5月13日、ノヴァーラからノーヴィ・リグーレまでの162kmで行われた第5ステージは新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)のアタックで形成された逃げグループが逃げ切り、新城がステージ3位に入る快挙を達成。ジェローム・ピノー(フランス、クイックステップ)が区間優勝。

序盤から何度もアタックが繰り返される序盤から何度もアタックが繰り返される photo:Kei Tsuji2009年ツール・ド・フランスでステージ5位の快挙を遂げた新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)が再びグランツールの舞台で素晴らしい結果を残した。

北イタリアのノヴァーラ〜ノーヴィ・リグーレ間162kmで競われたジロ・デ・イタリア2010第5ステージは、序盤に新城がアタックを成功。これに3人が加わり、ゴールまで逃げ切った。3人での勝負で3位になったが、自ら展開する積極的なレース展開は強い新城幸也を印象づけた。

新城がアタックして逃げが始まる

18km地点で飛び出し、単独で逃げる新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)18km地点で飛び出し、単独で逃げる新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム) Courtesy of Roberto Bettiniこのジロでは数の少ない平坦ステージとあって、レースは序盤から逃げ切りを狙いたい選手たちによるアタックが頻発。どれも決定力を欠く中、18km地点で単独アタックを成功させたのが新城だった。

これが「今日の逃げ」だと察知し3名の選手が28km地点で新城に合流。山岳賞ジャージのマリアヴェルデを着るポール・ヴォス(ドイツ、チームミルラム)、ジェローム・ピノー(フランス、クイックステップ)、ジュリアン・フシャール(フランス、コフィディス)の3名だ。

4分リードのまま平坦区間に入った新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)ら4名4分リードのまま平坦区間に入った新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)ら4名 photo:Kei Tsuji4人は協調体制をとり、ペースを乱さず進む。集団との差は48km地点で5分40秒まで広がるものの、72km地点で4分30秒、その後も4分前後と大きく広がらない。集団のコントロールはアレッサンドロ・ペタッキ(イタリア)でスプリント勝利を狙うランプレ・ファルネーゼヴィーニ勢で、逃げを「泳がせる」理想的な走りを見せる。

2つあるこの日の3級山岳のひとつめ、97.3km地点のアヴォラスカを先頭で通過したのはヴォス。山岳ポイントを着実に加算し、マリアヴェルデのキープに意欲を見せる。新城はここを2位通過で山岳ポイントを獲得。この時点で新城グループと集団との差は3分14秒まで縮まる。

伝説の”カンピオニッシモ”の地を逃げる

ランプレがコントロールするメイン集団が3分遅れでユキヤを追うランプレがコントロールするメイン集団が3分遅れでユキヤを追う photo:Kei Tsujiしかしまだ泳がせておきたい集団の意志と、逃げグループの下りでの加速が作用して、この差はこれ以上詰まらず逆に拡大する。2つ目の3級山岳カステラーニャ(111km地点)を登る頃には差は4分ほどまで戻った。

このカステラーニャは、イタリアが誇る偉大なチャンピオン、ファウスト・コッピの生地。”カンピオニッシモ”(伊語でチャンピオンの最上級)を祝してパッソ・コッピ(コッピの峠)と名付けられたモニュメンタルな山岳ポイントとなった。

ノーヴィ・リグーレの周回コースに入った新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)ら4名ノーヴィ・リグーレの周回コースに入った新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)ら4名 photo:Kei Tsujiここを再びヴォスが先頭通過。新城は3位で通過し山岳ポイント累計を3とするとともに、イタリア・チクリズモの歴史的精神ともいえるこの場に足跡を残した。

ここの下りからペースを上げた逃げグループの4人。ゴールまで40kmを残して集団との差は3分36秒。ランプレに混ざってタイラー・ファラー(アメリカ)を擁するガーミン・トランジションズが集団のペースアップに加わる。残り30kmで差は2分46秒と縮まり始めるが、新城たちの粘り強い走りに、集団は思うように差を詰められない。

新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)を抜いてジェローム・ピノー(フランス、クイックステップ)が先頭に新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)を抜いてジェローム・ピノー(フランス、クイックステップ)が先頭に photo:Kei Tsuji逃げる4人は依然としてローテーションも順調にゴールを目指す。新城は先頭交代に加わるばかりか、他の選手よりも長く引く力強い走りとコンディションの良さを見せ、逃げグループを前へと進めて行く。この新城の引きに耐え切れずヴォスが残り25kmで千切れてしまう。

ここまで平坦ステージで強力なトレイン形成で逃げを潰してきたチームHTCコロンビアがこの日は沈黙。隊列を組むものの、昨日のチームタイムトライアルの疲労からか統率に欠けた。残り20kmで差は1分46秒に。

勝利へ向けて逃げ続ける新城

両手を挙げてゴールするジェローム・ピノー(フランス、クイックステップ)両手を挙げてゴールするジェローム・ピノー(フランス、クイックステップ) photo:Kei Tsuji新城は依然として力強いペダリングを見せ、ピノー、フシャールと共に逃げを継続。残り10kmを切っても差は1分を切らない現状に泡を喰ったのはスプリンターチームたち。慌ててラボバンク、チームスカイらが集団のペースアップに加わり、残り5kmで差は30秒。

残り3kmで差は17秒、ついにメイン集団が大通りの向こうに逃げる3人の背中を捉える。しかしスプリントの主導権を握りたいチームの思惑が交錯し、集団は混沌状態に陥る。そんな集団が残り2kmで迫るのを振り返って確認したのは新城。

そして残り1.2kmで集団と残りの2人を引き離すべく新城がアタック。強力なアタックで集団とは再び差をつけることに成功したが、ピノーとフシャールを突き放すには至らず。そのまま新城が先頭で残り300m間で走り続ける。

この動きの恩恵を最も受けたのはピノー。新城の番手という恰好のポジションから一気に飛び出すと、脚を使っていた新城はこれに追走できず。追いすがったフシャールだが、このベテランパンチャーの前にはなす術もなく、ピノーがゴールラインで両手を上げ逃げ切り勝利をあげた。

新城は2人に次いで3位でゴール。レースに敗れこそしたものの、自身が昨年のツール・ド・フランスで打ち立てた区間5位のグランツール日本人最高位を塗り替える目覚ましい走りを見せた。

ピノーとフシャールの後ろでゴールラインを切る新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)ピノーとフシャールの後ろでゴールラインを切る新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム) photo:Kei Tsuji

とりわけ今回のレースは、新城自身がアタックで逃げを生み出し、レース中は積極的に前を引き、最後迫る集団に対してアタックで活路を見出そうとした果敢な走りであり、結果以上にその内容にも価値のある走りを見せた。

ステージ3位の新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)にチームメイトが祝福に駆けつけるステージ3位の新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)にチームメイトが祝福に駆けつける photo:Kei Tsuji新城はこの走りでフーガ(逃げ)賞を獲得。その走りでイタリアのファンにジャッポネーゼ「アラシロ」を鮮烈に印象づけた。

メイン集団は4秒遅れでゴールに入り、ファラーが集団スプリントを制した。ファラーはスプリントポイントでトップに立ったが、ステージ優勝のピノーが同ポイントで並んだため、規定でマリアロッソパッショーネはピノーのものになった。総合上位陣は集団内でゴールし、総合成績に大きな変動は無い。

またひとつ、グランツールで輝きを見せた新城幸也。まだジロははじまったばかりだ。この先も積極的な彼の走りを期待したい。勝利は、信じればもう手に届くところにある。


ジロ・デ・イタリア2010第5ステージ結果
1位 ジェローム・ピノー(フランス、クイックステップ)        3h45'59" 
2位 ジュリアン・フシャール(フランス、コフィディス)
3位 新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)
4位 タイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ)     +04"
5位 グレゴリー・ヘンダーソン(ニュージーランド、スカイ)
6位 アレッサンドロ・ペタッキ(イタリア、ランプレ・ファルネーゼヴィニ)
7位 グレーム・ブラウン(オーストラリア、 ラボバンク)
8位 アンドレ・グライペル(ドイツ、チームHTCコロンビア)
9位 ルーカスセバスティアン・アエド(アルゼンチン、サクソバンク)
10位 ウィリアム・ボネ(フランス、Bboxブイグテレコム)

個人総合成績
1位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス)    14h30'03"
2位 イヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス)            +13"
3位 ヴァレリオ・アニョーリ(イタリア、リクイガス)         +20"
4位 アンドレ・グライペル(ドイツ、チームHTCコロンビア)      +26"
5位 マシュー・ゴス(オーストラリア、チームHTCコロンビア)     +26"
6位 アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)     +33"
7位 ウラディミール・カルペツ(ロシア、カチューシャ)        +39"
8位 リッチー・ポルト(サクソバンク、オーストラリア)        +45"
9位 デーヴィット・ミラー(イギリス、ガーミン・トランジションズ)  +45"
10位 パオロ・ティラロンゴ(イタリア、アスタナ)           +59"
112位 新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)             +11'36"

ポイント賞 マリアロッサ
ジェローム・ピノー(フランス、クイックステップ)

山岳賞 マリアヴェルデ
ポール・ヴォス(ドイツ、チームミルラム)

新人賞 マリアビアンカ
ヴァレリオ・アニョーリ(イタリア、リクイガス)

チーム総合成績
リクイガス・ドイモ

敢闘賞
ジェローム・ピノー(フランス、クイックステップ)

フーガ(逃げ)賞
新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)

text:Yufta Omata
photo:Kei Tsuji