeiest bikes) photo:Kei TsujiCM1は筧太一(イナーメ信濃山形)が他を寄せ付けない圧勝。2位にはスペシャライズドのアドバイザーを務める竹谷賢二、そして3位にはレースの主管チームである八ヶ岳CYCLOCROSS CLUBのビンセント・フラナガンが入っている。

この日最も会場が沸いたのは、ホワイト・インダストリーズ社がスポンサーについたシングルスピード選手権。もちろん先頭では本格的なレースが繰り広げられるわけだが、その後方はさながら仮装大会。セクシーなスクール水着からメイド服、マニアックなアニメキャラまで盛り沢山。子どもたちにプレゼントを配り歩く(走る)サンタまで登場し、異様な熱気に包まれた。

C1 6番手を走るモリー・キャメロン(MetaFilter-Portland BS)C1 6番手を走るモリー・キャメロン(MetaFilter-Portland BS) photo:Kei Tsujiそして12時30分、55名がエントリーしたC1がスタートした。

レースには辻浦圭一(チームブリヂストン・アンカー)や竹之内悠(Team Eurasia-Fondriest bikes)、小坂正則(スワコレーシングチーム)、小坂光(TeamZenko/宇都宮ブリッツェン)、丸山厚(MASSA-FOCUS-SUPER B)ら、日本のトップシクロクロッサーが集結。

C1 新城幸也の声援を受ける畑中勇介(シマノレーシング)C1 新城幸也の声援を受ける畑中勇介(シマノレーシング) photo:Kei TsujiさらにMTB界から山本幸平(チームブリヂストン・アンカー)や山本和弘(キャノンデール・レーシングチーム)、ロードレース界から宮澤崇史(ファルネーゼヴィーニ・ネーリソットリ)、畑中勇介(シマノレーシング)、辻善光(TeamZenko/宇都宮ブリッツェン)らが出場。他に類を見ない、おそらく全日本選手権以上に豪華なメンバーが集った。

スタートと同時に猛烈な勢いで飛び出したのはMTB全日本チャンピオンの山本幸平。これに竹之内悠と辻浦圭一が加わってパックを形成し、そこから竹之内悠が抜け出す。

C1 竹之内を追う辻浦圭一(チームブリヂストン・アンカー)C1 竹之内を追う辻浦圭一(チームブリヂストン・アンカー) photo:Kei Tsujiその後方には丸山厚と小坂正則、モリー・キャメロン、小坂光が続く。ポイントの関係で後方スタートを余儀なくされた宮澤崇史や辻善光、山本和弘はジワリジワリと順位を上げる。

竹之内悠は2〜3周目を単独先頭でこなしたが、やがて全日本チャンピオンの辻浦圭一がこれに合流。何度か竹之内悠が先行する場面が見られながらも、2人は互いの様子を伺いながら周回を重ねていく。

C1 立体交差を駆け下りる山本幸平(チームブリヂストン・アンカー)と丸山厚(MASSA-FOCUS-SUPER B)C1 立体交差を駆け下りる山本幸平(チームブリヂストン・アンカー)と丸山厚(MASSA-FOCUS-SUPER B) photo:Kei Tsujiそして迎えた最終周回。舗装路の緩斜面で一気に仕掛けた竹之内悠が、リードを広げた状態で牧草地のスラロームへ。「残り3周で一回仕掛けたものの、辻浦さんを振り切れなかった。最終周回で仕掛けて、スラロームで後方の距離を確認したので、そこから落ち着いて踏んでいった」と竹之内悠は振り返る。竹之内悠はそのままリードを守り抜き、大歓声のゴールにガッツポーズで飛び込んだ。

「前半に先頭に立ったとき、そのまま行きたかったけど後方から辻浦さんが合流。一旦精神的に自分を落ち着かせて、終盤の勝負どころに備えようと思いました。テクニカルなセクションでは辻浦さんを引き離せないので、勝負をかけるポイントは舗装路の登りしかなかった」と竹之内悠。

C1 9番手を走る宮澤崇史(ファルネーゼヴィーニ・ネーリソットリ)C1 9番手を走る宮澤崇史(ファルネーゼヴィーニ・ネーリソットリ) photo:Kei Tsuji八ヶ岳に見下ろされた壮大な表彰台の天辺で、野辺山シクロクロス名物のカウベルを受け取った竹之内悠。「コンディションは上がっています。これから乗り込んでいくので、来週はレース(関西シクロクロス)に出ないかもしれない。まだコンディションは上がると思います」。2週間後の全日本選手権に向けてこの野辺山で弾みを付けた。

一方、敗れた辻浦圭一は「力負けでした」と声のトーンを落とす。1年を通してベルギーを拠点に活動した竹之内悠の走りを「強くなった。アグレッシブになった」と評す。「コンディションは悪くない。残りの2週間で上げられるだけ上げていく。そしてその先にある世界選手権を見据えたい」。

C1 立体交差を駆け上がる竹之内悠(Team Eurasia-Fondriest bikes)C1 立体交差を駆け上がる竹之内悠(Team Eurasia-Fondriest bikes) photo:Kei Tsujiレース中盤に丸山厚に抜かれて4番手に下がりながらも、最終的に31秒差の3位にまで上がった山本幸平は「今回シクロクロスバイクでの初レースだったので、分からない部分が多くて最初から我武者らに行きました。でも中盤は回復が追いつかなくて失速してしまった。後半にかけて落ち着いたので踏み続けたけど追いつかなかった」と語る。

「やはりMTBと比べてシクロクロスはシビアで、バイク任せでは走れない。バイクに慣れないと勝負に絡めない」。山本幸平は来週のGPミストラル第3戦に出場し、全日本選手権に備える予定。他選手が警戒するダークホースとして全日本選手権では注目の存在だ。

C1 ガッツポーズでゴールする竹之内悠(Team Eurasia-Fondriest bikes)C1 ガッツポーズでゴールする竹之内悠(Team Eurasia-Fondriest bikes) photo:Kei Tsuji2年連続出場となったモリー・キャメロンは6位。少しの失望を見せながらも「良い結果ではなかったけど、相変わらずレースの雰囲気が良くて、楽しんで走ることができた。(5位の47歳)小坂正則が速くて驚いたよ。また出場したい」と感想を述べる。

チームサクソバンクへの移籍を決め、レース翌日からチームキャンプに合流する宮澤崇史は9位。「とても辛かったけど、シクロクロスを満喫しました。また来年野辺山で!」と、4年ぶりのシクロクロスレースを堪能した様子だ。

レースの模様はフォトギャラリーにて!

C1 レース後、手を交わす竹之内悠(Team Eurasia-Fondriest bikes)と辻浦圭一(チームブリヂストン・アンカー)C1 レース後、手を交わす竹之内悠(Team Eurasia-Fondriest bikes)と辻浦圭一(チームブリヂストン・アンカー) photo:Kei TsujiC1 カウベルを見せるトップスリーC1 カウベルを見せるトップスリー photo:Kei Tsuji


野辺山シクロクロス2011結果
C1
1位 竹之内悠(Team Eurasia-Fondriest bikes)         59'01"
2位 辻浦圭一(チームブリヂストン・アンカー)          +19"
3位 山本幸平(チームブリヂストン・アンカー)         +31"
4位 丸山厚(MASSA-FOCUS-SUPER B)            +1'28"
5位 小坂正則(スワコレーシングチーム)            +1'46"
6位 モリー・キャメロン(MetaFilter-Portland BS)        +1'55"
7位 山本和弘(キャノンデール・レーシングチーム)       +2'11"
8位 小坂光(TeamZenko/宇都宮ブリッツェン)         +2'33"
9位 宮澤崇史(ファルネーゼヴィーニ・ネーリソットリ)     +2'43"
10位 辻善光(TeamZenko/宇都宮ブリッツェン)        +2'55"

CL1
1位 豊岡英子(パナソニックレディース)            40'56"
2位 福本千佳(クラブシルベスト/同志社大学)           +46"
3位 ティナ・ブルベイカー(VANILLA BICYCLES/SPEEDVAGEN) +1'34"
4位 宮内佐季子(CLUBviento)                 +1'59"
5位 田近郁美(GOD HILL)                  +2'18"
6位 アレクサンドラ・バートン(Upper Echelon Fitness)     +2'29"
7位 上田順子(TEAM884獣遊/シルベスト)           +4'54"
8位 中道のぞみ(Salata bianca kobe)             +6'15"
9位 ハイディ・スウィフト(Sweetpea Ladies Auxiliary)     +7'28"
10位 綿貫通穂(臼杵レーシング)               -1LAP

CM1
1位 筧太一(イナーメ信濃山形)
2位 竹谷賢二(スペシャライズド・アドバイザー)
3位 ビンセント・フラナガン(八ヶ岳CYCLOCROSS CLUB)

C2
1位 小笠原崇裕(OGA-STYLE.COM)
2位 松本駿(TREK)
3位 前田公平(ENDLESS/ProRide)


text&photo:Kei Tsuji/nobeyamacyclocross.cc

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