いよいよ2011年のグランツール初戦、ジロ・デ・イタリアが今週末に迫った。今年もグランツールの中で群を抜いて厳しい山岳を舞台に、マリアローザを懸けた闘いが繰り広げられる。イタリア在住のアメリカ人ジャーナリスト、グレゴー・ブラウンが優勝候補4名をピックアップ。それぞれのコメントを添えて紹介する。

春のクラシックシーズンをリエージュの勝利で締めくくったフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)春のクラシックシーズンをリエージュの勝利で締めくくったフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット) photo:Kei Tsujiフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)が歴史的な勝利を飾った4月24日のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュで、春のクラシックシーズンは幕を閉じた。次は3週間のグランツールの開幕だ。ジロ・デ・イタリアは5月7日の土曜日からトリノでスタートする。その有力な総合優勝候補者は4人だ。

ベルギーのマスコミでは、ジルベールがアルデンヌ・クラシック3連覇の高揚感のあまり、自分たちの地元のヒーローがそのうちグランツールでの勝利のことも言い出すだろうと報道していた。ジルベールはこのウワサを一蹴し、自分の目標はすべてのメジャークラシックレースの制覇であると表明した。とりわけ、勝利を逃しているクラシックレースであるミラノ〜サンレモ、パリ〜ルーベ、ロンド・ファン・フラーンデレンが彼の目標になる。

「グランツール対策として、やるべきことははっきりとしている」。ツール・ド・フランスで5回の総合優勝を果たしたベルナール・イノーは、ベルギーの新聞ラ・デルニエール・ウール紙に次のように述べた。「彼の能力なら、ステージで1勝以上は可能だろう。しかし、総合成績となると、アルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード)やアンディ・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック)がいる中では、遙かにきびしいものになる」

ジルベールは今年、ツール・ド・フランスとブエルタ・ア・エスパーニャに出場する予定だが、ステージ優勝を狙いつつ世界選手権に向けた調整をしていく。今年のジロ・デ・イタリアには出場しないが、2009年にはステージで1勝している。

ジロ・デ・イタリアの総合優勝候補の有力選手は次の4名だ。

No.1 アルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード)

2008年にジロ・デ・イタリアを制しているアルベルト・コンタドール(スペイン、当時アスタナ)2008年にジロ・デ・イタリアを制しているアルベルト・コンタドール(スペイン、当時アスタナ) photo:Cor Vosジロのスタートリストにクラシックの王者ジルベールの名前はないが、グランツールの王者アルベルト・コンタドールの名前はある。

この28歳のスペイン人は、2008年にジロとブエルタで総合優勝し、2007、2009、2010年の3回、ツール・ド・フランスで優勝している。ランス・アームストロングでさえ、三大グランツールすべてで優勝できなかった。コンタドール以前に同じ偉業をなした選手がイノーで、1985年に最後のダブルツールの勝利を獲得している。

ジロ第14ステージのモンテ・クロスティスを試走するアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード)ジロ第14ステージのモンテ・クロスティスを試走するアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード) photo:Cor Vosドーピング問題による出場停止の可能性を考えて、コンタドールはジロ・デ・イタリアに復帰することにした。昨年のツール期間中に減量薬クレンブテロールの陽性反応が出たことで、2年間の出場停止処分が下される可能性がある。スペインは彼を無罪としたが、スポーツ仲裁裁判所が最終的な判断を下すのは6月、まさにツールの直前なのである。

コンタドールは勝利を目論んでおり、先週はジロの山岳ステージを試走した。イタリア北東部のドロミテ山塊で4日間を過ごし、オーストリア国境を越えたのだ。

ジロ第14ステージのモンテ・クロスティスを試走するアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード)ジロ第14ステージのモンテ・クロスティスを試走するアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード) photo:Cor Vos4月21日の木曜日に現地に入り、すぐに山岳タイムトライアルがおこなわれるネヴェガルを試走。金曜日にはガルデッチャのステージ、土曜日にはゾンコランのステージを走った。「一番シビアなのはクロスティスの下り。砂利と崖の道だ」。イースターの日曜日には、グロースグロックナーのステージを走った。

第13ステージ〜第15ステージの連続する3日間(グロースグロックナー、ゾンコラン、ガルデッチャ)が、ジロの三位一体の山場だと、彼は考えている。

「一日の獲得標高差は6500メートルを超えると思う。今までこんなに登ったことはないよ」。コンタドールはガルデッチャのステージについて、ガゼッタ・デッロ・スポルト紙にこう語った。「距離もある。230キロメートルだ。しかもゾンコランを登った翌日だよ。まあ、クロスティスとゾンコランの登りの後に生き残る選手なら、これぐらい簡単だろうけど」


No.2 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)

昨年のジロでステージ優勝を飾り、総合3位に入ったヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス)昨年のジロでステージ優勝を飾り、総合3位に入ったヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス) photo:Kei Tsujiイタリアのヴィンチェンツォ・ニーバリは、コンタドールのレース運びを知っている。ニーバリは2回のグランツールでコンタドールと対決しているのだ。2008年のジロと2009年のツールでのことである。

いずれも勝利したのはコンタドールで、ニーバリはジロで11位、ツールで7位だった。このシチリア出身の26歳の若者もグランツールでの勝ち方を知っている。去年のブエルタ・ア・エスパーニャで初めてグランツール総合優勝を飾ったのだ。さらに、去年のジロ・デ・イタリアではチームメイトのイヴァン・バッソの優勝に貢献し、自身も総合3位となった。

リエージュを走るヴィンチェンツォ・ニーバリとイヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)リエージュを走るヴィンチェンツォ・ニーバリとイヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス・キャノンデール) photo:Kei Tsujiコンタドールがいようといまいと、リクイガスは今年も総合優勝を狙っている。そのエースがニーバリだ(バッソはツールでチームのエースとなる予定)。

冬から春にかけて、彼はイタリア最大のチームを率いて自国でのグランツールに臨むべく準備を重ねてきた。昨日はガルデッチャのステージを走り、土曜日の今日はゾンコランのステージを試走することにしている。

ミラノ〜サンレモのポッジオでアタックを仕掛けるヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)ミラノ〜サンレモのポッジオでアタックを仕掛けるヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール) photo:Cor Vos「全ステージをひっくるめて、ジロ全体がひとつのきついレースなんだ」と、ニーバリは日曜日にリエージュで語った。「第1週には、もう山頂ゴールがある。エトナとメルコリアーノだ」

イタリアの報道陣は、精彩に欠けたジロ・デル・トレンティーノ後のニーバリの調整に疑問を投げかけている。

「去年に比べれば、サンレモとティレーノでは好成績だったし、いつも前方にいることができた。ジロに向けて調子は上がってきているし、できるだけのことはやってきたよ」とニーバリ。

「ジャーナリスト? 彼らがどう書こうと気にしないよ。彼らの書いたものを全部見たら腹が立つだろうけれど。僕が見るのは自分の内面だ。だから、自分がよくなってるのがわかるんだ」


No.3 ロマン・クロイツィゲル(チェコ、アスタナ)

前哨戦のジロ・デル・トレンティーノでステージ優勝したロマン・クロイツィゲル(チェコ、アスタナ)前哨戦のジロ・デル・トレンティーノでステージ優勝したロマン・クロイツィゲル(チェコ、アスタナ) photo:Sonoko.TANAKA「正直に言って、僕は勝ちたい。誰だって勝ちたい」と、ロマン・クロイツィゲルは言う。「でも、コンタドールがいるなら、2位争いになりそうだよ」

来月25歳になるチェコ人は、初めて完全なチームリーダーとして走る。チャンスをつかんで勝利したいと願っている。しかし、コンタドールの存在が影を落とす。彼とは昨年と一昨年のツールで対峙したものの、二度とも9位に終わっている。

「ヴィンチェンツォ? 彼はやっかいだけど、もっとも危険とは思わない。だけど、コンタドールは……勝つためにジロに来るからね」

彼の名誉のために言っておくが、クロイツィゲルは4月24日のジロ・デル・トレンティーノの最終ステージ、マドンナ・ ディ・カンピーリオの山頂ゴールで優勝し、26日のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュではジルベールを追走して4位に入っている。


No.4 ミケーレ・スカルポーニ(イタリア、ランプレ・ISD)

前哨戦のジロ・デル・トレンティーノで総合優勝したミケーレ・スカルポーニ(イタリア、ランプレ・ISD)前哨戦のジロ・デル・トレンティーノで総合優勝したミケーレ・スカルポーニ(イタリア、ランプレ・ISD) photo:Sonoko.TANAKAイタリアのスカルポーニは4人の優勝候補の中では最年長の31歳だが、ここ数年の成長がめざましい。昨年のジロ・デ・イタリアではステージで1勝し、総合でも4位となっていた上に、4月24日のジロ・デル・トレンティーノでは総合優勝した。

「怖いのはコンタドールだ」と、スカルポーニはガゼッタ・デッロ・スポルト紙に語った。「彼は出場すれば勝つからね」

ジロ第15ステージのガルデッチャを試走するミケーレ・スカルポーニ(イタリア、ランプレ・ISD)らジロ第15ステージのガルデッチャを試走するミケーレ・スカルポーニ(イタリア、ランプレ・ISD)ら photo:Cor Vosとはいえ、スカルポーニはドーピングへの関与の疑惑ゆえに、優勝候補者4人の中では最も可能性が低い。2006年のオペラシオン・プエルトで捜査線上に名前が挙がり、その結果としてスカルポーニは出場停止処分となった。そして今月、スカルポーニはドーピングで悪名高い医師ミケーレ・フェラーリとの関与を疑われて捜査を受けた。コンタドールと同様、真相は謎に包まれている。しかし、このこともスカルポーニのジロでの勝利に影を差すかもしれない。

その他の優勝候補者としては、2009年に総合優勝したデニス・メンショフ(ロシア、ジェオックス・TMC)とチームメイトのカルロス・サストレ(スペイン、ジェオックス・TMC)、それにティアゴ・マシャド(ポルトガル、レディオシャック)が挙げられる。だが、クロイツィゲルが言うように、彼ら全員はコンタドールとジロ・デ・イタリアで2位の座を競い合うことになりそうだ。最有力2位候補なら、ニーバリに賭けたい。

text:Gregor Brown
translation:Seiya Yamasaki



Gregor.Brown (グレゴー・ブラウン)

イタリア・レッコ在住のアメリカ人プロサイクリング・ジャーナリスト。2005、2006年ジロ・デ・イタリアとツール・ド・フランス、春のクラシック等で綾野 真(シクロワイアード編集長/フォトジャーナリスト)に帯同し、取材活動を行う。2007年よりサイクリングニュース(イギリス)の主筆ジャーナリストとして活躍後、フリーランスに。2009年12月よりシクロワイアード契約ジャーナリストとなる。今後、主にイタリア・英語圏プロサイクリングメディアに活動の舞台を移す。