レースの先頭でラスト1kmのアーチを通過する新城幸也(Bboxブイグテレコム)を見るのはこれが2回目だ。1回目は逃げグループからアタックした第5ステージ。そして発射台役として集団スプリントに挑んだ第10ステージ。再びユキヤがその元気な姿を見せてくれた。

久々の好天 南イタリアの勢いに圧倒される

観客の貪欲さにシュコダのスタッフも少しウンザリ気味観客の貪欲さにシュコダのスタッフも少しウンザリ気味 photo:Kei Tsuji比較的長めの230kmの平坦コースで行なわれた第10ステージ。ナポリの東部に位置するアヴェリーノの街がジロ・デ・イタリアのスタート地点を迎えるのは2年連続。そう言えば昨年も街中のカオス具合に苦労した。

アヴェリーノの観客たちのキャラバングッズに対する執着心はすごい。いつも笑顔で帽子を配っているシュコダの女性スタッフも、あまりの激しいグッズ争奪戦にウンザリしている感じ。完全に人を選んで帽子を配り歩いていた。

観客のサインに快く応じる新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)観客のサインに快く応じる新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム) photo:Kei Tsujiイタリア半島はよく長靴に例えられる。この日のレースはちょうど“くるぶし”の辺りを西から東へ。一帯には“くるぶし”のようなこんもりとした山々が連なり、独特の地形を形成している。230kmのコースは概ね平坦だが、緩やかなアップダウンの繰り返し。

スタート前、ユキヤに今日のステージの意気込みを聞く。「今日も平坦ステージなので逃げは無いと思います」。日本のファンが聞くと肩を落としそうな答えが返って来た。しかしそれもチームオーダーなので仕方が無い。

緩いアップダウンをこなして半島東部に向かう緩いアップダウンをこなして半島東部に向かう photo:Kei Tsuji「体調は全然問題ないですよ。やっぱりワンディレースよりもステージレースが好きです」。悪天候が続いたので少し体調を心配したが、それは杞憂に終わった。

前日の大雨が嘘のような澄み切った空の下、早々に逃げが決まったこともあり、レースはリラックスムードで進んだ。ユキヤは「アタックに加わろうかとも思いましたが、先頭でアタックが掛かっている展開のときにパンク。3人の飛び出しが決まってからはサイクリングでした。でも仮に逃げに乗っていたとしても、今日の後半は一直線の平坦路。あまり意味が無かった」と分析する。

この日はスタートからゴールまでの間に合計3カ所で撮影。気温25度ほどのポカポカ陽気が眠気を誘う。特に、補給ポイントで選手たちの到着を待っているとき、危うく睡魔に負けるところだった。

ラスト80km地点で選手たちを見送ってから、「半ズボン」が完全にネタとなっている電話レポートを終え、ゴールに向かってクルマを走らす。案の定、ゴール地点ビトントの街中は「南」特有の混雑具合。選手たちの到着1時間前にも関わらず、運転するプレスカーに向かって熱い声援が飛び込んで来た。


花咲き誇る平野部を駆ける花咲き誇る平野部を駆ける photo:Riccardo Scanferla

ラスト1kmを2番手で駆け抜けた発射台ユキヤ

スタッフにジャケットを投げる新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)スタッフにジャケットを投げる新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム) photo:Kei Tsuji撮影時、いつ見てもユキヤは集団後方に位置していたが、ゴール前になって徐々に集団前方に上がって来た。

チームHTC・コロンビアがコントロールするメイン集団がタイム差を詰めるチームHTC・コロンビアがコントロールするメイン集団がタイム差を詰める photo:Kei Tsuji「具体的な距離は分からないけど、終盤にいくつも街を抜ける辺りで徐々に前方に上がりました。ガーミンのようにメンバーを揃えてスプリンターをサポート出来ればいいですけど、今回は自分一人で位置をキープ。考えてみれば、これが今大会最初の本格的なスプリントでしたね。ガーミンやスカイ、サクソバンクがポジションを争って、総合狙いのエースがいるアスタナやBMCも参戦。先頭はゴチャゴチャでしたよ」。

黒髪をなびかせて走るその姿は、ゴール地点に設置された大型スクリーンの粗い映像からもすぐに判別可能だ。スパート気味のマッテーオ・トザット(イタリア、クイックステップ)を追って集団を牽く姿が国際映像に乗る。日本で多くのファンが興奮している姿を想像しながら、2番手でラスト1kmのアーチを通過するユキヤを見る。

ラスト数キロを好位置で走った新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)が苦しい表情でゴール(ピントを外した)ラスト数キロを好位置で走った新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)が苦しい表情でゴール(ピントを外した) photo:Kei Tsujiしかしその後ろにエーススプリンターのボネの姿が無い。後ろを振り返り、ボネの姿がないことを確認したユキヤは、ステージ優勝したタイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ)らに抜かれ、集団内でひっそりとゴールした。

ゴール地点で待ち構えるスタッフから受け取った水を口に運び、ユキヤは「長かったです」と一言。この日の平均スピードは39.5km/h。レース時間は6時間近くに及んだ。

調子の良さを見せつけた新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)調子の良さを見せつけた新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム) photo:Kei Tsuji「気付いたら後ろに(ボネが)いませんでした。そこから踏み直しても、脚が残っていなかったのでスプリンターに対抗出来なかった。いつも通りの脚があれば、ステージ3位までに入れたかも知れない。でも今日はスプリント出来る脚では無かった」。

いつもケロッとした表情でゴール後のインタビューに応じてくれるユキヤだが、この日は苦しさと悔しさで顔を歪ませる。地元メディアの注目度も上がっており、ユキヤの姿を発見したイタリアンフォトグラファーたちは我先にシャッターを切る。

「今日はボネがエースでしたけど、作戦はその日になってみないと分からないです。昨日のように雨が降ればキツい展開になるし、今日のようにゆっくりとした平坦ステージだとスプリント。だから特に『絶対ボネで』という訳ではないです」。

結果だけを見れば、Bboxブイグテレコムのスプリント作戦は失敗。しかし「ユキヤ→ボネ」の体制が完全に機能すれば、スプリントでのステージ優勝の可能性は充分にあると感じた。

ここまで10ステージ走って好調をキープしている新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)ここまで10ステージ走って好調をキープしている新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム) photo:Kei TsujiBboxブイグテレコムのドミニク・アルノー監督は「中盤までずっと平穏な展開だったが、とにかくラスト2kmはカーブの連続で危険な状態だった。ユキヤはボネを集団先頭まで引き上げようとしたが、ボネはテクニカルなコースでユキヤから遅れてしまった。ボネは後で『ユキヤに付いていけなかった』と言っていたよ」と振り返る。

「このジロはユキヤにとって本当に大切な経験になるはず。そして、このジロでの走りは、ツール・ド・フランスの出場にも影響する。ここまでの走りを見る限りいい感じだ」。アルノー監督はユキヤの印象をそう語ってくれた。

さて、今年のジロはこの第10ステージが最南端。翌日の第11ステージから、最終週の山岳地帯に向けて、北上を開始する。第11ステージはルチェーラからラクイラまでの256km。今大会最長コースであり、細かいアップダウンの繰り返し。しかも再び雨が降る予報が出ている。「一番長いステージで雨かよ」。モトに乗るフォトグラファーたちは肩を落として各々のホテルに帰って行った。

text&photo:Kei Tsuji