グルノーブルで行われた最終個人タイムトライアルで、カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)が奮い立った。ステージ優勝者トニ・マルティン(ドイツ、HTC・ハイロード)から僅か7秒遅れのタイムにまとめたエヴァンスが、シュレク兄弟を総合首位から引きずり落とすことに成功。貫禄溢れる34歳が逆転劇を演じた。

第20ステージ・コースプロフィール第20ステージ・コースプロフィール image:A.S.O.3週間にわたって繰り広げられたマイヨジョーヌを懸けた争いは、最終日前日、グルノーブルの42.5km個人タイムトライアルで決着。起伏に富んだコースは、6月に行われた前哨戦クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ第3ステージと全く同じレイアウトだ。

序盤からトップタイムを更新し続けたトニ・マルティン(ドイツ、HTC・ハイロード)序盤からトップタイムを更新し続けたトニ・マルティン(ドイツ、HTC・ハイロード) photo:Cor Vosそのドーフィネ個人TTで55分28秒のトップタイムをたたき出したマルティンが、再び42.5kmのコースを快走した。レース当日の天候は曇りのち晴れ。朝方には雨が降ったため、ファビアン・カンチェラーラ(スイス、レオパード・トレック)を始めとする前半スタートの選手は濡れた路面に苦しんだ。

序盤から中間計測ポイントでトップタイムを連発したマルティンは、自身が1ヶ月前にマークしたタイムに肉薄する55分33秒というトップタイムをマーク。総合上位陣の力をもってしても、マルティンのタイムを破ることができない。今年3度目のツール出場のマルティンが、念願のステージ初優勝を手にした。

ステージ優勝に輝いたトニ・マルティン(ドイツ、HTC・ハイロード)ステージ優勝に輝いたトニ・マルティン(ドイツ、HTC・ハイロード) photo:Cor Vos生粋のTTスペシャリストとして、ドイツの期待を背負って立つマルティンは26歳。2009年からロード世界選手権のタイムトライアルで2年連続銅メダルに輝き、その高いTT能力を武器に今年パリ〜ニースで総合優勝を果たしている。

現在マルティンは山岳力を伸ばすことでオールラウンダーとして成長中。しかし今年のツールでは総合47位(ドイツ人最高位)に沈んでいた。「今日はドーフィネでの経験が非常に役に立った。山岳ステージで総合順位を落とした時点で、気持ちをこのTTに切り替えていたんだ。ツールの締めくくりにふさわしい勝利だよ」。

勢い良くスタート台を駆け下りるカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)勢い良くスタート台を駆け下りるカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム) photo:Makoto AyanoHTC・ハイロードはこれが今大会ステージ5勝目。マルティンは翌日の最終シャンゼリゼステージでリードアウトトレインを組む。もちろん目標はマイヨヴェールを着るマーク・カヴェンディッシュ(イギリス)のステージ5勝目だ。

時計の針が午後4時を回り、総合上位陣のスタートが始まる頃には、温かな太陽がコースを照らした。前日のラルプ・デュエズ決戦を終えた時点で総合首位に立ったのはアンディ・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック)。兄フランクが53秒差、そしてエヴァンスが57秒差で続く展開。

マイヨジョーヌを着るアンディ・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック)がスタートを切るマイヨジョーヌを着るアンディ・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック)がスタートを切る photo:Makoto Ayanoしかしアンディは序盤から伸び悩んだ。逆にライバルのエヴァンスはステージ優勝者マルティンに肉薄するペースを刻む。マイヨジョーヌを着るアンディは、第1計測ポイント(15.0km地点)でエヴァンスから36秒のビハインド。

逆転総合優勝に向けてアンディを突き放すエヴァンス。アンディはレース中盤の時点で早くも57秒の総合リードを使い果たし、エヴァンスに総合首位の座を明け渡してしまう。アンディの遅れは距離を進むごとに増していき、第2計測ポイント(27.5km地点)で1分41秒、そして第3計測ポイント(37.5km地点)で2分10秒に。

マルティンに肉薄するハイペースを刻むカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)マルティンに肉薄するハイペースを刻むカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム) photo:Cor Vos最後まで手を緩めずに走りきったエヴァンスは、最終的にアンディを2分31秒引き離してゴール。ステージ優勝には7秒足りなかったが、総合逆転に関しては十分すぎるほどのタイム。総合での57秒の遅れを1分34秒のリードに変えたエヴァンスが、アンディに代わって総合首位に立った。

苦節7年、エヴァンスがついにツールを制する日がやってきた。エヴァンスは初出場の2005年ツールで総合8位に入り、その後、総合4位、2位、2位という好成績をマーク。しかし2009年からは不運なトラブルや落車によって総合30位、総合26位と低迷していた。

マイヨジョーヌのアンディ・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック)が失意のゴールマイヨジョーヌのアンディ・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック)が失意のゴール photo:Cor Vosエヴァンスは語る。「いつもと同じように、今日は一つ一つプロセスをこなしていったんだ。まだ何が起こったのか全てを理解できていない。ここ10年間は多くの不運に見舞われた。でもそのことがこの瞬間をよりいっそう輝かす。ずっと支えてくれた多くの人々に感謝したい」。

エヴァンスはオーストラリア人として初めて、そして南半球出身者として初めて、マイヨジョーヌを着てシャンゼリゼに凱旋する。その権利を貫禄溢れる走りでつかみ取った。

ツール・ド・フランス第98代チャンピオンがライオンにキスツール・ド・フランス第98代チャンピオンがライオンにキス photo:Cor Vos夢破れたアンディは、呆然とした表情でゴール。前日に手に入れたマイヨジョーヌを一日で失ったアンディは、勝者を讃える。「カデルは人生を懸けて今日のTTを走った。ツール勝者に値する走りだったと思う」。

アンディはこれにより3年連続総合2位が確定。兄フランクは総合3位。兄弟揃ってシャンゼリゼで表彰台に登ることになった。「我々のチームは昨日までの山岳ステージ、そして今日のTTで最大限の力を出した。僕にとってもフランクにとっても、今日のTTは最高の出来だったと思う。でもそれじゃ足りなかった。悔いは無いよ」。アンディのツール制覇の夢は一年後に先延ばしだ。

マイヨジョーヌ争いと同様に白熱したのがマイヨブラン争い。新人賞2位のレイン・ターラマエ(エストニア、コフィディス)がステージ10位に入ったが、前日にラルプ・デュエズを制したピエール・ロラン(フランス、ユーロップカー)がステージ21位に踏みとどまる。ロランが46秒の総合リードでマイヨブランを守った。

コメントはレース公式サイト、ならびにHTC・ハイロード公式サイトより。

トップタイムをたたき出したトニ・マルティン(ドイツ、HTC・ハイロード)トップタイムをたたき出したトニ・マルティン(ドイツ、HTC・ハイロード) photo:Cor Vosわずか7秒差のステージ2位に入ったカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)わずか7秒差のステージ2位に入ったカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム) photo:Cor Vosマイヨジョーヌを着て走るアンディ・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック)マイヨジョーヌを着て走るアンディ・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック) photo:Cor Vos


ツール・ド・フランス2011第20ステージ結果
1位 トニ・マルティン(ドイツ、HTC・ハイロード)           55'34"
2位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)     +07"
3位 アルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード)   +1'06"
4位 トーマス・デヘント(ベルギー、ヴァカンソレイユ・DCM)      +1'29"
5位 リッチー・ポルト(オーストラリア、サクソバンク・サンガード)    +1'30"
6位 ジャンクリストフ・ペロー(フランス、アージェードゥーゼル)     +1'33"
7位 サムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)          +1'37"
8位 ファビアン・カンチェラーラ(スイス、レオパード・トレック)      +1'42"
9位 ピーター・ベリトス(スロバキア、HTC・ハイロード)        +2'03"
10位 レイン・ターラマエ(エストニア、コフィディス)          +2'03"

11位 トム・ダニエルソン(アメリカ、ガーミン・サーヴェロ)       +2'08"
12位 エドヴァルド・ボアッソン(ノルウェー、チームスカイ)       +2'10"
13位 トマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー)          +2'14"
14位 マキシム・モンフォール(ベルギー、レオパード・トレック)     +2'14"
15位 クリスティアン・コレン(スロベニア、リクイガス・キャノンデール) +2'36"
16位 アドリアーノ・マローリ(イタリア、ランプレ・ISD)        +2'38"
17位 アンディ・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック)    +2'38"
18位 リエーベ・ヴェストラ(オランダ、ヴァカンソレイユ・DCM)    +2'39"
19位 クリストフ・リブロン(フランス、アージェードゥーゼル)
20位 フランク・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック)   +2'41"

30位 ダミアーノ・クネゴ(イタリア、ランプレ・ISD)          +3'38"
33位 イヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)    +3'47"

個人総合成績 マイヨ・ジョーヌ
1位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)  83h45'20"
2位 アンディ・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック)   +1'34"
3位 フランク・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック)   +2'30"
4位 トマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー)         +3'20"
5位 アルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード) +3'57"
6位 サムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)        +4'55"
7位 ダミアーノ・クネゴ(イタリア、ランプレ・ISD)         +6'05"
8位 イヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)    +7'23"
9位 トム・ダニエルソン(アメリカ、ガーミン・サーヴェロ)      +8'15"
10位 ジャンクリストフ・ペロー(フランス、オメガファーマ・ロット) +10'11"

ポイント賞 マイヨ・ヴェール
1位 マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、HTC・ハイロード)        280pts
2位 ホセホアキン・ロハス(スペイン、モビスター)              265pts
3位 フィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)        230pts

山岳賞 マイヨ・ブラン・ア・ポワ・ルージュ
1位 サムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)             108pts
2位 アンディ・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック)        98pts
3位 イェーレ・ファネンデルト(ベルギー、オメガファーマ・ロット)       74pts

新人賞 マイヨ・ブラン
1位 ピエール・ロラン(フランス、ユーロップカー)             83h56'03" 
2位 レイン・ターラマエ(エストニア、コフィディス)               +46"
3位 ジェローム・コッペル(フランス、ソール・ソジャサン)           +7'53"

チーム総合成績
1位 ガーミン・サーヴェロ                       250h57'43"
2位 レオパード・トレック                          +11'04"
3位 アージェードゥーゼル                         +11'20"

敢闘賞
設定無し

text:Kei Tsuji
photo:Makoto Ayano, Cor Vos