第93回ジロ・デ・イタリアがオランダ・アムステルダムで始動!初日の個人タイムトライアルの舞台となった8.4kmの市街地コースは、賑やかな観客に埋め尽くされた。

「自転車の街」で開幕したジロ

馬も警備にあたる馬も警備にあたる photo:Kei Tsujiジロを迎えたのは、アムステルダムのドンヨリとした低い雲。時折雨粒を落とす厄介な灰色の雲は、一日中観客たちの頭上に居座り続けた。太陽が出ていないため気温は上がらず、ダウンを着て観戦する人もチラホラ。

前日にコースの下見をした時点で、トラムの線路がコースのアチコチにあることを確認していた。しかし当日チェックすると、レールの溝は棒で埋められ、その上からしっかりとグリップ性に優れたテープが貼られていた。これなら滑る心配は無さそうだ。

両脇が完全に柵に囲われた8.4kmの平坦コース両脇が完全に柵に囲われた8.4kmの平坦コース photo:Kei Tsuji当初はプレス用の無料貸し出し自転車を駆使してコースをくまなく回る予定を立てていた。アムステルダムと言えば世界有数の「自転車の街」。歩道と車道の間には幅数メートルの自転車道が確保されており、自転車利用率はとても高い。

しかしレース当日は、予想以上に厳しい交通規制が敷かれていたため、中心部での移動に苦戦した。コースは完全に鉄製の柵で守られており、プレスであってもコース内の進入や横断はNG。道を横断するためには、混雑した歩道橋か、特別に運行されているボートに乗るしか無い。

観客が詰めかけたコースを駆け抜ける観客が詰めかけたコースを駆け抜ける photo:Kei Tsuji観客に混ざって撮影するしか方法は無く、一度持ち場を離れるとすかさず一般客にスペースを取られてしまう始末。しかも、イタリアならば、観客の頭の上にカメラを伸ばせばコースが写るが、オランダではそれが通用しない。観客の平均身長が確実に高いため、手を伸ばしたところで観客の頭しか写らない・・・。

印象的だったのは、大通りの向こうから大きな波動のようにやってくるラボバンクウェーブだ。ラボバンク銀行は、アムステルダムから南東に35kmほど行ったユトレヒト(第2ステージのゴール地点)に本拠地を置くオランダの大手銀行。ラボバンクはまさにオランダのナショナルチーム的な存在なのなのだ。

それだけにラボバンクの選手に向けた声援は桁違いに大きく、選手と同じスピードで声援の波がやってくる光景は圧巻だった。ビール片手に観戦している観客も多く、レース後半にかけてボルテージが上がって行く。その声援に応えるように、ラボバンクの選手たちのコーナー進入スピードは、どのチームよりも速かった。


個人タイムトライアルでユキヤと対決?

ローラー台でアップするトマ・ヴォクレールと新城幸也(Bboxブイグテレコム)ローラー台でアップするトマ・ヴォクレールと新城幸也(Bboxブイグテレコム) photo:Kei Tsuji前日に「時間の関係で下見は出来ないかも」と語っていたユキヤだが、何とか第1走者のスタート前に到着し、コースを1周だけ試走した。

さて、問題はユキヤの撮影方法。欲張って2カ所で撮影するための方法は1つ。スタート地点の撮影後に自転車に飛び乗り、コースの5km地点までのショートカット(約1km)を猛烈な勢いで走って撮影するしかない。

チームカーに取り付ける新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)のネームプレートチームカーに取り付ける新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)のネームプレート photo:Kei Tsujiつまりユキヤが5kmを走る間に、スタート地点から駐輪場まで200mほど走り、3段変速の重量感溢れるバイクを駆って1km走行し、人垣をかきわけてコース際まで辿り着かなければならない。

二兎追うものはナンチャラか?いや、とにかくやってみなければ分からない。仮にコース際に辿り着けなくても、スタート写真さえ抑えておけば編集長に怒られないだろう、たぶん。

プレス用の無料レンタルバイク ・・・重いプレス用の無料レンタルバイク ・・・重い photo:Kei Tsuji結果は、3段変速が勝った(距離が違うから当たり前だ!)。観客に「エクスキュゼール」と言いながらコース脇に潜り込む。数分も経たないうちに、ユキヤがやってきた。

オランダ人は概して自転車選手に詳しい。ユキヤが通ると「おお、あれがユキヤ・アラシロか。まだ若いじゃないか」というような声がチラホラ聞こえてくる。オランダ人は「日本人が出場する」ことに目を付けていたようで、ユキヤには他の選手よりも大きな声援が送られていた。

とにかくジロは無事に一日目を終了。落車する選手は5名ほどいたが、いずれも自力でゴールに辿り着いており、リタイア者はゼロ。交通規制に関して一般人と警備が衝突する場面が何回か見られたが、概ね大成功のアムステルダムスタートだった。

しかし明日も天気は思わしくない。風は北から吹いており、進行方向がコロコロ変わる第2ステージは横風に注意か?ゴール地点ユトレヒトでは今大会1回目となる大集団スプリントに注目だ。

text&photo: Kei Tsuji