スキル・シマノが今年のツール・ド・フランスに招待されたことで、ぐっと高くなった別府史之のツール出場の可能性。デビュー当時から日本人ツール出場の悲願を背負ってきたフミが、5年目で掴んだチャンスだ。北のクラシックの先に見えてきたツールをフミはどう見ているのか。そしてフミ自身が感じるツールとの距離とは。まだ見ぬツールへ駆け出したフミが語る。

北のクラシックを連戦中の別府史之北のクラシックを連戦中の別府史之 photo:BLUEFORT
フミ:さっき『1年1年本気で勝負しないと』って言ったけど、その意味では残ってるのはグランツールだけだから、狙えるときに狙いたい。

ーフミは今までメディアに出る度に「ツール・ド・フランスの区間勝利が目標」と言っていたけれど、スキル・シマノがツールに招待されて、それも近づいてきました。

フミ:決してできない目標じゃない。今はチャンスでもある。大逃げを打ってでも、たとえ自分のキャリアを削ってでも、ステージ優勝を狙いたい気持ちがある。ツールでは毎年、少人数の逃げが決まる。フミが目指す展開だツールでは毎年、少人数の逃げが決まる。フミが目指す展開だ photo:Makoto Ayano

ーグランツール、とりわけツールでステージ勝利を狙う走りには、北のクラシックでのそれとはまた違った難しさが出てくると思います。クラシックレーサーとしてシェイプされている今のフミがステージレースの区間勝利を狙うのに、どんなことが必要になってくると思いますか?

フミ:うーん、逆にフランドルやヘント、パリ~ルーベで優勝することはすごく難しいこと。これらのレースはトップ10がだいたい決まっちゃってるから。でもツール・ド・フランスのようなステージレースでは、山岳でもない限り毎回同じ選手が上位に入ってくるわけではないから、もしかしたら誰にでもチャンスはあるという言い方ができるかもしれない。もちろん実際はみんなが狙ってるからチャンスは少ないとは思うけれど、北のクラシックより可能性が無いわけではない。

クラシックでの経験がツールにも生きてくるクラシックでの経験がツールにも生きてくる photo:Makoto Ayano
そのためにどうすればいいのか。最近自分の走りも整理し直してみて、自分がどんなタイプの選手なのかを分析してみたんです。それは、脚の回転があるのと、スピードがあるのと、逃げれるってこと。それでどこにチャンスが巡ってくるかって考えると、『それは自分で創り出さなくてはいけないんだ』という結論になった。
だから今までのスタンスを変えないで、逃げて勝負して行きたいと思っています。行くタイミングだけ間違えないように、みんながキツい時にこそ行けるように集中しなくちゃいけない。

ー北のクラシックは勝つのが難しく、ツール・ド・フランスは出るのが難しいと、2つの難しさがありますね。

フミ:でもツールはやっぱり別格というか、話に聞くとツール・ド・フランスは他のレースに比べたら全然「速い」ってみんな言う。でもたぶんそれは大丈夫だと思う。スピードには対応できるはず。今までトップレースを走ってきてわかったのは、ステージレースのスピードの上がり方と、ワンデイクラシックのそれは違うということ。

ーそれはどういう違い?

フミ:ワンデイレースでの上がり方は、みんながついていけなくなる上がり方をする。先頭15人くらいしかついていくことができない。でもステージレースでは上り以外でそんなことって滅多にないでしょう?クラシックでは平坦なのに、ちょっとしたコーナーですぐ15人くらいに絞られてしまう。だからそれを見極める判断力もすごく大事になってくる。タフで展開の速いクラシックでは一瞬の判断が生命線となるタフで展開の速いクラシックでは一瞬の判断が生命線となる photo:Makoto Ayano

ーそういったクラシックレースの嗅覚というか判断力は、ステージレースでの判断力にもつながってくる?

フミ:確実につながってくる。ジョナタン(・イヴェール)なんかはすごいいい嗅覚をしていて、逃げが決まるところでしか逃げを決めていない。例えば僕が10回、15回とかアタックをしてみても決まらない。何回も10秒差、40秒差、1分差とかになっても捕まってしまうんだけれど、ジョナタンがパン、とアタックするとそれはすぐに決まる。そういう無駄な脚を使わないで、ここだ!ってところで一回でかけるセンスはすごい。

ー逆に言うとツールで逃げグループに入っていることだけでも力が無いと出来ないということですね。

フミ:誰もが逃げたい、っていう状況下だからツールでの逃げなんかも簡単には決まっていない。最終的にみんなが、あぁもう疲れたなぁって思い始めたときにポッと出られる選手が逃げを決める。だから、難しい。誰もが勝機を伺うツールでは、逃げに乗る嗅覚もまた必要になる誰もが勝機を伺うツールでは、逃げに乗る嗅覚もまた必要になる photo:Makoto Ayano

ーしかしツールを見ていると、逃げた選手たちはそこからさらにアタックができるタフさがあるというか、逃げることだけに一生懸命でないというか…。

フミ:集団と逃げグループとの関係があって、例えば5、6人の逃げグループが1分差をつけたら、もう集団はそれを追わずに待つ。そうして逃げが決まるわけだけど、逃げグループもまた全開で逃げるわけじゃなくてある程度スピードを緩めて逃げ続ける。プロトンのリーダージャージを抱えるチームなんかは脚を使いたくないから逃げを容認するし、逃げを潰したいチームも、逃げが疲れた頃に捕まえた方が効率がいい。というのはその逃げを中盤で捕まえちゃったら、また同じような逃げが出てきてアタック合戦になっちゃうから。ただ逃げグループも考えていて、脚を温存しておいてラスト20kmくらいで全開で走る、ってこともする。逃げグループは15人、20人とかの小集団だとこれが決まる確率は高い。ペレイロがツールで勝ったときみたいに。

ー確かに、逃げ集団に人数が揃っていれば、引いている選手の数はメイン集団とそう変わらないですものね。

フミ:でも、同じ5人が引いているとしたら、逃げ集団よりも大集団の方がスピードが出るんです。その意味では集団の方が有利ではあるんだけれど。

ー最後に伺います。ツール・ド・フランスというレースは、別府史之の中で、どのような存在なのでしょうか?

フミ:今まで自転車レースをやってきて、世界選手権、多くのクラシック、ワールドカップレースやオリンピック、アジア選手権や全日本選手権を走ってきた今、残っているのはツール・ド・フランスだけ。自分のキャリアをそこで終わりにしたくはないけれど、出れるときに出てみたい。今回チャンスが巡ってきた(スキル・シマノがツールに招待された)のも、運じゃなくて運命だから、それにトライしてみたい。今まで自分がやってきた挑戦を続ける。あきらめたらそこで終ってしまうから。もちろんクラシックに照準を合わせているけど、ツールに出られるように頑張りたい。最後まで。

interviewer:Yufta Omata

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