集団スプリントが予想されていた第2ステージだったが、優勝候補アサド大学のザルガニが残り15km地点でチームメイトのエマミと先行し、そのままゴールまで逃げ切ってトップに躍り出た。日本勢首位は1分15秒差の10位、追走集団で伊藤雅和がフィニッシュした。

沿道に売られている「ウビ」と呼ばれる芋のような野菜沿道に売られている「ウビ」と呼ばれる芋のような野菜 (c)SonokoTanaka

朝から笑顔の中島康晴(愛三工業レーシングチーム)朝から笑顔の中島康晴(愛三工業レーシングチーム) (c)SonokoTanaka優勝候補が早くも動いた第2ステージ

パダンから内陸を北上し、海沿いの小さな町パリアマンにゴールする105kmのコースで開催されたツール・ド・シンカラ第2ステージ。
朝のスタート地点は涼しかったものの、レースが始まると強い太陽の光に照らされ酷暑の中でのレースとなった。海沿いのこのエリアは赤道直下のインドネシアでもとくに暑い地域だといい、地元インドネシア人の額からも大量の汗がこぼれる。

平地基調のコースプロフィールと翌第3ステージに厳しい山岳が控えるため、大きな動きはなく集団スプリントになるだろうと言われていた第2ステージだが、序盤からの激しいアタック合戦の末、中盤になり15人ほどの大きな先行グスタートラインに並んだジャージ着用選手たちスタートラインに並んだジャージ着用選手たち (c)SonokoTanakaループが作られた。

そこからさらにアタックがかかったのは残り15km地点付近だった。道幅が狭くなり、ジャングルや民家のあいだを縫うようなコースで、強豪イラン、アサドユニバーシティのラヒン・エマミがアタック。先頭集団は細かく分かれた。そしてチームメイト、アミール・ザルガリがエマミに合流し、そのまま2人でゴールまでひた走り、後続に1分10秒差をつける圧勝となった。

クライマーが平地で勝った?

「あなたはクライマーなのに平地ステージでも勝つの?」そんな地元メディアからの質問に苦笑いを浮かべたザルガ逃げ集団で走る伊藤雅和(愛三工業レーシングチーム)逃げ集団で走る伊藤雅和(愛三工業レーシングチーム) (c)SonokoTanakaニ。山岳で充分に後ろを引き離す力を持っている彼らが、調子の良さを周りに示すかのようなステージ優勝だった。

先頭グループ内で走っていた伊藤雅和(愛三工業レーシングチーム)は、最後のアタックで集団の後方に残されてしまったという。残り10km地点でなんとか前方に追いついたが、そのときすでにアサドユニバーシティに2人の姿はなかった。

「勝負どころを掴めなかったこと、そこで前に残れなかったことが悔しい」とレースを振り返った。

アサドユニバーシティのザルガニとエマミが1、2フィニッシュアサドユニバーシティのザルガニとエマミが1、2フィニッシュ (c)SonokoTanaka


プロとして初の海外レースに挑む伊藤&木守

逃げ集団で走る伊藤雅和(愛三工業レーシングチーム)逃げ集団で走る伊藤雅和(愛三工業レーシングチーム) (c)SonokoTanaka今回、愛三工業レーシングチームは2人のプロ1年生、3月に大学を卒業したばかりの伊藤雅和と木守望が参戦している。学生ライダーを卒業し、職業として自転車で“食べていく”ことを選んだ彼ら。「学生時代よりも常にチームのことを意識するようになりました。自分がラクすれば、チームの誰かがキツくなりますからね」と口を揃えて話す。プロとして初の海外レースに参戦する意気込みを紹介しよう。

まずは鹿屋体育大学出身の伊藤雅和。名門自転車大学の主将として活躍し、大学時代は2008年ツール・ド・インドネシア(2.2)で区間2勝、ツール・ド・北海道U23個人総合優勝など好成績を多く残している。

顔を拭いたタオルがホコリで黒く汚れる顔を拭いたタオルがホコリで黒く汚れる (c)SonokoTanaka「今回のレースでの目標は、チームでステージ優勝を勝ち取りたいですね。自分でももちろん勝ちたいと思っているし、チームの誰かが勝つなら、それをアシストしたいと思っています。
今回遠征に来ているメンバーでは綾部さんと少し走ったことがあるだけ。他のメンバーとは初めて一緒になります。だからまだレース中の動きが掴めていません。

第1ステージが終わって、綾部さんから“もっと考えながら走るように、最後で勝負しないといけないので、最後の場面でもっと前にいるように……”といったアドバイスをもらいました。まさにそのとおりだと思いましたね、笑。そのあたりの部分も今回の課題です」と言う。

そしてもう1人の木守望。京都産業大学の出身で、2009年の学生個人ロード、学生ポイントレース優勝などのキャリアをもつ。

「今回の目標は、逃げに乗ること。逃げに乗って自分をアピールしたいと思っています。まだ経験や技術がなく、わからないことが多い状態ですが、先輩の走りを見て勉強しています。まずはチーム内での役割をはっきりさせたいですね。自分では集団スプリントでの位置取りが得意だと思っています。そのような場面で役割を作って、将来的に勝てる選手になれるよう、登坂能力やスピードを身につけていきたいです。

後方でフィニッシュした木守望(愛三工業レーシングチーム)後方でフィニッシュした木守望(愛三工業レーシングチーム) (c)SonokoTanaka初めての海外レースになりますが、ホテルも快適だし、辛い食べ物も得意なので、特別困ったことはありません。ただインドネシアはすごいところだと聞いているので、これからがいろんな意味で楽しみです」と話す。

第1ステージでは「チームはうまく機能しなかった」と話した別府匠監督だったが、圧倒的エースのいない愛三工業にとって、ステージ優勝を狙うためにはチームワークが不可欠となるだろう。全9ステージで競われるツール・ド・シンカラ。1ステージ毎にチームはどう変わっていくのだろうか? 若手選手の奮闘にも注目していきたい。


前半の大きな山場を迎えるツール・ド・シンカラ

そして、翌第3ステージは昨年からコースに登場した「ケロック44」と呼ばれる44のスイッチバックが連続する厳しい山岳ステージとなる。イランの登坂力に付いていける選手がいるか否かが勝負のキーだ。明日でレースが大きく動くだろう。

 海沿いのパリアマンでの表彰式 海沿いのパリアマンでの表彰式 (c)SonokoTanaka第2ステージを終え、ジャージをリーダー着用したアミール・ザルガニ(イラン、アサドユニバーシティ)第2ステージを終え、ジャージをリーダー着用したアミール・ザルガニ(イラン、アサドユニバーシティ) (c)SonokoTanaka

ステージ順位
1位 アミール・ザルガリ(イラン、アサドユニバーシティ)2h20'03"
2位 ラヒン・エマミ(イラン、アサドユニバーシティ)
3位 ロガン・カルデール(オーストラリア、プランB)+1'10"
4位 ヘルウィン・ジャヤ(インドネシア、ポリゴンスイートネイス)+1'15"
5位 ファタヒラ・アブドゥラー(インドネシア、プリマウタマ)
6位 トモ・スコールズ(CCN・コロッシ)
7位 シェルウィン・カレッラ(フィリピン、7イレブン・RTS)
8位 キー・ホー・チョイ(香港、香港ナショナルチーム)
9位 レンダー・シェレウルス(オランダ、グローバルサイクリング)
10位 伊藤雅和(愛三工業レーシングチーム)
14位 綾部勇成(愛三工業レーシングチーム)+1'39"
30位 中島康晴(愛三工業レーシングチーム)
39位 五十嵐丈士(フジ・サイクリングタイムドットコム)
58位 松尾修作(フジ・サイクリングタイムドットコム)+7'50"
107位 鈴木謙一(愛三工業レーシングチーム)+9'54"
108位 木守望(愛三工業レーシングチーム)

総合順位
1位 アミール・ザルガリ(イラン、アサドユニバーシティ)3h48'16"
2位 ラヒン・エマミ(イラン、アサドユニバーシティ)+02"
3位 ロガン・カルデール(オーストラリア、プランB)+1'16"
4位 ヘルウィン・ジャヤ(インドネシア、ポリゴンスイートネイス)+1'22"
5位 ファタヒラ・アブドゥラー(インドネシア、プリマウタマ)+1'25"
6位 トモ・スコールズ(CCN・コロッシ)
7位 シェルウィン・カレッラ(フィリピン、7イレブン・RTS)
8位 キー・ホー・チョイ(香港、香港ナショナルチーム)
9位 レンダー・シェレウルス(オランダ、グローバルサイクリング)
10位 伊藤雅和(愛三工業レーシングチーム)
15位 綾部勇成(愛三工業レーシングチーム)+1'49"
21位 五十嵐丈士(フジ・サイクリングタイムドットコム)
23位 中島康晴(愛三工業レーシングチーム)
58位 松尾修作(フジ・サイクリングタイムドットコム)+7'57"
107位 鈴木謙一(愛三工業レーシングチーム)+10'04
108位 木守望(愛三工業レーシングチーム)

チーム総合首位
アサドユニバーシティ

ポイント賞
ヘルウィン・ジャヤ(インドネシア、ポリゴンスイートネイス)

photo&text Sonoko.Tanaka