レッジョ・エミリア~ラパッロ間の173kmで争われたジロ第3ステージはゴール前5kmの登りで抜けだした5人の逃げグループのスプリントを制したアンヘル・ビシオソ(スペイン、アンドローニ・ジョカトリ)が勝利。マリアローザはステージ2位のデーヴィッド・ミラー(イギリス、ガーミンサーヴェロ)に移った。3級山岳・ボッコ峠の下りでワウテル・ウェイラント(ベルギー、レオパードトレック)が落車。頭部を強打し、心肺蘇生による救命処置むなしく死去した。

レッジョ・エミリアでスタートを待つ選手たちレッジョ・エミリアでスタートを待つ選手たち photo:RCS sports第3ステージのコースプロフィールは、平坦基調で前日に引き続いてスプリンター向きのステージという評もあったが、ポイントとなるのは終盤にかけて設定されている2つのGPM。イタリア半島を縦貫するアペニン山脈に向かって徐々に標高を上げ、ラスト40km地点で3級山岳ボッコ峠をクリアする。

そこから一気にティレニア海まで下り、ゴールの9km手前で平均勾配6.4%・登坂距離2.8kmの4級山岳マドンナ・デッレ・グラッツィエを越える。さらにゴール前5kmにはカテゴリー級無しの登りがあり、単純なスプリントステージにはならないことが予想された。

スタート地点のレッジョ・エミリアでジロを観戦するサッカーのチェーザレ・プランデッリ監督スタート地点のレッジョ・エミリアでジロを観戦するサッカーのチェーザレ・プランデッリ監督 photo:RCS sportsレースは早い段階から逃げた4人、バルト・デクレルク(ベルギー、オメガファーマ・ロット)、パヴェル・ブラット(ロシア、カチューシャ)、ジャンルーカ・ブランビッラ(イタリア、コルナゴ・CSFイノックス)、ダヴィデ・リッチビッティ(イタリア、ファルネーゼヴィーニ・ネーリソットリ)の先行を許す形で進んだ。

レース開始2時間の平均時速は45.4km/h。逃げる4人でもっとも知られた選手はもちろんパヴェル・ブラット(ロシア、カチューシャ)だ。勇敢なアタックを見せることでおなじみで、2008年ジロでステージ優勝を挙げ、今年は今月頭のツール・ド・ロマンディの第1ステージを制している

逃げるダヴィデ・リッチビッティ(イタリア、ファルネーゼヴィーニ・ネーリソットリ)ら4名逃げるダヴィデ・リッチビッティ(イタリア、ファルネーゼヴィーニ・ネーリソットリ)ら4名 photo:Kei Tsuji逃げる4人。残り42km地点の3級山岳バッソ・デル・ボッコ(ボッコ峠)は3級に指定されているため、ここを先頭通過すれば山岳賞ジャージ マリアヴェルデはその選手のものだ。

頂上数百メートル手前で勢い良く飛び出したブランビッラ(コルナゴ・CSFイノックス)がブラット(カチューシャ)に対して差を保ったまま山岳ポイントをトップ通過。

ゴール前の4級山岳で飛び出したファビアン・ウェーグマン(ドイツ、レオパード・トレック)ゴール前の4級山岳で飛び出したファビアン・ウェーグマン(ドイツ、レオパード・トレック) photo:Riccardo Scanferlaコースはここからテクニカルなコーナーを含み、「まるでミニ・ミラノ~サンレモのようだ」と言われるほど。この下りで悲劇が起こった。

クネクネと曲がりくねった、ジロらしい猛烈にテクニカルなダウンヒル。逃げる4人を55秒差で追うメイン集団。レオパード・トレックのワウテル・ウェイラント(ベルギー)が、後ろを確認しようと振り返った際に左側の縁石に顔から突っ込んでしまったという(後方を走っていた別府史之の目撃情報)。

アンヘル・ビシオソ(スペイン、アンドローニ・ジョカトリ)アンヘル・ビシオソ(スペイン、アンドローニ・ジョカトリ) photo:kei.TSUJI駆けつけたドクターが心肺蘇生を始めるが、ウェイラントの容態は深刻で、すでに施しようがなかった。救命活動はレースが終わってもまだ続けられていた。

高速化するレースは最後の峠へ向けて再度振り出しに戻る。逃げる4人からリッチビッティ(ファルネーゼヴィーニ)が脱落するも、下りでふたたび3人に合流。しかし追い上げる後続集団がほどなく4人を捕まえた。マリアローザを着るマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、HTCハイロード)はここで遅れ、最後まで復帰できなかった。

1分40秒遅れでゴールする別府史之(日本、レディオシャック)1分40秒遅れでゴールする別府史之(日本、レディオシャック) photo:Kei Tsuji4級山岳マドンナ・デル・グラツィエ峠でクリストフ・ルメヴェル(フランス、ガーミン・サーヴェロ)とパブロ・ラストラス(スペイン、モビスター)が抜け出し、これにアンヘル・ビシオソ(スペイン、アンドローニ・ジョカトリ)、ダニエル・モレーノ(スペイン、カチューシャ)が合流。最後のカテゴリー無しの登りへ。ここでデーヴィット・ミラー(イギリス、ガーミン・サーヴェロ)が追いついた。

5人の逃げはゴールまで維持された。2人を送り込んだガーミンはルメヴェルが牽引役となってミラーを助け、ゴールスプリントに向けてお膳立てをするが、ゴール前の数百メートルは狭く、複雑に曲がりくねっている難コース。最終コーナーからはゴールは100mを切っており、減速から立ち上がった状態でのゴールスプリントへ。ビシオソ(アンドローニ・ジョカトリ)が先行し、スピードに乗せられないミラーを振り切った。3位はラストラス(モビスター)。

集団は12秒遅れでゴール。このためマリアローザは逃げ切りグループでもっともタイムが良かったミラーへと移った。ミラーはマリアローザ獲得により、イギリス人として初めて3つのグランツールでリーダージャージを着た選手となった。

ウェイラント死去の訃報

ゴールした選手たちに告げられたのはボッコ峠で落車したウェイラントの訃報だった。イタリア国営放送の放送中に、治療にあたった医師からウェイラントが死亡したという報告があった。表彰式はキャンセルされた。ヘリコプターで搬送されたラバーニャの病院でウェイラントの死去が確認された。

ウェイラントはクイックステップに所属した2010年のジロ・デ・イタリア第3ステージでステージ優勝を飾っており、火曜にその1周年を迎えるところだった。ウェイラントは4月に開催されたシュヘルデプライスでもゴール直前でタイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・サーヴェロ)とともに落車して負傷し、このジロでレースに復帰したばかりだった。当初はジロ参戦予定はなかったが、直前に負傷したチームメイトのダニエーレ・ベンナーティ(イタリア)の交代選手として出場。

ウェイラントは2004年のロンド・ファン・フラーンデレンU23レースで優勝し、パリ~ルーベのU23レースで3位に。翌年クイックステップでプロ入りを果たし、2008年のブエルタ・ア・エスパーニャでステージ優勝、そして2010年ジロでもステージ優勝を挙げた。26歳だった。また、ウェイラントの妻ソフィーさんはこの9月に子供を授かる予定だったという。

チームはその夜、ウェイラントの死を悼むコメントを発表。レースに留まるかどうかは選手同士の話し合いによって決められる。

ウェイラントの事故原因ははっきりしていないが、マヌエル・カルドソ(ポルトガル、レディオシャック)らの証言によれば、ウェイラントはメイン集団から遅れてひとりで走っており、後ろから来たカルドソのグループを待つかどうか判断するために後ろを振り返って確認していたときに左のペダルまたはハンドルを壁面に引っ掛け、投げ出された。ウェイラントは道路反対側まで飛ばされ、頭部を強打したようだ。

主催者らはウェイラントの死亡を早くに確認していたが、妊娠中の妻ソフィーさんが運転中であることが判ったため、ラジオ報道を聴く可能性を考慮して、家族から聞かされるまで発表を遅らせていた。

表彰式はキャンセルされ、救助を続けるヘリコプターの映像が流され続けたポディウム表彰式はキャンセルされ、救助を続けるヘリコプターの映像が流され続けたポディウム photo:CorVos静まり返ったレオパード・トレックのホテル静まり返ったレオパード・トレックのホテル photo:CorVos



ジロ・デ・イタリア2011第3ステージ結果

1位 アンヘル・ビシオソ(スペイン、アンドローニ・ジョカトリ)3h57'38"
2位 デーヴィッド・ミラー(イギリス、ガーミン・サーヴェロ)
3位 パブロ・ラストラス(スペイン、モビスター)
4位 ダニエル・モレーノ(スペイン、カチューシャ)
5位 クリストフ・ルメヴェル(フランス、ガーミン・サーヴェロ)
6位 ブラム・タンキンク(オランダ、ラボバンク) +12"
7位 ジェローム・ピノー(フランス、クイックステップ)
8位 サーシャ・モードロ(イタリア、コルナゴ・CSFイノックス)+21"
9位 ファビオ・タボッレ(イタリア、アックア・エ・サポーネ)
10位 マッテオ・モンタグティ(イタリア、アージェードゥーゼル)
103位 別府史之(日本、レディオシャック) +1'38"

個人総合成績
1位 デーヴィット・ミラー(イギリス、ガーミン・サーヴェロ)10h4'29"
2位 アンヘル・ビシオソ(スペイン、アンドローニ・ジョカトリ)+07"
3位 カンスタンティン・シウトソウ(ベラルーシ、HTC・ハイロード)+09"
4位 マルコ・ピノッティ(イタリア、HTC・ハイロード)
5位 クレイグ・ルイス(アメリカ、HTC・ハイロード) 
6位 クリストフ・ルメヴェル(フランス、ガーミン・サーヴェロ)+12"
7位 アレッサンドロ・ペタッキ (イタリア、ランプレ・ISD) +13"
8位 パブロ・ラストラス(スペイン、モビスター)+18"
9位 ヤロスラフ・ポポビッチ(ウクライナ、レディオシャック)+19"
10位 ティアゴ・マシャド(ポルトガル、レディオシャック)

ポイント賞 マリアロッサ・パッシオーネ
アレッサンドロ・ペタッキ(イタリア、ランプレ・ISD)

山岳賞 マリアヴェルデ
ジャンルーカ・ブランビッラ(イタリア、コルナゴ・CSFイノックス)

新人賞 マリアビアンカ
ヤン・バケランツ(ベルギー、オメガファーマ・ロット)

チーム総合成績
ガーミン・サーヴェロ

text : Makoto.AYANO
photo : Kei Tsuji, Riccardo Scanferla,CorVos

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