高い精度に定評があるイーストンのホイール。優れたホイールを造り出すには人の手を介さずにはなし得ない。先進的なブランドであるイーストンでさえハンドメイドにこだわる理由はそこにある。

すべてのスポークは均等なテンションで張られている。この均等なテンションを保証するためにテンションゲージによって測定しているという。そうして鋭い加速性能と優れた横剛性を実現した。

イーストン EC90 SL CARBON CLINCHER フロントイーストン EC90 SL CARBON CLINCHER フロント イーストン EC90 SL CARBON CLINCHER リアイーストン EC90 SL CARBON CLINCHER リア


ホイールラインナップのすべてが好評のイーストンだが、なかでもカーボンホイールの人気が高い。カーボンリムは数年前までOEM供給を受けており特徴を出しにくかったが、自社生産に切り替えた途端、そのステータスはじわじわと高まっている。

数あるラインナップから2010年モデルの特徴的なモデルをピックアップすると、このEC90 SLクリンチャーは外せない一品だろう。メーカー曰く「日常的に使えるカーボンホイールとしてこのホイールを開発した」という。

シリーズ中、ミッドリムハイトシリーズに位置し、競合他社でも珍しい38mmカーボンリムを用いている。

このサイズのリムは万能に使いこなせる軽さと強度、そしてエアロ効果を兼ね備えておりあらゆるシーンに対応できる。しかもクリンチャーユーザー待望のラインナップ唯一のフルカーボンクリンチャーホイールなのだ。

レッドアルマイトを施したアルミニップル。外周部の軽量化に貢献するレッドアルマイトを施したアルミニップル。外周部の軽量化に貢献する リムハイトは38mmという絶妙な高さリムハイトは38mmという絶妙な高さ


カーボン素材のみでクリンチャー化するためには、高い技術が必要だ。耐久性を求めるとどうしても重量増を招いてしまう。だがイーストンの持つ技術の粋を集めた結果、重量を気にすることなく、耐久性に優れたフルカーボンクリンチャーリムの量産に成功したのだ。

さらにカーボンリムの懸案ともなっているブレーキングフィールを改善するために、リムサイドには特殊加工を施している。「サーマテック(Therma Tec)」という技術は、ブレーキシューとの摩擦によって生じる熱の放熱性を高め、制動力の最適化を実現している。耐熱性実験では500℃までの発熱にも耐え、同時に衝撃および耐疲労性能でも素晴らしい性能を発揮したという。

軽量化を促進したR4 SLハブ。イーストンのオリジナルハブだ軽量化を促進したR4 SLハブ。イーストンのオリジナルハブだ リヤハブも大幅に軽量化したR4 SL。反フリー側はラジアル、フリー側は2クロス組リヤハブも大幅に軽量化したR4 SL。反フリー側はラジアル、フリー側は2クロス組


ハブは往年の名ブランド、ヴェロマックスのテクノロジーが息づくR4 SLハブだ。このハブはEA90 SLX、EC90 SLXおよびEC90に用いられている。

このハブは姉妹モデルのR4ハブに切削加工を施し36g軽量化を達成しているものだ。さらにアルミニウム製アクスルキャップを採用し、カセットボディも軽量化している。そしてセラミックベアリングを標準装備するという。

フランジはストレートプルスポーク専用となる。アッセンブルしているスポークはサピム社で製作されたもの。わずかながらブレード状に成型したエアロスポークである。ブラックカラーもプレミアム感を高める。

リムサイドはブレーキフィールを最適化し、放熱性を高めているリムサイドはブレーキフィールを最適化し、放熱性を高めている 確実な固定を約束するオリジナルのクリックリリース確実な固定を約束するオリジナルのクリックリリース


アルミホイールに匹敵する優れた耐久性と制動力をもつEC90 SL。カーボンのメリットである軽さを兼ね備えることで、欠点は見当たらない。

今回のインプレッションでは、タイヤにパナレーサー RACE Type Aを使用、ブレーキパッドにはカンパニョーロのカーボン用ブレーキシューを使用。早速インプレッションをお届けしよう。





―インプレッション

「ユーザーフレンドリーなカーボンホイール」 山本健一(バイクジャーナリスト)

「限界値ぎりぎりまでハイテンションで組んでいると思わせるホイールは一枚岩のように感じる」「限界値ぎりぎりまでハイテンションで組んでいると思わせるホイールは一枚岩のように感じる」 今までの経験ではイーストン社製のホイールで印象が良かったのはカーボンディープリムのEC90 AEROやロープロファイルアルミホイールのEA90 SLXである。素材に関わらず共通して感じるのは、踏み出しの鋭い軽さだ。

横剛性と縦剛性の優れたバランスは均等に張られたスポークによって実現している。そして高性能ハブによる軽い回転と、数あるテンションホイールの中でもひときわ完成度が高いモデルだ。

このイーストン初のカーボンクリンチャーリムは、普段履きで使えるという耐久性、ブレーキングフィールの向上といういくつものトピックもあり、リリース前から注目していたモデルだ。

カンパニョーロやライトウェイトカーボンホイールではフルカーボンクリンチャーをラインナップしているが、価格的には高嶺の花だった。このEC90 SLの場合はチューブラーと同様の価格でリリースしている。なんとユーザーフレンドリーなことか。



「スムーズな回転とリムサイドの仕上げが特徴的」

手に持ってみると軽さへの追求が感じられる。クリンチャーの構造はどうしても重量増を招いてしまうが、前後セットで1400g台とは立派な数字だろう。そして、限界値ぎりぎりまでハイテンションで組んでいると思わせるホイールは剛性が高く、一枚岩のように感じる。過剰な高テンションには懐疑的だが、EC90 SLの場合はバランスがよいと感じる。

リムサイドの仕上げは鮫肌のような荒い触感を想像していたが、意外にもスムースだ。一般的にはカーボンリムのサイドはおざなりな仕上げのものが多く、ブレーキシューとの相性も大きく影響する。ブレーキングフィールはアルミホイールのそれとはまったく異なるものだ。

このリムから感じる制動時のフィーリングはかなり良好。カンパニョーロのソフトタッチなシューも影響してか、アルミリムに匹敵するフィーリングだろう。しかしコントロールはしやすいが、シューの消耗は早そうだ。一長一短ともいえるが、セイフティマージンが優れているに越したことはない。(とはいえ1日でシューが消滅するような勢いで削れていくわけではないからご安心を)

良好なブレーキングフィールを得られると、飛ぶように走り回れる。コーナーも攻める気になれるし、下りで不安な気持ちになることもない。

「制動時のフィーリングはかなり良好だ」「制動時のフィーリングはかなり良好だ」
剛体ともいえるしっかりとした組み付けにより加速感はよい。これはイーストンホイール全般の持ち味だ。そのまま高速域まで一気に加速しても、剛体の印象は変わらない。無性にスピードを上げたくなるホイールだ。

ミッドタイプのリムだがスピードの維持がしやすい。慣性の働きもあるだろうが、感覚的には重いとは感じない。空気抵抗値は90mm近くあるディープリムなどには敵わないだろうが、走破性能・巡航性能は高い。

ぐいぐいと踏み込んでもたわむこと無く突き進む様は、まるで「砕氷船」のイメージだ。勢いをつけたら手がつけられないような印象もある。

平坦の巡航性能はもちろん、下りの安定性も申し分なし。上り性能も十分に高く、トルクがかかってもホイールのねじれを最小限にとどめ、パワーロスを抑えている印象がある。勢いで上るような力業にもよく反応する。

リムの耐久性を調べるまでには至らなかったが、常用も可能という意味がなんとなく理解できる安心感を覚えた。週末のクラブランなど気合いを入れて走りたいときに使いたい。もちろんレースにもよい。群馬CSCなどスピーディなコースで能力を発揮しそうだ。




イーストン EC90 SL CARBON CLINCHERイーストン EC90 SL CARBON CLINCHER

イーストン EC90 SL CARBON CLINCHER
リムハイト:38mm
リム:GEN4 EC90カーボンクリンチャーリム
スポーク:サピム ブレーデッドブラック 
スポーク数:フロント18本、リヤ 24本
スポーク取り:フロント ラジアル組、リヤ 2クロス組
ニップル:アルミニップル
ハブ:R4SLグレード3ハイブリッドセラミックベアリング(フロント/リア)
互換性:シマノ、スラム、カンパニョーロ(10/11S)
サイズ:700C
重量:1465g(メーカー公称平均値、前後ペア)
希望小売価格(税込み):294,000円(ホイールセット、クリンチャー)
カラー:カーボンブラック







インプレライダーのプロフィール

山本健一(バイクジャーナリスト)山本健一(バイクジャーナリスト) 山本健一(バイクジャーナリスト)

身長187cm、体重68kg。かつては実業団トップカテゴリーで走った経歴をもつ。脚質はどちらかといえばスピードマンタイプで上りは苦手。1000mタイムトライアル1分10秒(10年前のベストタイム)がプチ自慢。インプレッションはじめ製品レビューなどがライフワーク的になっている。インプレ本のバイブル、ロードバイクインプレッション(エイ出版社)の統括エディターもつとめる。






ウェア協力:ETXE ONDO(エチェオンド)(サイクルクリエーション)



text&edit :Kenichi.YAMAMOTO
photo:Makoto.AYANO
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